いしきのまじん 作:流浪の職員
くさはみ
ねはみ
旅人は影から【祝詞】を聞いた。
初めて聞いたその言葉には、畏怖と、恐怖、そしてどこか慣れ親しんだ感覚を味わった。
「___旅人。」
「はっ!?」
気付けばヌヴィレットの顔が蛍の目の前に。
「ご、ごめん…少し、ぼーっとしてたみたい…」
「大丈夫だろうか。何か、赤いものは見なかったか?」
「うん、それは大丈夫。【祝詞】に少し思うところがあっただけ。」
「……もしかして、懐かしかったりしたのかしら?」
「うん…よくわかったね。」
「お前ならば問題ないだろうが、それも厄介なものの一つだ。」
「僕達もなんだ。恐ろしいが、暖かい。おぞましいが、懐かしい。」
「この『慣れ』が、容易に口にしてしまう原因にもなるのです。私達がここまで警戒する理由の一つでもあります。」
【祝詞】の冒頭部分だけでも充分に件の魔神の恐ろしさを伺った一同は、一度飲み物とお菓子を用意し、改めて対策について話し合うことにした。
「さて…件の島への対策についてですが…私としては、各国の入国審査を厳しくするほか無いかと。」
「確かにそうだろうな。どこまで広がっているか分からない以上、やれることはそれぐらいか…」
「想定される最悪は、各国の港以外で上陸されることだろう。もし宝盗団のような無法者によって発見された場合、その可能性が非常に高い。」
「スメールに直接来る可能性もあるわね…傭兵団が活発だから、そういった品物も集まりやすいはずよ。」
「……と、なると…僕達はそれぞれの国で警戒する他ないってことだね。」
各神達は頭を悩ませている。
アレは一つの災害。流行風邪以上の速度で瞬く間に広がっていく即死の呪い。
そんな神の話を聞き、旅人は一つ、とてつもなく嫌な考えが浮かんでしまった。
「ねぇ…ひとつ聞きたいんだけど…」
「ん?どうかしたか?」
「私は会ったことないからわからないけど、氷神はその魔神について知っているの?」
「えぇ。七神や龍、長く生きる者で、あの魔神を知らない者は居ないわ。」
「……じゃあさ、『ファデュイ』ってその魔神のことを知ってると思う?」
神達は気が付いた。
確かに、氷神もかの魔神については意見が一致していた。そう、
しかも昨今のファデュイ達は、好き勝手し過ぎと言われても仕方がないレベルにやらかしてくれている。
「隊長は話しが解る人だったし、召使も…きっとわかってくれる。でも…」
「……公子殿か。」
「うん…フォンテーヌでもやらかしてくれてるし…あとは博士も怪しい。」
「…やりかねないわね。」
今まで起こしてきた事件を振り返って、改めて今回も手を出してくる可能性はある。
「………最悪だ…」
「…完全に失念していた。旅人、感謝する。」
「と、なると…」
「うん。今すぐ国の隅々まで見てみる必要があるね。」
神々の意見は一致した。
本日はこれで一度それぞれの国へ戻り、最大限警戒するに留めることとなった。
解散する際、事が事なだけに、緊急連絡手段として神たちによって調整されたアーカーシャ端末が配られた。かつてのような検索機能は無いが、連絡だけならば可能な代物だ。
旅人はナタをメインにテイワットを飛び回り、普段通りに過ごしていた。
あれから1週間ほど。宝盗団やファデュイを見かけ次第倒して周り、彼らの荷物等を調べていたが、特に何も見つからず、警戒のし過ぎだろうかと気を緩めていた。
今日は旅の食料調達がてら、璃月港に来ている。ひとまず馴染みの万民堂にでも行こうかと思った矢先、見覚えのある友人の姿を目にした。
「あっ、おーい鍾離ー!」
「…お前たちか。」
