いしきのまじん 作:流浪の職員
エサをやるな。
知るな。
閉じ込めろ。
1.にんしき
「そういえば影さん。」
「どうされました?」
一心浄土にてかの稲妻を治める神、
「影さんって、魔神戦争の時にその刀でヤシオリ島を両断したんだよね?」
「えぇ、そんなこともありましたね。」
「ヤシオリ島以外の島って、斬ったりしてない?」
「いえ…私の記憶で意図して斬ったのはあの島だけですが…何かあったんですか?」
旅人が話し始めた段階で影は手を緩め、なんとなく刀を振るう程度に留め話を聞いていた。鍛錬よりも話を取るほど、影が旅人を重要に思っている証拠である。
「うーん…実はこの間鶴見に行ったんだけど…」
「おや。中々遠いところまで行きましたね。」
旅人が悩んでいそうなことから影も完全に手を止め、双方共に武器をただ持っているだけになった。
「その時、海祇島の方向とは真逆の方に島があるのが見えて___」
瞬間。
「もうその島には行きましたか!?」
刀を仕舞っていた影が旅人の両肩を強く掴み、鬼気迫る表情で強く問いかけた。その目にはどこか焦りが伺える。
「い、いや…まだだけど…?」
「……すみません、旅人さん…怪我はありませんか?」
「う、うん大丈夫。」
旅人の返事に安堵した影はゆっくりと旅人の肩から手を離した。
「ねぇ影さん。その島には何かがあるの?」
「………」
影はものすごく悩ましい表情で、口元に手をあて考えた。そして暫くの無言の間が過ぎてから影はようやく口を開いた。
「……旅人さん。あの島について知ろうとしてはなりません。今後一切の調査、及び島に訪れること、あの島について他人に尋ねることを禁じます。申し訳ありません。」
旅人は、各国で自由にすることを神々が許した存在である。影もそれは例外ではない。
しかし今、影は旅人に禁止すると命令を出した。お願いや頼みでは無く、命令したのだ。
「……それだけの何かが、あるんだね?」
旅人も馬鹿ではない。今までの経験や、影の様子からとてつもなく規模の大きな何かがあることは理解していた。
「えぇ…あの島には、魔神戦争時代に私達七神が滅することも、殺すことも、更には
影から告げられたのは衝撃の事実。
現在のテイワットにおいて、魔神というものは七神を除き、その殆どが死亡、又は封印されている。そうして最後まで残った魔神を人々は神として崇め、その七神以外の魔神は現在活動していないこととなっている。
しかし影が言ったことは、それを覆すことにほかならない。
「封印すら出来ないって…どういうこと!?」
「……この話は他の神も交えた方が良いでしょう。旅人さん、後日貴方の塵歌壺を貸して頂けますか?」
「それは良いけど…私もその話聞いて大丈夫?」
「えぇ。呼び出すのは…そうですね、風神バルバトス。岩神モラクス。草神ブエル、マハー…今は違うんでしたか、クラクサナリデビ。以上3名だけで構いません。」
「そうなの?フリーナ…水神と、忙しいかもだけど炎神も呼べば来てくれると思うけど…」
「確か、フォカロルスは既に神の座を捨てたのでしょう?炎神も同じく世襲制ですから…このことについては知らないでしょう。ですので呼ばずにいて大丈夫です。」
「そういう意味では、ナヒーダも知らないと思うんだけど…」
「スメールは稲妻とも距離が近めですので…それに、彼女の知恵があって困ることはありません。それと、もし他の神達が同行させたい者がいたならば、連れてきて頂いて構いません。」
「わかった。じゃあ…影さんはいつがいい?」
「欲を言えば明日にでも。ですが各神にも予定があるでしょうし、全員が揃ってから呼んで頂ければそれで構いません。」
「わかった。」
「あ、すみません。一つ言い忘れました。各神には、私が『赤い鳥』についての話しがあると伝えて下さい。気になるのであれば水神と炎神に尋ねても構いません。」
「うん、任せて。なるべく急いでくるよ。」
こうして旅人は各国をその日のうちにワープして周り、公式なものではないということもあり、翌日に会談が開かれることとなった。
