今日はクリスマスということなので、プレゼント代わりに最新話を投稿します。皆様に良いクリスマスを。
今回もいつも通り楽しめていただければ幸いです。
では長話はさて置き、本編であります。
どうぞ!
「ああ〜……せっかく帰ったら、みんなで一緒に遊ぼうと思ったのに」
小さいながらも櫓に似た航海艦橋から、自身の身体とも言える、艦体を巧みに操舵。この澄み切った海色と同じ、涼やかな青色の髪を、心地よい潮風に身を任せて靡かせた一人の小柄な少女は不満を零した。
彼女の名は水無月。睦月型駆逐艦――其の姉妹艦である、六番艦だ。
大日本帝国帝国海軍・第一艦隊に所属する第一水雷戦隊の一員であり、第三十駆逐隊の一翼を担う。彼女は僚艦であり、仲の良い姉妹艦の皐月、長月、文月と一旦分かれて、外洋に進路を向けていた。
小笠原諸島沖での演習を終え、演習・遠征用報酬の資源を得た後、我が家である鎮守府に帰投出来ると思いきや、水雷戦隊旗艦を務める川内から、そして戦隊司令部から命令が入ってきたのだ。
「……全くなんでこんな事になったのやら」
「仕方ないだろう、こういう事も俺たちの役目なのだからさ。帰ったら間宮のところで好きな物を奢ってやるから機嫌直せ」
そんな御機嫌斜めの水無月を宥める傍らに立つ一人の男性、提督である宗像五朗が口を開いた。
一週間にも及ぶ、長く辛い演習を終えての帰港。
水無月は無論、彼女を支えている宗像も含めて、各々の装備妖精たちなども、ゆっくりと羽根を伸ばせるし、鎮守府内に設けたお気に入りの料亭や甘味処で、同僚や仲間たちと酒や甘味を嗜めるのだ。
しかし、今かと横須賀軍港に入港しようというときになって、藪から棒というべきなのか、異例という命令が入ってきたから、彼も同じく不満を零すことも無理はなかった。
事の始まりは、戦隊司令部から届いた命令内容というものだった。
偶然にも駿河港の南西500キロの海上を航行中の不審な船舶(若しくは艦艇)を、同じく演習に参加していた航空母艦、空母娘の赤城――彼女が持つ一〇式艦上戦闘機が発見したというのだった。ただの商船ならば問題はないが、その搭乗妖精曰く『濃霧の影響により不確かだが、商船ではなく、駆逐艦クラスの排水量を持つ武装した不思議な艦艇』とのことで、所属司令部に直ぐさま打電した。
近年、突如として現れた『深海棲艦』と言う謎の敵対勢力――深海に棲む大型怪魚に似たものから、大型艦になると世界各国で語られるような海の怪談話として有名な幽霊船に酷似しており、艦橋ないし、艦首には人とはかけ離れた妖艶な美女が目撃されているのだ。一説では死へと誘う女性の死神のようだとも言われている。
何方にしろ同じように、まもなく領海域内に入ろうとする、国籍不明の艦艇が、帝国本土に向かって航行しているから穏やかではない。
遥か彼方にある、太平洋を挟んだ大国、アメリカ合衆国ならば、海軍とはまた違った組織、沿岸警備隊と言う海上警察組織(通常時は海上警察、緊急時には海軍指揮下の準軍事組織にもなる)が対処する。
彼らは船体の大小問わず、小口径艦砲や機関砲などを装備した哨戒艦艇を持ち、救難探索用の航空機や水上機も兼ね備えて、捜索救難はむろん、各領海や島嶼への不法侵入、密売人や犯罪組織が行う密漁や密輸、海賊行為を対処するが、あいにく日本にはそんな組織はない。
その様な海上警備行動を担うのも全て海軍に任されているからだ。本来ならば横須賀鎮守府に所属する警備隊が出動するはずなのだが、演習の帰りに伴い、たまたまホームスピードで急いでいた一水戦、その中で水無月たちが現場近くにいたために任された、謂わば貧乏くじを引かされたのが現状だ。