席に座り、茶を片手に璃月の街を眺めていた鍾離は、昼食をとろうとしていたこともあり、蛍とパイモンを同じ席に座らせた。
料理を食べ終え、食後の茶を楽しみながら、近況報告の流れになった。
「鍾離先生、璃月で何か変わったことは?」
「いや…旅人達は何か見つけられたか?」
「なんにもなかったぞ…」
「うん。ナヒーダ達からも連絡ないし…」
「うむ…ならば、今はまだということだろうな。」
互いにあれから何もなかった事を報告しあい、被害がない事を確認した。スメールやモンド、稲妻も同じようなものなのだろう。
「旅人、鍾離先生、少し良いかい。」
その時、この
「お前は…タルタリヤ!」
「久しぶりだね。少し聞きたい事があるんだ。」
乱入者の正体はファトゥス十一位『公子』タルタリヤ。今現在かの魔神に最も関わってほしくない、ファデュイの中でも問題児筆頭の男である。
しかし今の彼はいつもの軽薄そうな笑みを潜め、焦りを前面に出している。
「どうしたんだ?そんなに焦ってるなんて、お前らしくないぞ…」
「あぁ…今ファデュイの中で、少し…いや、とても大きな問題に直面していてね。」
「大きな…また何か企んでるの?」
「…企んで“いなかった”といえば嘘になるが…今はそれどころじゃないのが本音かな。」
「ふむ…何か事件でもあったのか?」
「事件…まぁ、因果応報とも言えなくはないけど…先生、『赤』、それから『鳥』。この2つの言葉に関係する何か、知らないかい?」
最悪だ。
既にファデュイは例の魔神を知り、特大の地雷を踏み抜いたらしい。
「……先生…」
「…あぁ…最悪だ。」
「その反応からして、ファデュイはまたヤバイことに首を突っ込んだようだね…弁明させて貰うと、今回の件は断じて俺じゃない。」
「はぁ…こうなったのなら緊急連絡だ。旅人、また塵歌壺を借りる。」
「うん。皆を呼ぶね。」
そうして数週間ぶりの塵歌壺会議。緊急連絡によりすぐさま全員が集められたのは会議室には、前回よりも人影が増えていた。
「皆、恐れていた事態が起きた。」
「ついにファデュイにも知られてしまいましたか。」
今回は公子タルタリヤ、放浪者、八重神子、隊長、召使が新たに参加した。
「……今回の件、改めて俺から謝らせてくれ。」
「待て。私は何故呼ばれた?」
「アビスへの対策で忙しいんだが…」
「神々とファデュイがこれだけ集まっているんだ。それに僕だって暇じゃない…余程関係することなんだろうね。」
頭を下げる公子に、突然連れてこられた召使、隊長は困惑し、有無を言わさず連れて来られた放浪者は怒りを顕にしている。
「説明させてもらう。今、璃月方面のファデュイ達の間で、謎の奇病が発生している。その病について鍾離先生に聞いたところ、この会議に呼ばれたってわけだ。」
召使と隊長はタルタリヤが強引に、放浪者はナヒーダが連れてきた。
しかしその病についても初耳だった隊長らは、首を傾げるばかりだ。
「……恐らく、唱えた方が早いでしょう。皆さん、今一度心を強く持ってください。
【あかしけ やなげ 緋色の___」
「止せッ!!!」「辞めろッ!!!」
影による【祝詞】は、脂汗をダラダラと流した隊長と召使により止められた。どうやら二人は何か知っているようだ。
しかし何も知らなかったであろう公子と放浪者も、同じく脂汗を流しこの【祝詞】の恐ろしさを実感した。
「……お二方は、何かご存知なのですね。」
「………俺は…召使?」
「ハァッ…!ハァッ…!」
召使の様子がおかしい。
ここにいる他の者達は脂汗を流す程度に留められていたものの、召使は明らかに顔色が悪くなり、過呼吸を繰り返していた。
「ハァッ……くっ…」
「召使!」
