ラ・チャンコにて休暇をゆったりと楽しんでいるスフェーン。
この都市は海に面しており、都市には潮風が絶えず吹き込む。
そのためここを通る列車は足元がやけに錆びやすく、塩害対策も施してある。
そして留置線で止めているスフェーンの列車はその日は洗車を行っていた。理由は足回りの固着と錆防止の為だ。
「やれやれ、たまに動かさないと錆びちゃうからね」
『洗車後は部屋の掃除をしましょう。スフェーン』
「はいはい」
ゆっくりと列車を前進させて車両全体を高圧洗浄し、次に足回りの点検を行う。
「六両もあると、流石に大変ね」
特に間に挟まれたコンテナ貨車にライトを当てて確認するスフェーン。
今までやってきた都市や街で資産に余裕がある時に購入して増加してきたが、その分維持費もかかる。しかし荷物は運べる方が儲かるし仕事の幅も増える。
『維持費を含めた金額としてはこちらとなります』
「まぁ、何とかなっているけどさ…」
運び屋を始めて間も無く二年。つまりレッドサンが死んでからもう直ぐで二年が経つが、色々と問題も残したままだった。
「さて、どうしたものかね…」
レッドサン名義の銀行口座が消滅するまで時間が無くなってきた。
あれほどの資産を企業に持っていかれるのはいけすかないのでそろそろ引き出しをできればと思っているのだが…。
『スフェーン、まだ諦めていないのですか?』
「だってさ、もったいなく無い?」
そんな彼女の思いに納得を示しつつも、ルシエルは懸念していた。
『何に使うかにもよりますし、何より前の都市で貴方の事をよく覚えている人物に会いましたよね?』
そう言い、シディムで出会ったロトと言う治安官のことを言うとスフェーンは最後の車両の足回りをライトで照らしながら応える。
「だからこそよ」
『…本気で調べるのですか?』
ルシエルはスフェーンに少し不安げに聞くと、彼女は点検を終えてライトを消して答えた。
「幸いにもこの体よ?レッドサンの看病をしていたとでも嘘をつけばいけるんじゃ無いかと思ってね」
『それは…危ない橋を渡りますよ?』
「まぁ、企業が相手になるとどうしてもね」
財力や力のある企業相手に個人の運び屋が勝てるはずが無い。
今の赤砂はアイリーンと業務提携という形である程度の距離を保っているが、それでも日を追うごとにアイリーンに取り込まれているのは事実。
「それに、やり残したこともあるしね」
『…』
そう言い、列車の運転台に向かうスフェーン。これから列車を再び留置線に移動させて、スフェーンは再び街に戻る予定だった。
そして列車を前後させていると、本線に一本の列車が進入して来た。
「あっ、あれは…」
プッシュプル形式の長編成の前後には武装貨車のAC-422が連結された軍用列車だった。
『軍警の軍用列車ですね』
「へぇ〜、珍しい」
プッシュプルの列車は貨客混載で、コンパートメント車にカーキャリアが連結されていた。
そして貨物駅に到着した列車からコンパートメント車の観音開き扉が一斉に開いて中から装甲服に身を包んだ治安官が降車する。
軍警では一般的な開放座席車だと大型な装甲服に身を包んだ治安官達では扉が少なく、乗降に時間がかかると言うことで一つ一つが個室になっていて扉の多いコンパートメント客車が主に用いられていた。
ちなみにこれは一階建て客車のみで、二階建て客車も存在しており。前車は二個小隊、後者は一個中隊が輸送可能だ。
「何かあったのかな?」
『さぁ、特にこれと言った情報はありませんが…』
そんな光景に少し驚いているスフェーンだったが、取り敢えず留置線に列車を置いて次に部屋の清掃に入る。
「よっ…と」
改めて部屋を見ると、そこでは色々と散らかっている様子の部屋。
『まずは散らばっている衣装を纏めましょう』
「はい」
ルシエルの言う通りに体を動かすスフェーン。こう言う時に体を乗り換えないのがルシエルらしいと言うべきか…。
『水着は洗濯をする際も分けてください』
「はいはい」
そしてビニール袋に入れられたやや塩臭い水着。昨日着ていた物だが、昨夜は夕食をとった後に着替えたスフェーンがそのまま面倒になって寝てしまったのだ。
私服姿のスフェーンは取り敢えずスーツ含めて服を一つずつハンガーにかけて天井に吊るし、次に床に積み上がった本を一箇所に集める。
『ゴミは分別をして、運輸ギルドに持って行きましょう』
「はいはーい」
そしてゴミを分別し、ゴミ袋と洗濯物を持って列車を降りる。
運輸ギルドは基本的に貨物取扱センターの建物に併設されており、その施設では運び屋や運送業者の為の施設が多く置かれている。
運輸ギルドに加入していれば無料で使えるジムや映画館、診療所やコインランドリーに食堂、さらには散髪屋まで存在している。
「…」
そして洗濯機の前でベンチに座ってニュースサイトを見ているスフェーン。先ほどゴミを施設のゴミ箱に放り込み、洗濯機で水着や私服を洗っている。
こうした建物には洗車機も当然のように存在しており、先ほど使ったばかりであった。
そしてエーテルを補給するエーテルスタンドもあり、事前に予約すれば構内では無料で給油トラックが列車まで訪れる。
基本的に運輸ギルドのこの構成は変わらず、たまにショッピングモールや博物館が併設されているなどのバリエーションはある。
「(赤砂に関するニュースは…)」
そして洗濯機の洗濯が終わるまで、自分の古巣のニュースを調べているスフェーン。出てくるのは赤砂とアイリーンの業務提携に関するニュースばかり。それ以上のニュースは入っていなかった。
