アクセサリーショップ、はじめました。   作:金細工師

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そういや、今日ってクリスマスだったと気付いたので慌ててちょっとだけ苦甘いのを書いて投下。

社会人うん年目ともなると、クリスマスより年末で仕事やべぇしか出て来ないですわ。



ex.彼女にとっての英雄

 

夜が明けたばかりで人通りがほとんどない道を、アイズ・ヴァレンシュタインは歩いていた。

 

向かう先はここ数ヶ月で何度も通い、最早自分にとって第二の家とも言っていい幼馴染であるリットの店舗兼自宅。

 

ファミリアでのダンジョン遠征や遠征の後処理などがあった為、しばらくリットとは会えていなかったので……そろそろアイズも我慢の限界であった。

 

怪物祭も一緒に行きたかったのに、ロキに祭りに同伴して欲しいと言われ。さらには、モンスターが脱走したり初めて見る植物型のモンスターに襲われたりと散々な目にあった。

 

ここ数日毎日訪問しているのに、外泊しているようで自宅に帰った様子もない。また、何処かのファミリアの女性と知り合いになり大変な事態に巻き込まれたろうか?そうだったら少し心配である。

 

リットは異性からモテる。本人にその自覚が全くなくて、自覚がないのに異性を堕としていくからタチが悪い。

 

容姿はロキが眷属に誘う程度には整っており、神から恩恵を受けている眷属としては上澄みとなるLv.4。

 

なのに、強者特有の粗暴さや弱者を見下す態度などは基本見せず、一般人にも優しく接している。*1

 

いつダンジョンで死ぬかわからない冒険者ではなく本職は鍛冶師で、自分で店を構えられる程度には資産も持っている。

 

さらに言えば、暗黒期にリットに命を助けられた人は大勢いる。これでリットに惚れない人が出ないはずがない。

 

自分が知っている限りでも冒険者ではアストレア・ファミリアの団長と副団長、ディアンケヒト・ファミリアのアミッド・テアサナーレは完全にリットに堕ちていると思う。

 

ガネーシャ・ファミリアの象神の詩(ヴィヤーサ)と、リットと同じファミリアの団長である椿・コルブランドもちょっと怪しい気がする。

 

アミッドに関してはリット本人が過去に口説いたことがあるって言っていた。私の冒険者としての勘が口説いたことがあるだけじゃないと告げていたけど……。

 

これにはアイズも流石にアミッドに嫉妬した。私には全然手を出さないくせに、アミッドに手を出したのはちょっとズルい。

 

元々男女のアレやコレに詳しくないアイズであったが、アストレア・ファミリアの団長と副団長が親切に色々と教えてくれる*2ので、今では自分の気持ちも自覚したし、何も知らなかった昔と比べると断然詳しくなった。

 

教えてもらった事を実践する機会が来ないのが少しばかり悔しいが。

 

そんなことを考えながらもリットの家に着いたので、渡されている合い鍵を使い家に入る。

 

無理矢理家に入ったら防犯用の魔道具でかなり酷いことになるから、俺がいない時に家に入るなら絶対に合い鍵を使って家に入れよ?とリットから散々念を押されているので素直に言いつけを守る。

 

リットが酷いことになると言ったなら、本当に酷いことになるのは過去の経験から知っているので破ったりはしない。

 

家の中に入ると、昨日来た時とは少し物の配置が変わっていて、寝室からリットの気配がするのをLv.5の鋭敏な感覚が捉えた。

 

寝室に入るとリットが寝ていた。他人の気配に割と敏感なリットが起きることなく無防備に寝ている姿は珍しいのでよっぽど疲れているのだろう。

 

「リット」

 

声をかけるが、すやすやと眠るリットが起きる気配はない。

 

「むぅ」

 

ここでアイズの思考に魔が差した。いまならリットと同じベッドで寝ることが出来るんじゃないか?と。

 

リットは確かにアイズのことを大切にしてくれているが、アイズとしてはその扱いは少し不満である。

 