「ひとまず座らせろ!」
膝を付く程に消耗した召使を椅子に座らせ、落ち着くまで待つ。
暫くして彼女が落ち着き、ようやく話を再開できる流れとなった。
「さて、これが奇病とやらか?公子、これはナタまで拡大しうるものか?」
「恐らくな。…さっき雷電将軍が唱えた言葉と、その文字を見た者達が次々に狂って死んでいくんだ。だが俺が出る直前だと、その狂っている様を見るだけで狂い出す。」
「待て、公子殿。
「あぁ…」
「…今一度、“認識”を改めましょう。まず、スネージナヤの皆さん。此度の奇病と呼ばれるもの、これは魔神が関係しています。」
「………相棒、君は行く先々で魔神に出くわすね?」
「…………これは…望んだことじゃない…」
「我々は便宜上『意識の魔神』と呼んでいますが、その名の通り、知覚し、【祝詞】と呼ばれるキーワードを呟く、聞く、又は見ることで精神世界に連れ去られ、発狂し、死に至る。」
「ならどこでその祝詞が見つかったかじゃが…」
「稲妻のとある島に自ら篭り、我々で人避けの結界を貼っていたのですが…偶然島が見つかってしまったのでしょう。それより問題は、発症する条件が緩くなっていることです。」
「……このままなら、狂った者の…血を、見るだけで、発症するだろう…」
「あなた…大丈夫かしら?」
「…すま、ない…私は、昔一度…狂い、あの【原野】から帰ってきた…」
「生還しただと?ありえない…アレは唯の人に耐えられるものではない。」
「ひとまず、広がってしまったものは仕方がありません。これより私は、例の魔神の元に直接出向きます。」
「なっ…バアルゼブル、正気か?」
「モラクス。かの魔神ならば、戦闘にはならないと考えます。それに、一番これを理解しているのは本人でしょう。」
「私は賛成だ。拡大を止める可能性があるのであれば、それに掛けるべきだ。」
「………わかった、俺も行こう。かつての武神が二人いれば、最悪でも少しは抵抗できるだろう。」
「旅人さんも、同行をお願いします。」
「既に狂った者はどうすればいい?」
「今はどうにも出来ないじゃろうな…影達が何か得るまで、隔離して放置する他あるまい。」
「そうね…病気も広がりそうだから、その辺りにも気を付けて。」
「うん、タルタリヤ。どうにか現状で抑えておいて欲しい。」
「言われなくても…これはヤバイからね。」
「隊長や召使達も、充分注意して。」
「あぁ…今のナタで、お前に抜けられると厳しいものがあるが…なんとか耐えよう。」
「ごめん…」
方針は決まった。
現状、発症が拡大しているファデュイは隔離し、その遺体や血は絶対に見ないよう徹底する。
雷電、旅人、鍾離、八重神子は件の魔神の元へ向かう。
それ以外の面々は自国での警戒を最大限に。
これ以上時間を掛ければ、今後どこまで被害が拡大するかわからない。故に、即座に行動に移した。
いざ、対面の時。
〜余談〜
「…なぁ旅人。」
「うん。隊長、タルタリヤ、召使、かさっち。」
「「「かさっち?」」」
「僕をその名で呼ぶなと…で、まだ何かあるのかい?」
「今回、ファデュイがまた何かを見つけてこうなった訳だけど…これって偶然?」
「……いや、ファデュイは上下関係が厳しい。部下が独断で何かする可能性はゼロに近い。」
「執政官の誰かの指示によるものだろう。私も今日【祝詞】を聞くまで忘れていたからな…」
「新たに、誰かが嗅ぎつけたんだろうね。」
「………一応聞くけど、心当たりは…?」
「「「「
「即答だぞ…」
「しかも誰も疑うことなく一致したね…」
当然の帰結であった。
けをのばせ
今回“も”難産どころか迷走してました。
…未だにオリ主君出てないのマ?