予告どおり、辰巳が持ってきた『生ける溶岩』の能力が明らかになります。それと同時に、山本さんの苦労回になります。特にアメリカがおかしなことになっておりますので。
どうなるかは本編を読んでからのお楽しみです。
いつも通り楽しめていただければ幸いです。
では長話はさて置き、本編であります。
どうぞ!
辰巳の要求に従って、とある航空機用のレシプロエンジンが会議室に据えられた。
1934年(昭和9年)に制式化され、機体の色、夕焼け空に染まるとんぼのような橙色の特徴を持つことから、通称《赤とんぼ》と親しまれている九三式中間練習機――本機に搭載されており、340馬力を誇る《天風一一型》空冷星型9気筒が選ばれた。
さらに測定用の技師も呼ばれ、三神と名乗った青年が持参したごく小さな容器が接続された。
当然だが、接続前にはガソリンなど一滴も入っていない。
内部にその重く輝く結晶を入れて、容器のスイッチを入れてから、エンジンを始動させる。
すると、澄んだ音を上げて、エンジンが回り始めた。
「測定馬力、500を超えています。こんな馬鹿な……ガソリンを入れていないのに……」
測定用計器の数値を読んでいた技師が、思わず驚愕の表情を露わにした。
「……とまあ、こういうわけだ」
回転するエンジンを前にして、辰巳が言う。
「俺が確かめた。ガソリンエンジンでも、重油専焼ボイラーでもなんでもござれ。機関出力は3割から5割はアップし、この『生ける溶岩』があれば、ほぼ永久に動く。少しばかりの岩石を補充してやるだけでな」
「こんなことが……おい辰巳、帝国海軍の燃料問題は、一気に解決するぞ!」
紅潮する山本の顔を見て、辰巳は頷き、そして淡々とした口調で答えた。
「一定の圧力をかけ、ある波長の電波をかける。その波長によって、様々な形状やカロリーの熱を発生する。持続的燃焼、爆発、なんでもござれだ。例えば同量のガソリンの、2000倍のエネルギーを、ほぼ無限に発生させられる」
「2000倍だと!?辰巳、貴様正気か!?」
さすがに科学が苦手な山本は、声を上擦らせる。
「その判断は、貴様に任せる。機関の製法、生物金属の精製を、貴様の方でやってくれ。そのために、三神を置いていく」
そんな彼を見て、辰巳は肯定も否定もせず、肩を竦めて言った。
「よろしく、山本少将」
三神琢磨が右手を差し出し、傍にいた辰巳が口添えするように言った。
「深雪のこともよろしく頼む。貴様たちの手で調べ、飛行機でも艦船でも造ってみろ。そのうえで判断してくれ。俺たちは一度戻らなきゃならん」
「戻るって……どこへだ?」
山本は茫然としたまま言った。
「日本のうちよ、けれども、貴方たちの日本じゃない。でもね、山本さん。あたしたちは、貴方たちと同じ場所に住んでいるの。場所じゃない、時間という壁を隔ててね」
辰巳と麗那は顔を見合わせ、彼女は意味ありげに山本を見て、肩を聳やかした。
「時間……だと!?」
山本の大きな眼が、さらに大きく見開かれる。
麗那はもう一度肩を竦める。彼女の唇の間から、白くて健康的な歯が覗いたが、犬歯にしては鋭過ぎる、しかも尖った白い少女の歯。
「未来から来た、とでも言うのかね」
重ねるように山本は問うと、麗那はゆっくり頷き、微笑したまま身体ごと向き直る。
「あたしたちは、一度戻らなければならないの。次は本格的に移住してくるわ。技術の提供は、交換条件。時を超えて、同じ国に住む友人へのね」
「移住か……なるほど。貴様が仲介役か」
山本に顔を向けられ、辰巳は軽く顎を引く。
「まあな。だが、悪い取り引きじゃない…彼らは同じ国に住みたいんだ。欧米やアジア諸国では、たぶん嫌われる。どうせなら日本が良いんだ」
「嫌われる?わからんな」
何度目か驚愕に染まる山本。まじまじと三神を見つめ、次いで麗那を見て、もう一度三神に視線を戻した。
「君たちが……まさか、信じられん」
「なんでしたら、証拠をお目にかけますよ」
屈託のない微笑みを浮かべた三神に、川神がその肩を軽く叩いた。
「彼らの技術を使えば、少なくとも資源に関する限り、我が国は海外に依存せずともやっていける。見返りに必要なのは、富士山中心に、半径5キロばかりの土地だ。占領するわけじゃない。立ち入りは規制しないし、共存してもらえればいい」