決して雑に扱って欲しい訳ではないが、アイズとしては幼馴染の女の子ではなく、1人の女としてリットに見て欲しい扱という願望がある。

 

「リットは謎に奥手だから、たまにはこっちから押すことも必要よ!!」とアストレア・ファミリアの団長も前に言っていたので、この思い付きも悪くはないと感じる。

 

流石は酒に酔ってリットを押し倒した人の言葉だ、説得力が違う。

 

そんな訳で、身に着けていた護身用の武器などを外してリットを起こさないよう静かにベッドに潜り込む。

 

リットの腕を取ってぎゅっと抱きしめる。暖かいリットの熱を感じられる。

 

ここまでしても起きないのは本当に珍しい。自分にとっては都合がいいので、起きない方が良いのだが。

 

「…………リット」

 

リットの呼吸や体温を感じながら、ふと昔のことを思い出した。

 

初めて会った時は、リットとこんな風な関係になるなんて想像もしていなかった。

 

 

 

⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタインがリット・フェーブルと初めて会ったのは、ロキ・ファミリアに入団して半年くらい経った頃だった。

 

両親の仇である黒竜を殺したくて、ただ強くなる為にモンスターを殺すことにしか意識がなく、保護者となったリヴェリアの言うことも聞かずに朝から晩までダンジョンに独りで潜る日々。

 

あの頃は闇派閥が活発に活動をしていて、ロキ・ファミリア副団長であるリヴェリアもその対応に忙しかったので毎日アイズと一緒にダンジョンに行くことなどは出来なかった。

 

フィンやガレス、他の大人達も同様に忙しかったので、身を削るようにダンジョンに潜るアイズを心配をしたロキが神友であるヘファイストスの眷属にアイズと歳が近いリットがいるのを思い出し、ヘファイストスに相談した結果パーティーを組むことになった。

 

当時のリットはLv.2に上がっていたが、ヘファイストス・ファミリアも闇派閥の対処に追われており、まだ歳が幼いリットの面倒を見ている余裕が大人達にはなかったので、ロキからの提案は丁度よかったらしい。

 

リットと初めて顔を合わせた時、お互いの印象は最悪だった。リットの第一声からして仲良くしようとする気など全く感じられなかったのだから。

 

「それで、俺はこの復讐にしか興味がなさそうな眼をした狂戦士(バーサーカー)がどうやって死んだのかをお前らに報告すりゃいいのか?子供を殺したくないのか、見捨てたという罪悪感を得たくないのかは知らないけど、面倒な事を押し付けるなよ」

 

保護者(ロキとヘファイストス)がいるのに初対面で言う言葉ではない。当然、その場にいたヘファイストスがリットを叱ったが、リットはどこ吹く風と言わんばかりに言葉を続けた。

 

「ロキ・ファミリアに新しく入った幼女が命を削るようにダンジョンでモンスターを虐殺してる姿は結構有名だぞ?俺も何回か目撃したことがあるし。あんな自殺志願者としか思えない行動をする馬鹿を俺に預けられても困るんだよ。死にたいなら他者を巻き込まず自分1人で死なせてやればいいのに」

 

くだらないと言わんばかりに吐き捨てられた言葉に、アイズも我慢が出来ずにキレた。

 

自分の何がわかるのだと、両親と幸せに過ごしていたのを突然モンスターに全てを奪われた自分の気持ちを理解出来ないくせにと少年に食って掛かった。

 

「モンスターに両親を殺されたからモンスターに復讐する。それの何が悪い、ね。なら……俺はこの場でお前を殺してもいいことになるな」

 

「俺の両親は俺の目の前でヒトに殺されたぞ。行商人をしていた父親は街道で突然襲ってきた盗賊に殺され、母親は父親の死体の横で盗賊共に散々犯されてから殺されて、死体になった後も物好きなヤツに犯されていたな。最後は血の臭いに釣られてやって来たモンスターの群れに盗賊も両親の死体もまとめて喰われたから仇になる盗賊も両親も欠片すら残らなかったが」