「…ルシエル」
『はい、何でしょうか?』
ルシエルはそんなニュースを見ていたスフェーンに粗方の予想は付くも、一応聞いた。
「表に出ていない赤砂の動きって分かる?」
『…分かりました。検索を行い、適切な回答をいたします』
そんなルシエルの返答に少しだけスフェーンは苦笑いを浮かべる。
「…ごめんね」
『いえ、貴方に適切な補助を行うのも私の仕事です』
それほど気にしていないそぶりで答えたルシエル。そんな彼女にスフェーンも少し微笑むと、洗濯機が止まって中から濡れた服を乾燥機に移す。
『しかし、アイリーン社の今の周囲の状況は少々危険な様子ですね』
「えぇ、例の都市占有がかなり影響している見たいね」
なまじ占有された都市を知っているが故に思うところはあった。
『軍警の方ではこれと言った動きはまだ確認されていません』
「まぁ、軍警は普通は動かないさ」
軍警の主な任務は鉄路や都市の治安維持と、公平な武力行使機構としての強大な軍事力を背景にした企業の取り締まりだ。
彼らは企業間抗争に手を出すことはほぼ無く、あくまでも違法な取引を行った企業に対し強制捜査などに踏み切る。
「軍警が動く時は本当にヤバい時だけよ」
そう言い、ヴェイプを一服吸う。そして吐いた紫煙は上に向かって消える様にユラユラと立ち昇っていた。
その場所は俗にオフィスと呼ばれている場所である。
場所は赤砂傭兵団の本部がある場所。
多くの傭兵を取り仕切るこの傭兵団は、初めは二人の傭兵から始まった。
今のリーダーは代理として執務室で立っているブルーナイトと世間一般では言われている人物だ。
「…」
レッドサンの行方不明後、本格的に傭兵団として活動を行う方針に転換した赤砂傭兵団。
「ふぅ…」
その名簿表を見ながら少しため息を吐くブルーナイト。
レッドサンがいた頃は、彼の放任主義が祟って組織としての行動がほぼできておらず、上下関係の強いならずもの集団といった具合だった。
レッドサン個人の名声は次第に傭兵団と呼ばれるまでなったが、その実態は野盗とほぼ変わらなかった。
むしろそんな自分の名声に小判鮫のようについてきた彼らを少々レッドサンは鬱陶しそうにもしていた。
「お疲れのようね」
「…来ていたのか」
するとオフィスの扉を開けて入ってくるアンジョラ。
「病院は?」
「今日は休みよ」
闇医者をしている彼女は赤砂お抱えの医師としても働いており、何度も世話になっていた。
「そうか…」
そしてアンジョラは部屋のコーヒーマシンを使ってカップにコーヒーを淹れ、砂糖を入れるとそれをブルーナイトの前に差し出した。
「はい、少し飲んで休憩」
「…すまない」
そしてアンジョラの出したコーヒーを持った彼はそれを傾ける。
「しかし、随分働いているわね」
「あぁ、赤砂傭兵団の処理が終わりそうな所だ」
そう言い、彼は書類を置くとアンジョラを見る。
「変わったわね。色々と」
「あぁ、」
そこでアンジョラはブルーナイトを見ながら言う。
「貴方もよ。ブルー」
「…」
そこで軽くため息を吐くブルーナイトはコーヒーを数回分けて飲む。
レッドサンのあの事故より間も無く丸二年が経過する。
あれ以降、赤砂傭兵団は大きく変わった。
「レッドが居なくなってから、まるで何かに追われているみたいよ」
「…」
ブルーナイトは彼女に指摘され、少し表情が薄らと曇る。
赤砂傭兵団は組織としてより明確化する様、所属傭兵の明記や一個の会社としての運営のために多くの補助要員を雇った。そして今ではアイリーンPMCと業務提携を行うまで組織化が成功していた。
アイリーンとはまだ距離が置かれているが、向こう側からの仕事の要望も多く、一部の仕事は請け負っていた。
「最近は遊びにも来れていないじゃない。皆んな寂しがっているわよ」
「それは…」
アンジョラの経営…と言うよりはブルーナイトが出資している孤児院。
資産に余裕があるからとレッドサンにけしかけて診療所と共にアンジョラに与えたスラムから引き取った孤児達を送る為の施設。
少しの善性とレッドサンの言葉に感銘を受けたブルーナイトは仕事で向かった街からも孤児を引き取っていた。
今ではそこで育った子も成人するくらいには建ててから時が経っていた。
「すまない」
「まぁ、ここ最近は忙しいのはよく知っているけれどね」
そしてコーヒーを飲み終えた頃、ブルーナイトの視線が一瞬強く朧気になった。
「っ…!?」
それが疲れなのか、薬の影響なのか。長年の経験があったブルーナイトはすぐに分かった。
「ア、アンジョラ…」
「ごめんなさいね、ブルー」
アンジョラは酩酊で意識が朦朧としてきたブルーナイトの顔に触れる。
「あなたが抱えている悩みを知りたいの」
アンジョラは少し強張った表情をしたままブルーナイトの目を見ていた。
兵器解説
AC-422
軍警の保有する自走不可能な武装貨車の一つ。
列車の先頭と最後尾に連結される事が多く、路線警戒と列車防衛を担う。
主に軍用列車に連結され、路線の警戒と野盗の襲撃対策に使われる。
常に速射砲を前方に向け、対地攻撃や対空攻撃に使用が可能。
軍警ではこれの他に装甲軌道車や鉄道装甲車、装甲列車を運用している。
基本武装
76.2mm速射砲 一門
複合型CIWS 一基
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