予告どおり、再び帝都に視線が移ります故に、行方不明になった麗那を探しに辰巳たちが捜索します。果たして彼女は無事なのか?
なお今回は長くなり兼ねないので前編・後編と分けました。
どうしても本事件を語ると長くなり兼ねないので御理解頂ければ何よりです。
いつも通り楽しめていただければ幸いです。
では長話はさて置き、本編であります。
どうぞ!
聯合艦隊主力が、東京に向けて出港したときから時間はやや遡る。
募る寒さに耐え切れず、辰巳を追おうと決意した神居麗那は、いま着ている防寒具という名の重装備で雪の街に踏み出した。
海軍省への道のりは覚えているのだが、前に来たときは秋だった。今は打って変わり一面の雪景色で、そして街路には叛乱軍の兵士たちがそこかしこにバリケードを築いている様子は、穏やかな東京を内戦の様相に変えているようだ。その迷路の合間を縫うようにして、ものの数百メートルも行かない内に、麗那は迷ってしまった。迷子になったな、と事実に気付いた彼女は、なおさら恐慌状態に陥った。
さらに悪いことに寒さが耐え難くなって来た。身体の芯まで冷えたことから段々と眠気がさしてきて、両足がみるみると重くなってきたのを覚えた。
見るからに強気そうな顔から、とうとう弱音を吐き始めた。
「海軍省はどこなのー?眠いよー!寒いよー!お腹空いたよー!」
冬の東京。何処までも白い雪の中を、麗那は半分意地になって、ふらふらと歩き続けた。もはや何処を歩いているのか自分でも定かではなく、眼に映る光景を、空も、降り頻る雪に閉ざされる。
「本当に海軍省は何処だろう……」
寒さに耐えるものの、それに誘発効果により生み出された眠気に侵されながらも、雲の上を行くような足取りを進めていた麗那の意識が、その時ふっと遠くなった。
力尽きたように、ぼそ、と細かな雪を散らして、顔から倒れ込んだ。
「あ、気持ちいいな……」
気の強さを表す顔に、ほんわかとした表情が広がった。
もう冷たいのかどうかも分からないな、と呟きながら、そっとゆっくりと双眸を落として、雪に埋もれていく麗那。
その白い肌から見る間に体温が失われていく頃、夜が明け始めていた。
各々のビルの隙間から、冬の曙光が射してくる。しかし、日頃は通行人などが往来し始める時間帯だが、今は叛乱軍が各地で陣地を構えて封鎖しているから、粋狂な勤め人すらいない。
麗那を見つける者たちもなく、帝国海軍に超技術を齎した謎の少女も、このまま凍死するかと思われたときだった。
将校に指揮された叛乱軍の一隊が急ぎ足で通り掛かった。
何処かに配置につく途中なのだろうか。白い息を吐きつつ、軍靴に雪を跳ね上げながら駆け過ぎようとした隊伍の中から頓狂な声が上げた者がいた。
他の隊員は三八式歩兵銃を担いでいたが、その人物だけは独特な装備を両手に携え、全体的に黒色で統一されていた軍服を、その上で茶巾と一体となった外套を纏っていた一人の少女が、雪が降り積もり、人の形に盛り上がっているのに気付いたのだった。
「おや?どうしたのでしょうか。軍曹殿、お待ちいただきたいのであります。行き倒れであります!」
足を止め、くすんだ茶色い瞳でためつすがめつ眺めている。
人形とも思わせる表情には思いのほか、鋭いものがありそうだ。
隊列が滞っていることに気付いた軍曹が、顔を真っ赤にして走ってきて、その少女の頬をいきなり張り飛ばした。
「神州丸!貴様、行進の最中に立ち止まるとは何事か!」
「も、申し訳なくあります、軍曹殿!しかし、あそこに行き倒れがいるのであります!皇軍の一員として、地方人は助けるべきだと思いますが……!」
「口答えするな!我々は『昭和維新』の偉業に携わっておるのだ。左様なものに関わっている暇はない!」
三つ編みの少女こと神州丸を、一度は怒鳴り飛ばした軍曹だが、やはり気に掛かるのだろうか、その眼を向けてみた。
「わしが助けて、上官殿にお報せする。貴様たちは所定の位置に急げ!」
そう命じておき、急いで駆け寄った軍曹が、雪の中から行き倒れた少女を掘り出した。降り積もった雪を払い、引き上げてみると仰天した。厚い毛糸の帽子と襟巻き、オーバーコートに着膨れてはいる長い睫毛に縁取られた眼が大きな勝ち気そうな美少女。
しかし、身体が冷え切っており、身動き一つしなかったが、軍曹が抱き起こした時、微かに睫毛が震え、血の気を失った唇から、か細い言葉が漏れた。
「か……海軍省に……何処か、知りませんか……?」
それだけ言って、再び深い眠りに落ちた少女。
その固くなった少女を抱えた、髭面の軍曹はあたふたと周囲を見回した。
「このままでは隊列に遅れてはいられないな……」
そう軽々と担ぎ上げ、困惑しきった表情を浮かべたまま、大急ぎで駆け出したのだった。
