蒼海の龍神艦隊   作:SEALs

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お待たせ致しました。
前回に引き続き、今回はやや短めです。
果たしてどんな回になるやら。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


第12話︰聯合艦隊、改新 後編

工廠の浅橋から第一航空戦隊の空母、赤城と対面して、彼女の飛行長自ら操縦する最新鋭機――九七式艦上攻撃機の偵察員席に収まって、一路横須賀鎮守府に向かった。

横須賀鎮守府司令長官・長谷川清中将に挨拶してから、山本は工廠に向かった。

長谷川自らが、公用車で同行してくれた。この様子になるほど、二号艦の武蔵は、大和ほど機密保持に喧しくはないようだな、と山本は呟いたが、それでも大型ドックは厳重に警備されていた。

周囲は膨大な枚数の帆布で目隠しをされており、上面はがら空きだが、万が一この上空を通る航空機があれば、すぐさま戦闘機部隊が飛び立ち撃ち落とすなどと徹底的に施されている。

 

――帝都を護る帝国海軍の総本山だ、護りに抜かりはない。

 

しかし、山本はドックに案内される間、不機嫌そうに文句を口にする。

 

「やはり、上層部の連中の意識を変えねばならんな。大和と武蔵には本質的な差はないのだ。見た目が戦艦の大和を偏重し、空母の武蔵には、さほどの重点を置いていないとは認識不足にもほどがある」

 

山本の考えは、海軍の主流とは言い難い。

海軍の主流派は、やはり象徴である戦艦と、彼女たちが持つ巨砲こそ最大の戦力と考える大艦巨砲時代に育てられた艦隊決戦主義者たちなのだ。一号艦の大和には、どの国の海軍も持っていない空前の巨砲――45口径九四式46cm連装砲が搭載されている。

この巨砲こそ、海軍当局が考える対深海棲艦の切り札であり、何を措いても、他国の情報網に捉えられてはならない機密でもあった。

 

戦艦の最大の武器は、その強力な主砲である。

しかし、栄えある聯合艦隊旗艦を務めている長門が最大の仰角をかけたとしても、射程距離はせいぜい3万メートルをやや上回るに過ぎない。

日本のような島国でも、内陸にまで砲弾を送り込むことは不可能だ。ましてや、強大な深海棲艦に止めを刺すなど、出来るわけがない、と山本は思う。

 

文明が発展するにつれ、人の営みは広範囲なものになる。

戦場といえども例外ではない。寧ろ戦場こそ、科学技術が発展するにつれ、より広範囲に広がるのだ。

海軍の戦力で、距離と高度の双方をもっとも満たしているのは空母や航空機だ。

 

航空機の性能は日進月歩だ。

第一次世界大戦前には、蛸の化け物と呼ばれたが、それがエンジンを付けて無理矢理に空を飛んでいる――という印象は拭えなかった航空機は、数年の間に驚異的な発達を遂げた。

当初は偵察に用いられた。武器も持たず、行き合う敵味方の操縦士たちが手を振って健闘を称えるという牧歌的な光景も見られたが、やがて機内に持ち込んだ銃を撃ち合い、煉瓦や打ち矢を投げ合うという段階を経て、機関銃を搭載した戦闘機が出現した。

世界を変えたとも言われる同調装置の開発により、プロペラの回転を縫って発射する機首搭載機銃が強力な武器となった。

さらに前線の戦い以外に、その頭上を飛び越して、巨大な飛行機が敵国の都市に爆弾の雨を降らせるようになる。そして、先に生産力などを破壊し尽くすという、戦艦には出来ない芸当を持っているのだ。

尋常小学校の算数が出来る程度の頭があれば、誰にでも分かることだと思う。しかし、海軍軍人や提督たちの多くにとっては、戦艦こそが我が海軍の象徴であり、最大の戦力なのだと言う。

その観念を変えてやらなければ、と心に誓いつつ、ドックに足を踏み入れた山本に、凛とした声が掛けられた。

 

「山本さん!あっと、今は長官だったっけ。お疲れ様!」

 

聞き覚えがある元気の良い澄んだ声に、山本は足を留めて呼び掛けた。

 

「よう、麗那。おおっと、今は神居中尉だったな。海軍の軍装がよく似合っているな」

 

「そうですか?あたしには、どうも動き難くてしっくりこないけど……」

 

くっきりとした顔立ちの凛々しい少女だ。

もっとも常の女性とは異なり、身体つきには女性らしさはあまり見られない故に、身長が低いことを除けば、少年と言っても通りそうだ。

恐竜帝国からの、三神に続く二人目の使者――護織皇帝の血縁に連なるという、神居麗那である。

彼女もまた三神と同じく、日本人としての戸籍を与えられ、海軍の短期現役士官として登用されている。

女性禁制の海軍だから、書類上では彼女も『男性』だ。しかし、爬虫人類の、しかも肉食系の家系に生まれた麗那は、人間が意識しているほどには男女の区別を気にしていない。

寧ろ自身の腕を振るえる機会が増えたと思っていて、抗議するつもりもないようだ。

今は山本に、自分たちが伝えた技術を使って、建造中の新鋭艦を御披露目したくて仕方がない。

それでも軍人としての礼儀は心得ており、長谷川中将に敬礼してから、山本の手を引かんばかりにしてドックに導いた。

 

