蒼海の龍神艦隊   作:SEALs

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おまたせいたしました。
今回は予告通り、前回の行き先、果たして戦果がどうなっていくのかを見ていきます。今回も同じく短いですがお楽しみに。

それでは、気を改めていつも通り楽しめて頂ければ幸いです!
では、どうぞ!


第17話︰暗雲低迷

山本や近衛たちの努力を嘲笑うように、その後も事態は好転しなかった。

日本が取った合同仏印進駐――南方資源地帯及びシーレーン防衛政策に対して、アメリカは即座に反応した。日本人や日系企業の在米資産を凍結し、対日石油輸出を全面的に差し止めて、合同仏印進駐の中止と、深海棲艦の保護を要求してきた。

双方の要求に如何に答えるか、政界は軍部ともども紛糾した。今や議会の大部分を掌握するに至った陸軍は、アメリカの要求を断固拒否するよう主張し、海軍にも同調する者が少なくなかった。

中でも伏見宮派閥の将官たちは、聯合艦隊司令部の対応を痛烈に批判。起こるであろう可能性のある対米戦にも絶対の自信を抱いていると、声高に言ってきた。

 

「山本GF長官や米内、吉田元海相は、燃料を米国に頼っている状況では、その間は対米姿勢は出来んと言われた。しかし、その長官自身が見出された民間の発明家により、D装備が開発されたではないか。海軍に関する限り、燃料の心配する必要はない。このうえ民間の燃料を確保すれば、深海棲艦はもちろん、米国とて恐るるに足らず。西太平洋の制海権は我にありと、思い知らせてやるべきではないか!」

 

「太平洋の空母戦力では、我々が大きく優っている。また主力艦については、攻防ともに深海棲艦の新鋭艦を凌駕する一号艦、二号艦が、まもなく竣工、引き渡しに至る。砲術、水雷、航空と、いずれの分野でも優越している以上、速やかに一戦すべきである。後に仮想敵国となりうる米国海上戦力を粉砕すれば、米国とて現状を追認する以外にないだろう!」

 

こうした声に、山本や米内光政、吉田善吾たちは有効な反論を出来ずにいる。

実際に、対米開戦派の主張に説得力を与えたのは、燃料のほとんど全てを、当のアメリカに頼っているという事実だった。

もしも米国との開戦となれば、艦隊を動かすにも、兵器を製造するにも、膨大な量の石油が必要だ。その石油を、戦う相手から買うとなれば、常識で考えれば、戦争が出来るわけがない。

その懸念を、山本自身が払拭してしまった。D装備は、ガソリンより遥かに効率が良い。民間にも公開し、陸軍にも技術を供与することで、石油を買わずとも戦争遂行が可能なのだ。

だが、D装備を使用可能な工場を完備させるまでは石油と資材が必要不可欠だ。

堂々巡りだ。双方を確保するために、やはり南方資源地帯に進出して、シーレーンを確保しなければならない。

 

しかし、アメリカは深海棲艦を貴重な存在という理由で保護するとばかりに圧力を掛けている。直接砲火を交えていないだけで、すでに戦争状態と云っても差し支えない有り様だ。

 

さらに経済界が悲鳴を上げた。

在米資産を凍結されたため、貿易産業は決算の見通しが立たないし、銀行界も不良資産を大量に抱え込むことになり、この状況を打開しないことには、戦火を待たずして国が破綻してしまう。

 

これについては、腹案がないこともない。

予備役となった辰巳は、海軍の技術士官を集め、先端技術開発の新会社設立を進めていた。

この礎となるのは、恐竜帝国の科学技術だ。それに海軍の弱電研究を加えれば、世界の最先端を走る家電企業が誕生するに違いない。

 

しかし、そのためには欧米への進出が必要になる。この道を開くには、中国や満州への、アメリカ資本の解放が必要だ。

ひとたび解放してしまえば、アメリカは圧倒的な資本を投下して、辰巳の新会社が活動する余地をなくしてしまうだろう。

 

八方塞がりだ。軍や政財界は、深海棲艦だけでなく、アメリカに行く手を閉ざされている――そうした認識のもとに、近衛文麿内閣は財界と軍の批判に耐え兼ねて、責任を取る形で総辞職。組閣の大使は、近衛文麿で陸軍大臣を務めた、東条英機陸軍大将に下された。

東条は、このとき57歳。皇室を重んじており、かつ知識が豊富で、原則に忠実な官僚型の軍人だ。

かつて関東軍参謀長を務め、石原莞爾とは犬猿の仲でいる。その場の問題は手際よく処理するが、大局的な視野やビジョンを持てない机上の軍人――それだからこそ、対米戦を切望する他の軍人を押さえ込んでくれるかもしれないという、ほのかな期待を託されたものだった。

 