急遽。この任務のおかげで、帰港が二、三日お預けと言う有り様。
栄えある帝国海軍の提督と言えども、演習後の上陸、休暇は楽しみの一つなのだ。側にいる水無月は、プンプンと御機嫌斜めという素振りを表すかのように口を曲げている。そんな最中、電信妖精が届けてきた電文の写しに、宗像は眼を通す。
「海上警備は、俺たち帝国海軍の役目だ。さっさと胡乱な船をとっ捕まえて、帝国臣民の平和と安全を守る任務も大切なことだ。相手が化け物ならばぶっ潰す、不審船ならば撃沈するまでだ。万が一、撃ち合いになっても俺たちは負けはしない!」
唸るように言う彼に、水無月はその写しを、トントンと愛らしく指で叩く。
「水無月と同じ駆逐艦級を持ち、潜水艦らしき国籍不明船舶を認む、だって? 馬鹿も休み休み言ってよ。漫画や映画、SF小説の世界じゃないんだからさ」
彼女は不満を漏らした。
「相手が潜水艦でもやるよ。水無月は駆逐艦だし、潜水艦の天敵でもあるから大丈夫だと思うけど、そんな得体の知れない敵艦相手に、セオリーも何もないよ。あまり言いたくないけど、赤城さんの艦載機は大丈夫なの? 訓練は充分にしているのは分かってるけど、艦船識別の訓練を怠っているんじゃないかな?」
「仕方ないさ。濃霧の影響を受けたのだからな。其れに艦攻の搭乗員や妖精なら、艦船識別は容易いが、もっとも空母なら見分けが効くかもな」
宗像は言った。
「そもそも応援も付けてくれても良いのにな。正体不明の不審船ならば、警告する、または俺たちが臨検しないといけない。万が一の時、奇襲を受けたら堪らない。川内たちがいれば良かったが……」
「仕方ないよ、司令官。水無月が一番燃料を残しているから。此れって幸なのか不幸なのか、今回は運悪く機関故障でろくろく、演習に参加出来なかったんだから」
彼女は一等駆逐艦であり、艦体にはロ号艦政本部式タービン機関を装備して、最大速力37.2ノット。12cm単装砲4門及び、三連装魚雷発射管二基を装備。此れを活かしつつ、高速で突入して、必殺の魚雷を放ち大型艦を屠る。駆逐艦娘たちの役目は、謂わば匕首を携えた暗殺者で敵の懐に飛び込み、相手を屠るのを得意とする。
しかし、不思議な力を宿す妖精たちにより誕生に伴い、艦魂であり、艦娘たちでも艦体に故障もすれば、調子が悪いときもある。
艦体と一心同体であり、彼女たちの意思で艦は動き、艦体が傷つけば同じように傷を負うのだ。
役目が役目だけに、もっとも海軍らしい艦娘たちとも呼ばれている由縁だが、それだけに装備妖精たちなどの欲求不満も溜まっている。
だから、演習後に命ぜられた不審船調査、場合によっては対処任務は渡りに船。しかし、宗像たちは予定になかった任務より、早く母港でゆっくりと寛ぎたいのが本心だ。
「今回は仕方ないじゃないか。俺たちの帝国は東洋の強国であるが、些か資源が少ないんだ。今後、本格的に深海棲艦との戦いになったら、どう勘定を合わせるのか分からない。そんな状況下、改善しなければ勝てる戦も勝てなくなり兼ねない」
腹立たしいそうに言う提督は、唇を曲げるなりに終わらず……
「帝国海軍の戦力は世界水準かつ申し分ない。だが、内実は御寒いものなんだよな。水無月たちに必要な通信や艦の構造材、砲熕兵器に、推測兵器などと言う部門を遅らせてはならない。
多くの国民や軍人も、そうした面は見ないで戦艦や空母の威容ばかりを誉めそかしている。不健全この上ないが」
数多くある鬱屈のやり場をぶつけている提督に、側にいた水無月が問い掛ける。
「司令官。そういう事を言うならば、いつまでも水無月たちの司令官でいるんじゃない?」
