黒の英雄~都の暗黒期に降り立つ~   作:グランドマスター・リア

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誤字報告ありがとうございます
作者も添削はしているのですがやはり漏れがあるのでありがたい限りです


第4話:新たなる剣

 

 時が経つのは早いもので、キリトがオラリオに来てから早くも二ヶ月が経とうとしていた。

 リヴェリアの心を砕いた指導のおかげもあって、キリトはメキメキと力を付け、また知識を付けていた。既にダンジョンに潜る際も、リヴェリアやアイズの同伴は無く、彼を含めて三人の臨時パーティーを組んでいる。

 

 その二人は、キリトよりも少し早めにロキ・ファミリアに入団していたルーキー『ラウル』と『アナキティ』。

 本来、ロキ・ファミリアではLv1のみでのダンジョン探索は許されていない。必ずLv2冒険者がパーティーのリーダーとなり、五人、少なくとも四人程度で探索するのだが、キリト達三人だけは例外を許されていた。

 

 何故なら、キリトは既にランクアップに必要な【経験値(エクセリア)】を満たしており、後は偉業を達成するだけの状態となっている。この偉業の達成こそが殆どの下級冒険者がぶち当たる壁であり、難題なのだが、それをおいてもキリトの技量であれば、既に総合力においてLv2下位は想定される強さとなっている。

 

 

 更に、ラウルは特質した才能こそないものの、愚直な姿勢で何をするにも割と器用にこなすし、アナキティはLv1の中でも特質してスカウトとしての資質を示しており、肝心なラウルとは同期なのもあって何かとチームワークが良い。

 そんな手堅い二人であるからこそ、キリトと組めば上層で死ぬような事はまず有り得ない。

 

 三人共が探索における方針はかなり慎重な方であり、この噛み合いのおかげもあって特別な例外が生まれたのだ。

 

 

◇ダンジョン第11階層◇

 

 

 全十二層からなる上層域の中でも、最終層域に数えられる『11~12階層』。

 この二層は『小龍(インファント・ドラゴン)』なども出現し、危険度はそれまでの浅層とは比較にならない。必要戦力もLv1最高クラスの実力者が必要となる。とは言え、キリト率いるこの三人はパーティーはルーキーの集まりにして、この階層域を難無く探索できるだけの実力がある。

 

「一体撃破。つぎ!!」

 

 今し方、キリトは二人を中衛に添えて数体のオークと切り結んでいた。

 既に駆け抜け、すれ違いざまに一体を撃破し、残りへと視線を合わせている。

 

「何度見ても思うっすけど……あれ、本当に俺達と同期っすよね?」

 

「相変わらずの馬鹿げた速さよね」

 

 二人は適度にキリトを援護しつつも、その戦闘に舌をまく。

 すでにパーティーを組んで一ヶ月経つが、その戦いぶりからは同じLv1とは到底思えない。しかし、やはり目を引くのはその速さだ。ランクAにまで到達した敏捷のおかげもあるが、思考速度の高さ、戦術の組み立て、卓越した反応速度という、あらゆるステイタス外アビリティがこの戦闘スピードを可能とする。

 

 端的に言うと、戦うのが上手いのだ。

 それこそ、熟練剣士と言っても差し支えない程に……

 

「私達も負けてられない。援護行くわよ、ラウル!」

 

「はいっす!」

 

 それに感化されて、二人もメキメキと成長する。

 キリトの戦闘に付いて行こうとする事で、本人達の思考能力や技量も上がっていく。ゲームやスポーツなんかだと、ハイレベルな戦いを見る事で自分まで実力が上がったと感じる事がある。それに近しい事が起きている訳だ。

 

 

 

「……これで、この辺りは粗方倒したかな」

 

 やがて、最後のモンスターを倒したキリトは剣を左右に振りつけて、背中の鞘に収めると二人の元に戻る。

 

「お疲れ、二人共。ラウル、今日の稼ぎはどれくらいだった?」

 

「今キリトが倒した分も合わせたら……ざっと、6万ヴァリスくらいっすね」

 

 キリトとアナキティから「おー」と声が上がる。

 一日のノルマを大幅に越え、山分けで2万ヴァリスずつ分配できる。最近はそれぞれの練度が上がった事で、稼ぎもより上がっている。

 

「よし。ノルマも達成できてるし、そろそろ引き上げるか」

 

「時間も頃合いだし、あまり深入りしすぎるのも危険よね。私は賛成」

 

