蒼海の龍神艦隊   作:SEALs

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お待たせ致しました。
予告どおり、今回も麗那の捜索の続きですが、今後辰巳たちを狙う人物が登場します。果たしてこの人物の正体は如何に!?
いつも通り楽しめていただければ幸いです。

では長話はさて置き、本編であります。

どうぞ!


第9話︰麗那を探せ 後編

雪景色に包まれた早朝にも拘らず、街は騒然としていた。

 

「陸軍が漸く出動したな……」

 

そう呟いた辰巳。雪の中から履帯を鳴らしながら姿を現したのは陸軍の主力戦車・八九式中戦車が走ってきた。

しかし、彼はすぐに気づいた。戦車に随伴している兵士たちに真剣味がないからだ。

そのつもりで見てみると、配置されている各戦車部隊などは、叛乱軍と対峙する地点にはいない。

要所要所に配置されてはいるものの、それは何方かも言えば臣民たちを監視する姿勢を取っている。見方によっては、叛乱軍を支援する形になっていると見えないこともない。

 

「陸さんは本気で鎮圧する気はないらしいな。寧ろ陸軍の真意は青年将校たちに近いところにある。……今回の件で皇道派もだが、統制派もこれで却って衰退に追い込まれるかもしれないな」

 

辰巳は、舌打ちをした。

 

「我が海軍も、五・一五事件で煮え湯を呑まさせれたからな。決起した者たちは裁かねばならないが、収拾した後には決起した者たちの心情を酌み、軍の方針を過激な方向に旋回していく。

このままでは我が帝国はどんどん退っ引きならない立ち場に追い込まれていきそうです」

 

渋面をつくる。水無月に乗艦していた頃、提督の宗像五郎、現在は昇進して中佐となり、念願の飛行機畑で働くべく、第一航空戦隊の加賀で勤務に就いている。

これはD装備を海軍の主力装備とするように、と幾多の手を打った山本の考えによるものだ。

人事権は海軍省の人事局長にあるが、航空本部長の山本にも、そちら方面の人脈はあるのも、攻略に卓越した手腕を示す山本ならではだった。

D装備を活用すれば、一号艦娘、二号艦娘を、従来の概念を超えた超戦艦娘として建造出来る。そう誘導することにより、謂わば交換条件として、自身が見込んだ人材を、航空方面のラインに乗せるように人材局との合意に至っていたのだ。

 

宗像や水無月たちも同様に、将来の海軍を背負う人材という配慮がなされている。

実戦面に才能を発揮する宗像や水無月に対して、天童は中央に入った方が才能が振る舞われるだろうというものだ。

最初に辰巳や三神たちと接触したということもあり、天童は軍令部に働きどころを見出していた。

特に気負った様子もない天童は、淡々と仕事を熟している。

以前から目立っていた情勢を突き放して見るような言動にも一段と磨きが掛かり、帝国海軍では珍しいタイプの軍人に成長している。

 

「陸さんの気持ちは分からない事もないが、やり方がソ連に似ているように思います。連中は共産主義を目の敵にしているが、資本家や政党政治家たちを君側の奸と呼び、臣民の苦しみを解放しろ!と叫ぶのは、ソビエト共産党とそっくりですよ。その上に軍事クーデターとくれば、ロシア革命と同じじゃないですか」

 

天童は意味ありげな口調で言った。

 

「面と向かって言えば、陸さんは真っ赤になって怒るだろうがな」

 

仕方ないとばかりに、辰巳が頷いた。

 

「ソ連のすぐ近くに赤色革命そこのけの国が出来たと見れば、アメリカは黙っていまい。今は深海棲艦相手だが、何れは対米戦にもなり兼ねない事態は避けねばなるまい」

 

「辰巳さんは、その時に勝てる軍備を作ろうとしている……そうですね」

 

意味ありげなことを問う天童に対して、辰巳は何とも複雑な顔で頷いた。

 

「5年前……いや、君らにはもう12年前になるか。大震災の時、俺と深雪たちは彼らに助けられてな。その恩もある」

 

助けられたというが、細部は言葉を濁して、詳しいことは語らないため、天童も敢えて訊こうとはしなかった。

D装備は欧米の最新科学すら超えたものだが、軍人の仕事はその成り立ちを探ることではない。

 

与えられた装備を使って、戦いに勝つことだ。

天童は一介の少佐だが、現段階の日本軍では圧倒的な工業力と技術力、そして資材を持つ深海棲艦に勝てるとは思えない。

日清、或いは日露戦争など比較にならない難戦になることは明らかだ。そうした状況下、辰巳は希望を齎してくれた存在だ。戦争を指導する立ち場ならともかく、現場の軍人には、それで充分なのだから、と天童はそう考える。

