蒼海の龍神艦隊   作:SEALs

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お待たせ致しました。
予告どおり、二・二六事件を機に海軍が動きます、そしてその秘密裏にとある国がある物を目撃します、もはやお分かりになる方は多いですが、そこはお楽しみに。

いつも通り楽しめていただければ幸いです。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


第7話︰聯合艦隊、帝都へ

叛乱軍は帝都の主要部に陣を敷き、土嚢を積んで銃座を据え、そして少数の重火器を展開して、一歩も引かない構えを取っていた。

 

昭和五年の、海軍将校及び陸軍士官を中心とした五・一五事件では――12名の将校・陸軍士官と、橘孝三郎率いる若干の民間人たちが引き起こしたクーデター未遂事件だった。

だから、警察の力で鎮圧することが出来たが今回はそうはいかない。本格的に武装した兵士たちには、通常の犯罪に対処するための警察の装備では対抗出来ないのだ。

今回の叛乱軍は兵力を使っており、急報を受けた警察が動き始めていたが、拳銃や警棒しか持っていない警察官では、小銃や機関銃で武装した兵士相手に勝てるはずがない。

現に岡田首相の官邸や警視庁では応戦しようとした複数の警察官が無惨に射殺されていた一方、陸軍でも混乱が生じている。

陸軍大臣官邸を襲撃した香田大尉率いる部隊は、陸相・川島義之大将を拘束。要望書を読み上げた。

 

政治及び、社会を改革し、軍の要職に、軍を政治の中心に置くべきとする皇道派の将校たちをつけること。

そして皇道派の重鎮・荒木貞夫大将を据えること、川島大将には直ちに宮城に参内し、これらの要求を伝えることなどを要求するものだった。

こうした行為に対しては、本来は陸軍がすぐさま鎮圧すべきだったが、陸軍上層部にも青年将校たちと同様の考えを持つ者たち、鎮圧すべきなのか躊躇する者たちが多数いたのである。

 

一方。このとき聯合艦隊の主力艦隊は、九州沖で大規模な演習を行っていた。時の聯合艦隊司令長官は高橋三吉中将。

軍縮条約に反対し、武力を充実させることで英米列強はもちろん、深海棲艦に対抗しようとする艦隊派の重鎮だが、一方で軍事力が政治に介入することについては、強い憤りを持っていた。

東京でクーデターが発生したと知った高橋長官は、すぐさま艦娘たちの戦力を持って、陸軍との一戦を辞さずの決意を固めていた。

旗艦かつ秘書艦の長門から、直ちに緊急命令電が放たれた。

 

 

『全艦演習中止。急速出港準備を為よ』

 

『第一艦隊は東京へ、第二艦隊は大阪に向かえ。陸戦陸上準備。全艦戦闘準備』

 

『準備完了した者たちから暫時出港。各艦、各々の判断にて急行せよ』

 

矢継ぎ早に通信が飛び交い、錨が巻き上げられる。

真っ先に動き始めたのは、軽巡洋艦・駆逐艦娘たちを中心とした水雷戦隊だ。続いて重巡洋艦部隊が動き出し、さらに戦艦が、巨体を揺るがして波を蹴る。

なかでも、聯合艦隊総旗艦を務める長門の行動は目覚ましく、外洋に出た彼女の艦内で命令が下される。

 

「D機関始動、最大戦速。見張りを厳にせよ!」

 

航海艦橋に据えられた速度指示器が、ちりりん、と鈴がなるような音を響かせて、機関室に指示を送る。

それまで駆動していた彼女の艦本機関が動きを止め、その奥に設置された新型機関が唸りを上げて動き始めた。

川神予備役大佐が齎した未知の技術で造られたD機関。その炉に輝くのは、太陽を閉じ込めたような結晶で、D燃料――『生ける溶岩』と呼ばれるものだ。

深雪の燃料庫に満載されていたものの一部で、長門に積まれているのは、およそ1トン。それだけで重油を満載した以上の出力と、ほぼ無限大の航続距離を発揮するのが分かる。

力強さを確信した長門が操舵する形で航海艦橋に詰めている高橋司令長官、そして近藤信竹参謀長は、足元が引っ張られるような感覚に囚われた。

 

