そして次に書くであろう外伝は架空戦記になるのでジャンルが変わります。
(なおまだプロットしか書けていないです)
荒野でテントを張っていたサダミであったが、襲撃に遭った事で場所を変えていた。
「こっちです」
「ん、了解」
荒野からスラム街に逃げ帰るように戻ってきた彼女達は、そこでスラム街のとある建物の前でサイドカーを停める。
「失礼」
「っ!!?」
停めた直後、サイドカーの上で寝転がされていた奏はサダミによって軽そうに持ち上げられると、その時に彼は驚愕した様子で反射的に顔を背けてしまっていた。
しかしそんなこともお構いなしに彼女は奏を抱えて簡単に階段を上がると、埃と瓦礫が溜まっている施設の廊下を抜けてドアに手を伸ばす。
ギィ、と立て付けの悪い音を立ててドアを開けると、部屋の中は物が少なく、質素で小さな部屋に窓が付いていた。
「窓付き物件か…」
「日当たりは最悪ですけどね」
少し苦笑気味に奏も帰宅を行うと、彼はそこで部屋の中で横に下されると、サダミは部屋を見回す。
「…住みやすそうな部屋だ」
「褒めてくれるんですね」
横になる奏は勝手知ったる匂いに安堵すると、サダミに話しかける。
「すみません。来客を想定していなので何もなくて…」
「いや、良いさ」
彼女は軽く吐息してから一度部屋を後にすると、サイドカーから荷物をいくつか運んでくる。
「少し場所を借りるぞ」
「あ、はい…」
そこで彼女は持ち込んだ器具に火をかける。
「今から夜食を作るんだが、いるかい?」
「…貰えるのであれば」
奏はサダミの誘いに頷くと、そんな彼女の対応を見て思わず口に出てしまう。
「…優しい方なんですね」
「どうだかな…」
そんな言葉に彼女は、曖昧に返した。彼女の手には火にかけられた鍋がグツグツと水の沸騰する音を立てていた。そして湯立つ鍋を見てから即席ラーメンを投入すると、箸を使ってしっかりと湯に浸しながら湯掻いてほぐしていく。
「何の料理ですか?」
「味噌ラーメン」
そして即席ラーメンを作っていくと、紙コップを取り出して先にスープの素を入れると、その後に火を止めて麺と茹で汁を合わせて注いでいく。
「こんな雑ですまないな」
「いえいえ、十分ご馳走に見えますよ」
奏はありがたく受け取りながら言うと、割り箸でスープとかき混ぜながら啜っていく。
「食べ方は分かるんだな」
「昔、仕事場で教えてもらいましたので」
「そうか…」
箸を使って食しているのを見ながら軽く話す。
彼に女装癖があることは見て取れ、そうした癖世の中ごまんと存在することは知っているし、何より自分自身がもっと複雑で面倒な存在であるが故に彼に対して否定も肯定もできない。
「教えてくれる人が居たのか…こんな時代に」
「?」
彼女のそんな呟きに彼はよく聞こえていなかった様子で首を傾げていた。しかし自分に向かって話しかけわけではなかった様子であったのでそれ以上聞くことはしなかった。
「所でなんだが…」
そこで彼女はふと疑問に思った。
「君は絶死を受け入れるのかい?」
指摘をされ、彼は驚いた後に軽く頭に手をやって笑った。
「…はははっ、流石に分かりますか…」
そして次に彼はその手を肺に当てる。
「感染者…昔の人だとそんな風に言われるとか」
「まあ、今は不老者になる人ばかりだからな」
サダミはそこで彼女から感じ取れる様々な雰囲気を感じ取っていた。これは体内にエーテルが浸食した人間特有のもので、今ではすっかり慣れてしまった感覚だった。
「では貴女も?」
「そんな所だ」
その時に肯定すると、奏は改めてサダミを見る。
彼女の黒髪に大きな猫耳、青い瞳。至って見た目は普通の美猫に近い獣人だ。まあその美しさが今のこの狭い部屋に差し込んでいる月光によく反射していた。
「いつ罹った?」
「もう覚えていないほど昔です」
基本的に体をエーテルに侵された人間は異能と呼ばれる特殊な力を得る。
正確には毎日、この世界では当たり前のように降り注いでいるエーテルに干渉することが可能となる。
まずは電撃、それに付随して炎を纏わせることができる。
同じエーテル病罹患者と感情を共有できるなどと言った、そう言う類の人間に与えられる第六感に近しいもの。
今のところ確認できているのはこうしたものばかりだった。
「不老者には成らなかったのか?」
「ええ、興味もありませんでしたし…」
彼はそう言い首を横に振る。
「それに私、性別不合ですし…」
「…」
そして意外な事実を聞かされ、一瞬だけ彼女は眉が動いてしまった。
「なるほど…女装しているのはそれが理由か」
「いえいえ、これは趣味です」
その答えにサダミは固まった。
「…は?」
話を聞いていてサダミは首を傾げた。『お前は何を言っているんだ?』と言いたげな顔をして困惑をする。
「どう言うことだ?」
「どう言うって…そのままの意味ですが?」
全容が把握できていない彼女に彼は至って真面目な雰囲気で話す。しかしサダミは情報処理に手間取ってしまう。
「ん?ん?つまりどう言うことだ…?」
困惑する彼女にシエロが変わって処理を担当してくれる。
『彼は女装癖を持った性別不合の男性ということです』
「(いや、説明を受けてても分からんのだが?)」