そして10月23日、東条首相が内閣首班として出席する御前会議が開かれた。

陛下は立憲君主としての立ち場を守られ、発言はなさらない。

代わりに、外相を務める東郷茂徳と杉山参謀総長、永野修身軍司令部総長が、口角泡を飛ばす激論を展開した。

 

「外交努力は戦争回避をするために為すものだ。こちらが譲歩せず、米国のみに譲歩を迫ることなど出来ない。貴方がたは米国とも戦争がしたいのか、それとも回避したいと考えておられるのか!」

 

顔を上気させて問う東郷に、永野が反駁する。

 

「外交交渉している内にも、我が国の石油や資源は減少していくのだ。国が枯死させられてしまいますぞ!」

 

この段階に至っても、海軍はD装備を秘匿していた。

 

「アメリカは孤立主義を取る国だ。それが日本を攻撃してくることは考えにくい」

 

賀屋蔵相が、重々しく言った。

 

「武器を使わずとも、日本への石油・資源を止めているだけで、攻撃しているも同然なのだ。このままでは、我が国は戦わずして立ち枯れる。帝国の名誉を守るためには、実力で訴えるしかない」

 

杉山が言う。

 

「外務大臣としては、対米戦争を前提にした交渉など出来ない。彼に譲歩を迫るにあたっては、こちらも譲歩するのは常識だ。それが受け入れられぬ場合には、軍にお願いするも仕方がないが、ぎりぎりまでは外交交渉を続けさせていただく!」

 

東郷は一歩も引かず、交渉継続を訴えた。

 

「いま米国とも開戦すれば、南方資源地帯の資源を押さえられる。だが、いま開戦しなければ、その機会も失われますぞ!?」

 

駱駝を思わせる日頃の雰囲気を醸し出す永野が吠える。

その打って変わった姿は、あたかも協力条約を結んだドイツのヒトラー総統の獅子吼を思わせる。

 

そのまま会議は紛糾。そして折衷案が作られた。

南進を中止し、仏印の部隊は撤退する。そして、アメリカは当面の間、100万トンの石油を日本に売る――と言うものだ。

危険だが、長い目で見れば、これが最良の案でもあった。当面の石油が入手出来れば、国内の民間工場をD装備仕様に改められる。いずれ決裂するにしても、その時には深海棲艦はもちろん、米国と互角に戦う国力を養うことが出来るはずだが――

 

しかし、陸軍は反対した。

 

「それではドイツに対する信義が果たせない。いずれはソ連を挟撃して、ユーラシア大陸を我が国とドイツの共栄地とする計画が御破算ではないか!」

 

それから、さらに議論は続いたが、ついには陸軍も折れた。

この案を合衆国の外交を預かるコーデル・ハル国務長官に送り、検討してもらう。

思い切った譲歩をしたのだ、これでハルは折れるだろうと、東郷は期待していたのだった。

その一方で――合衆国が拒否した場合に備えて、実力行使の期限日も決められた。

 

「期限は12月1日とします。それに基づき戦争準備を進め、外交努力を継続します」

 

東条は少なくともこの案には、合衆国が歩み寄ると考えていた。そこで、次の妥協案を出す。

そうやって詰めていき、ついには合意に達する――そういった案を秘めていたのだ。

上手く順調に進めば、見事に米国との戦争回避をしただけでなく、共闘も出来るかもしれないと、東条は期待していた。

しかし、予測不可能な出来事のために、上手く組み上がっていた積み木が崩れるなど、国際交渉では日常茶飯事であることに、誰もがついに気づくことはなかった。

 

この提案により、対米戦争の回避の道を探る。この結論は、一見よく出来ていたが、実は重大な欠陥を孕んでいた。

もしも拒否されてしまえば、戦争に踏み切るしかないのだ。

全てはアメリカの出方次第。そう聞かされた山本五十六は、次の日から赤城たちの艦載機部隊に、奇妙な訓練を課し始めた。

九州・鹿児島の志布志湾に向けて、艦載機部隊の精鋭たちが超低空飛行を繰り返す。

湾沿岸の住人たちは知る由もなかったが、その地形はハワイに似ていた。

 

そう、深海太平洋艦隊の母校、オアフ島の真珠湾――それにそっくりだったのだった。

 

 




今回は暗めな回に終わりました故に、いよいよ避けては通れない道へとなります。
此処まで来たらアメリカのせいであり、況してや『多々良島ふたたび』に収録されている短編小説『マウンテンピーナッツ』に登場する過激な環境保護団体と同じようになっていますが(汗)
果たしてどうなっていくのか、今後も注目して頂ければ幸いです。

次回は打って変わりアメリカ視点へとなります。果たしてどんな思いがあり進むのかをお楽しみに。長くなり兼ねないですから、もしかしたら分けるかもしれません。
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それでは第18話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)
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