満載排水量4万3580トンを誇る長門の艦体が、艦首を持ち上げんばかりの速度を発揮した。深海棲艦対策によって近代化改装を受けた彼女の防御力を増した代償に速度の低下をきたしたために、25ノットが最大速力だったが、このとき彼女は、新造時の26.5ノットすら上回り、32ノットの韋駄天振りを発揮したのだった。

 

「前方に友軍重巡。五戦隊の鳥海及び、七戦隊の妙高です!」

 

熟練見張り員が報告してきた。先に出港した重巡部隊の内、第五戦隊を構成する鳥海と妙高の二人が、30ノットの最大速度を振り絞り、波濤を蹴って行く。

彼女たちを上回る速力を発揮して、長門をみるみる追いついていく。

 

「長官、速度を緩めますか?」

 

長門の問いに、長官は首を振った。

 

「必要ない。一刻を争う事態だ。巡洋艦戦隊には、何れはD機関を装備するまで待ってもらおう」

 

彼の鶴のひと声で、長門は速度を緩めず、二人の重巡を追い抜いた。その背後からは姉妹艦の陸奥も、先に行くわね、と追い抜いていく。

二人の巡洋艦は文句も言わずに見送ったが、内心は穏やかでないだろうと思った最中、鳥海の艦橋から発光信号が閃いた。

 

《長門さん、最大速力何ノットですか?》

 

長門の速力は、公称25ノットとされている。それを7ノットも上回っているのだから無理はないが、この場合は仕方がない。

しかし、まもなく長門たちから冷や汗をかかされる事態を迎えた。右舷の監視についていた見張員が切迫した声を張り上げた。

 

「二時の方向、距離2万!米国巡洋艦1、見ゆ!」

 

艦橋内に緊張が走った。双眼鏡を向けた航海長が苦い口調で言った。

 

「合衆国海軍の ノーザンプトン級ですな。公式訪問の予定はなかったはずですが……」

 

「公海上だ。航行するなとも言えないし、彼らも在邦同胞が心配なのだろう。だが、弱ったな……」

 

長門が眉間に皺を寄せる。万が一見られていては、自身の速度が公称以上どころか、自分たち戦艦としての常識を遥かに超えたものだと知られてしまうからだ。

 

しかし、まもなく米国重巡洋艦は視界から消えた。距離も速かったし、先方に発見されたかどうかは分からない。長門はもちろん、高橋たちは不安を感じつつも、なお最大戦速での急行を命じ続けた。

帝都で勃発したクーデターを、早く押さえ込むべく、彼女たちは疾走し続ける。

 

 

 

 

 

「提督、撮影に成功しました」

 

「おう、ご苦労。どうです?君の見たところ、長門クラスに変化はありますかな?」

 

受信器を取った提督、ジン・モンク・キニスキー大佐が問う。

表面は物静かな牧師を思わせる男だが、演習などではあの猛将として知られる《牡牛》と呼ばれるハルゼー提督そこのけの勇猛振りを示すところから《荒法師》として奉られている提督だ。

秘書艦や他の艦娘たち、部下を締め上げることでも有名だが、今回は相手が秘書艦や部下ではなく、民間人を軍属として乗り込ませた男であるために口調は丁寧なものだった。

射撃指揮所に据えた望遠16ミリ映写機の撮影技師、ジム・ジェファーソンは首を傾げながら答えた。

 

「私は分析の専門家じゃありませんが……公表資料にある25ノットという速度ははっきりと嘘ですね、これまでにもヨットレースを撮影してきましたから判りますが、あの速度なら最低でも30ノットは出ていますよ」

 