勝てる戦争のために、行方不明になった少女を探し出すことが必要なら、その任務に命を賭す覚悟でいた。

間もなく、陸戦隊員の一人が目撃者を見つけ出してきた。

昨今の不況で職を失い、駅の近くで寝泊まりしている浮浪者だった。雪を凌ぐためにガード下で寝ていたら、ふらふらと歩き出す着膨れた少女を見たという。

 

「日比谷方面だな。よりにもよって、叛乱軍の本拠とはな。こいつは急がなきゃならんな」

 

辰巳は表情を険しくし、緊迫した街の中に、率先して駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

「木島軍曹。貴様、我々の決起を何と心得る。このような贅沢な鬘を被った娘など、我らが目指す昭和維新では敵方と見做すべきものだぞ?」

 

麗那を運び込んだ軍曹に対して、直属上官の安藤輝三大尉は苦虫を噛み潰したような顔を露わにしていた。

 

「申し訳なくあります、大尉殿。けれども、腐った政党政治を倒し、陛下の御親政を実現せねばならぬ義軍が行き倒れた娘を見捨ててもおけんでしょう。それこれ義軍にあるまじき薄情になりませんか」

 

規律絶対の皇軍で、将校に反論出来るのも、現場で叩き上げられた下士官ならではだ。歩兵第三連隊にその人ありと知られた安藤大尉も、確かに一理はあるな、というような表情を見せた。

 

「帝国陸軍は女子どもらなどと弱気者たちを助けねばならん。柔弱な風体でいようが、大和撫子だ。我らの薫陶を受ければ、必ずや正道に立ち返ろうが……」

 

安藤と木島軍曹が問題にしているのは、麗那の髪色が大和撫子の象徴とも言われるみどりの黒髪ではなく、何処か紅みがかった、羽毛のような髪であることだ。

それも西洋人が持つ独特な紅毛ではなく、黒い中に紅玉を閉じ込めたような深みのあるしっとりとした深紅だ。

 

「だが、困ったことに我が同志には軍医がいない。荒木閣下が陸相になられ、昭和維新が断行されれば、問題ないが、この娘、それまで持つかな」

 

蒼白な顔のまま、身体を冷え切らせて眠り続けている麗那を前にして、安藤は困感した顔で言った。

何れは陛下の赤子であり、日本男児を生む娘であることは確か。それまでに、この娘の身体を温めてやらねばならないが……

 

「決起の最中に若い女の肌に触れるというのも、どうにも承服しかねる。これは病院に送るしかないか。だが、地方人の医者を呼ぶわけにもいくまい。我らの行動に、邪推される余地があってはならない」

 

厳格な規律を誇りとする帝国軍人であり、純粋なだけに本気で悩む安藤だったが、やがて、ふと顔を上げて問い掛けた。

 

「この娘、海軍省に行きたいと言ったそうだな」

 

「はっ。その通りであります」

 

「親米英の海軍に弱味を見せるわけにもいかんな……軍曹。この女を、最初に発見した我が艦娘がいたな?」

 

問われた木島が、両眼を瞬く。

 

「神州丸という艦娘ですが。剣術を少々使いますが……」

 

「一人が欠けたところで、さほど影響はあるまい。その艦娘にこの娘を病院に連れて行かせろ。地方人の格好をさせてな」

 

その言葉に、木島は驚きを隠せなかった。

歩兵第三連隊の安藤と言えば、決起した将校たちの中でも、激烈な憂国家として名を馳せている。その彼が、一民間人の少女に優しさを示したことに驚きを見せているからだ。

 

「そんなにおかしいか。だが、昭和維新は財閥の搾取に苦しみ農村の娘を苦境から救い出すものものだ。手遅れにならない内に急がせろ」

 

安藤の命を受け、木島は直ちに神州丸を呼び出して、少女の護衛任務を命じた。

 

「それでは、自分は御役目御免でありますか?」

 

両眼をぱちくりさせ、口を尖らせる神州丸に対して、木島は顔を顰めて言った。

 

「言うまでもないが、この娘を送り届けたらすぐに帰隊せよ。逃亡は許さん」

 

そうですよね、と内心に呟いた神州丸は、仲間の兵が用意した地方人……民間人の衣服に着替え、次に少女の衣服を変えた。

 

手慣れた手つきで脱がせつつ、ほっとすると同時に失望した。

 

「おや?奇態なこともありますね。どういうことなのか、あなたお臍がありませんね」

 

手早く着替えさせたものだが、平らな腹には、確かに臍がなかったような気がした。

 

「蛙ではあるまいし、何かの見間違えでしょうか」

 

