TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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(おそらく)私史上最速で100話到達する。


#89

「ふぅ…」

 

ヘルメットを取り、そこで心地の良い空気を味わっていると、アンドロイドが言う。

 

「後続部隊に連絡を取りました。到着まで四時間ほどでしょう」

「了解だ」

 

少人数での洞窟探検、この時すでに四日目に突入しており。この空間でロトは不思議な感覚を感じていた。

 

「妙に寒気がする」

「それは先ほどまで汗を掻いていたからなのでは?」

 

アンドロイドはかいた汗が冷えた事で自然とそうなったのではと返すが、

 

「いや、精神的な感じ方の方さ」

「お化けに出くわしたようなあれですか?」

「そうそう」

 

ロトは頷き、そこで昔。孤児院にいた時に夜中に女子部屋に驚かしに行ってアンジョラにケツしばきされた時を思い出す。

 

「(あの時竹刀で叩かれたのは痛かったなぁ…)」

 

などと少し昔の思い出に馳せていると、アンドロイドは言う。

 

「准佐、そろそろお食事を摂られてはいかがです?」

「そうだな…到着するまでに食っておくか…」

 

酸素ボンベからの吸気を止め、エーテル尽の空間で彼は食事を取るために地面に座り込むと持ち込んだ背嚢から戦闘糧食Ⅱ型を取り出す。

携帯加熱剤と共に袋に入れ、白米と豚肉の甘辛煮のパックを詰めて水をかけてビニール袋を閉じて待機していると中から湯気が立ち登り、袋もパンパンに膨れる。

 

「ふぅ…」

 

そして汗を流したのでアクエリアスの粉末をペットボトルに入れて振って溶かすとそれをゆっくりと飲み始める。

正直、脳以外殆どをサイボーグにしているロトではあるが、元々情報部という仕事の特殊性からサイボーグであっても人型に見えるようにされており。こうして食事も取れるようになっている。

 

「飯を食って栄養になるのはありがたい事だな…」

 

育て親のレッドサンは食事に関しては数少ない楽しみの一つと言っており、彼に影響を受けたロト自身もそれを色濃く受けていた。

 

「私は周囲の状況を見てきます」

「あぁ、頼んだ」

 

追従してきたアンドロイドは後ろに繋いでいたケーブルから常に給電されていたのでこの空間の外の調査に向かっていった。

そして一人消えたのでこの空間にはロト一人だけが残っていた。

 

「幻想的だな…」

 

エーテル光が賑やかに叫んでいるようにも見えるこの空気にロトは言葉を軽く失っていた。

そして湯気が収まり、中から温められたパックを取り出すと、豚の甘辛煮を白米と共にスプーンで掬って口に入れる。

 

「ふぅ…」

 

甘辛のタレと豚の脂が白米で中和され、喉の奥に流れていく。

 

「暖かい飯は有難いな…」

 

そう呟きロトは軍警の管区本部の食堂で出てくる唐揚げカレーに想いを馳せていると、

 

「おぉ、こりゃすげぇ…」

 

入り口に防護服を着たライルが他の隊員達と共にこの場所に訪れる。

 

「来たか」

「何だお前飯かよ」

 

ライルはそう言って地べたに腰掛けて食事をしているロトの横に座る。

 

「言われてきてみたが…」

「壮観な眺めだろう?」

「あぁ、地下約二〇〇〇メートルにこんな状態で、空間エーテル濃度も低い…一体どうなっているんだ?」

 

エーテル光によって照らされている空間に手のみサイボーグ化されているライルはエーテル過敏症を過度に恐れているのだが、そんな彼でもヘルメットを取るほどのエーテル空間濃度であった。

 

「調査するか?」

「…いや、記録だけでかまわんだろう」

 

ロトの問いかけにライルは軽く首を横に振った。

 

「それどころか、この場所を忘れたく思うよ」

「同感だ」

 