全くもって自分の理解の範疇を超えた趣味を持っているような、そんな混沌とした何かを感じ取る。
「つまり…君は女装をするのかい?」
「服の好みは自由ですが、この格好をすることは私は趣味だと思っていまして…」
そんな彼の持論を聞き、情報を整理する彼女は結論を出す。
「…つまり普通ってことじゃないのか?」
彼女は言うが、奏は否定する。
「これでも違和感はあるんですよ?」
その慣れた雰囲気は常にそうしたことをされてきたのだろうと言うのが伺える一幕であった。
「診断書も書いてもらいました」
「治療はしなかったのはなぜだ?」
基本的にこうした障害を持つ人間は、サイボーグ技術の発達によって性別の垣根は簡単に越せられるようになった。また遺伝子情報をAIの予測によって組み替えることで男であっても卵子を作れるような時代である。
そしてサダミの記憶通りであれば、そうした技術に関しては成熟したことによる価格競争で最近は比較的安定した価格で提供できたはずである。
まあ、とは言っても医療行為であるので高いことは高いのだが…。
「それほどお金もありませんし、やろうとも思わないですね」
「そうなのか?性転換手術をするかもなかったのか?」
彼は首を横に振ったことでサダミは少し興味深そうに聞いた。
「そういう企業が行うものは大抵が本来の市場価格かどうかはわかりませんの?」
「ほう、賢いんだな…」
サダミは奏を見て納得した様子で見ると、心外だと言わんばかりに彼は少し眉を顰めた。
「これでも学校は出ていたんですよ?」
「そうなのか?」
「ええ」
奏は頷く。
「十五まででしたが、学校は通っていましたよ」
「ああ、国の基礎教育課程を受けているのか…」
年齢を聞いてすぐにサダミは納得をすると、この国の市民でなくともどこかしらの国で教育を受けたのかと把握した。
「なるほど、それは失礼した」
「謝られるようなことでは…」
二人はラーメンを食べながらそう話していると、サダミはラーメンを食べ終えてから煙草の箱を取り出す。
「失礼、煙草は?」
「どうぞ、お好きに」
確認をしてから彼女は慣れた仕草でライターを取り出して火をつける。
「煙草を吸われるんですね」
「昔から吸っていたものでね」
その瞬間、彼女は初めて煙草に手を出すこととなった治安官時代を思い出した。
「まあ、やめられない習慣だよ」
「異能を使える人間はよくされていると聞きました」
奏は煙草をやっておらず、人からの又聞きで知った情報を口にした。
異能を扱えるエーテル病に罹患した多くの人々はそのまま不老者化手術を受ける。理由としては長生きをするためだ。
どうせ死ぬ命だというのなら、せめて健康な体のままいたいと思うのは人としての生存欲である。
不老者は苦痛から逃れるための方法であり、かつてあるエーテル研究者が自らを実験台にして創り上げた人類の夢である。
寿命という枷を外すことが可能となった人類は、その代償と言うかのように歴史は彼らに対して制約を与えることとなる。
開発者が全て掌握していた技術は時代の流れと共に流出してしまい、多くの人々が人類の夢であった不老不死を求めた。
そうした不老者はエーテル病を克服する手段の一つとして、生きる手段として提供されてきた。
しかしいつの時代も開発者の思惑と世の使われ方というものは変わってくるものだ。そうした不老者の技術はあっという間に指導者が永遠の権力を握るための道具として使われてきた。
そして数世紀も経ってしまえば不老者は権力者、堕落の象徴になり変わってしまった。
自ら実験台となった研究者も消息が途絶えたことで幾つかの裏方の人間が血眼になって探し回っているという話も耳にしていた。
「君は?」
「私ですか?」
その後に彼は少し笑って首を横に振った。
「いえ、私は異能を使えませんので」
「ああ、軽度なのか」
エーテル病は確実に死に至る病であるが、無論病の度合いは変わってくる。
「ならより疑問が浮かんでくるな」
基本的に不老者となれば確実に異能を使うことができる。特に遠慮なく飛んでくるE兵器でいつ誰が街ごと消し飛ぶかもわからないような今の時代である。自分の身を守る術として異能を使えることは大きな手札となる。
「どうしてでしょうね?私にも分からないんです」
そんな彼女の疑問に彼も軽く肩をすくめる。
「ただ漠然とその方が良いって思っているんです」
「…直感か」
「はい。何と無くですけどね」
奏は正直に頷くと、食べ終えた紙コップと割り箸を返した。サダミもゴミを出さないように受け取ってから袋の中に放り込んだ。
「直感はこういう時は信用した方がいい」
「そうなんですか?」
「まあ、時と場合…あとは人によるかな」
彼女はそう言い、同時に運が昔からいい義姉を思い出す。
「…つまり?」
「まあ好きにしろ、と言ったところかな」
少し笑うと、奏は呆れた様子で半眼の眼差しを送った。
「結局意味ないじゃないですか…」
「いやいや、結構直感というのはバカにできないんだぞ?」
サダミはそう言った上で奏に力説をした。
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