TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

495 / 495
#495

はじめにその違和感に気がついたのは、奏を轢いてしまった直後のことだった。

 

「ん?」

 

インプラントチップをスキャンした時、サダミはバイクで突き飛ばしてしまった女性を診察すると、インプラントチップは個人情報を返してきた。

 

「男…」

 

その中で性別に関して彼女は疑問に思った。

 

「この見た目で男なのか…」

 

轢いてしまい、体の容態を確認する中でサダミは驚いた様子で見る。その中で彼女は少々その気を感じとり、試しに下の部分を見て確信した。

 

「ああ…」

 

服の下では明らかに男の肉付きでありながら女物のランジェリーを纏っていた。しかし肉付きは正真正銘、男である。

 

『女装ですか?』

「そんなところだろう」

 

見た目も女性に寄せており、スラム街の中ではかなり見た目に気を使っていると思っていた。サダミも思わず女性を轢いてしまったと思うほどには良くできていると思った。

 

「これが趣味なのか罰ゲームなのかは知らないが…」

『罰ゲームであればもう少し雑でしょう。これは本物の可能性がありますよ』

「ふむ…」

 

シエロの推測を聞きつつ彼女は足が折れていることを確認すると、添木を当てて包帯を巻き始めた。

 

「しかし怪我を負わせてしまっては申し訳ない」

『近くの診療所を探しませんと』

「そうだな…」

 

応急処置を施しながら彼女は頷いた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「ーーそして事故の後、簡単な治療を行なってから人を探したのだが…」

 

サダミはその後に軽くため息をついた。

 

「生憎、このスラム街で診療所は見当たらなかった」

 

そこで怪我をしたままスラム街の外に連れ出して寝かせていたという。

一通りの話を聞き終え、奏は事情を把握した上でため息を漏らした。

 

「そう、だったんですね…はぁ」

 

彼女は折れた自分の足を見ながらサダミを見ると、彼女は変わらずコーヒーを嗜んでいた。

 

「あそこに医者はいませんよ」

「そうなのか?」

 

サダミの問いかけに奏は頷く。

 

「ええ、二年前に死んでしまいましたので…」

「ああ、なるほど…」

 

この街のスラム街の事情を知り、納得した様子で頷く。通りでこのスラム街は他のスラム街に比べて老人を見かけないわけだ。

 

「代わりの医者は居ないか…」

「私の知る限りでは、新しい診療所ができたと言う話は…」

 

聞いていないという。基本的にスラム街というのは力こそ正義であり、戦力が言語である。そんな場所に診療所を構える医者というのは、大抵が医師免許を剥奪された医師かギャング相手にぼったくりを画策する闇医者だ。極たまに善意で動く医者も居るが、そういう医者は基本的に長生きしない。

 

「貴女は、医者なのですか?」

「昔、齧っていたことがあるだけだがな」

 

そう言い、彼女は遠い昔を思い出す。

結局、医療機関を運営することとなって、元々戦場で医療兵のところまで戻れるまでの療術は持ち合わせていた彼は、本格的に野戦病院を運営する為の知識を蓄えるようになった。結果的にそれが薬学に精通するようになった相方とうまく合わさって、いいように新たな食い扶持ができるようになったのは怪我の功名というべきだろうか。

 

「では、新たな医者なのですか?」

「いや?私はこの都市を訪れた観光客だ」

「観光…?」

 

奏は首を傾げるとサダミは頷く。

 

「ああ、だからこうして荒野のワジに隠れてテントを張って、コーヒーを嗜んでいる」

 

彼女はそう言い、片手にコーヒーの注がれたカップを持つ。先ほど飲んだ飲み物で、いつも飲んでいる企業の栄養ドリンクとは違うものであったので、今でも苦味が口に残っていた。

 

「何で…」

 

その彼女の行動に奏は意味が理解できなかった。彼からしてみれば、スラム街というのはそこにいるだけで危険な場所である。

ましてやそのスラム街の外ともなればエーテルが降り注ぐ、文字通り人が生きていくことが難しい世界だ。

 

 

ーーしかし今自分たちがいる場所はその外の荒野だ。

 

 

 

「襲われないんですか?」

「さあ?これだけ灯りを灯していたら襲われるかも知れないな」

 

ワジの影に隠れる形ではあるが、ランタンを持ち出していたサダミは余裕さえ見せており、そのことが奏からすれば奇怪な目で見るには十分だった。

 

「だが、多少の襲撃は問題ない」

「え?」

 

彼女は自身がある様子で傍に停めてあるサイドカーを見る。

 

「これをつかえ。耳に差し込むんだ」

 

彼女はそう言い、奏に耳栓を渡しながら言う。

 

「早く寝た方がいい。私もそう長くはここにいる予定ではなくてね」

「あっ、はい…」

 