そうして翌日、旅人の塵歌壺の一番広い部屋には、各国のそうそうたる面々が集められた。
円卓を囲うように座り、皆が緊張した面持ちで影を待っている。
「揃っているようですね。」
影は部屋に入り、自身の目で見てもこの話を聞くに値する者達が集まったことを確認し、空いた席についた。
「それでは話を始めましょう。」
今回集められたのは、8名。
ウェンティこと、自由の国モンドの神、風神バルバトス。
今は鍾離と名乗る、契約の国璃月の元神、岩神モラクス。
その岩神に仕える仙人夜叉、降魔大聖、護法夜叉大将、魈。
今回の主催者、永遠の国稲妻の神、雷神影。またの名を雷神バアルゼブル。
2代目知恵の国スメールの神、ナヒーダこと草神ブエル。
フォンテーヌの実質的な統治者。水龍、ヌヴィレット。
そして各国を旅する旅人こと、蛍。
そのガイド役を努める
以上の者達がこの部屋に集められた。
「早速始めましょう。既に旅人さんから聞いているとは思いますが、今回お話したいのは『赤い鳥』についてです。」
「…動いたのか?」
「わかりません。ですが、旅人さんが例の島を見つけたとおっしゃいましたので…」
「やりたくないけど、それなら僕が飛んで…」
早々に加速する各員の話。旅人とパイモンは概要すら理解できておらず、既に置物状態だ。
「待ち給え。」
「貴方は…」
「話を遮ってすまない。フォンテーヌより、元素七龍が1人水龍ヌヴィレット。本来であればフォカロルスが参加するべきだが、今の彼女は力になれないため、私が来た。」
「わかりました。龍の貴方からすれば私達は敵同然だと思いますが…今は協力して頂けると、考えて問題ありませんか?」
「あぁ。声を上げた理由だが、まず旅人にこの度の説明をすべきと判断する。この顔では、恐らくまだ何も説明していないのだろう?」
「ヌヴィレット…!」
「お、お前…!」
旅人とパイモンは歓喜した。これ程重大であろう話についていけていない自分に気付いてくれるとは。
「あっ…申し訳ありません。焦り過ぎていたようです。ではまずは、
「旅人、お前は今回の件、どこまで聞いている?」
「まだ何も。あの島を見つけただけで、他の人に聞くこと、調べること、島に行くことを禁止されたぐらい。」
「賢明だな。お前ならば大丈夫だと安心したいが、事が事なだけに契約しておきたくなる。」
「私は良いんだけど…」
「爺さん、万が一の時、旅人を頼ることが出来なくなるよ?」
「わかっている。だから迫ることはしない。」
「ひとまず私から説明しましょう。まず、あの島には私達七神の力でも封印すらできなかった魔神が存在します。」
「うん、一心浄土でも言ってたよね。」
「私達は性質上『赤い鳥』と呼んでいますが、正式には『赤い』の部分は【緋色】となります。」
「じゃあ、『赤い鳥』はほんとは【緋色の__」
「言うなッ!!」
「___ひうっ!?」
旅人は目を見開いた。
あの万人に優しさ向け、常に冷静な鍾離が、見たこともない焦った表情で、机を強く叩きながら立ち上がり、大声で怒鳴りつけたからだ。
怒鳴られたパイモンは驚いて言葉を詰まらせ、恐れた表情で鍾離を見ている。
「………すまない、パイモン。強く言い過ぎた。」
「お、おう…」
「だが覚えておいてくれ。その続きは、絶対に口にしてはならない。書くのも駄目だ。それを覚えておいてくれ。」
旅人は各人の様子を目で見ると、ナヒーダ以外皆ホッとした表情をしていた。
「旅人、パイモン。まさにこれが、あの島の魔神の恐ろしさなんだ。」
「吟遊野郎…オ、オイラ…何をやっちゃったんだ?」
「それを説明するには、あの魔神について説明する必要があります。」
影から語られたのは、忘れ去られることを是とした、今再び脅威になる魔神についてだった。
魔神には、それぞれ性質があります。私は雷。モラクスは岩。バルバトスは風。クラクサナリデビは草。
しかし、かの魔神はそれらどの性質にも当てはまらず、私達七神とも
かの魔神は…『意識の魔神』、と我々は呼んでいます。というのも、正式な名前が言えないのです。
