蒼海の龍神艦隊   作:SEALs

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お待たせいたしました。
今回は予告どおり、今日に因んで起きた、歴史的大事件が舞台となった回になっております。

いつも通り楽しめていただければ幸いです。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


第6話︰二・二六事件 勃発

山本が失意を抱いて帰国したのは、昭和10年2月16日。

 

その1年後。2月26日の帝都は前夜から降り続いた雪が厚く積もり、一面の雪景色となっていた。

この時代の大日本帝国は苦闘の最中にあった。都市の工業化は着実に進行していたのだが、深海棲艦の来襲に加えて、そしてアメリカの不況が日本を直撃した。

特に主要輸出品の生糸が売れなくなり、農村は困窮に伴い、娘や子どもたち、挙げ句は田畑を売って小作人になることで漸く生命を食い繋ぐ農民が続出している。

その一方。都市化の波に乗った都会の資本家たちは、放出化された土地を片っ端から買い漁り、瞬く間に資産を肥え太っていく。

富が集中する都市。疲労して寂れていく農村。政治家や役人たちは腐敗して、私的な利益を肥やしていると非難する者たちは多くいたが、彼らには行動に出る力がなかった。

捌け口のないこの不満は、鬱積する内に発酵し、やがて爆発的な大きな熱を得る。体制に怒りを募らせ、資本家たちに向けた義憤を燃やす者たちの中に立ち上がる力を持った者たちがいた。

それは皇軍の軍人たちだ。かつて海軍の青年将校たちが起こし、犬養毅首相の暗殺された五・一五事件が起きたことにより、これで政党内閣の時代が終わることになってしまった。

これも何と言うのか明治時代に憲法が作られ、議会が作られて、非常にこの民主主義と言うものを発足させて大正時代に高めていった訳で、そして政党内閣と言うものが出来始めた訳だが、これが終わりを告げて、軍が政治に非常に強い力で行使するように変質していく、というものだった。

 

だから、今回決起したのは皇道派の帝国陸軍将校たちだった。

彼らは農村の貧困を救い、資本家たちの横暴、そして政治家や官僚たちの腐敗と無能さを食い止めることのみが日本を救うと、心に決めたのである。

腐敗を根絶し、来たるべき敵である共産主義への備えを固くすると同時に、誇り高き大日本帝国を傷つけ、国内産業壊滅を図る――と信じる彼らはアメリカに対しても、強大な軍事力を見せつけることで身の程を教えてやる!というこそが、日本の正しき道だと信じていた。

 

議院内閣制と言うものを完全に破壊して、元首である天皇陛下をトップとする独裁政権。これも別に元首が政治を差配するのではなく、分かり易く言えば『日本幕府』を作ろうとしているのである。つまり軍、当時の日本軍は海軍よりも陸軍が主であると言う強い考え方があった。これを陸主海従と言う。要するに『海軍と言うものは陸軍に付随するもの程度の感じ』である。但し、海軍はそう思っていないが。

予算規模にしろ、何にしても我々陸軍が、と言う考え方は陸軍が組織として最初に出来たこともある。海軍は幕末の頃からもあるのだが、陸軍が主である強い思いがあり、具体的に言うと陸軍が政権を担うと言う。だから幕府と言うものはそうであり、軍人が征夷大将軍に任命され、かつては征夷があり、東北の方にまつわる者が居て、その意味をして討伐するんだと言う平安時代からの形で『征夷大将軍』と言うふうになったと言われる。

そんな中で海外にいる末路ある者たちを平定すると言う軍人たちが征夷大将軍として、元首から任命を受ける、そして事実上の幕府を作っていくと言うのが皇道派たちの主張である。

昭和維新と言う人たちは幕府に戻ると言うこと――つまり天皇親政と言う、元首が直接政治を取ると言う、天皇親政と言っても委任を受ける者がいてそれが軍人であり、多数の軍人が幕府を開く。

その道への扉を開くには、腐りきった現政権及び、政党政治を終わらせて、元首による直接統治こそが真の帝国を、軍は元首より直接に統帥される、そして自分たちが政権を握ってこそが、日本を亡国から救える、と青年将校たちはそう信じ、2月26日未明を期して、一斉に行動に移ったのだった……

