軌陸装甲車に追いかけられている軽便鉄道の列車。
テクニカル感が拭えない見た目だが、ピックアップトラックの荷台には天板のない砲塔と機関銃。そして荷台に乗る装甲服を身に纏った数人の兵士。
「さぁ!遊んでやろうぜ!」
「おうよ!」
機関車でペグとクロードの二人が意気込むと、列車は速度を上げる。
「大丈夫なの?」
「ああ!いつもの事さ!」
後ろから装甲車に追いかけられるこの状況がいつものというのは少々おかしな話だが、二人は意気揚々と機関車を唸らせて速度を上げる。
そしてクロードはどこかに通信をした様子で、口にした。
「信号!」
『何だクロード?』
「猫と戯れてるんだ。手伝ってくれ」
『はいよ、任されて』
そして速度を上げた列車は峡谷に沿うように建設された鉄橋を走ると、後ろから追いかけてくる装甲車をおちょくるように走る。
『止まれー!!』
「それぇっ!」
「ほいっ!」
装甲車から怒号に近い声が聞こえるが、合図とともにギアが入ると一段と機関車は速度を上げる。
『馬鹿者ぉ!』
「ほーれほれ!」
「来てみろってんだ」
速度を上げる機関車の速度はもはや魔改造の域に達している気がするのは気のせいだろうか…。
「何でこの機関車でそんな速度出るのよ!」
「そりゃコイツが改造してっからな」
「おう、逃げ切れる自信作よ」
誇らしげに語るペグにスフェーンはやや苦笑気味に顔を引き攣らせると、速度を上げた機関車が峡谷の橋に繋がるポイントでクロード達の列車は左に曲がる。
「っ!急げ!」
そして曲がる列車を見て装甲車に乗っていた兵士は慌てて速度を上げる。
「まずいな…」
「くそっ、向こうも改造してきたか…」
後ろを見て速度を上げてくる装甲車に軽く毒吐くペグ。そんな様子にスフェーンは持っていた小銃を構えた。
「え…?」
スコープを取り付け、それを覗き込むスフェーン。
「距離は?」
『装甲車との距離は80.2mです』
「んじゃ、このくらいかな?」
視界に映る弾道予測線を参考にスコープでフェーンは付いてくる装甲車の窓ガラスに照準を合わせた。
「っ!おい!」
「大丈夫」
直後、引き金を引いたスフェーンの弾丸は装甲車の窓ガラスに命中すると一発でヒビが入った。
「うわっ!?」
窓ガラスが一発でひび割れ、二発目三発目とほぼ連続で命中してフロントガラスが真っ白になった装甲車は思わず急ブレーキを掛けてしまう。
「しまった!」
慌てて再加速するも、
「ひゃっほー!」
列車はポイントを曲がり切り、その直後にポイントが切り替わって装甲車はそのまま真っ直ぐ進んでしまった。
「くそっ!」
そんな列車を軽く毒吐いて見送る兵士達。
「追いかけますか?」
「…もう良い」
部下からの提案を隊長は一蹴すると、そのまま窓ガラスの割れた装甲車を見ていた。
銃弾が残っている形跡はなく、盛大にひび割れたフロントガラスがそこにはあった。
「帰るぞ」
「はっ!」
そして他の兵士たちも軽く毒吐いた様子で装甲車に乗ると、そのまま線路を走り去っていった。
「おい、アンタ…」
峡谷の長い鉄橋を渡る途中、機関車から戻ってきたペグが小銃を撃ったスフェーンに一言言う。
「あら、悪かったわね」
銃を手前に置き、遊底を引いて雷管部分を弾き出す。ケースレス弾を用いているので薬莢が出ることはなかった。
そして次弾を遊底を押し込んで装填すると、そのまま安全装置をつけてペグの顔を見た。
「撃ったのはフランジブル弾。多分誰も怪我はしていないわ」
「だとしても…「それより、」…」
話を遮るようにスフェーンはペグに聞いた。
「貴方初めから知っていたのでしょう?」
「…」
スフェーンはペグの目をしっかりと捉えながら聞くと、観念したように彼はため息を吐いた後に貨車に座り込んだ。
「あぁ、知っているよ」
「どこから?」
「マーケットで騒いだあたりからさ」
つまり、ほぼ最初から彼は知っていたという事になる。
「じゃあ猫って?」
「隠語さ、スフェーンが巻き込まれた男のね」
「あの小太り坊ちゃん?」
「そう」
ペグは頷くと、そこでクロードが続きを言うように答えた。
「その男の名前がミケって言うのさ」
「んで、三毛猫と合わせて隠語なの」
クロードに合わせるようにペグは隠語の由来を言うと、クロードは続ける。
「そいつはここの鉱山のドラ息子さ。金に物を言わせて色々わがままをする事で有名なの」
「へぇ〜」
そして列車は峡谷の反対側に掘られた坑道に入ると、そこでランプに照らされた中の駅に到着するとそこでクロードが言う。
「さて、到着だ」
「ありがとう」
「良いってもんよ」
貨車を降り、そこでペグ達に軽くサムズアップすると、彼は列車を動かしてそのまま坑道の奥に消えて行った。
「続きは歩きながらでいいか?」
「ええ、」
そして坑道の駅の階段を登りながらペグは続きを話し始める。
「ミケは自分の言う通りにしない人はああやって父親の会社の兵士を使って脅すのさ」
「ふーん…」
そして坑道を登ると、そこでは鉱山労働者のための休憩所のような小さな地下街に出た。
「よぅペグ」
「今日休みじゃねえのか?」
そしてそこで陽気にペグに話しかけてくる鉱夫達。
