いしきのまじん   作:流浪の職員

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 プラシーボ効果
 偽物の薬でも、患者が本物と思い込むことで症状の改善が見られることがある効果。
 (※別名︰プラセボ効果、偽薬効果)



4.やまいは“き”から

 

 ___赤い。

 空が。大地が。何もかもが赤い。

 唯一赤くないのは、旅人達とその影だろう。

 

 “ねこ”により連れて来られた赤い世界。旅人は周りを見て、影達がいることを確認し、少し安心した。

 

 

「赤い…目が痛くなりそうじゃ。」

 

「しょ、鍾離!こ、こここ、ここはいったいどこなんだぁ!?」

 

「………お前達、先の会議で召使殿が言っていたことを覚えているか?」

 

「え?えーっと…」

 

「狂い、【原野】より帰る…」

 

「そうだ。彼女の言っていた【原野】と言うのが、ココだ。」

 

 

 草木はあらず。海も、崖も、山もない。視界の果まで広がるは広大な赤き大地と、境界がわからなくなりそうな程に赤い空。色ムラが見られなく、雲一つ無い快晴なのだろう。

 旅人は改めて辺りを見回した。

 どこまでも続く、赤い空、赤い大地。

 

 

「旅人さん、気を確かに。」

 

「旅人、己を見失うな。一度見失えば、あれらの様になるぞ。」

 

 

 鍾離が指差したのは、平らな大地に所々ある、盛り上がり。

 それは人。

 人だったもの。

 手が無い。足がない。目がない。首がない。上半身がない。下半身がない。腹がない。ない。ない。ない。ない___

 

 

「旅人!」

 

「ッ…!」

 

「おかえりなさい。です。」

 

 

 旅人はその身で恐ろしさを味わった。こうも簡単に狂いだせるのかと。

 それと、気付かぬ間に、いつの間にかいた“ねこ”。

 

 

「猫…お前いつの間に…」

 

「ねこです。ねこはどこにでもいます。」

 

「猫殿。ここにあの魔神がいるのだろうか。」

 

「ねこです。あるじはここにいます。ねこは目立つ。ます。あなたたちも目立つ。ます。すぐにあるじはとんできます。」

 

 

 “ねこ”の言葉通り、一行に大きな影がさす。

 見上げてみれば、

 

 

「___【緋色の鳥】…」

 

 

 大きな、大きな【緋色の鳥】が、こちらに向かって嘴を向け___

 

 

「も、もしかして…」

 

「ッ、来るぞ!」

 

 

 鳥は大地に降り立った。風圧でパイモンが飛びされそうになったが、間一髪“ねこ”が捕まえた。

 大きい。稲妻の城程大きいのではなかろうか。無機質な目が、旅人達を見つめている。旅人達も、その目をじっと見上げている。

 鳥は、口を開いた。

 

 

『誰、何者、何奴、どちら様。』

 

 

 鳥は声を上げた。本当に声なのだろうか。頭に響く。本能に響く。不思議な声色。

 影達は【鳥】の大きさに驚き、目を見開き硬直している。

 

 

『………ねこ、ねこ。』

 

「はい、ねこです。ねこはここにいます。」

 

『記憶、過去、思い出。異なる、違う。不明、わからない。』

 

「ッ…意識の魔神よ!私はバアルゼブル、稲妻の地を治めていた雷の魔神です!」

 

 

 自身の役目を思い出した影は、焦りながら名乗り上げた。

 

 

『稲妻…バアルゼブル……お前か、其方か。なれば、お前はモラクスか。』

 

「あ、あぁ…久しいな、魔神殿。」

 

『久しい、懐かしい。だが、しかし、でも。どうした、何があった。外は、世界は、【祝詞】は。』

 

「現在、【祝詞】により狂い死ぬ者が増えています。あなたの方で、何かわかりませんか?」

 

『【祝詞】…否、否、否。恐らく、たぶん、きっと。【祝詞】では無い。』

 

「何じゃと?【祝詞】により狂い死ぬ訳では無いと?」

 

『最近ココに、【原野】に。再び人がやってくる。我を、余を、私を、僕を、俺を、【鳥】を。求めて、探して。』

 

「………ねぇ影さん、これ、一度ちゃんと話し合った方が良いんじゃないかな?」

 

「…そうですね。どこか齟齬があるように感じます。」

 

「そうして貰えるとありがたいのう…旅人はまだ無事なようじゃが…妾は正直、もう立っているのがやっとじゃ。」

 

 