 引き際を見極める事こそが、ダンジョンで長く生き残る上で最も重要な技術の一つでもある。

 その辺りのタイミングをこの三人が見誤る事はあり得ず、故にこのパーティーは安全マージンに忠実な探索が出来ているのだ。そんな三人は今日もまたダンジョンでの探索を切り上げ、地上に戻り、稼ぎを山分けした後、【黄昏の館】に帰って英気を養う。

 

 最近はもっぱらこれの繰り返しだが、退屈する日々ではない。

 毎日が波乱万丈で、ともすればSAOの時以上のリアリティで展開されるハイファンタジー。

 

 そんな日々の中で、キリトにもまた変化の時が訪れようとしている。冒険者は常に命の危険と隣り合わせであり、いつ何時であろうと準備不足などは許されない。しかし、キリトには未だ揃っていないものがあった。

 

 次の日は休日(オフ)だ。

 彼はこの二ヶ月で溜めた稼ぎを使って、欠けた最後のピースを埋めようとしている。

 

 

 

 

 

 

 今日も空は青い。

 雲一つない。

 翌日の昼前、【黄昏の館】の前には黒衣の少年の姿があった。

 

「待たせた」

 

 そんな彼に声を掛ける翡翠の髪をしたエルフの女性。

 

「いや、俺も今来たところだよ。それより、今日は付き合ってくれてありがとな」

 

 その掛け合いだけ見れば、待ち合わせた男女のそれでしかない。

 しかし、少年ことキリトはともかく、その相手は尋常な存在ではない。何故なら彼女こそ、この都市で知らぬ者は居ない第一級冒険者にして、エルフの中でもやんごとない身分にあるリヴェリア・リヨス・アールヴであるからだ。

 ハイエルフとして、他のエルフから尊敬と敬愛のあらん限りを一心に集める彼女が、外面上はレベル1でしかない人間(ヒューマン)と休日に待ち合わせ。そんな事が知れ渡れば方々に色んな意味で敵を作りかねないだろう。

 

「気にするな。昨日も言ったが、私も休日の予定を決めかねていた所だ。そんな私にとって、お前の提案(・・・・・)は渡りに船だった」

 

「そうか。だったら良かった」

 

 しかし、当の本人達は、そんな様子などおくびにも出さず実にフランクな様子で会話していた。

 それはもう近くに居る守衛がチラチラと盗み見るくらいには……

 

「さて、世間話も良いが、そろそろ向かうとしよう。時間は有限だからな」

 

「オーケー、それじゃあ行こう」

 

 二人は並んで歩いていく。

 その行く先は、街道を抜けた先に聳えるバベルだ。

 

 

 バベルの麓にギルド本部が併設されているのは周知の事実だが、その内部に至っても様々な物がある。中でも有名な所として、【ヘファイストス・ファミリア】や【ゴブニュ・ファミリア】を初めとする鍛冶系ファミリアが支店を出すフロアがあるのだが、本日のキリトが向かうのはそこだ。

 

 まず前提として、キリトには未だ『自分の武器』がない。

 この二ヶ月に渡って、彼は【黄昏の館】の倉庫に押し込められていた剣を借りる事で、何とか急場を凌いでいる状態だった。それでもロキ・ファミリアの倉庫である。幾らお古とは言え、ルーキーには十分な性能と言っていい。

 

 しかし、キリトに至っては武器のスペック不足を感じ始めていた。

 その理由として、既に彼の実力がLv2相当になりつつある事も挙げられるが、それ以外にも、彼の武器に対する強い拘りなどもそれに拍車をかけている。だからこそ、彼はこの二ヶ月で溜めた金を使って、遂にメインウェポンと見繕わんと今日の日を迎えた訳である。

 

 と、昨日のこの話をリヴェリアにした結果、自分もオフだからどうせなら付いてくる事になった訳だ。

 

 

 バベルの中をエレベーターで上がっていく。

 

「欲を言うなら、ガレス辺りも一緒の方が良い買い物が出来たのだろうが、あいつもあいつで忙しいからな」

 

「いやいや、俺もまだオラリオについては素人同然だし、リヴェリアが一緒に来てくれただけでも十分に心強いよ。それに、武器の目利きくらいは自分でやるのが一流の剣士ってもんだ。そこまで先人に頼ってられないよ」

 

「ふっ、そうか。そう言えばお前は、別の世界では私達同様に第一級冒険者の立ち位置に居たのだったな」

 