「それは、俺の一存ではどうにもならんぞ」
面を食らう山本に対し、麗那が片眼を瞑ってみせた。
「充分に見返りがあると思うわ。他の国がガソリンエンジンを使うのに、貴方たちは私たちのエンジンと燃料を使える。私たちの材料を使って、限られた建艦用の資材を何倍にも活用できる。アメリカの圧迫に屈することも、そのために他の国と条約を結ぶ必要もないわ。もちろんソビエトともね」
「ソ連邦、アメリカか。それが本当ならば、我が国は何処の国とも争う必要がなくなる。破局は回避されるかもしれん」
山本の顔に希望が蘇ると、辰巳は微笑しつつ、山本の腕を軽く叩いて言った。
「上手くいくように祈っているよ。だが、相手のあることだ。どんな場合でも最善を尽くすのが、我々海軍軍人の務めだ」
――上手くいかなかったときのために戦う術を、俺たちは持ってきたんだ。と口には出さず、辰巳は胸の内で呟いた。
山本の元から辞してから、辰巳は再び姿を消した。麗那とともに、何処ともなく消え失せた。しかし、辰巳の秘書艦の深雪は自らの意思で残った。宗像・水無月たちに収容された内火艇も――
山本は海軍技術廠や帝国大学、私立大学の理学部、工学部、そして理化学研究所をはじめとする民間企業の協力を得て、辰巳の秘書艦である深雪の助言を受けつつ、彼女の装備品でもある内火艇の分析に取り組んだ。
燃料のサンプルは、まさしく角砂糖の大きさ程でも100オクタン価ガソリンの2000倍に及ぶ熱量を発揮しており、しかも使っても減りはしないと言う。
さらに海軍が使用する鋼鉄に生物金属を利用することで、深雪の艦体と同じ性質を持ち、より強固な艦娘たちを生み出す目処も立った。
山本は自分の考え方に近い重鎮たち――米内光政中将や山屋他人大将、山梨勝之進大将を通じて艦政本部を動かし、また武部鷹雄たちや自らが本部長に就任した海軍航空技術本部の総力を上げて、このエンジンを利用した新型航空機の開発に取り組んだ。
航空機用発動機と艦娘用の機関が完成した。三菱及び、中島飛行機が競争試作した機体にその発動機を搭載。試験飛行した結果――従来の常識を超える高性能を発揮した。海軍はその発動機をさらに発展させ、新型機の開発を進めるように、指示を下した。
その発動機の名前は《D》式エンジン。艦政本部が作り上げた艦娘用タービンは、同じく《D》タービンと称された。
全てを総合して、装備と呼ぶことも定められた。
タービンも、発動機も、従来のものたちに比べて、出力はおよそ二割増。それ以上は材質が耐え切られず、いくらでも強力な機関を造るというわけにはいかないが、それても艦娘たちの戦闘能力は格段に高まるはずだ。何よりも燃料の制約が無くなるのは大きかった。
当然のことだが、山本はあらゆる部門から、この画期的な機関と燃料を何処から入手したのか、問い詰められることになった。
それを知らされているのは、米内や山屋を筆頭とする、ごく一部の者たちのみだった。彼らはこの秘密を守ったが、世の中に無用な混乱を起こさないようにしようという彼らの判断は、思わぬ方向に影響を及ぼした。
画期的なエンジンと燃料を手中にしたと知った海軍上層部が、これを最高度の軍機に指定した。諸外国・国民にはおろか、同胞である陸軍にすら秘密にして、一切洩らさないように決めたのだった。
これらを知った山本たちは驚き、抵抗した。
米内もこのシステムが日本を救い、ひいては他国との争いを回避する切り札となり得ると力説したが、その抗議は受け入れられることなく、かえって帝国の切り札として秘匿するよう命ぜられた。
山屋大将が世を去り、山梨大将が退役したことも、山本たちには不運だった。何処の国の海軍でも、伝統的に陸軍とは仲が悪い。山本の抗議を受けた軍事参議官――永野修身海軍大将は、山本を睨みつけるにしてこう言った。
「君はそう言うが、辰巳が当てになるのかね?彼は姿を消したまま、もう3年以上、姿を見せていないではないか。我々が保有している新式燃料は、深雪に積まれていた分だけだ。それだけでも、聯合艦隊全艦艇と航空機を動かすだけの量になるとは言うが、その他はどうする。陸軍に割く余裕はないよ。況してや民間などとんでもない」
