カール・ポートに向かう途中のスフェーン。
道中の荒野を個人依頼主の荷物を配達している中、運転席でスフェーンは寝袋を敷いて寝る準備をしていた。
「ここまで野盗の襲撃がなくて安心だな」
『この路線は多くの貨物が走る危険レベル1の安全区域です。専用軌道で無いとはいえ、軍警の監視もある路線ですからね』
「安全なのは良いことだ」
着ている服を脱ぎ、いざ寝ようとした時。
『ジジッ』
通信回線に誰かが入ってきた。
「?」
『こちらは、軍警察カール・ポート支部所属。マクシーラ大尉である』
するとその瞬間、列車に強力なスポットライトが当てられ。軍警が保有しているジャイロダインが追従していた。
航空機のような固定翼の下には大量のミサイルや機関銃ポッドが搭載され。コックピットは攻撃ヘリコプターのように二つに分けられていた。
ジャイロダインは航空機とヘリコプターを合体させた見た目をしている軍用機だ。空を失ったとはいえ、低空を飛行可能なヘリコプターはまだまだ航空戦力としては健在。なんなら軍警に関しては強襲揚陸艦があるのでこの星最強の航空戦力を保持していた。
ジャイロダインは胴体側面の二発のジェットエンジンから生み出される推力のおかげで速度も早いし、実際上にある二重反転の回転ブレードをとって仕舞えば普通に航空機としても飛行可能だ。
『これより臨検を行う。速やかに列車を待避線に移し、停車せよ』
軍警はそう命令を下すと、他にも同様のジャイロダインが飛んでおり。二重反転のローター音が嫌というほどに耳に響いていた。
軍警のパトロールに引っ掛かるのは少々予想外だったが、ここで振り切るという選択肢はなかったので。取り敢えず襲われないように注意だけしながら列車を止めると。近くにジャイロダインが着陸し、数名の軍警の職員が小銃を片手に降りてきた。その後ろでオートマトンも輸送ヘリコプターから降ろされていた。
「軍警です、中を臨検させてもらいます」
自らが本物の職員である事を示すために証明書を見せながら近づいてくる軍警に、スフェーンは慌てて着替えた上でローブを被って列車から降りた。
「こっ、子供?!」
「…何か?」
「い、いえっ…何でも無い」
向こうもローブを被っているとはいえ、こんな小さな子供が出てくるとは思っていなかったのだろう。
「他に乗員は?」
「居ません、私だけです」
「……」
臨検しに来た隊員は車内に乗り込んで確認をする。列車の周辺も同様に隊員が確認をしていた。
「証明書は?」
「こちらに」
電子グローブで機器に手を触れると軍警も納得した様子で軽く頷くと一人の隊員が列車を確認し終えて報告する。
「列車に他の生体反応はありません」
「そうか……了解した」
「移送中の荷物も、ギルドから発行された個人依頼の荷物のようです」
臨検を終え、軍警の恐らくは隊長だろう。全身を装甲服で覆い、手には自動小銃を持ったその男はフードを被るスフェーンを見ると聞いた。
「すまない、仕事の邪魔をして。行ってかまわない」
「……一つ、聞いても良いですか?」
臨検を終え、身分証明も終えた軍警にスフェーンは聞いた。
「何かあったのですか?」
「この近くで企業の大型列車が野盗に襲われたらしい。禁製品を積んでいたそうでな」
「隊長?」
マクシーラとか言ったか。軍警の隊長は概要を教えてくれたが、どうやらあまり口外してはならない内容らしい。
「子供だ、これくらい言っても大丈夫さ」
しかし見た目が子供だからという事で言ってくれたらしい。
「まぁ、気をつけて街に向かいな」
時間は夜、時々深夜の貨物列車や旅客列車が通過していく中を子供の運転する列車を臨検したのだ。彼らとしても少々後ろめたい物があったのだろう。すぐに解放してくれた。
「怪しい物資運搬には気をつけろよ。運んだら俺たちが捕まえなきゃならんくなる」
と言うわけで臨検とは名ばかりの積荷も見ない簡単な検査を終えるとスフェーンは列車に戻ってそのまま走り出して行った。
「まさか、子供が運転とはね」
「そして珍しい、個人所有の貨物列車です。企業にとっては秘密物資を運ぶのに目をつけるかもしれませんね」
「それは俺たちも同じ事よ」
隊員達の呟きにマクシーラがそう答えると隊員は一瞬だけ彼の方を見てしまう。
「さて、行こうか」
マクシーラはそう返すと、展開していたオートマトンの部隊を回収させ。その場を撤収していった。
「あぁ〜、昨日はひっでぇ目にあった……」
到着した港に隣接する貨物ターミナル。そこの操車場でスフェーンはぼやく。
装着早々に運輸ギルドにとっとと荷物を預かって貰い。報酬を受け取った後は睡眠を補うために寝袋に入って爆睡。次に起きた時はその日の夕方になっていた。
『まさか軍警の臨検があるとは思っていませんでした。向こうも何かしらの情報があると踏んだのでしょう』
「ったく、一般人を巻き込まないでほしいね」
スフェーンは相変わらず茶色いローブを羽織って飲食店を訪れる。
カウンターの窓辺の隅っこに座ると目の前の陽気な顔の中年の男が注文を聞きに来た。
「白身魚のムニエルと魚のスープを。サラダも一つ」
「畏まりました」
海の街なだけあり、飲食店も魚介類を使用した店が多く。スフェーンは少し心が浮き上がりそうになりながらも魚料理が出てくるのを待っていた。
『海辺の街に来た事は何度かあるようですが、ここまで活気の溢れる街は珍しいです』
「なんたってここは大陸の海の要所だ。人も物も集まる」