その頃。辰巳は海軍省と連絡を取り付け、陸戦隊の兵数人とともに、品川駅に取って返していた。
一人は野戦用の無線機を背負い、全員が完全武装している。それも三八式歩兵銃ではなく、32連装スネイルマガジンを取り付けたドイツ製のベ式機関短銃(ベルグマンMP18)を携えていた。
叛乱軍の決起で、帝都は混乱の最中にある。品川駅は封鎖状態。辰巳と同行した海軍将校が、警備の憲兵大尉に身分を名乗った。
「軍令部の天童少佐だ。警備御苦労!」
海軍と陸軍の違いはあっても、軍では階級がものを言う。相手が少佐と知った憲兵大尉は踵を合わせて敬礼する。
構内に入った辰巳は、まっすぐ麗那が身を潜めた売店裏に急行した。
「麗那!遅れてすまない。戻ったぞ!」
呼び掛けながら覗き込んだ途端に、辰巳は顔色を変えた。
「しまった……!」
麗那の姿がない。周囲を探しても同じだった。
唇を噛む辰巳に、天童が問い掛ける。
「辰巳さん、神居嬢が出ていくのを見た者がいないか、聞き込んでみます。叛乱軍が女性に危害を加えるとは思いませんが、万が一という事もある!」
「すまない。油断していた。あいつを寒気の中に置いておいたら不安になって俺を探しに出たとしても不思議でない……」
畜生、しくじったな。という気持ちを込めた舌打ちをした辰巳が、通信機を背負った兵士に合図する。
よっこらしょと重たい通信機を下ろし、ハンドルを回して発電。電話機を取り上げて相手が出るのを待った。暫しの時が流れて、辰巳は真剣な口調で言い出した。
「山本か?非常事態だ。麗那が姿を消した!」
《なんだと?辰巳、そいつは不味いじゃないか。叛乱が収束して次第、俺たちは『竜宮城』に行く手筈だ。その時、彼女が居なくては手順が狂うぞ!》
受話器の向こうから聞こえてきたのは、驚きを滲ませた航空本部長・山本五十六の声だ。
「一号艦、二号艦に第二段階D装備を組み込まねばならないからな。彼らから受け取る資料が必要だ」
《聯合艦隊が演習を止めて、こちらに急行している。明日には品川沖に、長門率いる第一艦隊が入るだろう。主砲を向けられれば、奴らも無茶はするまい》
「万が一主砲を撃たれては、麗那の命もどうなるか分からん。それまで見つけなければならんな」
答えた辰巳が、ふと思いついたように言った。
「麗那の部下たちを呼んで、使うわけにはいかんか?」
《例の特別陸戦隊か。無理だろう》
にべなく、山本が言う。
《急にあんな代物が出てきたら、それこれ大騒動だ。それに彼らは真冬には動けない。神居嬢が居なくなったのもそのせいだろう?》
「ああ……確かにな」
俺の不注意だ、という沈痛な顔を浮かべる辰巳。山本は口調を和らげ、勇気づけるように言ってきた。
《此方としても帝国の軍備を高める機会を逃す訳にはいかん。警察にも話を通しておく。連絡を絶やさないようにしてくれ》
「分かった。三神はどうしている?」
《知らせてない。隠しても何れは分かるがな……一、二号艦の設計変更作業が終わるまで動揺させたくない》
「俺に任せてくれ。これでも腕に自信がある」
慎重な口振りになった山本に対し、辰巳も同意する。
《頼む。当面は俺も動けん。陸海軍相打つ事態は、何としても避けたいところだがな》
それだけ言って、山本は通信を打ち切った。
受信器を戻した辰巳は、コートを開き、背中に回していた杖を取り出した。樫の木と思われる頑丈そうな造りの杖だ。それもただの杖ではなく、見事な弧を描いている護身用の仕込み刀を携えて、辰巳は駅を後にするのだった……
今回はこのような感じで終わりました。惜しいことにすれ違った形でまた捜索せざるを獲ない展開となりました。
なお今回麗那を見つけた人物は相当迷いました、最初はあきつ丸さんにしようかと思いましたが、年代的にもまだ建造されていないため、同志と相談して神州丸さんに決めました。
なおオリジナル版の原作では人間国宝の落語家さんなんですよね、艦これ要素に因んで、ここでのガイドラインに引っ掛かるので変更になりました。御理解頂ければ何よりです。
なお辰巳たちが話した特別陸戦隊は、だいぶ先ですが、登場して活躍しますのでお楽しみを。彼らも麗那同様に真冬が苦手ですからね。
それでは長くなり兼ねないので、次回予告に移りますね。
次回も捜索の続きですが、今後辰巳たちを狙う人物が登場します。果たしてこの人物の正体は如何に!?
それでは、次回もお楽しみを。
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それでは第9話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)