永野の仇名は、『駱駝提督』と言われており、その仇名どおり、ゆったりとした人格者であるが、その性格とは裏腹に、政治的な遊泳術にも長けている。
いま、永野は海軍を牛耳る実力者の意に沿って、陸軍に対して優位に立つ工作を進めていた。
その実力者とは、海軍元帥・伏見宮博恭王である。今上陛下の従兄弟にあたられる皇族ではあるが、立憲君主としての御立場を頑なに守られ、政治的な言動を一切慎まれている陛下とはまったく違う人柄だ。
ある程度に言えば、海軍に君臨して、そして最高権力者としての勢力を隠然として振るう、そういう人物である。海軍伝統の《沈黙の海軍》――政治には一切関わらないという立ち場を、事あるごとに崩そうと目論んでいるようだ。
山本たちは、この人物を警戒しているものの――現実的に深雪が積んでいた新燃料は数が限られているため、なるほど永野の言葉にも一理ある。
それに山本自身が、軍司令部出仕の一提督にしか過ぎない。
さらに翌年に迫った深海棲艦対策のため、その予備交渉に携わるため、日本を離れなければならない立ち場にいる。海軍と言えども、巨大な官僚組織だ。その方針に刃向かうことは、一介の提督にはできかねる。
しかし、山本は危惧を抱いていた。
最高度軍機に指定されてしまっては、民間にD装備を普及させるなど夢のまた夢だ。社会的な貧困は回避できず、地方の困窮は、国を憂える青年将校たちの過激な行動を呼びかねない。
さらに陸軍も、民間も、やはり重油に頼らざるを得ない。南方の豊富な資源地帯を勢力下に収め、国家危急の際の燃料を確保しようという考えは、依然として燻っている。
最初に恩恵を沿したのは、主力艦と目されている戦艦であった。世界最大級の艦隊となるはずだった。戦艦8隻、巡洋戦艦8隻の八八艦隊――ワシントン軍縮条約で計画ごと潰された艦隊の、ただ2隻だけ竣工した戦艦、長門や陸奥、そして伊勢・日向・扶桑・山城に続き、航空母艦の赤城・加賀、高速戦艦の金剛・比叡・榛名・霧島が、続々と換装された。
これに、山本は赤城たちを割り込ませるよう運動した。航空主兵主義者でもあり、山本は戦艦は二の次であり、せめて空母をD装備に換装し、山本が考える主力艦――空母には、不自由なく動ける環境を整えて欲しかった。
この時期には、山本がもっとも力を注いだのは、対策明けに起工すべく設計が進められていた4隻の新型戦艦を、空母に変更させる働きかけだった。
陸軍は満州事変に続き、対ソ連政策を広げようとしたが、欧米(特にアメリカ)からの非難も日増しに強まり、このまま事態が推移すれば、いずれは国家同士の戦争に移行することさえ考えられた。
そのとき、航空戦力が整っていれば、戦いを優位に進められる。山本たちはそう説いたが、やはり抑止力であり、海軍の主流は依然として砲術専攻の鉄砲屋である。
国力の差で、艦艇数に大きな差をつけられている以上、質で凌駕するしか方法がない。
そう主張する山本たちの意見は取り上げられるはずもなかった。
考え抜いた挙げ句、山本は秘策を考え出した。
D材料こと、生物金属が持つ、他に例を見ない特徴――一定の信号を与えることより、変形、変質し、他の艦が持つ性質を取り込んで、より大きな、巨大な艦に変化できるという特徴を活かして、臨機応変に変化可能なシステムを取り入れるよう、艦政本部に意見具申したのである。
この意見具申は受け入れられた。
上層部にとっても、今回の対策が更新されなかった場合、列強諸国が争って新型艦建造に走る事態が懸念されたのだろう。4隻の戦艦が、多目的に使えるならば、それに越したことはない。
そう考えたらしく、設計陣は大きな設計変更を余儀なくされて、新システムの採用を強要された。
設計陣は怨嗟の声をあげつつも、その難題をやり遂げた。川神が残した三神琢磨が率先して働いたおかげであり、海軍は琢磨に短期現役士官の資格を与え、次いで正式な造船官に任命して、藤本喜久雄造船少将のスタッフに採用した。
対策が更新されなかった場合、3隻の超大型新型艦が、一斉に起工されることになった。