 そう、今日のリヴェリアはあくまで案内役だ。

 キリトとて、もうこの都市について無知ではない。バベルの中にも、いわゆる高級品のフロアとは別に、安価に武器をお買い求め出来るフロアがある事は知っている。だが、それでも無事に辿り着けるか不安になるくらい、この都市は迷いやすいのだ。

 

 武器は自分で選ぶから、案内して欲しい。

 というのが実のところ。

 もっとも、リヴェリアを相手にこんな不遜なお願いが出来るのは、後にも先にも彼だけだろう。

 

 そして、ようやくお待ちかね。エレベーターが目的の階に付き、扉が開くとそこには心躍る光景が広がっていた。

 

「おおーー!!」

 

 興奮の声をあげるキリト。

 どこもかしこも武器に装備、冒険者と鍛冶師が交渉に雑談と話し合う喧騒。暗黒期のオラリオにおいても、このフロアの賑わいは色褪せない。それこそ、ファンタジー世界の商店を思わせる鉄の匂いは、SAOではついぞ再現しきれなかったものだ。

 生粋の武器オタクとしては、是非とも掘り出し物を見つけたい所だ。

 

「それに……聞いてた通り、高くない!」

 

「新人冒険者は、ここで見つけた装備の製作者を専属鍛冶師にして、共に成り上がるケースも多い。そういう意味で言えば、ここは冒険者にとっても鍛冶師に取ってもスタートラインと呼べる場所だ」

 

 初心者にとってコスパは重要な要素の一つだ。

 命の為に出し渋るのは論外だが、だからといって無暗に散財すればいいというものでもない。財布と相談し、その値段帯で最も品質が良いものを購入する目利き能力と、そこに少しの色を乗せる損得勘定。

 大通りの品物と裏路地の品物とでは、品質は同じなのにブランドで値段が天と地ほど違う事でだってザラにある。

 

「まあ実際に売れて名を上げれば、ちょっとくらい安く売っても良いって事か」

 

 区画店の中にある店の一つに入ると、そこには棚に何十、何百もの装備品が所狭しと並んでいた。

 その中から目に付いた剣や防具を手に取って、所感を確認しながら呟く。確かに出来栄えは、上階に品を出す上級鍛冶師には及ばないのだろう。しかし、それでも中途半端な出来の物なんて殆ど無くて、どれも鍛冶師が魂をかけて造った事が分かる。

 まるで、槌を打たれた熱量がそのまま残っているように感じられた。

 

「リヴェリア、ちょっと奥を見てきてもいいか?」

 

「ああ、私も適当に見ているから行って来い」

 

 リヴェリアに一言断りを入れて、店の奥へと歩を進める。

 軽装から重装に、様々な種類の武器があって、当然その数だけ鍛冶師が居るという事だ。

 

「後はこの中から、好みの物を見つけられると良いんだけどな」

 

 キリトが好むのは、ストレングス要求値が平均よりもすこぶる高い片手直剣(ワンハンドソード)だ。

 SAOで彼が使用していた『エリュシデータ』は、凄腕鍛冶師であるリズベットが手渡して一言目に「重い」と口にした程の代物だった。ここにある剣の中には業物も幾つか見当たるけれど、手に取るとやはり軽く感じる。

 店内をくまなく見回って、一つひとつ目ぼしい剣を見つけては手に取る。しかしその度、あれでもないこれでもないと唸る。

 

(やっぱり、オーダーメイドしかないのか?)

 

 しかし、とりあえずの得物はここで見つけなければ、オーダーメイドをするだけの金も稼げない。それまでファミリアの剣を延々と使い潰す訳にも行かないから、やはり一先ずのメインウェポンは見繕うべきだろう。

 

「妥協はしたくない。でも、贅沢も言ってられない」

 

 いつだって、自分の思い通りの得物が手元にあるとは限らない。自分の『懐』と『拘り』から妥協ラインを見つけ出すのも、剣士として必要な技術だ。「仕方がない」と首を振って、目的を理想の武器から"そこそこの武器"へとシフトしようと考えた。

 その時だった。

 

「これは……」

 

 店の奥の更に端。

 そこには、木箱に乱雑に立てかけられた剣が何本かある。その中でも、キリトが見留めたのは革製の鞘に収められた漆黒の柄で、彼は無意識のうちに近付き、気が付けばそれを手に取っていた。すると、これが何と言う事か、見た目からは考えられないほどのずっしりとした重さが手にかかる。