 よく見れば八重神子の膝は笑っている。額に汗を滲ませ、苦悶の表情を浮かべながら、今にも狂いそうなのを必死に堪えているのだ。

 影は焦った。

 

 

「何故もっと早く言わなかったんですか!?」

 

「妾一人のために、これ以上何もせず被害を拡めるわけにもいくまい…」

 

『謝罪。バアルゼブル、今人は弱くなったか。』

 

「…いえ、当時よりも貴方の力が強くなっています。」

 

『なんと、なんと…驚愕、驚き、びっくり。』

 

「なぁ旅人、ひょっとしてコイツ、ちょっと面白いタイプか…?」

 

「……かもしれない…」

 

『外へ、世へ。一度出よう。ねこ、ねこ。近く、付近。異常は?』

 

「もりです。かりて、とじました。」

 

「あ、そうだ!オイラ達、ここに来る前に何かに食べられそうになった…らしいんだ!」

 

『森。潰せど潰せど湧いてくる。出るときに消そう。【認識】した。』

 

「ではいきます。かえるます。よろしくおねがいします。」

 

 

 ___暗い。

 暫くして目が慣れ、周りが見えるようになった。

 そうして旅人達は洞窟の開けた、祠のある場所に帰って来たことを【認識】した。

 

 

「全員。無事か?」

 

「……貴方は…」

 

 

 ねこの側には人影があった。

 緋色の長髪を携えた、鍾離のような精悍な男性とも、召使のようなクール美人とも見える人物がいた。

 

 

「我は、俺は、余は、私は。【鳥】。【緋色の鳥】。【認識の鳥】。」

 

「…俺達が意識の魔神と呼んでいた貴方の、正しい名前がそれか?」

 

「否。我は【鳥】。名は無い。呼ぶ為のもの。」

 

「……【認識の__」

 

「…駄目なようですね。」

 

 

 旅人がその名を告げようとした途端、全員に寒気が走った。

 【緋色の鳥】も、【認識の鳥】も、どちらもどちらもトリガーになるようだ。

 

 

「アイツは言えたのに…なんでなんだ?」

 

「【認識】。お前達は我を【認識】している。故に。」

 

「【認識】…」

 

「我が強くなったと言うのも、【認識】されたから。」

 

「よくわかりませんが…ひとまず、城へ戻りましょう。神子の消耗が激しい。」

 

 

 一行は洞窟から城へと場所を移すことにした。

 【緋色の鳥】は島から出ることを躊躇ったが、【祝詞】が広まっている以上、今更変わらないと説得され付いてきた。“ねこ”も付いてきた。

 

 

「…それでは今一度話をしましょう。」

 

「まず、お前はどこまで今のテイワットについて知っている?」

 

「…お前達が来た理由。それと、不味い。」

 

「不味い?」

 

「旅人、発症するのを恐れて伝えていなかったが…」

 

「ん?発狂して死んじゃうんだろ?」

 

「あぁ。今伝えたいのは、発狂する理由だ。」

 

「…オイラ、あの真っ赤な場所にいるだけで気が狂いそうだったんだけど…」

 

「あの時の大きな【鳥】。あそこではあの【鳥】に喰われ続けるんだ。喰われてはその記憶とともに身体もリセットされ、喰われてはリセットされる。それが永遠と続くんだ。いくら記憶が無くなっても、身体がそれを思い出す。そうして現実の肉体も発狂して死に至る。」

 

「じゃ、じゃあ…もしあの時猫以外がアレを口に出してたら…」

 

「ねこです。食べられます。」

 

 

 改めて恐ろしい力である。

 故に“ねこ”の言う【祝詞】を島の外に持ち出したまぬけとはどれ程命知らずだったのか。

 

 

「不味い。臭い。昔なら、ブチギレ。」

 

「辞めろ。どれ程の被害が出るかわからん。」

 

「嘘、ジョーク、冗談。自覚ある。我ヤバみ。」

 

「わかっているなら大人しくしていて欲しかったのですが…」

 

「我のせい、違う。マヌケのせい。我大人しくしてた。解き放ったのはマヌケ。」

 

「……実際そうらしいので強く責めることもできないんですよね…」

 

 

 敵対していないの言葉通り、【鳥】と神々や古くから生きる者との関係はそれ程悪いものではない。

 そもそもこの【鳥】、あまり交流が無いため知られていないが、唯の面倒臭がりである。島に篭っていたのも、合法的に寝続けられるからだった。途中で飽きたようだが。

 

 