奏は促されるがままに寝かせられると、そのまま長い名前であったがために呼びずらいなとサダミに思いながら彼は耳栓をつけてから再び横になった。

 

「…」

 

そして奏が再び横になったのを確認してからサダミは立ち上がると、その直後にサイドカーの側車に被せていた幌を開けると、そこから短機関銃を取り出す。

 

「さて…」

 

彼女は弾倉を装填してからコッキングレバーを引いて弾薬を装填する。

 

「行きますか」

『周辺に複数の熱源を探知しています』

 

そこで彼女はランタンの明かりを落とすと、ツェルトバーンの中で眠った奏を後ろに指を鳴らしてワジから飛び出すと、直後に持っていた拳銃に弾倉を差し込み、スライドを引いて装填を終えると引き金を引いた。

 

「うおっ!?」「ぎゃっ!」

 

夜目がよく効く彼女の青い瞳は、的確に常闇の荒野に隠れていた人影を撃ち抜いた。

 

「何だ!?」

「くそっ、気づいてやがった!!」

 

咄嗟に廃材となっていたコンテナの影に隠れて彼らは襲撃を行おうとしたワジでテントを張っていた二人組の女性を振り返る。

 

「物盗りか?」

「ひっ!!?」

 

その瞬間、隠れていた彼らに銃口が押し当てられた。

 

「まあそうだろう。私を狙っていた時点でな」

 

そこで黒いバラクラバを被り、頭に獣人用ヘッドホンを付けていた彼女はそう断定すると、強盗の頭を撃ち抜いて制圧を行う。その後、拳銃を胸元のホルターに戻し、彼らがサイボーグであることを確認して銃創に指を入れて彼らの通信を聞く。

 

『ダメだ!二人やられた!』

『こっちももう駄目だ。撤退しろ!』

『馬鹿野郎!これだけやられて撤退できるか!』

 

やや混線気味であった無線を聞いていい気味だと愉悦に浸りたくなるが、あいにくと逃げなさそうな雰囲気であったので、仕方なく銃剣を装着してから他の強盗の所在を探す。

 

『彼らは物盗りなのでしょうか?』

「じゃあ何だ、ギャングがこんなチンケなことをすると?」

『チンピラならあり得るかも知れませんよ?』

 

荒野で敵を探す間、サダミはルシエルとそう話しながら荒野の中をサーマルを使用して警戒する。

 

「チンピラの揉め事にギャングがそうそう口を挟むものかね…」

『彼らは舐められたら終いです。些細な問題であっても彼らは介入をしてくる可能性は否めません』

 

シエロの推測を聞き、聞いていた彼女はその後に軽くため息を漏らす。

 

「じゃあここにいる連中は生きて返したら面倒になる?」

『その可能性は否めません。なにせサダミを狙った物盗りです』

「…了解」

 

その直後に彼女は銃床をしっかりと肩に当てた上で足を爪先から踵にかけて踏み、足音を効果的に抑えながら目だけを左右に動かして索敵を行う。

 

「っ、てk…」

 

直後に飛び出してきた愚か者に二発叩き込むと、防護されていたはずの強盗は唯一十分な保護のされていない目元を貫いてそのまま地面に倒れると、直後に時首元に長い銃剣が突き刺されて再度発砲を受け、確実な制圧が行われる。

 

「残りは?」

『三つ。四時方向に一つ反応があります』

 

シエロが観測データを送ると、直後に彼女は体を傾けてその後方に向けて引き金を引いた。

 

「うおぉっ…」

 

背中を撃たれ、装甲服も貫通してその強盗は地面に倒れた。

 

『隊長がやられた!』

『くそっ』

 

そして悲鳴を聞いていたのか、即座に解析を終えて登頂を行なっていた無線を聞いて逃げていく彼らを見送ってから軽くため息を漏らした。

 

「能力(モード)を使わなくてよかった…」

 

彼女はそのことに安堵すると、死体を確認して戦利品を漁っていく。

 

「ふむ…」

 

そして死体を引きずって荒野の砂に塗れながら物資を確認すると、彼女はそこで軽く驚いた。

 

「本当にチンピラだったのか…」

 

彼らの纏っていたものは隊長と呼んでいた人物以外は装甲服すら纏っていなかった。最低限のタクティカルベストには十分な弾倉すら用意されていなかった。

 

「…」

 

彼女はそこで上手く扱える自信がない手榴弾を手に取って、戦利品としてそれを持っていくとその場を後にした。

 

「拳銃代にはなりそうだ」

 

どうせ明日になれば寄ってたかってスラム街の住民が根こそぎ持っていくことになるだろう。そしてサイボーグであるので、その部分も下手すると持ち去られる危険性すらあった。

 

「仕方ない…場所を変えよう」

 