 

あの時、盗賊と両親でモンスターの腹が満たされてなかったら俺も喰われてたかもなと、何でもないように語る少年をアイズは理解出来なかった。

 

「俺はその一部始終を両親が盗賊から俺を隠す為に入れられた狭くて暗い箱の隙間から声を殺して見ている事しか出来なかった訳だが。お前の考えの通りだと、ヒトに両親を殺された俺はヒトに復讐してもいいんだよな?」

 

「なら、ここで殺してやるから死ねよ。どうせお前の戦い方じゃそのうち死ぬからな。無意味にモンスターに殺されるくらいなら、俺の復讐代わりに殺された方が、まだマシな終わり方だろ」

 

虚ろな眼が自分に向けられる。

 

さっきまでの怒りは瞬時に冷め、理解出来ない恐怖にびくりと身体が震えた。

 

「自分だけが不幸だと、この世界で一番不幸だとでも思ってたのかクソガキ。この時代、俺やお前のようなガキは幾らでもいるぞ?半分くらいはゼウスとヘラから最強と最恐を引き継げなかったロキとフレイヤのせいだけどな」

 

終始そんな様子だったので当然パーティーを組む事などなく、お互いの主神が謝罪をしてその場は終わった。

 

リットと再会したのは最悪だった初対面から約半年後。

 

いつまで経ってもランクアップの仕方を教えてくれない大人達に我慢の限界を迎え、ファミリアを飛び出し都市を徘徊していた時に出会った胡散臭い神様にランクアップの方法を教えられ、独りでダンジョンに潜った時だった。

 

ダンジョンの中でアイズと遭遇したリットは、どうでもよさそうにロキとヘファイストスが神友だから一応声をかけたという態度で、感情がぐちゃぐちゃになっていたアイズはリットに想いの全てをぶちまけた。

 

強くなりたいという自分の意思を無視され、誰も自分を理解してくれない。大好きだった母や父が、最期に語ってくれたことを。

 

自分を救ってくれる英雄がいないなら、自分が英雄になるしかない。なのに、何故その想いまで否定されなくてはならないのか、と。

 

アイズの叫びを聞いたリットの答えは辛辣だった。

 

「お前は馬鹿か?いや馬鹿だったなクソガキ。ロキ・ファミリアの連中に大事にされているという事実に気付きもせず、言いたい放題で我が儘放題とは……いやはや、このまま成長されても害悪に過ぎるから、死んだほうがいいぞお前」

 

「いまのお前はヒトではなくモンスターと何ら変わらん。意志のない暴力装置。自分の我が儘が通らないからと他者を罵倒して暴れ回るだけ、獣と同じだ」

 

擁護する言葉など一切ない。熱のない虚ろな瞳が憎悪を秘めたアイズの瞳に向けられる。

 

「というかさ、『お前だけの英雄』って父親の言葉の意味を考えたことあるの?『英雄』ってのは無辜の民衆によって担ぎ上げられた犠牲者に名付けられる呪いの別称だ。たった1人だけの為の『英雄』なんて存在する訳がないだろうが」

 

アイズはキレた。英雄を、父親の言葉を否定するかのようなリットに盛大にブチ切れた。

 

自分に蔑むような、憐れむような視線を向けるリットを必ず叩きのめすと剣を抜いた。レベル差もあり簡単にリットに抑え込まれたが。

 

アイズを見下しながら、リットは言葉を続けた。

 

「最後まで話を聞け。お前の父親が言いたかったのは『お前を愛して、お前が愛することが出来る特別な存在に巡り合えることを願っている』という父親として娘の幸せを願うという当たり前の言葉だろうよ。お前は『英雄』という言葉を重要視しすぎてズレてんだよ」

 

諭すように語られた言葉の意味をアイズが理解する前に、事態は急転した。

 

ダンジョンの中だというのに、2人の前に突如として現れた闇派閥に属する一柱の神。

 