無数のエーテル光により照らされたこの場所は、どこか聖地を思わせるような雰囲気であり、報告を聞いて降りてきた隊員達も同様の空気を感じていた。

 

「で、どうする?」

「…記録はする。オートマトンの残骸やターレットの写真だけにしよう」

「そうだな…」

 

そう言い、ロトは食事を終え。空のパックを片付けると、

 

「少佐」

「何だ?」

 

ライルに一人が話しかけた。

 

この調査隊の中で最も階級が高いのがライルで、ロトは副隊長として訪れていた。

シディムの一件で表彰と勲章を授与されたロトは二階級特進を受けていたが、直ぐにライルに追い抜かされていた。

 

「下の方にもう一機オートマトンの残骸を確認しました」

 

報告を聞き、ライルが立ちあがろうとした時にロトが制した。

 

「俺が見て来る」

「おう、頼んだ」

 

大人のかなりきつい遠足となっているタルタロス鉱山事故調査隊。

ライルはここまで降ってきて疲労が溜まっており、完全にお飾り隊長と化していた。まぁ元々ロトが自費でやろうとしていた調査に、ライルを通じて上層部が乗っかってきただけなのでロトが指揮をしている事に他の隊員達もおかしくは感じていなかった。

 

「あれです」

 

崖上から双眼鏡を手渡されて覗き込むロト。

隊員が指差した先には一台の破壊されたオートマトンがエーテルの海の上で頽れており、それに倍率を上げた。

 

「…」

 

エーテル光が逆光となって暗くなっているその場所にピントを合わせた時、

 

「っ…」

 

ロトは息が止まった。

逆光に晒されていたオートマトンに色が乗り、赤とえんじ色のカラーリング。

 

「っ!!」

 

それに夕焼けのマーキングが乗った破壊された第四世代型オートマトン。

 

 

間違いない。()()機体だ。

 

 

そう感じてからの彼の動きは早かった。

 

「おいっ、降下準備だ」

「どうした?」

 

ロトの声に反応してライルが駆け寄ると、ライルは下に転がっていた一台のオートマトンに同じように双眼鏡を取り出して覗くと、驚愕した。

 

「マジか…」

 

大当たりだと内心喜びを感じながらロトを見ると、彼はすでに降下するためのロープとカラビナ。それから支柱となるパイルバンカーを取りに向かっていた。

元々は建築機械として使われている電磁加速型のパイルバンカー、住宅建築などに用いられる小型の物を持ち込んでいるこの調査隊。

崖上に二人係で地面に取手を持って起動すると、地面に深く金属の杭が打ち込まれる。

 

そしてカラビナと滑車。手回しウインチを取り付け、防護服を脱いでハーネスを付けたロトは準備を終えた。

 

「悪いが、一人だけで行くぞ」

「あぁ、お前さんの事だ。どうせそうすると思っていたよ」

 

気をつけろよと言って崖伝に降りていくロトを見送りながらライルは下を見る。

 

「上から見ているが、通信はいつでもできるようにしろよ」

「あぁ、分かっている」

 

下に酸素があるかどうかは分からない。二酸化炭素が充満している可能性もあるので十分に気をつける必要がある。

 

「外気成分の分析を開始」

『了解、外気成分及び酸素濃度の計測を随時更新いたします』

 

視界に肺を通じて計測される外気成分表。人体に必要な酸素濃度は十八パーセント以上、それ以下になると酸素欠乏症を引き起こし意識低下、言語障害、呼吸困難などを引き起こす。

 

まだ電脳化を行なっていないロトはエーテル過敏症と言ったエーテル病を気にする必要はないが、外気には注意をする必要があった。

 

『酸素濃度、現在二二パーセント』

「まだ問題ないか…」

 

すでん重り付きのロープを降ろし、腹のウインチを回転させながらゆっくりと降下するロト。

 

『二一パーセント』

「…」

 

一度下を確認し、酸素ボンベの必要性確認の為に下に測定器を垂らして確認をする。

 

『どうだ?』

 