港と隣接している貨物ターミナルからも巨大なコンテナ船が停泊してコンテナの積み下ろしや積み込みが行われているのを見ており。それはそれは壮観な眺めだった。
「俺はまだ行った事ないが、この先には巨大な水上都市があるらしい」
『それは面白そうですね』
「ああ、おまけに海を超えた先に別の大陸がある。噂では一面が雪と氷で覆われていると言う話だ」
『そちらの方に行く依頼を受けるのはいかがですか?』
ルシエルがそう提案するも、スフェーンは軽く首を振った。
「まだ行こうとは思わない」
『どうしてです?』
「もうちょっと…此処に居たいのかもしれない」
そう呟き、被っていたフードを取って窓の外を見ると。そこでは雨が降っており、その中を車やコンテナを積んだトラックが走っていた。
至る所に企業の広告が並び、道路ではサイボーグや人間が闊歩する。
完全サイボーグになった人間でも寿命はある。
機械化された脳味噌でも脳の記憶容量と生命に掛けられた寿命は140年程度が限界とされ、それ以上生きると何かしらの記憶障害が発生し、体が満足に動かなくなり、事実上の死に至る。
永遠の命、不老不死を狙って熱心に開発を続けてきた企業だったが。神の与えた理を超えて生きる事は遂に果たせなかった。
己の全てを情報に還元した者はいつの間には情報の一部となり歴史より消え、不滅の体と脳を手に入れた者は物言わぬオンボロ機械に成り下がる。
時折、荒野の大地に金属の機械が頽れているとすれば。それは戦闘で破壊されたオートマトン。或いは最強の戦士、機械で出来た不死の命、完璧な人間を求めて散った者達の夢の残骸だ。
「いつの世も変わることのない人の望みか……」
『永遠の命、強大な力を手にした者達はその力を永遠と誇示し、恒久された世界を構築するために。もしくは己の支配を世界に広げるために永遠を欲しがるものです』
「はっ、昔じゃあ考えた事もなかった……」
こんな事を柄にもなく考えてしまうのは、こんな体に変わってしまったからだろうか。あるいは……
「お待たせしました。白身魚のムニエルとスープ、サラダです」
そして三つの皿の上に乗せられた料理を見てスフェーンの思考は一瞬で料理に移った。待ちに待った魚料理だ。これを食べるためにこの仕事を選んだと言っても過言ではなかった。
恐らくは釣ったばかりなのだろう、柔らかい白身魚の身は軽い口触りでそこに絡むオリーブオイルの香りが食欲を唆り。
二口目は少し少なめのハーブとレモンの風味が漂う。
外の皮もしっかりと焼かれているのでパリッとした食感が軽い口触りだった。
「良いねぇ、そう言う顔。嬉しくなるね」
「っ!?す、すみません」
「いやいや、君みたいな子に嬉しい顔されたら私もやる気が出るってものさ」
店の店主だろう人物にそう言われ、一瞬前の街で出会ったロリコン変態サイボーグのことが脳裏をよぎり、一瞬警戒をしてしまった。
ただあの時と違い、目の前の人からは悪意は感じられなかった。
そしてよくよく考えればフードを取ってしまっているので顔が丸見え……つまり思いっきり少女の顔を見られてしまっているのだ。
慌ててフードを被ると、店主は軽く言った。
「そうだね、君みたいな可愛い良い顔をした女の子は顔を隠した方が良いだろうね」
店主の意見にスフェーンも一部は納得していた。可愛いかどうかに関しては疑問が残るが少女が一人でいると誰かに襲われる可能性は高い。
基本的に街を歩くときはどこでも顔を隠すのを意識しておこう。
「顔を隠したいなら、良いものを売っている場所を紹介するよ」
「?」
すると店主は少し小声でスフェーンに耳打ちする。
「此処から少し遠いけどね、ウチの知り合いでエーテル技術に詳しい発明家がいてね。
名前をネクィラムと言うんだが、企業から追い出された人間なんだ、変わった所はあるけど悪い奴じゃないから尋ねてみると良いよ」
「……」
店主はそう言うと住所を記したデータを自分の嵌めていた電子グローブに触れて渡してきた。
「大丈夫なんです?」
「悪人じゃあ無いのは保証するよ」
もし良かったと思ったらまた来てねとちゃっかり宣伝もしながら店主はカウンターから去って行った。
中々にお人好しだなと思ったスフェーンは店主の言葉に感謝しつつも、食事をしっかり最後まで食べると。マネーを払って店を後にした。
「まぁ、行ってみようかね」
店を出て、言われた例の発明家とやらの家に足を運んでみようかと思ったのは単なる興味だった。
『好奇心は猫を殺すと言いますが……』
「最悪逃げればいいさ」
その為に彼女は言われた住所の場所を目的地に寄り道をしつつも歩き始めた。
兵器解説
AH-172 サンダーⅤ
軍警察が使用する複合ヘリコプター、ジャイロダインの一種である。二重反転プロペラを使用し、主翼と胴体には十一箇所のハードポイントが存在している。
機体側面に備わる二機のジェットエンジンでヘリコプターとは思えない推力を誇り、垂直離着陸も可能。
軍警察の主力ヘリコプターであり、攻撃力は破格の一言である。また、二重反転プロペラ無しでも通常の航空機としての飛行が可能。
単座型と複座型が存在し、路線の警備や臨検に用いられる。
基本武装
30mmガトリング砲 一基
ハードポイントに最大10tの装備を装着可能
モデルはシコルスキー XウィングとA-10サンダーボルトⅡ、Kaー50の三つ。
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