水無月が顔を向ける。しかし、宗像は叱り飛ばさない。
戦艦や空母、重巡洋艦クラスでは、概して規律が厳しくなるのが当然であり、士官と下士官、上級水兵、そして最下級の水兵たちと宗像たちと同じように、装備妖精たちにも年功序列を遵守かつ厳然としており、鍛えるためとはいえ、私的制裁が日常的に行われているのが問題である。
「俺は好きでこうしているんだ、水雷屋が似合っているのさ」
一連托生。この意識通りに水雷屋は、家族的な意識も高い。
駆逐艦や潜水艦など小さな艦艇だけに、敵艦からの反撃を受けたら一溜まりもない。だが、個性豊かであるが、戦闘時には潮気の強い駆逐艦たちを統一して行くためには、単に海兵の卒業席次が上で、政治的な遊泳術に長けた士官では務まらない。
宗像は上層部についても歯に衣着せず意見を述べるだけでなく、正義感と仲間想いのあるが故に過激な性格とともに、例え上官であろうとなかろうと、見境なく突っ掛かる性癖を持っている問題児であるが、洋上の切り込み隊とでも言うべき水雷戦隊の艦長としても最適な性格の人物であり、その捌けた性格もあるため、艦娘、妖精、下士官兵たちなどには大変に評判が良い。
その言葉だけに、水無月も頷いた。
海軍最大の実戦部隊、自分を含めた全ての艦娘たちといえども弱点がある。各艦娘たちが持つ艦体には戦闘から護衛、遠征などのあらゆる軍事作戦では、燃料がいるということだ。それに加えて新しい子たちを迎えるにも鋼材や弾薬、ボーキサイトなどの物資が要るし、機関を作るには工廠妖精たちの技術力がいる。さらに行動を取るにも、適切な指示が欠かせない。
「今回の任務もそうじゃないか。赤城が発見したなら、もっと細目を教えてくれんとどうしようもない。怪物並みの大きさを持つ潜水艦があるならば、世界中にいる艦艇を探しても初見参なことだ。長門や陸奥までとは言わんが、空母を派遣してくれても良いくらいだ」
「赤城さんたちは、もう母港に戻っているから無理だろうな……司令官。水無月は深海棲艦か、他国の新兵器って可能性があるとは思うな」
このままでは、果てしなく上層部批判が止みそうにもない、そう危ぶんだ水無月がいささか強引に話題を引き戻す。
張作霖の息子、張学良の軍閥軍と日本の満州駐屯軍『関東軍』は、この年の中国満州地方で軍事衝突――いわゆる満州事変が引き起こされた(一応、国民党とは関係があったから間違いではないものの、張学良は親父爆殺の犯人説、並びに西安事件の件で共産党員ではなかったのかとも言われてる。特に近年ではこの共産党員の件は日本軍諜報部が疑わしいやり取りを入手したらしいが)。
だからこそ推測するならば、中華民国の新兵器、または深海棲艦と同じく新たな脅威となるソ連の新兵器もあり得る。
前者は第一次世界大戦では日本と戦い、青島を失う羽目になったドイツが中華民国側につき、軍事顧問団を送って日本軍との戦いを指導していたものの、全般的な劣勢は覆しようもなかった。
中華民国政府は、満州の独立を了承することになり、清国最後の皇帝溥儀を皇帝に迎えて、満州国が成立した。
後者は尼港事件以降も含めて、ロシア革命時にはロマノフ王家皆殺しで、ロシア帝政より質悪い領域拡張やらかしているろくでなし国家、ソビエト連邦が誕生した。そのための備えとして、日本は緩衝地帯兼中堅国家並みの国力がある国が必要であり、統治国家である朝鮮半島を守る必要がある以上、満州の『建国』は必要であったため、この軍事衝突も対処せざるを得なかった。
だから両国は領土を取られたという積年の恨みを晴らすか、若しくは仮想敵国であるソ連、そのソ連に組織化された支那共産党が戦争を仕掛けてくる理由はたっぷりあるはずだ。