軍艦を建造している工廠特有の、耳を聾するリベット打ちの轟音が鳴り響く。

ガントリークレーンが移動し、巨大な鉄材を吊り降ろすと、艦体に組み込まれ、腕まくりした職工や妖精たちが丹念に電気溶接を行い、リベットを打ち込んでかしめていく。

平坦な飛行甲板が張られ、そこかしこから内側の広大な空間が窺える。しかし、舷側部分に張り出したのは明らかに砲座らしく、ビルディングや商船なら持つ筈もない砲塔用のバーベットが小さいながらこの艦が持つ牙を喧伝しているようだ。

その現場に一歩足を踏み入った山本は、表情を輝かせて立ち止まった。

 

「これが……武蔵か」

 

山本の眼の前には、今まで見たこともないほどの広大な飛行甲板を持つ巨艦――限りなき可能性を秘めた、三次元連動の騎士たちを海上において自在に操る浮かべる城が、自らを組み立てる火花に照らされて、どっしりと鎮まっていた。

全長326メートル、最大幅32メートル。

帝国海軍が持つ最大の空母、加賀を上回る、空前の巨大空母だ。

飛行甲板は装甲化され、深海棲艦が使用する急降下爆撃機の500ポンド爆弾にも耐えることが出来る。

艦内の空間は、艦載機の格納庫だ。もっともこの巨体の割には、その数はさほど多くない。満載排水量6万トンを超える巨艦でありながら、半分程度の加賀の約7割――常用56機、補用7機。

 

これには二つの理由がある。一つはこの巨艦は他の空母部隊に先駆けて前方に進出し、後方の空母部隊が放つ艦載機部隊の動く中継基地となる任務を与えられているためとともに――もう一つは、D装備を持つ艦船ならではの、類のない機能を持たせるためである。

顔面を紅潮させて立ち尽くす山本に、麗那は楽しげに言ってきた。

 

「艦政本部の人たちも、空技廠の技師さんたちも、D装備の理論を飲み込んでくれましたよ。あたしたちが持ってきた金属資源で、建艦計画もかなり余裕が出来たし、あたしたちの帝国も受け入れてもらえているようです」

 

勝ち気な性格を示す鋭い視線を、建造中の武蔵に向けて、麗那は楽しげに話してくる。

 

「そうか。すまないな、麗那。よくやってくれた」

 

麗那の労を労ってから、少女の肩に手を置いた。

 

「君には、これから俺の傍らで働いてもらわねばならん。司令部のスタッフに入れるのはまだ無理だが、何れはその道を開くつもりだ。まず、俺の副官として、長門に乗ってくれ」

 

「D装備を最初に組み込んだ戦艦ですね?」

 

嬉しそうに、眼を瞬く麗那。その表情の豊かさは、人間の少女そっくりの反応だ。

人類も、爬虫人類も、艦娘たちも、本質的な違いはない。感慨にふける山本に、麗那は楽しげに言ってきた。

 

「山本長官。長門は30ノットを超える速力になった筈ですね。深雪は乗り心地も良かったですが、より大きな艦に乗れることはもちろん、また長門に会えるのは楽しみです」

 

浮き浮きした調子で言って、麗那は先に立つと、肩越しに振り返り、肩を竦めるようにして言った。

 

「これで空母と戦艦は同じ速度で行動出来ますね。長官が構想する戦い方に、あたしたちが貢献出来たなら嬉しいです」

 

「神居中尉。君は戸籍上では『男』なのだ。あたしではいかん。言葉遣いを勉強したまえ」

 

苦笑いしつつたしなめながら、山本はふと立ち止まった。

今、麗那が口にした言葉に、山本の頭の中で一つの回路が繋がった。

 

――俺は、将来の海軍は航空主兵主義を取るべきだと思っている。

それは今でも変わらないし、変わってはいけない、と。戦艦に個艦優越主義を取ったとしても戦略的な劣勢は変わらんのだ。

空母と優秀な航空機の組み合わせのみが、戦略に寄与出来るなどと言ってきたが、果たしてそれだけで良いのか?

 

恐竜帝国の援助を得たとしても、敵である深海棲艦はおろか、将来競い合うであろう海軍大国のアメリカとの国力が逆転したわけではない。精々、差がいくらか、縮まった程度のものだ。

日本はアメリカみたいに贅沢な真似が出来る国ではない。麗那たちが魔法でも使えない限り、保有している艦船を活用するしかないのだ。

 

――D装備のおかげで、我が艦艇群はもちろん、各艦娘たちも調子が良く、空母に匹敵する速度を得た。

戦艦が空母とともに活用出来るならば、その道を探るべきではないか、と、山本は目が醒めた思いで麗那の背を見つめる。

その視線に気づいたのか、麗那はもう一度振り返り、精気漲る笑顔を向けた。

 




前回に引き続き、山本さんたちのお仕事に伴い、艦船の建造回になりました。果たしてこの世界ではどのような活躍をするかはまだ先なのでお楽しみくださいませ。

次回は演習回になりますのでお楽しみを。
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それでは第13話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)
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