正式には、昭和10年計画――⑩計画と呼ばれる建造計画で、そのうち一号艦、二号艦、三号艦と呼ばれる艦艇群だ。
そのうち二号艦は、艦体はほぼ同一ながらも、最初から航空母艦として建造することを認めさせ、山本はロンドンに旅立った。
八八艦隊計画を葬り去り、同時にアメリカのダニエルズ計画、イギリスの四四艦隊――16インチ砲九門搭載の巡洋戦艦4隻、我が一号艦と同等の火力を持つ18インチ砲九門を持つ戦艦4隻を建造する建造計画をも廃案に追い込んだワシントン軍縮条約から、すでに13年の月日が経った。深海棲艦対策を挟み、さらに緊張感を増す列強同士の対立を解消すべく、新たな対策を課そうという会議が開かれるためだった。
この会議が成功すれば、再び列強は規制の網を被せられ、『人類統合軍』が到来する。財政に多大な負担をかける海軍の建造計画はご破算となり、その間にD装備を民間に解放する道を開く――それが、山本が描いたシナリオだった。
しかし、その夢が脆くも潰える。諸列強は、ワシントン条約時代には存在しなかった異質の文明――共産主義を標榜するソビエト連邦の誕生に伴い、特にアメリカの横暴による深海棲艦保護、第一次世界大戦後の不況による経済、政治ブロック化、そして対ソ連及び、対深海棲艦を掲げる日本の動きを警戒する。
アメリカ代表団曰く『日本は捕鯨はおろか、昆虫採集や漁業や狩猟に関しては諸外国に比べて、日本人が行うそれらは特に悪質で残虐的である』や『無残にも命を奪われた深海棲艦たちの無念を思い知るがいい。地球は人間だけのものではない。ただ、自国の防衛のためだけに命あるものを傷つけることはどれほど罪深いことか。これは日本のためにやっているのだ。重い罪を受けることで、正しい価値観を確実に身に付けることができるのだ。もちろん、正しい価値観は人類統合軍や命なんかより遥かに重要な尊い得なのだ!』と大統領の代弁と伴い、挙げ句の果ては『日本人どもは私たちの全部が嫌いなんだ、自由・解放・幸福を追求する権利!…そしてアップルパイ!』などの諸要因が重なったことにより、戦力の強化を進める意志を固めていたのである。
そのようなことから、予備会議の段階で議論は紛糾。ついには決裂のやむなきに至った。
奮闘した山本だが、国家の方針が条約破棄である以上、どうにもならない。第二次深海棲艦対策会議は、会議の開催以前に崩壊している時点をもって、世界は実に久しぶりに、無制限建造競争の時代に戻った。
大艦巨砲に新時代の兵器、航空機と航空母艦を加えた、誰もがまだ見たことのない時代。
それは、文字通り空前絶後の、壮絶無比な大戦の、幕引きでもあったのだった――
今回はこの『生ける溶岩』の性能に驚いたと同時に、山本さんの苦労回という形になりました。
この生ける溶岩を使うだけで、半永久的に艦船や航空機などを動かすことが出来ます。これにより従来の性能を大幅に向上させると同時にガソリンなしで無限に動かせますし、心配していた燃料切れの心配もありません。原作を読んでいる私も不思議でありますので、今回多くの読者さんも同じだと思われます。
山本さんの苦労回は史実通りというかなんというか、アメリカの横暴な横槍と言うかなんというか、ここまで気の狂ったことを、まるで新たな共産主義革命の、今の左派みたいに混沌とした新世界を作ろうとしているという。深海棲艦保護というトチ狂ったやり方はほぼ『ウルトラマンギンガS』の外伝短編小説、および劇中に登場する過激な環境保護団体『マウンテンピーナッツ』みたいに成り果てています、これも某大統領のせいなんですけどね。今後もアメリカはこの調子です、このサイコパス大統領が在任中はこの有り様ですのでしばしお待ちを。
史実でも、彼やその周囲にはソ連のコミンテルンらがいたほど国内外を破壊して、戦前から戦後、今に至るまで世界を破壊しましたから。
長話になり兼ねないので、次回に移りますね。
次回は今月に起きたとある歴史的事件が起きます。
おそらくその事件当日に投稿できるように執筆しますのでお楽しみを。
それでは、次回もお楽しみを。
それでは第6話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)