TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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プロペラ機→プロペラが生み出す推力で飛ぶ飛行機
レシプロ機→ピストンエンジンを装備した飛行機

なのでターボプロップ機はレシプロ機には該当しないらしい。


#66

翌日、洗濯や諸々の片付けを終えたスフェーンは予約した観光飛行艇に乗るためにラ・チャンコのフェリーターミナルを訪れていた。

中は旅客船や飛行艇を待っている客や乗組員で賑わっており、スフェーンは予約した飛行艇の切符を券売機で受け取る。

 

「海はまだジェットの固定翼機が飛んでいるのね」

『海には障害物が少なく、この空でも高速飛行が可能と言う事ですね』

 

現に軍警の海軍部隊では未だに固定翼機が多く使われていた。

そして低速・低高度で飛べるプロペラ機や回転翼機は今でも需要は多くあり、民間機が飛ぶこともままあった。

 

「さて、観光艇を待ちますか」

 

各種アナウンスがされる中、スフェーンは目の前の桟橋から次々と移動する観光客を見る。

この港は小規模なものなので豪華客船や鉄道連絡船と言った大型船舶は停泊できないが、近場の街や島を結ぶ小型・中型船舶や飛行艇、水上機などが常に行き交っていた。

 

『搭乗開始時刻はチケットに記された時間の二十分前から始まります』

「ん、分かった」

 

改めて紙製のQRコード付きの切符を確認する。

鞄を肩から下げ、その中には拳銃を仕込んでいるスフェーン。ロリコン対策も万全だったが…

 

「この状況じゃあ、要らなかったかもね」

 

そう言い、家族連ればかりが集まる旅客船ターミナルを見ながら呟くスフェーン。彼女は出発前にターミナル併設の飲食店でアイスクリームを注文していた。

 

「こう言う時って食べたくなるのよね」

『観光地あるあるの一つでしょうか?』

「なにそれ?」

 

ルシエルとそんな事を話しながらアイスクリームを食べると、しっかりコーンのサクッとした食感を楽しんだ後に出発ゲートに繋がる前の保安検査に向かう。

 

切符を機械に通し、搭乗口の書かれた紙を受け取りながら荷物検査場に向かうと、そこでは金属探知ゲートや荷物検査が行われており。案内で拳銃はお取り出ししておく様に書いてあった。

 

基本的に銃を持っている事が当たり前なこの世界だが、なんと銃は帰って来たら返す前提で回収されると言う。

 

「すげぇ厳しい保安検査」

『機内は狭いですから。拳銃でも強力な武器になり得ると言う事でしょう』

 

そう言いながら銃用のロッカーに預けるスフェーン。

飛行艇の高い保安レベルに軽く舌を巻くとともに銃を持ってこなければよかったと軽く後悔する。

 

『スタンガンはあります。ある程度の対応は可能です』

「まぁ、そうだけどね…」

 

そして銃を預けたスフェーンはそのまま保安検査場の列に並ぶ。

そこではインプラントチップの確認が行われており、そこで軍警のデータを借りて犯罪歴の有無を確認する。偶に恩赦で犯罪歴が消される場合もあるが、そう言うのは稀な行為だった。

例えばもしここで犯罪歴があればすぐに警戒され、さらに刑務所の収監歴があれば厳重な監視を受ける。

 

基本的に軍警による収監歴が二回ある人間は企業に雇用される事はない。そして列車のチケット、特に特急列車のチケットを取る時なんかは要注意人物としてマークされる。

そしてこう言う観光地域や移動でも収監歴のある人間は肩身の狭い思いをする事になる。故に犯罪の抑止力ともなっていた。

 

検査場を抜けて搭乗ターミナルに到着する。

二階建て構造のそこは上は搭乗、下は降機専用になっており。搭乗口はそれぞれがエレベーターやエスカレーターで降りられる構造となっていた。

 

『そろそろ搭乗口に向かいましょう』

「えーっと場所は…」

 

搭乗口の記された場所まで移動すると、そこでは桟橋に係留された一隻の飛行艇がガラス越しに停泊していた。

 

「おぉ…」

 

巨大な飛行艇を目の前に感嘆の声を漏らす。

純白の下地に刀を模した青い塗装の施された片側四発、合計八発のジェットエンジンを装備した巨大な飛行艇は、観光客を乗せる為に内装は旅客仕様の六列の座席と360度全周が見渡せるHMDや、外の景色を見渡せる展望窓やがあった。

 

「良い席〜」

 

そして荷物を天井の棚に入れ、観光客用のクッション性の高いゆったりとした座席に座って頭にHMDを装備する。

一部電脳化を受けたサイボーグなどは首元で接続をして映像を見る事ができるようになっており、誰でも景色が楽しめる様になっていた。

 

床や壁も外の映像を映し出し、飛行中に機内を移動する時でも景色を楽しめる様になっていた。

 

『間も無く、本機は離水を開始致します』

 

そして飛行艇を桟橋と繋いでいた橋桁と舫が解かれ、波の力と若干の推力を使い。飛行艇は岸壁を離れて大洋に移動する。

その間、視界の目の前には機内の安全確認ビデオが流され、緊急時の対処方法などが記されていた。

 

360度の全周モニターはまるで自分が飛行艇になったような不思議な浮遊感を与えている。

そして搭乗している乗客も同様に同じHMDを使ってこの臨場感あふれる景色を見ている事だろう。

 

『当機は間も無く、離水を開始いたします』

 

そして湾外に出た飛行艇は洋上を移動。ケーソンを幾つか通過した後、

 

「うおっ」

 

一気にエンジンの加速が始まり、少しの重圧が体全体にかかり。水面から飛び上がるために数回ジャンプする。

 

