TS若返り傭兵は旅をする   作:Aa_おにぎり

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いつか新幹線の食堂車で食べたい…


#91

食堂車に向かうと、そこでは初日と同様にヤサカが料理をテーブルに置いてスフェーンを待っていた。

 

「おぉ…」

 

そしてメニューを見てスフェーンは軽く目を輝かせた。

 

「今日はビーフカレーライスだよ」

「美味しそうですね」

 

薄い純白の皿に乗る白米とカレールーの入ったソースポット、シンプルだが一番美味い料理を最後に持ってきたヤサカはさすがと評したい。

 

「じゃあ、私は次の料理があるのでごゆっくり」

 

そう言い彼は再びキッチンの方に消えると、スフェーンは席に座って早速カレーのルーを皿に流し込む。

熱々のカレールーの中に混ざる薄切りの牛肉は一瞬豚肉かと疑ってしまうが、脂身の形が違うので牛だと思っている。

 

合成肉をアレほど美味しく調理できるヤサカの腕前でも薄切りの合成肉と言うのは難しいのだろうかと適当に考えながらカレールーを皿の半分に注ぎ入れると、白米との境目の部分をスプーンで掬って口に入れる。

 

「っ、辛い」

 

辛口のカレールーはスフェーンの下を刺激し、思わずそう溢してしまうが、添えられた福神漬けと共に再び今度は牛肉も合わせて一口。

 

「んふ〜」

 

ルーの辛さが完全に白米やそルーの熱さを吹き飛ばし、思わず水を口に注いでしまう。

 

「フー、フー」

 

息を掛けて少し冷ましてから口に入れてカレーを感じる。

 

「辛ぇ〜」

 

とんかつも欲しくなってくるような辛さだが、それでは中に入っている牛肉に失礼になるような気もする。

若干汗も滴りそうな程体が火照りながら完食すると、奥ではチャカチャカと何かを作っているヤサカの姿と金属が当たっている姿が見える。

 

お玉を熱心に中華鍋に押し当てるように細かく動かし、ヤサカも汗をかいていた。

そんな光景を見ながら料理を楽しみに待つ途中、スフェーンは外の景色を見る。

 

外は防砂林で植えられた針葉樹がのびのびと育っており、荒野の砂嵐から線路を守っていた。

荒野で巻き上げられた砂が線路上に堆積して事故につながるのを防ぐために植えられている防砂林。植林の意味合いも込めて線路沿いに多く植えられており、今も植林は行われていた。

 

「お待たせ〜」

 

皿を片手に厨房から戻ってきた彼は食後のデザートを持ってきた。

 

「ちょっと、驚くかもしれないけど」

 

そう言い彼はデザートとして純白の皿に乗った一つの丸い真っ黄色の料理を出してきた。

 

「なんですか?これ」

 

そう言い渡された箸で摘んでみると、そこから上にスライムのように伸びた。

それに興味津々で見ていると、ヤサカは料理の説明に入った。

 

「これはね、三不粘と言う古い中華料理なんだ」

「三不粘…へぇ〜」

 

恐る恐る口に入れてみると、まるで粘土のような、それでいて甘くねっとりとした食感が不思議な食感が口の中で踊った。

 

「卵と油の芸術品と言われる絶品だよ〜」

「確かに絶品ですね〜」

「幻の料理とも言われている食べ物なんだって」

「ガムみたいですけど、カスタードみたいな味ですね」

 

そう言い三不粘を摘んでは切れたところで口に入れる。

 

「箸、皿、歯にくっ付かないから三不粘っていう漢字で書くらしいよ」

「へぇ〜」

 

何となくボタンを押したくなる気分だが、生憎とここにはそれが無いので口で出して返すと彼女はデザートを満喫する。

 

「美味しかった〜」

 

その名の通り皿にくっ付かなかったおかげで純白なままの皿を前に満足した表情を浮かべているスフェーンにヤサカも嬉しそうに

 

「よかった、初めて人に出したから上手く行ってよかったよ」

 

今度からは言われなければやらないだろうけどと言い、この料理を作った時の疲労で少し疲れた表情をしている彼からも理解できた。

 

「でもこれで夕食は終わりかぁ…」

「まだ一食残っているぞ?」

 

彼に注文を入れたのは明日の朝食までなので、食事自体はあと一回できる。

 

「でもヤサカさんの料理はとても良かったので、またいつか来てみたいですね」

「はははっ、ありがとうね」

 

ヤサカはスフェーンにそう言い、少し嬉しげにすると後頭部を軽くかいていた。

 

 

 

 

 

翌日、列車は目的地であるベルロードと言う都市に到着する。

 

「ありがとう」

「いえいえ、仕事ですから」

 

目的地に到着し、迎えに来たDB500形機関車に連結される食堂車を前にヤサカはスフェーンに頭を下げる。

 

小柄な入換用機関車はコードと連結部のロックの外された食堂車を確認した職員によって旗が振られるとガシャンと言う自動連結器が外れる音が響き、一両の食堂車が列車から切り離される。

 

「いやはや、五日の旅程もあっという間ですなぁ」

 

途中、いくつかの都市でスフェーンは貨物の荷下ろしを行っており、食堂車が目的地に到着した時には列車の荷物は無かった。

 

「今度はここのダイナー街で仕事ですか?」

「えぇ、しばらく滞在したのち。気が変わったらまた移動しますよ」

「まるで渡り鳥のようだ」

「実際、彼らとやっている事は変わりませんよ」

 

ヤサカはダイナーの生き方を渡り鳥と表現したスフェーンに共感を覚えると、彼女は切り離された列車に乗り込む。

 

「ヤサカさん」

 