「あぁ、猫と戯れてきたよ」
「ほぉ、マジか」
「またやったのかよ」
「懲りねえなオメェも」
そんな軽口を言い合うと、彼の後ろにいたスフェーンを見た
「ん?その女の子は?」
「ん?あぁ、猫に追っかけられてた子さ」
「ああそう…」
「可哀想になぁ」
スフェーンを見た鉱夫達はその後に笑った。
「ついに女に手を出したか!」
「こりゃあ良いニュースだ」
そう言い、鉱夫達は少々盛り上がっているとペグはスフェーンに手を取った。
「行こう」
「えぇ」
少し頷きながら二人はエレベーターに乗り込む。
「んで、あの猫に何されたの?」
「私の商売道具を無理やり買おうとしてきた」
「はははっ、なるほどね」
鉱山用のヤバいエレベーターではなく、人員輸送用のちゃんとした金網エレベーターで上に登る二人。
「何をやっているの?」
「運び屋。私の列車をあの坊主は買い叩こうとして来たのよ」
「坊主て…」
そう言いやや苦笑するペグ、仕方ないやん。実際年下だし。
「まぁ気持ちはわかるけどね…てかあんた運び屋か」
「あら、いけない?」
「いやぁ、僕も子供の時から機械工しているから理解できないわけじゃないさ」
ペグはスフェーンを見ながらそう答えると、エレベーターは最上階に到着して一斉に乗っていた鉱夫達が降りていく。
「とりあえず列車まで送るよ」
「大丈夫よ」
峡谷にはそれぞれの都市を結ぶモノレールが橋の下にあるのを知っているので、それを使って帰ろうと思っていると、ペグは
「モノレールなら使わないほうがいいよ。ありゃ観光客用のぼったくり路線だ」
「…」
橋のモノレールはぼったくり路線と聞き、なるほどうまい企業のやり方だなと軽く舌を巻く。そして同時に汚いとも思った。
「旅客用の軽便がある。そっちの方が安い」
「じゃあ案内してくれるの?」
「もちろん」
そしてペグはスフェーンを案内する。
無数の坑道や地下街がここにはあり、その中には鉱物を運ぶための軽便鉄道も走っており、時折線路脇を歩いていたりしていたので真横を列車が走り去っていくことがあった。
途中の売店でコーヒーや紅茶の缶を買い、それを飲みながら駅まで歩く。
「でもやだわ、私アイツに泡吹かせちゃった」
「ぶふっ」
その時、ペグは飲んでいたコーヒーを軽く拭いてしまった。
「あはははっ!ミケを気絶?とんでも無いことするねw」
そして吹き出して笑ったペグはスフェーンを見て軽く尊敬の目を向けた。
「いやぁ、すごいよスフェーンは」
「あら、そうでも無いわよ?」
「どうやってやったの?」
彼を気絶させたスフェーンに興味のあるペグ。
「銃口を口の中に突っ込んで脅しただけよ」
「わぁ、そりゃすごい」
そんなスフェーンの脅しに感心していると、ペグは呟く。
「明日みんなに言ってやろ」
「随分とネタにされているのね」
「当たり前さ。俺たちが構ってやらんとあの坊ちゃんは泣いちまうからな」
そう答えると、坑道の坂を登って外の小さな駅舎に到着して待っていると、マッチ箱のような形の小型客車とコンテナ貨車を繋いだ軽便鉄道が到着すると、二人は列車に乗り込んだ。
その後、再び反対の峡谷に戻ったスフェーン達は貨物取扱ターミナルまで到着する。
「それで、この先に君の列車があるんだね?」
「ええ、そうよ」
ペグに頷くと、彼は少し考えた後に軽くため息を吐いた。
「んじゃ、そこまで着いて行ってもいいか?」
「え?なんでよ」
少し警戒するスフェーンにペグは背中に下げていた
「ちょいと理由があるの。まぁ、今は素直に聞いて欲しいかな」
「?」
どう言うことだと訝しみつつも、スフェーンは小銃を手に取り、中に弾薬を詰めた。
そして留置線に向かうと、そこでスフェーンはルシエルに聞いた。
「列車の近くに誰かいる?」
『カメラには今のところ…いえ、』
ルシエルはそこで列車の前の異変に気がついた。
『熱源反応が六…いえ、八つ確認。光学迷彩を使用している様子です』
「…あぁ、くそっ」
なるほど、ペグが警戒している理由がよく分かった。あのクソ坊主の仕業だな。
「なるほど、手先が居るわけね」
「そっ、察しが良いね」
なるほど、さすがは金持ち。報復のつもりなのだろう。
「なんで列車を壊さないの?」
「そりゃミケは列車オタクだからな。傷つけたくないんだろうよ」
「なんだその精神」
「さぁ?僕に聞かれてもね」
オタクと言うのはつくづくよく分からん生き物だ。
謎のこだわりがある坊ちゃんに若干首を傾げながら静かに留置線を進む。
『スフェーン、少々警戒心が足りないかと…』
「そう?腕は落ちてない気がするけどねぇ…」
そんなことを言いながら進むと、自分の列車が見える場所まで移動した。
「あの列車ですが…」
「あちゃー、まぁまぁ居るね」
サーマルを使って見える光学迷彩を使っている人影。見えている範囲では四人ほど見えていた。
「列車の出入り口に二人ずつ…か」
「どうする?」
ペグがサーマルを使って見た後に問いかけると、スフェーンは少し考えた後でペグを少しイイ笑みで見た。
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