自分にそう言い聞かせながら、着替えを終わらせた神州丸は、オーバーを畳もうとした時だった。

内ポケットに入っていたと思われるものが、どさどさと、分厚い書類が床に散らばった。

 

「大変だ。一枚も欠けてしまっては泥棒にされてしまいます」

 

急いで集めなければ。慌てて拾い集めようとした時、音を聞きつけたのだろう。同じ隊に所属する伍長がやって来た。

 

「どうした、神州丸。なんだ、それは?」

 

伍長は、神州丸が拾い集めた図面を見咎めた。

青写真とは違い、くっきりした線で写し取られた何かの図面だ。それが精密な軍艦のものであると、一瞬で読み取った。

これは、と思ったのだろうか。伍長の双眸に青白い光が走ったように見えた。しかし、悟られないようにその光は一瞬で消え、急かすように言ってきた。

 

「早くしろ。どのように状況が動くか、分からんのだ」

 

「かたじけなくあります、伍長殿。では、行ってまいります」

 

敬礼した神州丸は、少女を背負って、陣地を後にした。

 

 

 

叛乱2日目。

陣地を出た神州丸が目撃したのは、決起将校が集まってきた臣民たちに、決起の趣旨を主張している演説だった。

いたずらに激越に叫び上げる青年将校の姿。それを集まった群衆が囃し立て、次々に別の将校たちに演説を求める光景が見えた。

首を傾げながら、武装決起の最中とも何とも思えない妙に賑やかな光景、と眉を顰めいた神州丸は独語した。

 

「つまり……何でしょうか。庶民にとっては、大尉殿の憂国の思いより、ぱあっと派手に重苦しい事を破ってもらいたい事なのでしょうか」

 

大衆は強いのであります、と、呟いた神州丸は、少女を背負ったまま早足に歩く。

このまま真っ直ぐに行けば、かなり大きな病院がある。問題は、行く手に正規軍の戦車が横腹を向けているのを見て、なんとはなしに心が怖気づいた。

 

「一艦娘とはいえ、罪に問われられないだろうが、どうもいけないのであります」

 

泥棒というものはこんな気持ちなのでしょうか。一艦娘の立ち場だから、上官の命令に従うのは絶対だ。叛乱軍と言っても逮捕されることはないだろうが、やはりそうした行為に加担したという後ろめたさがあるな、と神州丸は内心に呟く。

 

「兵営の仲間たちを残して自分だけ娑婆に出ている気持ちにもなりますね」

 

もちろん戻って来るように、とは言われたが、このまま師団司令部に駆け込んでも問題はないものの、何というか、仲間を裏切っているような居心地があります、という気持ちが重なって、つい横道に逸れた。

騒然としている帝都だが、それだけ裏通りを通る者たちはいない。ここならば早く病院に行ける。と思い、病院に急ごうとした矢先……

 

「待て、神州丸!」

 

いきなり行く手に立ち塞がった男がいた。

その顔を見て、神州丸は驚いた。

つい先ほどまで、すぐ近くにいた伍長。しかも同じ連隊の倉持伍長だ。この男は妙にインテリ振った知識を振り回し、虫が好かない上官だ。

 

「倉持伍長殿。自分はこの娘を病院に連れていくところでありますが……」

 

しかし、上官は上官だ。

今は背筋を伸ばさなければならないところだが、少女を背負っているためそうはいかない。だからこそ可能な限り背筋を伸ばし、敬礼して言う。

 

「何故連隊と行動を共にしているはずの倉持伍長殿がここに?」

 

聞こえないように小声で呟いた神州丸は、疑問がよぎった。

しかし、倉持は答えない。右手に南部十四年式拳銃が握られていた。

 

「その女を俺に渡せ。海軍の資料を持っているとは見過ごすわけには出来ん!」

 

日頃とは打って変わった冷たい音声に伴い、尋常ではない光を湛えていたのだ。しかも彼らを指揮し叛乱に踏み切った安藤大尉や香田大尉ら、昭和維新の完遂に燃える青年将校たちの顔と同じく、自らを正義と信じて、他の考え方は全て敵と見なして排除する狂信的な淫祠邪教の教祖や宗教家たちにも通じる眼だ。

その眼をつい先ほど見た気がした、確たる根拠を確信した神州丸は呻くように言った。

 

「い……嫌であります、倉持伍長殿。自分は貴方が普通ではないように見受けられます。海軍の資料なら、海軍にお返しするのが筋だと考えられます」

 

つかえながらも、懸命に言い切った途端、倉持の形相が一変した。

 

「やはり貴様も海軍の艦娘かつ資本家の走狗!我が革命の敵め、許さん!」

 