タナトスと名乗ったその神は自身の目的を語りアイズとリットを闇派閥に誘ったが、リットは至極どうでもよさそうに拒絶した。

 

「復讐をする理由があっても、必ず復讐をやらなきゃならない訳じゃない。それに、下界なんてこのまま放っておけば黒竜かダンジョンに滅ぼされるというのに、わざわざ介入してまで命を間引く必要なんてないだろうに」

 

というか、タナトスって名乗ったよな。これってお前の上司の許可取ってやってんの?いきなり天界に来る魂の量が増えたらハデスに仕事を増やすなってブチ切れられない?と、よくわからないことも言っていた。

 

勧誘を拒絶されたタナトスは笑いながら神威を解放し、ダンジョンが哭いた。

 

その神威に反応して呼び出され、アイズとリットの前に姿を現したのは黒い(インファイトドラゴン)

 

アイズにとっては初めての、リットのとっては二度目の死地(冒険)が始まった。

 

 

 

⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎

 

 

 

「…………ん」

 

リットの腕を抱きしめながら、気付いたら眠ってしまったらしい。

 

眠る前に昔の事を思い出していたからか、懐かしい夢を見た。

 

私がランクアップして、お父さんの言葉の意味が少しだけ理解出来た時のことを。

 

「リット?」

 

声をかけるが、自分が眠ってしまう前と同じくまだ起きる様子はなかった。

 

窓の外に視線をやれば、ここに来た時と日の当たり方などを比べるとだいたい2時間くらい眠っていたと思う。

 

ぎゅっと、リットの腕を抱きしめる腕に力が入る。

 

リットと一緒に黒色のインファイトドラゴンを倒し、ダンジョンまで自分を探しに来てくれたリヴェリアにリット共々運ばれ、怪我の治療をされながらロキやヘファイストスに2人でお説教をされたのが、すごく懐かしい。

 

その後、ランクアップを果たして……リットが私に語ってくれたお父さんの言葉の意味をちゃんと理解したくて、リットの後を追いかけ続けた。

 

何度も追いかけて、何度も喧嘩をして、何度も一緒に怒られて、いつの間にか私が一緒にいてもリットは何も言わなくなった。

 

大抗争や色々な事があったけど、ファミリアの皆だけじゃなくてリットとも一緒に乗り越えて……気が付けば、私にとってリットは大切な人になっていた。

 

「リット」

 

抱きしめていた腕を放し、少しだけ身体を起こしてリットの寝顔を見つめる。

 

「リットは『英雄』って言葉が嫌いみたいだけど、リットは私だけの『英雄』だよ」

 

昔は寝てる時でさえ常につまらなそうな顔をしていたのに、こんなにも穏やかな顔をするようになった。

 

それが、何だか嬉しくて。とても、愛しく感じる。

 

ゆっくりと顔を近づけ、リットの唇に自分の唇を重ねる。

 

触れるだけのキスを落として、顔を離す。

 

「リットだけの『英雄』に私もなるから……覚悟しててね」

 

さっきまでと同じように横になり、少しだけ赤くなった顔を隠すように、アイズはリットの腕をしっかりと抱きしめた。

 

この穏やかで優しい時間が、いつまでも続けばいいのに……。

 

ささやかな願い事をしながらアイズは目を閉じた。

 

アイズの願いを叶えるように、リットが目を覚ますまで静かで穏やかな時間は続いたのだった。

 

 

 

*1
親代わりでもあるヘファイストスに聞けば「他人への興味が薄いから、自分と関りのある人以外は基本どうでもいいし。深く関わらないようにしてる態度が何故か優しく見えてるだけ」と困ったような顔で話しただろう。

*2
「冷静に考えたら剣姫ちゃんからリットを寝取ったのって流石にヤバくないかしらっ!?」とリットを襲った罪悪感からアリーゼと輝夜はアイズに色々と余計な知識を吹き込んでいる。





クソガキ(重い過去持ち)とクソガキ(重い過去持ち)が互いに影響し合って成長した結果、何だかやべぇ原作時間を迎えたのが本作となります。


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