そして乗り込んだ後、窓を開けたスフェーンはヤサカに話しかける。

 

「色々と話に乗って下ってありがとうございました」

「…いやいや、私は思ったことを口にしただけですよ」

 

ヤサカはスフェーンにそう答えると、後進を入れて反対路線に入っていくスフェーンを見送る。

 

「…」

 

あっさりと別れるスフェーンにヤサカは呟く。

 

「立つ鳥跡を濁さず…君の方がよっぽど渡り鳥の様だよ」

 

そして彼は新たな新天地でダイナーの開店準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…」

 

ある場所、診療室で聴診器を当てられて診断を待っている男が一人いた。

 

「えぇ、特に異常は見られないわね。心拍数、呼吸音ともに正常値内よ」

「そうか…」

 

赤シャツにジーパンを履いているアンジョラは今日訪れた患者にフランクに診察結果を伝える。

シャツを羽織り、ボタンを閉じるブルーナイトは少し困惑を隠し切れていない様子だった。

 

「血中酸素濃度も正常値…至って健康的な体よ」

 

ブルーナイトは今まで疲れ切っていた体が嘘のように霧散していた。

 

「転化現象でも起こったかしら?」

「そんな漫画のような事があるはずないだろう」

 

アンジョラの冗談を軽くいなすと、彼女は軽くため息を漏らす。

 

「相変わらず冗談は通じないわね」

 

それに安堵したような様子のアンジョラは言う。

 

「でも気を付けなさい。薬物依存になっているわよ」

「ああ、仕事が終わったら時間をかけて治療するさ」

「それで出来た人間を一人も見た事ないわよ」

 

アンジョラは闇医者としての経験を伝えると、ブルーナイトは着替え終えて彼女を見る。

 

「すまんな、いきなり診てもらって」

「別に良いわよ、今日は休診日だったもの」

 

体の異変を感じた彼は事務所から飛ぶように彼女の元を訪れていた。

散々彼女と距離を取ろうとしても、結局は何か問題があれば彼女の元を訪れてしまう。

 

そんな弱さが嫌いだった。

 

「それに、」

 

アンジョラは言ってブルーナイトの顔に手を当てる。

 

「隠し事はもう無いでしょう?」

「…」

 

何より、彼女に自分の罪を被せてしまった事に彼は最大の自責を感じていた。

 

自白剤を入れられたことは実に不覚だった。

しかし彼女は私を赦した。

目覚めた時、部屋には誰も居らず。事務所にアンジョラの姿はなかった。

それ以降、彼について彼女の口から聞かれる事も、話題に上がる事もなかった。

 

「さぁ、ここに来たなら。あの子達に挨拶しに行ったら?」

「…仕事があるんだ」

 

帰ろうとする彼をアンジョラは制止させる。

 

「帰ろうとしないで。会ったらきっと喜ぶわ」

「…」

 

彼女の孤児院には今も多くの孤児が暮らしており、大半はスラム街から拾って来ていた。

診療所と孤児院を併設しているこの場所はかつて自分の資産と、けしかけたレッドサンの資産で建築していた。

自分達のお抱え医師として契約したアンジョラへの報酬として作ったその場所はブルーナイトにとってもある種の安らぎの場所となっていた。

 

「あっ!ブルーさんだ!」

 

孤児院に訪れると一人の子供が彼に気づいて駆け寄ると、他の子供達も駆け寄ってくる。

 

「元気そうだな」

「うんっ!」

 

その足を曲げ、目線を合わせると少女の頭を軽く撫でると、彼女は嬉しそうにする。

すると他の孤児達もブルーナイトを見ると彼の元に駆け寄った。

初めて見る孤児であっても他の孤児達に釣られるようにブルーに恐る恐る近づいていた。

 

「見てブルーさん!」

 

ある子は逆上がりができるようになったと自慢し、ある子はコンクールで賞を取ったと言う。

 

「大丈夫ですか?ブルーさん」

「ん?どうしたかな?」

「なんか、疲れているような気がして」

「あぁ、そう見えるかい?」

 

子供とは時に鋭い観察眼を持っている。そして遠慮を知らないのでズカズカと聞いてくる。

 

「大丈夫、私は元気さ。心配する事はない」

 

そう言い微笑むとブルーは話しかけて来た少女を見ると、孤児院の職員が出て来た。

 

「ほら、そろそろご飯にしますよ〜」

「「「はーい!」」」

 

そう言い子供達は食事の時間と聞いて部屋に入っていくと、ブルーナイトを見て歓迎した。

 

「お久しぶりです。ブルーさん」

 

彼もまたこの孤児院出身であり、ブルーの事はよく知っていた。

 

「なかなか最近来てくれなかったので、心配していましたよ」

「そうか…それは済まなかったな」

「まぁ事情は知っていますけどね…」

 

一瞬ブルーは彼の言い草に反応する。

 

「レッドさんがいなくなってから赤砂も色々と忙しいと思いますよ」

「…あぁ、そうだな」

 

ブルーナイトは彼の雰囲気から関係なかったかと軽く安堵していた。

 

「レッドさんは、おそらく戻りそうにはありませんからね…」

 

少し悲しげに彼は言うとブルーは思わず彼を見つめていた。

数年の間、彼の音信不通に諦めが付いた様子だった。

レッドサンもよく孤児院を訪れており、彼の事を知っている人物もまた多かった。

 

「ああそうそう、」

「?」

 

すると彼はブルーナイトに言う。

 

「久しぶりに会いましたし…どうです?子供達と一緒に食事と言うのは?」

「…いや、この後も仕事が詰まっている。今日はこの辺で失礼するよ」

 

そう答えると彼は孤児院の門を潜って出て行った。




なろうと歩調合わせるので休みまーす。


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