 

動いた部隊は当面8つ。

統合指揮官を務めるのは歩兵第1旅団副官の香田清貞大尉率いる部隊は、首相を務めている海軍退役大将・岡田啓三がいる首相官邸へ――

安藤輝三率大尉いる歩兵第3連隊第6中隊は、侍徒長を務めている同じく海軍出身の鈴木貫太郎がいる侍従長官邸へ――

そして残りの部隊や群衆指導なども含めて、各々と大蔵大臣・高橋是清から、警察庁、陸軍大臣官邸、元老西園寺公爵たちを殺害するため隊伍を組んで、雪の街に出ていった。

 

雪明りに照らされた街並みを、カーキ色の外套に身を纏った帝国陸軍兵士たちが行進する。まもなく彼らが幾多の場所で銃声が轟いた。

 

先ず暗殺された人物は、松尾伝蔵と言う岡田内閣嘱託の秘書官。

本人は岡田首相に似ていたと言われるが、実際には似ておらず(今の動画や画像技術はまだ未熟であり、新聞などの画像も荒く雰囲気が似ていた為に間違われたと言われている)、彼の犠牲のおかげで岡田首相は暗殺を免れた。

岡田首相本人は押し入れの中でずっと隠れていて、しかも何日も隠れていたおかげから『岡田首相は死んだ』と言う風に日誌されていた。

 

さらに大蔵大臣・高橋是清が暗殺。

 

それから斎藤実内大臣も殺される、渡辺錠太郎教育総監長(彼は元陸軍大将である)も同じく暗殺される。

 

鈴木貫太郎元侍従長は侍従長官邸に襲撃されるものの、妻のたかが『止めを刺さないで』と身を挺して庇った為に免れた。

 

このようにして、幾多の標的を討ち洩らしながらも、叛乱軍は着実に帝都の要衝を手中に収めていた。

本格的に武装した軍隊相手では、警察には為す術はなかったのだった。

 

 

 

帝都の街路が、降り積もった雪を蹴り立てて走る兵士たちの足音や下士官の号令から、そして怒号や銃声で騒然とし始めた頃――品川駅の駅舎から困感した顔で出てきた二人組がいた。

長身の紳士と、やや小柄の少女だ。

 

「こいつはいかんな。俺たちが準備している間に、社会状況の改善はなかったようだ。山本が新機関の複製に失敗したのか、或いは普及させられなかったのか……何れにしろ、ここまで来たか」

 

背広にインバネス・コートを羽織った紳士は、眉を顰める。

無理もない、駅舎の前には、隊伍を組んだ兵士たちが雪を蹴り立てて移動している。それが戦闘装備でいること、そしてバリケードを各地で築き、重機関銃を据え付けている様子を見て、唇を噛んでいた。

 

「辰巳、これは何なの……?」

 

毛襟が付いたオーバーに着膨れ、鼻まで厚いマフラーで覆う少女。その覗く眼は大きく鋭い眼差しは、猛禽類を彷彿させる彼女は見上げ、唇を噛む紳士を見上げ、訝しそうに問い掛けた。

 

「あれは武器ね?爆薬の力で弾体を撃ち出し目標を破壊する……ええと、『戦争』なの?」

 

興味津々な顔で、琥珀色の瞳を兵士たちに注いでいる。兵士たちが携えている三八年式歩兵銃や、バリケードに据え付けている九二式重機関銃や九六式軽機関銃などを見ながら確認するように言った。

 

「……いや、連中は帝国の陸軍兵士たちだ。臣民を守る態勢じゃない。自分たちだけを守る構築法だ」

 

バリケードと兵器の配置を見て取って、辰巳恭介が唸ると同時に舌打ちをした。

 

「麗那……女性連れで移動するのは危険なようだ。済まないが、ここで待っていてくれ」

 

「恭介?あたしは別に危険なんて……」

 

