TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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来年はリメイク海底鬼岩城だったら良いなぁ…


#83

翌日、目覚めたアリズは自分がバンの荷台で寝ている事に気がつくのに数分、昨晩のことを思い返すのに数分かかった。

 

「おはようございます」

 

そんな彼女に声をかけているのはスフェーンだった。

彼女は台所でいつもの朝食を作っており、鍋からは湯気が立っていた。

 

こっちに引っ越してからと言うもの、彼女は一度も自分の家に帰らずにバンの中で寝泊まりをしていた。

 

「よく眠れましたか?」

 

そう聞きながら片手にガスバーナーを持って一度焼いたピザトーストの上から火を付けて焦げ目を付ける。

そんないつも通りの彼女にアリズは少し返答に困りつつも言葉を発す。

 

「あ、あぁ…」

 

困惑気味に答えたアリズを他所にスフェーンは洗った皿の上にピザトーストを置き、マカロニの入ったトマトスープを注ぎ入れて広げた小屋の外のテーブルに置く。

 

「どうぞ」

「…ありがとう」

 

いつもの様に自分より早く起き、朝食を作り。時間通りに昼食や夕食を作り、材料を買いに街に出かける。

その分の代金は彼女が持っていた絵画の売却費用や似顔絵で得た分で賄っていると言っているが、それが嘘というのはすでに分かっている。

と言うより、彼女が来る前は自分の絵画如きの売上ではモルヒネを買って後は少々の食事で精一杯だった。

 

「運び屋は儲かるのか?」

「時と場合に寄りますよ」

 

ほうじ茶を薬缶から湯呑みに注ぎ入れるスフェーンは言う。

 

「まぁ貴方にお勧めしませんが…」

 

一人で運び屋をしていると言う彼女はコノハナに来る前からも多くの街を巡って来たのだろう。

その途中、さまざまな苦労もして来たに違いない。かく言う自分もあの荒野を車一台で走った過去があるからその苦労は理解できなくは無い。

 

「私も運び屋をやれるほど度胸もないな」

「はっ、車で荒野を走って来たのにですか?」

「もう二度と経験したくないって事さ」

 

アリズはそう言い、スフェーンと軽く話すと彼女は少し間を置いた後に聞く。

 

「…私を止めようとしないのか?」

 

そう問うとスフェーンはそんな彼女に軽く鼻で笑った後に言う。

 

「私が止めたところで、貴方は筆を手に取るでしょう?」

「…そうか」

 

アリズはそんなスフェーンに少しだけ笑みを作った。

そして当時に少しの後悔と申し訳なくを思ったが、不思議と彼女に罪を被せてしまう事に罪悪感は薄かった。

 

「…すまない」

 

頭を下げる彼女にスフェーンは軽く首を横に振りながら言う。

 

「いえいえ、貴方はやれるだけの事をやればいいんです」

 

そして食器を片付けながらアリズを見て彼女は言う。

 

「私の今の仕事は貴方の身の回りの世話ですから」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それからと言うもの、彼女の筆はいつもに増して早く動く。

並行して何枚もの絵画を描いている彼女のパレットは一つの絵画のようになっていた。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

筆を書く途中、咳き込んで痛みを訴えるように肺を強く掴むとスフェーンが駆け寄って彼女を支える。

 

「悪いね」

「いいえ、これくらいは」

 

スフェーンはそう言い錠剤を瓶から適量出す。

 

「酒を飲んでいたのは鎮痛剤代わりですか?」

「まぁそんな感じかもな。あるいは現実逃避さ」

 

軽く笑いながら錠剤を水で飲み込む。

 

「まだモルヒネを大量に飲まないだけマシですね」

 

そんな彼女にスフェーンはそう答えると、アリズは言う。

 

「ヤク中で死んだら死んでも死にきれんよ」

 

そう言い息が落ち着くとアリズは再び筆を手に取る。

 

「まだまだ、倒れる訳にはいかないんだ」

「…そうですね」

 

そんな彼女を静かにスフェーンは見ながら彼女の絵を後ろから見ていた。

 

「相変わらずの絵ですね」

「褒めてくれるのかい?」

「えぇ、私が気にいる画風ですよ」

 

スフェーンはアリズにそう話すと、彼女は少し微笑んで新たな絵具を出す。

 