「確かに。妙高クラスの重巡をあっさりと抜いていきましたから……」

 

方位盤を通じて、同じ映像を見ていた砲術長が補足する。

 

「巡洋艦よりも速い戦艦か。長門クラスは、もう艦齢15年を超えている近代化改装は不思議ではないが、主力艦を改装するスピードが異様に速い。まさか機関の総取り換えでもやったのかな?」

 

唇をへの字に曲げたキニスキーが、背後に控えるヒューストンに呼び掛けた。

 

「それにしたところで、私のような巡洋艦を超えられるものではないと思います」

 

彼女が冷静に答えると、キニスキーは頷いて、眉を顰めていた。

 

「長門が5ノット増したとしても、他の伊勢や扶桑クラスまで同じ割合で増えているとすればえらいことだ。深海棲艦に保護する為の我が主力戦艦たちは伝統的に低速だからな……」

 

とにかく急いで帰港して、ジムのフィルムを司令部に渡さねばならないな、と、心の中で呟いた。

 

「よし、引き上げるぞ」

 

「東京で起こったクーデターについて調べなくても良いのですか、提督?」

 

ヒューストンの問いに、キニスキーは軽く首を振った。

 

「入港を求めたところで認められませんよ。幸い、クーデター軍は我が同胞を含めた他の外国人を襲う気配はなさそうだ。新聞社のスタッフも拘束されているわけでもなさそうだから、詳細は彼らが送ってくれるだろう。下手に近づいて、気が立っている日本軍の砲撃を浴びては堪らんからな」

 

彼の言葉に頷いて、ヒューストンは転舵を命じた。

日本海軍の艦娘たちが、近年に至って続けざまに改装作業に入ったという、日本国内の情報提供者からの報告を受けて、長駆偵察に来たものだ。

日本近海を遊弋していたものの、そう都合よく主力艦娘に逢えると思っていたわけではない。

ただ、大規模な演習を行なうというから、通信その他の情報を分析して改装後の性能を、一端でも、捉えられればとの考えだったのだが……

 

「クーデターが起きるとはな。さてこれが今後にどんな影響を及ぼすことか」

 

航海艦橋に設けられた提督用の座席に腰を下ろしたキニスキーは考える。

 

「他にも空母や艦載機の性能も見たかったが、欲をかいても始まらない。この際は満足するとしよう」

 

――無条約時代となったわけだし、日本人も建造計画を始めるだろう。そいつらは、最初からあの速度性能を持っているわけだ。侮れんな。

政治について考えるのは、上の連中、もっと給料を貰っている連中の仕事だ。

実戦派の軍人らしく割り切って、キニスキーは航路を南東に向ける。フィリピンの海軍基地に戻って、そこからフィルムをハワイに送り、解析してもらうつもりでいた。

 

「いずれ、この国の海軍と戦うことになるわね」

 

「そうだな、ヒューストン」

 

毎日に不安定さを加える日本が、やがては合衆国と激突することになる。そんな予感を覚えて、密かに血を滾らせるヒューストンとキニスキー大佐であった。

 




今回は海軍出動に伴い、案の定ですが、米海軍に目撃されるという形になりました。
なおオリジナル版では、長門さんの速力を目撃したのは、チェスター級なんですよね。とある同志に聞いたのですが、この年にはもう海軍からは退役しています故に、二・二六事件勃発前に確かスクラップとして廃棄されているんですよね。
そのため辻褄が合わないため、急遽変更してまだ現実味があり、アジア艦隊の一味であるヒューストンになりました。架空戦記あるあるならではの御都合主義ですけどね。
これにより今回のことがどうなるかは神のぞ知る世界ですが。

長い話になり兼ねませんので、次回に移りますね。
次回は再び帝都に視線が移ります故に、行方不明になった麗那を探しに辰巳たちが捜索します。果たして彼女は無事なのか?
それでは、次回もお楽しみを。
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それでは第8話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)
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