水無月の目論見通り、宗像は乗ってきた。
「その可能性はないこともないが、すぐに新型艦となると無理だろう。俺たちもだが、仮に他国、特に有力な米英でも持っていない大型潜水艦を運用できるとは思いがたい」
「そうだよね。去年の叛乱事件以降、よりにもよって海軍将校たちが叛乱を起こすのは予想外だったし、それで国内世論が一段と国枠主義の匂いも増してきたり、仮にイギリスやアメリカが何らかの手を打ってきても、何らか不思議じゃないんだよね」
水無月の言葉に、宗像は眉を顰めた。確かに去年の叛乱、一部の海軍将校たちが右派組織などと結託して、昭和維新を目指して起こしたテロ事件のことだ。幸い速やかに鎮圧されたものの、首相を含めて、少なからず重臣たちが殺害された。事後もなおテロ事件を起こした者たちの陳述に感銘を受けたのか、同情を呼び、あのテロは正しかった、英米の工作説だという論調があとを絶たなかった。
この大きなうねり、祖国が今かと途轍もなく危険な泥沼に踏み込んでしまい兼ねない不気味な感覚を感じている。彼本人や水無月たちにも未だよく分からないのが現時点てもあるが。
海軍の沈黙。所謂『サイレント・ネービー』と言えど、如何なる場合でも伝統的に政治には口を出さないのが帝国海軍だが、ここまで起きたら世も末である。
「それならそれで戦備を今よりも整えなければならないが、噂では八八艦隊計画を復活させようとしているらしい」
「知ってるよ。何しろ水無月たちよりもだけど、八八艦隊にあった従来よりも強力な巨大戦艦を建造しようとしているらしいけど」
二人が話した計画は、海軍としては機密の中の機密。最高軍事機密に属するものだ。他の者たちに聞こえないように気遣っているが。
「この後、陸海軍も、世界の戦場は間違いなく航空機も欠かせなくなる。此れらを合わせない限り、勝ちたい戦も勝てはしない。
日進月歩というように、加賀たちが、航空機からの爆弾や航空魚雷の投下実験をやっている」
宗像は腕を組み、不器用ながらも器用な真似を演じてみせた。
彼は惜しくも自ら操縦桿を握る、目視確認、空戦能力には必要不可欠な視力が、充分な規定に足りなかったが、提督となった今でも、将来の海軍は空にありと信じているほどの、海軍では先鋭的な未来志向者でもある。
水無月からしたら、司令官も本当に不器用だな、と言いたげに顔を浮かべていた。言葉の綾を繋げるように答えたかったが、情けなくも思いつつ宗像と同じ意見であった。
そうした重い会話を交わしているうちに、その不審船もとい、怪しい艦船が目撃された海域に接近したのだった――
今回はこの世界観などが分かる回でもあり、二人の会話回でもありました。とある同志と歴史について話すことはありますが、真実の歴史を知れば知るほど大日本帝国は後手後手だった最中に、本当に苦労しながら対策を取ったり、進歩しようとしただけなんですよね、アメリカが異常なだけだったにも関わらず、よく対策をしたと思いますよ。
満州事変だって好きで起きたことでもないですし、ソ連を牽制するためには満州国は必要不可欠でしたし。
歴史に関しては、これ以上書くとややこしくなり兼ねませんし、第一後書きでは書ききれないほどだと思います。
長話はさて置き、次回は謎の船の正体が明らかになります。そしてこのサブタイトルの意味も分かりますのでお楽しみを。
それでは、次回もお楽しみを。
それでは第3話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)。