今描いているのは花畑の中の簡易駅舎に停まる軽便鉄道の絵。

機関車はコノハナの農作物を運ぶ軌間1067mmの軽便規格路線の12号機関車。偶に此処からでも見かけていた機関車だった。

 

「作品名はあるんですか?」

「ん?あぁ、そうだな…」

 

彼女は同じような絵を七枚描き、そのうちの一枚は小屋の中に今も仕舞われ。それを自分は一回も見ていない。

彼女の絵画を全て見て来たと思った自分だが、一つだけキャンバスの番号が抜けているのである。

 

「端的に『花と少女』にしようと思っている」

 

その一枚は彼女曰く、この七枚の絵画の最初に描き始めた絵画だと言う。

 

「分かりやすい題名ですね」

「だろう?」

 

その絵画は連作であり、すでに五枚を描き終えて倉庫に並んで置かれていた。

 

花畑の一角、ほとんど人の来ない様な場所で彼女は筆を振るう。

 

徐々に彼女の体を蝕んでいるエーテル肺炎。この病は体が衰弱するのだが、食欲や体の健康に関する部分ではほぼ影響が無く。気付かぬうちに病が進行し、いつの間にか死んでしまうと言う恐ろしい病である。

エーテル過敏症と違い、目に見えてわかる変化が起こらないのだ。ただ激しく咳き込み、それで少し痛むのでモルヒネ錠剤が渡されるだけで終わる。

 

「初めの違和感は高濃度エーテル区域にデッサンに行った時だったかな…」

 

一つ絵を描き終え、少し休憩をしているときにアリズは溢す。

 

「ガスマスクをしている時の方が苦しくってね。たまたまエーテル肺炎のニュースを見ていて病院に飛んで行ったら、この有様さ」

 

そう言い、テーブルに置いてある錠剤瓶に指を当てる。

 

「全く…病とは恐ろしい」

 

彼女はそう語り、スフェーンも頷く。

 

「えぇ、そうですね」

 

頷くスフェーンにアリズは続ける。

 

「どれだけ体が壊れようと、それもいずれは気にならなくなってしまう。執着も一つの病だな…」

 

自笑気味に呟いた彼女は最後の一杯を飲み終えると小屋に向かう。

 

「スフェノス」

「はい?」

 

そして小屋に入る直前、彼女はスフェーンに言う。

 

「ありがとう」

「…」

 

その時、彼女の表情は穏やかなものだった。

 

「明日には絵が完成する」

 

そう言い、スフェーンはその意味を理解すると静かに頭を下げてアリズに言う。

 

「では、明日の朝は少し遅めに伺いますね」

「…あぁ、頼んだよ」

 

アリズはそう言い小屋に入り、スフェーンはこの場所に来て初めて列車に帰って行った。

 

 

 

彼女は夜中も小さな小屋の中で絵を描き続ける。

 

「はぁ…」

 

筆を一心に振るい、白い下地に色を乗せ絵を描く。

滴る汗も気にならなくなる程熱中する彼女。心拍数が上がり、確実に彼女の寿命を縮めていた。

 

「はぁ…」

 

息が切れ、途中で咳き込みながらも彼女は筆を走らせる。他の全てをお構いなしに彼女は熱中する。

 

「はぁ…はぁ…」

 

そして彼女は日の出の光が窓から差し込んだ時、今までで一番良い笑みを浮かべた。

 

「…ふぅ」

 

そして大きく息を吸って深呼吸で息を整えた後に大きな隈を作ったまま彼女は小屋の床の敷布団に寝転がる。

 

「無事に出来上がったぞ…スフェノス」

 

毛布を被り、ゆっくりと目を閉じた彼女はそのまま深い眠りに着く。

 

「ふぅ…」

 

その表情は非常に晴れやかだった。

 

 

 

 

 

コンコンッ

 

小屋の扉を軽く叩き、スフェーンは少し待つ。

アリズに絵が完成すると言われ、夜は久しぶりに自分の列車に帰って一夜を過ごした。

 

「…」

 

しかし一向に反応する兆しすら無かったのでそのまま遠慮なく扉を開けると、そこでは積み上げられたキャンバスの奥。日の光が差し込む一つのイーゼルに立てかけられたキャンバスと、その足元で笑みを浮かべて眠る一人の女性…アリズだ。

 

「…はぁ」

 

アリズのその顔は疲れている様には見えず、美しさを保ったまま静かに斃れていた。

そしてスフェーンはイーゼルに立て掛けられていた一枚の絵画を見て軽く苦笑する。

 