「おっと」

 

そしてその衝撃は客室全体に伝わるも、耳まで頭全体を覆うこの状態で悲鳴を上げる他の乗客の声も聞こえない。

速度は上がり続け、そして機体全体に震えていた振動が消えると、水面が離れていく。

 

ラ・チャンコ全体の景色が斜めに傾斜し、ゆっくりと旋回すると都市のビルが低く見える。

 

「おぉ〜」

 

そして人の影やパラソルがゴマ粒ほどの大きさになったところで、飛行艇は近くの島に向かって進路を取ると早速観光の音声が入る。

 

『ラ・チャンコ周辺の島々は、観光資源や豊かな海産物収集の拠点として…』

 

観光アナウンスを聞きながら島の上空を飛ぶ飛行艇、かつては移動手段の一つであった固定翼機。

しかし今では、海の上でしか生き残れないか弱い種族となってしまった。

 

今でも、このエーテルの空の下を観光用として遊覧飛行を雲の高さギリギリで行っているに過ぎない。

エーテルで覆い尽くされた空の下では、機械仕掛けの鳥は雲の上を飛ぶことすら叶わない。

 

『嘗ての人が侵した業。すでに百年以上に渡ってこの空はエーテルに支配されている』

「日常の景色は、例えそれが周囲からすれば異常な事であっても気がつく事は無い…か」

 

そんな景色をルシエルと共に見ているスフェーン。他の観光客達は横や下を向いているであろう景色の中、スフェーンはより濃くなって見えるエーテルの空を見ていた。

 

「エーテルが近い…」

『この空から延々とエーテルが降り注ぎ、今の生活がある』

「なんで何世代も前の遺物をうちらが引き継がなきゃならんのかね…」

 

大災害の際、空に上がったエーテルは今も地表に降り注ぎ、空間エーテル濃度が濃くなった地域は捨てられる。

基本的に空間エーテルが生活できなくなるまで濃くなると、付近でエーテル機関を使用すれば誘爆の危険が高まり、重要な都市であれば空間エーテルを取り除く大型の機械を持ってきて除染作業が行われる。

 

基本的に空に上がっているエーテルは活性化エーテルだ。故に空間エーテル濃度の上昇は死に直結する極めて危険な状態。だから企業や軍警もこのエーテルの空を何とかしたいと思っているのだ。

 

しかし、このエーテルの空が消えると今度は企業が固定翼機を使用し。武器のレパートリーが増え、さらに力が強まるので軍警の力が弱まってしまう。

それを避けたい軍警上層部では積極的なエーテル除去を行なってきていなかった。

 

「全く、なーんでこんな事考えるんだか…」

 

島々を巡る飛行艇の中、スフェーンは思わず呟いてしまうと、視界を下に変えて観光案内の自動放送と共に島を見る。

飛行艇に乗る事は初めてのスフェーンは改めて空の景色を楽しみ直す。

 

「さて、終わったら仕事かぁ」

『えぇ、良い保養になりましたか?』

 

その問いかけに少し苦笑するスフェーンはここに来てからの事を思い返す。

まぁ海は泳げたし、久々に静かに暮らせたし、確かに休む事はできたのだろう。

 

「まぁ、なったかもね」

 

少なくとも休暇として満足に過ごせたと思うスフェーンはそう答えると、飛行艇は最後の島に進路を向ける。

 

『この島は、大災害の際。人々をエーテルの津波より守ったシェルターが存在したのです』

 

その島をよく見ると、大きなコンクリート製の建物があり。そこが嘗て地下につながる巨大なシェルターの入り口だったと言う。

 

『現在、シェルターはラ・チャンコに繋がる博物館として再建され、新たな観光施設となっております』

 

もし時間の余裕があれば是非、としっかりと宣伝を入れながら飛行艇は島の周辺をゆっくりと旋回する。そして旋回を終えると、飛行艇は進路をラ・チャンコに向ける。

 

『これより、当機はラ・チャンコフェリーターミナルに着水いたします。係員の案内があるまで、座席をお立ちにならないようお願い致します』

 

キャビンアテンダントのアナウンスが入り、飛行艇でHMDを繋いでいた観光客達は一斉に外す。

スフェーンも同様に頭から機器を取り外すと、機体の直射日光を抑える為に少し暗くなった天窓、そして壁には座席列毎に設置された小窓。スフェーンは少し体を起こして小窓に顔を近づけると、徐々に水面が近づいてきており。いよいよ着水が始まる。

 

そして着水した時の衝撃を感じながらも、飛行艇は無事に着水するとそのままゆっくりとフェリーターミナルに向かう。

観光を終え、スフェーンは他の乗客と共に桟橋に降り立つと何ともえない充足感を感じながらフェリーターミナルを後にした。

 

 

 

 

 

飛行艇の観光を終え、預けていた拳銃を回収して貨物ターミナルに戻ったスフェーン。

 

「さて、行きますかね」

 

少し腕を伸ばしながら呟くと、ルシエルが言う。

 

『企業より、指名依頼が二件入っております』

「二件?珍しい事」

 

指名依頼をこなす事は利益増大や仕事の信用度を増す。

 

『ヤマサキ発動機と碧丸商事より運送依頼がございます』

「有名な企業とは光栄なこった」

 

列車の運転室に登りながら呟く。

 

『依頼内容は機械部品輸送と保存食品との事です』

「どっちも行ける?」

 

荷物の量的に二つ行けそうだったのでスフェーンはルシエルに問う。

 

『ルート設定はお任せを』

「じゃ、両方受ける方向で」

『了解です』

 

二つの依頼を受ける負担を考慮しながらルシエルはなるべく安全なルートを選定していた。




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