そうした追い剥ぎを避けるために一度撤退してもすぐに死体を回収しにくる部隊がやってくる。

そして後から来る部隊は大抵が重装備で遺体を報復の意味合いも込めてやってくるので、見つかれば凄まじいことになってしまう。

 

「はぁ、行くか…」

 

軽くため息混じりに彼女は戦利品を受け取ってから元来た場所を戻ると、広げていたツェルトバーンを片付けてサイドカーに乗せてから瞳を空色に変えて能力を用いる。すると寝ていた彼女の周りにエーテルが固定され、まるで魔法の絨毯のように彼女はサダミに片手で持ち上げられると、側車の上の部分に乗せられて走り出していった。

 

「…ん?」

 

その道中、サイドカーの揺れか音のせいか、奏は横になったまま目を覚ました。

 

「すまない、起こしたか」

 

その声にすぐに気がついてサダミが話しかけると、彼女は今の状況に困惑した様子だった。

 

「え?」

「すまない。野営地を変えることにしたんだ」

「は、はぁ…」

 

先ほどの銃声を聞いていなかった彼女は困惑気味に耳栓を外してサダミを見た。

 

「あまり動かないでくれ。でないとサイドカーから落ちてしまうのでね」

「あっ、はい…」

 

そこで風に揺れる自分の長髪を抑えて隣を見ると、隣では高速に移動する荒野の地面があった。

 

「っ…!!」

 

その速度に思わず息を呑んでしまうと、彼は隣で運転するサダミに何度も頷くと、彼女もその反応を見て安堵して一度頷くと、スロットルを回してサイドカーの速度を上げた。




お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。

新たな依頼をピックアップ致しました。

  • 知らないは罪
  • 作られた人
  • 娯楽が禁止の街
  • 砂の中の遺跡
  • 空の街
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TS若返り傭兵は旅をする 喫茶支線(作者:Aa_おにぎり)(オリジナル:SF/日常)

こちらは『TS若返り傭兵は旅をする』の外伝作品となります。▼本編を読まれるとより作品を楽しむことが可能となります。▼本編▼TS若返り傭兵は旅をする▼https://syosetu.org/novel/361367/


総合評価:66/評価:-.--/連載:11話/更新日時:2026年10月12日(月) 12:00 小説情報

SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!(作者:宇宙のモナカ)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

時は2155年。▼ブラック企業の治安維持部隊にTS転生した俺は、一介の労働者として今度こそ前向きに生きると決めた。▼与えられた任務をこなし、生き残るために体をサイボーグ化して効率を極める。▼ただそれだけなのに――▼冷徹に敵を蹂躙する姿から、敵対組織には「白い死神」と恐れられ、▼部下たちからは「過酷な運命を背負い、企業に酷使される悲劇の英雄」として崇拝されてし…


総合評価:8111/評価:8.48/連載:112話/更新日時:2026年10月26日(月) 07:00 小説情報

なんちゃってシスターは神を騙る(作者:ココア@レネ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

突如頭に響いた「助けて欲しい」との声。その声に生返事をしたのが、男の運の尽きだったのだろう。▼気を失い、再び目が覚めたのは見ず知らずの場所だった。▼そこはフェンダリム帝国の辺境に造られた、様々な政策を試す実験都市ホロウスティア。そのスラムにある廃教会の中だった。▼何故か女性の身体となった男は、生き抜くためにクローゼットの中に有った修道服を着る。▼「神は言って…


総合評価:6842/評価:8.58/完結:241話/更新日時:2026年06月30日(火) 06:00 小説情報

異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた(作者:暁刀魚)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

どんな人生を送っていても、異世界でチート美少女になればやり直せると思っていた。▼でも実際にそうなった時、ミツキは自分の生き方を変えようとして挫折した。▼そして逃げるように冒険者となった時、気づいてしまったのである。▼力も容姿も手に入ってしまったから、これ以上を望む必要がない、と。▼今の彼女に残っているのは、いかにノンストレスに生きるかということだけ。▼これは…


総合評価:19398/評価:8.8/連載:55話/更新日時:2026年10月12日(月) 18:05 小説情報

転生爺のいんちき帝王学(作者:嶋野夕陽)(オリジナル:ファンタジー/日常)

【Kラノベブックスから1巻が発売。多分二巻は年明け!】▼グレイ=アルムガルドは七十を超える老爺だ。▼爺にしては心が少々やんちゃで、見栄っ張りで、爺らしく情に厚い。▼グレイは才能に恵まれ、努力を惜しむこともなかったが、その性格と不運が重なり日の目を浴びることのない人生を送ってきた。▼さて王都では近頃後継ぎ問題が起こり、少しずつ不穏な空気が蔓延し始めている。▼そ…


総合評価:17760/評価:8.92/連載:524話/更新日時:2026年10月24日(土) 22:53 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>