するとライルが通信をして来てアイコンが視界の隅に映る。

 

「何とか降りられそうだ。酸素濃度も十分」

『ガスは?』

「無さそうだ」

 

測定器を確認しながらロトは降っていくと、徐々に地面が近づき、視界に映るオートマトンが段々と大きくなり、それに合わせて心拍数も上がっている。

 

『心拍数上昇、アドレナリンの分泌検出。極度の緊張状態と推測』

「…」

 

機器の診断が下され、その機械音声で今の自分の状態を理解し、そこで我に帰り一度手を止めて大きく深呼吸をした後にウインチを回して崖下に降り立った。

 

「…」

 

エーテルの溜まり場に足を付けると、そこから波紋が広がりエーテルに半身浴をしているオートマトンに当たる。

 

改めて見ると大柄な機体、そう思う。

 

第四世代のオートマトンの特徴は電磁加速砲を使える事。故に機体は大型化しており、コンテナ輸送も限界が近づいて来ていた。

今まではコンテナに格納できるサイズで輸送が可能だったが故に広く普及していたオートマトン。その前提が崩れるかもしれない第四世代機を前に、軍警では機体の導入にやや消極的であった。

 

しかし伝説の傭兵がこの機体に乗った事で軍警でも第四世代機の導入が進む事になった。ある意味で軍警の背中を押したようなものだ。

 

「…大きいなぁ」

 

その機体の名前はロート・フォッカー。嘗てレッドサンが愛機としていたオートマトンであった。

その愛機は各塗装が剥げ落ちた状態で今、目の前に転がっていた。

 

「…偉大な親父(ビッグ・レッド)

 

それを呟いた彼は徐にカメラを取り出した。この写真を最も彼のことを不安に思っているであろう人物達に送るためだ。

 

この数年、誰にも見つからずに眠っていた彼の愛機の姿を写真に収めると何とも言えぬ感情が溢れる。

 

「(見つけたよ…)」

 

そして恐る恐る機体に手を触れる。

 

「(昔は触らせてくれなかっただろ?おやっさん…)」

 

彼の相棒に連れられ、孤児院に来ては土産話をしてくれたのを覚えている。

 

傭兵になりたいと言った時には死ぬほど叱られたのを覚えている。

 

文句を言いつつも、何だかんだ仕事を依頼すれば必ず来てくれた事を覚えている。

 

彼は思い返しながら機体の周りを映像に収める。

 

この映像は後で記憶媒体に収められ、事故調査委員会に送られる。

その時音声も入ってしまうので下手なことが言えないのが心苦しいが、それでも痕跡を見つけられた事で既にどこか安堵を覚えていた。

 

機体は下半身のフレームが完全に破壊され、コックピット下部を貫通していた。

中には誰もおらず、事故当時の様相をそのまま残しているようだった。

 

「時刻〇一:一六、タルタロス鉱山最奥にて一台のオートマトンを確認…」

 

コックピットの中を視界に納め、中にぶら下がっていた銀色のドッグタグを丁寧に外す。確認をすると、そこには『レッド・サン』の文字が刻印されていた。

 

「なんだよ…ここでも本名じゃないのかよ」

 

思わずそう呟いてしまうも、そのドックタグを丁寧にポケットにしまうとコックピットから出た。

そして機体の周囲を念入りに撮影し、撮影を終えるとロトは通信をライルに繋げた。

 

「撤収しよう」

『…もう良いのか?』

 

ライルは下で念入りに見ていたロトに再確認をすると、彼は頷く。

 

「あぁ、次にやるべき仕事を始める」

『…そうか』

 

ロトの意思は、これまでの付き合いですぐに理解できた。

 

『上で待ってる。帰ったら忙しくなるぞ』

「あぁ、その他諸々含めてな」

 

そう言い、ロトはここまで見てきたオートマトンや破壊痕。見つけた全ての残骸にある違和感を感じ取りながらウインチをさっきとは逆方向に回し始めた。




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