「現在、発狂した者の血を見るだけで発狂し始めています。」

 

「らしい。我、進化した。」

 

「やかましい。何か対処法は無いのか?」

 

「……正直、無い。我に関するものは全て見つからない様に仕舞うしかない。」

 

「やはりか…」

 

「外に出るとわかる。だいぶ広まっている。」

 

「…それは本当か?」

 

「是。至るところ。我大忙し。」

 

「影さん…」

 

「えぇ…また皆で集まりましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして再び旅人の塵歌壺。

 今回は、各国に周知するべく、参加者は多くなった。

 

 モンドより、

  西風騎士団 団長 ジン・グンヒルド

  闇夜の英雄 ディルック・ラグウィンド

  風神バルバトス ウェンティ

 

 璃月より、

  璃月七星 天権 凝光

  三眼五顕仙人 降魔大聖 魈

  岩神モラクス 鍾離

 

 稲妻より、

  鳴神大社 宮司 八重神子

  社奉行 神里綾華

  雷神バアルゼブル 雷電影

 

 スメールより、

  大マハマトラ セノ

  生論派学者 レンジャー長 ティナリ

  草神ブエル クラクサナリデビ ナヒーダ

 

 フォンテーヌより、

  最高審判官 元素七龍 ヌヴィレット

  棘薔薇の会 会長 ナヴィア

  元水神フォカロルス フリーナ

 

 ファデュイより、

  執政官第十一位 公子 タルタリヤ

  執政官第四位 召使 アルレッキーノ

  執政官第一位 隊長 カピターノ

 

 元凶陣営より、

  【認識の鳥】 【緋色の鳥】 …鳥(仮称)

  鳥の下僕(?) “ねこ”

 

 以上の大人数で行われる。よく塵歌壺に入ったものだ。

 

 

「さて、ここにいる皆さんは既に、現在各国に拡大するであろう病についてはご存知でしょう。今回、その原因となった魔神に来て貰いましたので、病の対策について話ましょう。」

 

「ひとまず、ここでは【鳥】と呼ぶこととする。皆、わかっていると思うが、【緋色の__】等絶対に口に出さないように。」

 

 

 鍾離の一言に各国代表として集まった人々は軍人ばりの返事を返した。どうやら緊張しているようだ。

 果たしてこの緊張は各国の神々がいることから来るものなのか、はたまた神すら殺しえる新たな魔神によってくるものなのか。

 

 

「我は【鳥】。【緋色の鳥】。よろしく。」

 

「ねこです。よろしくです。」

 

「……ひとまず、各国の被害状況から訪ねましょう。モンドからジン団長。お願いします。」

 

「は、はっ!モンドでは、今の所件の病が発症した報告はありません。都市内だけでなく、各村でも起こっていないそうです。」

 

「ありがとう御座います。次に璃月。凝光さん。」

 

「はい。璃月では、主にファデュイからの感染が確認されました。これにより現在、璃月港を物理的に閉鎖し、仙人の方々に監視をお任せしている状況です。」

 

「わかりました。モラクス、璃月では仙人ならば対応できましたか?」

 

「昔ならば仙人の血を持つ者なら対応出来たが…今ならば半仙は対処に当たらないほうが良いだろう。」

 

「わかりました。次に稲妻ですが、例の島にて宝盗団の遺体を発見しました。付近に無人の船があったことから、他の島まで被害が拡大していないと思われます。社奉行では何か聞いていますか?」

 

「今の所ございません。ですが、何やら『呪われた島』があるとの噂が。」

 

「……あながち否定できませんね…」

 

「心外。呪いと一緒にされるとは。」

 

「……【鳥】、少し黙れ…」

 

「…モラクス、感謝します。スメールはどうでしょうか。」

 

「…大マハマトラとして一度全ての報告に目を通したが、特におかしなものは見つかっていない。」

 

「陸路の方では、特に。」

 

「あるとしたら、砂漠のほうでしょうね…わたくしも、あちらの方全ては把握出来ていないわ。」

 

「わかりました。フォンテーヌではどうですか?」

 

「フォンテーヌに入国するには、側面から入ろうとすると、とてつもない苦難()が待ち受けている。また、入国警備員からも怪しげな報告は聞いていない。」

 

「棘薔薇の会でも、奇病の話は聞かないわね。」

 

「……ヌヴィレット、僕は何も知らないんだが…」

 

「…今回ばかりは、知らないほうが幸せだ。」

 

「最後にファデュイでの被害を聞かせてください。」

 