抗議したのは神居麗那。五年前に姿を消した二人が帝都に再び姿を現したとき、雪の東京は軍靴と殺戮の巷と化していた。

並みの少女ならば、さぞ脅威に感じていただろう。しかし、麗那の場合は脅えるどころか、その瞳に好戦的な光を浮かべながら決然と言ってきた。厚い毛糸のマフラーに口元を覆っているため、もこもこと迫力感がないのは仕方ないが。

不本意な表情を浮かべる麗那に対して、毛糸の正チャン帽を被った彼女の頭を辰巳は小突いた。

 

「それは分かっているが、これだけ着膨れているのは何のためだ?君たちには寒さは大敵だ。ほら、指が動いてないじゃないか」

 

麗那の手を取って掌を包みつつ、論するように言った。

そうだけど、と、なおも不満そうな麗那。結局黙ったところを見ると図星である。黙り込む彼女を、売店の陰に潜ませて、辰巳はウインクしてみせた。

 

「朝には戻る。だから待っていてくれ」

 

それだけ言って、辰巳は不穏な空気が渦巻く街路に出ていった。

たちまち兵士たちの誰何を受けるが、その度に腰を低くして、何事か答えて遠ざかる。彼らも無差別に射殺するつもりはないらしく、ご丁寧に銃を下げて答えるが、その度に下士官がやって来て怒鳴りつけて、兵を隊列に、辰巳を街路にと追いやった。

 

「あたしたちで言えば、寧ろ肉食性に近いかも。草食性だと表面は優しいけど、敵対する種族は絶滅させようとしたりするし」

 

ふん…なるほど、叛乱と言っても無闇矢鱈に傷つけようとはしないんだ、と、その光景を、麗那は身を隠しながら見つめている。瞳に興味深い光が宿り、白い吐息とともに、独り言を口にした。指を唇に当てつつ、しばし思考する麗那はさらに呟いた。

 

「でも、結論を下すのは早計だわ。ヨーロッパやアメリカには自分たち以外の民族は認めない人たちがいると聞いたし、教典を見せてもらったけど、確かにあれは凄いわ。しかも悪魔がドラゴンだって言うのがどうもね」

 

すると、ぶるっと身体を震わせた。降り積もった雪から染みてくる寒気が、厚いオーバーコートすら浸透して、身体に染み渡ってくるようだ。身体の芯まで冷えてくる感触に、麗那は思わず眠気を覚え、はっとして頭を振るい、自分の両頬をぱしぱしと軽く叩き、懸命に意識を奮い起こさせた。

 

「だ…駄目だ。こんなところにいたら、眠ってしまう……あたしたちには寒過ぎるよ」

 

それでも、ともすれば瞼が落ちてきそうになったが、もう一度頭をぶるぶると振るった。

 

「だ……駄目だわ。辰巳ってば、早く帰ってこないと……海軍省に行くって言っていたよね。待っていられない……このままじゃ、あたし……」

 

身体が重くて、だるくなる。このままうずくまっていては、寒さで動けなくなるのは眼に見えている。というほど心臓の鼓動まで遅くなったように感じた麗那はとうとう決心した。

この場にいるよりは、と、重い両足に力を籠めて立ち上がり、ふらふらと雪中を歩き出したのだった……

 




今回は今日起きた、二・二六事件を舞台にしております。この事件の説明はとても簡易にするのは難しかった故に、とある同志とメッセージや電話でこの話題を取り合うと、彼ら皇道派の青年将校たちが起こした気持ちも分からなくないんですよね、ただやり方が不味かっただけでありますので。最終的に当時の今上陛下を本当に激怒させたのもありますが。
今のような状況下で思想関係なく愛国心で起こした行動が、今回の大事件に発展したのかと思いますね。間違った解釈でしたら申し訳ありません。例え起こしたのが皇道派にしろ、それに葛藤した統制派にしろ、やはり同じ愛国心を持った同胞なのですから。

長い話になり兼ねませんので、次回に移りますね。
次回はこの事件を機に海軍が動きます、そしてその秘密裏にとある国がある物を目撃しますのでお楽しみを。

それでは、次回もお楽しみを。

それでは第7話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)
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