「そりゃあ隠す訳ですよ。アリズさん」

 

その絵はメイド服のスフェーンがフウリンソウに囲まれ、木にもたれかかって眠っている絵だった。

 

アリズが何故この絵だけを隠していたのかは容易に理解できる。

 

「全く…」

 

蹲って寝ている彼女の体を軽く動かし、仰向けに寝かせてからスフェーンは彼女の組んだ手の中に一本のフウリンソウを挿す。

そしてイーゼルに立てかけられたキャンバスを手に取り、裏を確認すると今まで確認していない54の数字が記されていた。

 

「キチンと報酬は受け取りましたよ」

 

そう言い残し、スフェーンは寝たきりのアリズの小屋を静かに後にした。

 

「…ごめんなさい」

 

そして小屋の扉を閉じる前、スフェーンは呟く。

 

「貴方は私と一緒に来て貰わないといけません」

 

そう言うと、少し間を開けた後にスフェーンは口を開ける。

 

「…そうですか」

 

そしてキャンバスを片手に彼女は外に停まるバンを見る。

 

「分かりました。貴方がそう言うのであれば…」

 

そして小屋の扉をゆっくりと閉じ、最後に見たのは太陽に照らされ、絵画に囲まれたアリズの体だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

カンカンカンッ!!

 

ガベルでサウンドブロックを叩き、直後に会場は喧騒に包まれる。

 

「ハンマープライス!ハンマープライス!」

 

会場には多くの富豪が詰めかけ、片手に番号のついた札を持っていた。

 

「オークション史上最高額での取引です!」

 

そしてその様子を記者がやや興奮気味に伝える。

 

「五枚目の花と少女が只今、史上最高額で落札されました!!」

 

そう言い、花畑の中の駅舎に佇む少女の絵画が正面に護衛を受けながら飾られている様子を映していた。

 

 

 

後年、絵画の魔女と評されるアリズ・キテラ。

彼女の描いた絵画はその写実性が高く評価されており、彼女が愛したコノハナは多くの戦災に巻き込まれながらも、今も花を咲かせ続けている。

 

彼女の残した666点の作品の中でも彼女が最後に描き残した最高傑作と謳われる作品の一つ。花と少女は今、オークション史上最高の落札価格で競り落とされた。

 

彼女の描く絵画には番号付きとそうでないものがあり、キャンバスの裏に数字が描かれている事が彼女の絵画を証明する有力な方法であった。

番号のない絵画は小遣い稼ぎで描いた似顔絵がほとんどであり、こちらも高く評価されている。

 

 

 

アリズ・キテラの遺体を最初に発見したのは、彼女の元を訪れたとある画商だった。

彼女の絵に惚れ込み、絵の購入を打診に来た彼だったが、その際彼女は自身の描いた絵に囲まれながら死亡していた。発見当時、死後一ヶ月は経っていたと推測されている。

彼女の遺体は、理由は定かではないが完全に死蝋化しており、今でも最後に暮らした小屋の中で当時の姿のまま眠っている。

 

その際、小屋に残された彼女の全ての作品は訪れた画商の手によりコノハナに設立された博物館に納められていた。

しかし時代の推移とともに彼女の絵は世界中に散らばり、その先々で高い評価を受けていた。

 

生前に売れた作品は五枚程度と言われ、最も運に恵まれなかった画家としても周知される彼女は、今では世界に知られた画家として歴史に名を残している。

 

 

 

そんな彼女の最高傑作とも言われている花と少女には多くの疑問が残されている。

 

この花と少女に描かれる少女のモデルは、彼女が死亡する数ヶ月前より彼女の生活を補助していた少女というのが最も有力な説であり、花と少女は彼女への感謝を込めて描かれたとも言われている。

アリズ・キテラが死亡した後の少女の動向は把握できておらず、一説にはあえて54番目の絵画を欠番にしたとも言われている。

 

五枚が現存する花と少女には幻の一枚があるとされており、それが彼女が描いた54番目の絵画であると言われている。

また最初に描かれた花と少女は未だどの様な絵画なのかは謎に包まれており。一説には先述の少女に贈ったとも言われている。

 

 

 

彼女の唯一記録の残っていない54番目の絵画は未だに見つかっておらず、それがどのような内容であったのかは今も議論の争点となっている。

 

 

 




数字にピンときた方、いると良いな〜。



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