「俺の知る限り、璃月が一番酷い。既にいくつかの拠点が使い物にならない。」

 

「ナタは…今はそれどころではないのでな。全く影響はない。」

 

「私からは、スネージナヤについてだが…今回の件、博士では無いそうだ。」

 

 

 召使より告げられた報告は、この場にいる全員を驚かせるには充分な内容だった。

 今回の様な事件が、あの悪名高い博士の計画ではない。旅人達がいの一番に疑っていた者は、どうやら白だったらしい。

 

 

「奴は、『例えこの世界が滅びようと、あの魔神に触れてはならない。』とまで言っていた。」

 

「あの博士がか!?」

 

「あ、隊長から見ても異常なんだ。」

 

「…旅人、お前ならわかるだろうが…正直、ファデュイの黒い部分の6割は奴だと思ってくれていい。」

 

「…タルタリヤ。」

 

「………うん、正直マジだね。」

 

「…召使。」

 

「………否定はできん。」

 

「………マジかぁ…」

 

「疑問。何用か。我を見つめても、【原野】に呼ぶことぐらいしかできんぞ。」

 

「勘弁してください。」

 

 

 【鳥】は、空気を読まない。旅人に見られて、無表情のままダブルピースで強烈な脅しをしたのだ。

 

 

「…神々に問う。この者の力は、どれほどのものか。」

 

「セノ。何故そんなことを聞くんだい?現にテイワット中に影響が出ているじゃないか。」

 

「ティナリ、よく考えろ。神々の誰もが、元凶を倒す話をしていない。」

 

「確かに!オイラ達、今までたくさんの魔神と戦ったけど、こいつと戦う話は今まで出なかったぞ!」

 

「あぁ。現に疫病などは発生源から対処する。今回、国どころかテイワット全体の敵とも言える程の被害だ。そのことについて、改めてお聞きしたい。」

 

「確かに…僕も少し気になった。いくら君が恐ろしい力を持っていたとしても、七神やテイワット全てが一緒に戦えば倒せるのではないのかい?」

 

 

 セノやフリーナを始めとしたこの思想に、ジンや凝光などの若い世代の参加者は共感した。

 対して神々や仙人、龍は冷めた目をしている。そんなことができるならかつての魔神戦争の際にやっている。

 

 

「セノ殿。答えよう…断言する。不可能だ。俺達や例えオセルが協力したとしても、【鳥】を殺せる可能性は皆無だ。」

 

「岩王帝君…それは、真ですか?」

 

「…あほです。ばかです。ほんきです。ならどうかしている。です。ねこはそうおもいます。」

 

 

 ここで全く悪意のない爆弾が投下された。現に神々は今の発言をスルーし、若い世代は少し苛ついたのが表情に出ている。

 

 

「理由を説明しましょう。我々はこの魔神の名を言えません。それは自身の死に直結するからです。なので便宜上、この魔神の特徴も加味して『意識の魔神』と呼んでいました。」

 

「加えて言おう。今のこの魔神は、魔神戦争当時よりも格段に強くなっている。」

 

「そうそう。当時は【祝詞】を言えばアウトだったけど、今は見るだけでアウトだもんね…」

 

「フリーナ殿、覚えておくといい。私の予想にはなるが、この魔神は恐らく、()()()()()()()()。」

 

「ねこです。それはなぜなのですか。あるじはこたえる。ます。きっと。おそらく。めいびー。です。」

 

「解。我は【鳥】。【緋色の鳥】。【認識の鳥】。【認識】した者を喰らう【鳥】。喰らうことで我は学び、成長する。我を()()()と【認識】した。【認識】された。」

 

 

 あかしけやなげ緋色の鳥よ。認識の鳥よ。

 

 鳥は鳥を知るものを、知ったものを殺す。喰らう。

 

 喰らうことで学びを得る。

 

 鳥は学ぶ。鳥は育つ。

 

 故に、

 

 

 

 

 

「我はお前達の【認識】によって強くなる。」

 

 

 

 

 

 鳥を恐れた人々により、鳥は大きく空へ羽ばたく。

 





とり「おらに恐怖をわけてくれー」

人々「「「なんやあの鳥怖っ」」」

とり「も、もうちょっとサービスして…?」

人々「「「たぶんこんなこともできるんだよ…怖っ」」」

とり「みんなのおかげでつよくなれ(権能が増え)たよ!」




 つまりテイワット中の人々のせい。




 “ねこ”が旅人達を嫌う理由書けんかった。すまんかった。次回にはちゃんと盛り込む。スマソ。
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