あの魔神は、私達を精神から殺しに来ます。先程パイモンさんが…【緋色の】に続き、【鳥】まで言ってしまうと、即座に魔神の精神世界に連れ去られ、気付いた頃には精神が崩壊し、肉体も死に至ります。私達でも、未だに抑えるためにとてつもない力を必要とするのです。
トリガーとなるのは、あの魔神について【知る】ことです。えぇ。ですので、既にここにいる者達はいつでも、言葉一つで死にます。
一般の民であれば【緋色の__で、口にした本人の精神ごと連れ去られるでしょうが、我々七神クラスならばまだ抵抗できます。しかし、より厄介な【
幸い、本神が積極的に連れ去ろうとしなかった為、あの島に自ら篭っているのです。そのうえで我々七神とその魔神で人避けの結界のようなものを作りました。
ですが、旅人さんがあの島を目視した以上、何者かがあの島に辿り着いてしまった可能性が高い。島には、今でもかの魔神に関する資料が残っていることでしょう。
もし資料が見つかり、その場で祝詞を見たならば一人の犠牲で済みますが…もし、島外に持ち出された場合…
蛍とパイモンは、ようやく影達がここまで警戒する理由を理解した。いや、理解してしまった。無知であったならばまだしも、
「…旅人、パイモン。わかってくれたか?」
「しょ、鍾離…オイラ…オイラぁ…」
「大丈夫だ。パイモン。まだ、ギリギリ大丈夫だ。」
「旅人…我も、この話題については何度も、何度も…それこそ仙術を用いてでもどうにか忘れようとした…が、それが叶うことはなかった。」
「わたくしの最も古い記録に、該当する知識があったわ…これは…想像以上……いえ、それすら超えるものね…」
「かの魔神もそれを自覚してくれている。故に、自ら忘れられることを望んだ。」
「ですが、島が見つかった以上…」
それは、最悪を意味する。
可能性がある以上、一切の安心が許されない存在だ。あの魔神を1カ所に留めるためには、誰もが存在を忘れる他ない。
しかし広めない為に、限定的な知識を持つ者達で対処することは出来る。
「旅人さん、今後注意して頂くために、【祝詞】の冒頭だけは知っておいて下さい。何者かが唱えようとした場合、何があってもそれを止めてください。」
「旅人、俺からも頼む。これ以上広げるわけにはいかない。」
「僕からも頼むよ。」
「わたくしからも、お願いするわ。」
「私からも、よろしく頼む。」
蛍は過大な責任者を感じながらも、それだけの脅威であることを【知って】しまった為、嫌とは言えないし、言いたくない気持ちでいっぱいであった。
「旅人さん、【祝詞】は全て唱える、見るのどちらかが成されると確実に死に至ります。ですが、序盤の方だけでももう7割手遅れの状態であることを、覚えておいて下さい。それほど早く、簡単で、強力なんです。」
「間に合わないと思ったら、即座に耳を塞ぎ、目を瞑れ。お前だけでもその場を生き延びて、俺達に知らせてくれ。魈も、良いな?」
「はい。」
「もし連れ去られてしまったら、気合いで【祝詞】を書くんだ。でも、書いたものを再び見てはいけないよ。壊すなりして、二度と読めないようにするんだ。」
「わかった。」
「オイラもわかったぞ!それで、その【祝詞】って…」
「えぇ。それは…」
奇しくもそれは、丁度同じタイミングだった。
稲妻にて、宝を求めて大海原を彷徨っていた海賊モドキの宝盗団は、たまたま見つけた島に上陸し、宝を求めて探し回っていた。
そして、見つけた。
元は岩でできてたのであろう。建物の壁に、赤く、紅く、朱い模様がついていた。
いや、果たしてそれは本当に模様だったのだろうか。
違う。宝盗団達は少し近寄ったことで、それが
「【あかしけ やなげ 緋色の___】」
___鳥よ。
SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)
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SCP-444JP 認識の鳥
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