怒声とともに、引き金を絞る指に力が籠もる。

神州丸は思わず眼を固く閉じたものの、この娘だけは我が身に変えてでも守らねば、と、精一杯腹を突き出すようにして、背中の少女を護ろうと試みた。

 

しかし、覚悟していた銃撃が不思議と襲ってこなかった。

 

銃声の代わりに聞こえたのは、腹に響くような気合いに伴い、寒風すら断つような一瞬の疾風が轟いた。

剣術を修めていた神州丸は、それが腕に覚えのある使い手によって振るわれた日本刀の斬撃だ。と察しがついたのだ。

続いて、どっさりと何かが雪の上に落ちる音。そして水が噴き出すような異音が重なった。

不思議に思いゆっくりと眼を開けると、拳銃を握り締めた右手が雪に埋もれ、倉持が二の腕から先を失い、鮮血を噴出させて、茫然と立ち尽くしていた。

 

「これは……!?」

 

一体何が起きたのでありますか、と思われた時、仰天した神州丸の肩が軽くぽんと叩かれた。慌てて振り向くと、引き締まった顔立ちの男が秋霜と煌めく日本刀を八双に構えたまま、戦闘的な笑顔を向けていた。

 

「君は叛乱軍の艦娘かね?」

 

問われた神州丸が、大急ぎで姿勢を正して、声を張り上げた。

 

「はい、陸軍特種船の神州丸です!」

 

「そうか。俺は海軍予備役大佐、辰巳恭介。その娘の保護者だ」

 

そうですか、と神州丸が安堵をついたのも束の間。

 

「き、貴様……!」

 

呻き声を上げ、手を切り落とされた倉持が、眼を血走らせ、手負いの野獣さながらの形相で飛び掛かってきた。だが、すんなりと身を躱した辰巳が峰を返し、首筋を一撃した。

避け切れなかった倉持は眼球が反転、前のめりに倒れ伏す。

すかさず躍りかかった陸戦隊員が、傷口の止血を施し、しっかりと縛り上げた。

この光景を、神州丸は唖然として見守っている。

彼女が我に返ったのは、背負っている少女を、川神が抱き取った時だった。

 

 

 

その夜。品川沖に長門と陸奥が入港。叛乱軍が本部としている帝国ホテルに主砲を向けた。

 

さらに3日後。速やかに鎮圧せよ、と幾度も陛下が下したにも関わらず、一向に動かない陸軍に業を煮やした陛下が、とうとう断を下された。

 

「このうえは、朕自ら、近衛部隊を率いて鎮定にあたる」

 

と仰っり、兵馬を用意せよ、と錦の御旗を自ら持って鎮圧に出掛けると仰った。

もしもこうなったら後醍醐天皇以来、約600年振り。陛下自らが兵馬を率いると言う大変な事態でもある。

ここに至っては、陸軍も腰を上げざるを得なかった。

 

「詔勅下ル、軍旗ニ刃向カウナ」

 

大きく書かれたアドバルーンが上げられ、叛乱軍と規定されたことを知った青年将校たちは、部隊を解散させて自決。或いは投降して、真冬のクーデターは終息した。

因みに叛乱軍の首謀者たちが自決すると言うから、『勅使を派遣してくれ』と言うが……陛下は『何を馬鹿なことを言うのか。何故にそんなクーデターの首謀者たちが自決するのに勅使を派遣するのか、勝手にしなさい』と言われている。

 

そして昭和十一年秋。⑩計画の中心に据えられた超大型艦2隻が呉と横須賀で起工された。

一号艦と二号艦。同型艦として設計された筈だが、この2隻は艦体こそ同じだが、艦内構造は全く違う艦として建造されていた。

それこそ帝国海軍の戦備に革命的な変化を齎してくれたD機関――海軍予備役大佐・辰巳恭介が齎した未知の技術によるものと知っている者は、海軍内部でもごく一部の者たちに過ぎなかった。

 




これにより、長かった二・二六事件が終わりを迎えたとともに、舞台裏での出来事も無事終わりました。
改めてこの事件どちらの言い分も分からなくありませんが、やり方が不味かっただけなのでそこを理解してくれる方々は少ないんですよね。
話は逸れますが、今回出た伍長はまた登場することもありますのでしばしお待ちを。登場する時点で何を企てるかもありますが。

次回はさらに時間が進み、山本さんが主役回となります。
中里先生の架空戦記らしく、またネタを加えられたら良いな、と思っています。

それでは、次回もお楽しみを。
なおお気に入り登録、そして感想を頂けると励みになりますのでよろしくお願い致します。

それでは第10話まで、ダスビダーニャ(さよならだ)
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