 

「重い」

 

 それも無暗やたらに重すぎるのではなく『良い重さ』なのだ。

 鞘から剣を抜くと、これまた漆黒の刀身が視界に映る。飾り気のない無骨な剣だが、その内に宿る熱は本物だ。刀身の寸法もキリトの体格に合っていて、刃の鋭さは、実際に振らなくとも分かるほどに精錬されている。

 

「銘は『黒鉄(クロテツ)』。製作者は……レイン?」

 

 刀身の黒を象徴するかのような()の剣は『レイン』という鍛冶師によって作られたようだ。

 それにしても、この重さ、寸法、刀身の冴え。どれを取っても文句なく、全てにおいてキリトが求める『理想の剣』を体現している。諦めかけた瞬間にこうも良い剣に出会えたのは幸運と呼ぶ他にない。興奮冷めやらぬ気持ちで値札を見て――――

 

 キリトは変な声を上げた。

 

「なっ、15万ヴァリス!?おい、何だよこの値段!」

 

 あまりの値段に叫び声を上げてしまう。高い、あまりにも高い。

 この区画の剣はどれも8000ヴァリス程度が相場で、高くても2万やそこらと言った程度なのだ。装備品一式と比べても別の意味で破格の値段設定に絶句する。しかし、それでも八桁を余裕で超える高級ブランドに比べれば法外でもなんでもない。確かに安いのだ。

 とは言え、これほど良い剣が奥で眠っていた理由も何となくわかる。

 

(そりゃこの値段じゃ、ルーキーは手を出せないよな……)

 

 ここに来る客の殆どは金に困った下級冒険者が殆どだ。

 たまに上級冒険者も来る事はあるのだろうが、基本的なニーズは安くて無難な物が求められている。この価格設定は、間違いなくそこに合っていないと言わざるを得ない。

 

「ギリギリ、払えなくはない。けど……」

 

 現在、キリトの全財産はキリが良い事に丁度15万ヴァリスなのだ。

 念の為に全部持ってきているので即金で支払える金額ではあるものの、それだと次の依頼を受けるまで一文無しになってしまう。他のアイテムや便利品なども揃えようと思って、剣一本に割り当てていた予算は最大でも『5万ヴァリス』。

 それだって「これだけあれば流石に……」という相当な無理をして算出した予算だ。

 この剣を購入すれば、倍以上の予算オーバーである。

 

 冷えた汗が頬を伝う。

 

 これでどうしてもお金が足りないなら、諦めようもあった。しかし、何のいたずらか『足りてはいる』のだ。

 

(欲しい。正直もう、他の剣を選べる気がしない)

 

 置かれている場所や値段的に、二週間そこら経っても他の人が購入する可能性は極めて低いだろう。

 それなら、ここは手頃な剣に妥協して数週間後にまた買いにくればいい。賢い奴ならそうする。だけどもし、その時にこの剣が無くなっていたら超へこむ自信がある。物事に絶対はない。この剣を今ここで買わなかった結果、数分後にも彼以外の誰かが目を付けて買う可能性も『ゼロ』じゃない。

 それ程にキリトは、この剣を気に入ってしまったのだ。

 

「……仕方ないか」

 

 考えた末にキリトは、先程とは別の意味で諦めの息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「キリト、今更聞くのも無粋かもしれないが……本当にそれで良かったのか?」

 

 細長い麻袋を肩から下げたキリトを横目にリヴェリアが問う。

 しかし、その疑問はもっともな物で、あくまで苦笑まじりに答えた。

 

「ああ、勿論。そりゃ、安い買い物じゃなかったけどな?でも、満足のいく装備品を手に入れる為なら仕方ない出費だったってだけさ」

 

 結論から言うと、その額15万ヴァリスにも上る剣をキリトは全財産と引き換えに購入した。

 購入後に報告されたリヴェリアは当然頭を抱えた。彼女にとって予想外だった事は、本人の剣への拘りの強さと、これと決めた時の向こう見ずさだ。キリトは特段物欲がない訳じゃないが、普段はそこまで散財する性格ではない。

 そんな彼を知るからこそ、あくまで必要経費内で押さえる自制心があると、リヴェリアは思っていた。

 しかし、彼の武器への強い拘りはそんな理性など軽く凌駕する。

 

 戦士ならば、自分の武器に拘りを持つのは当然だ。

 それ自体はリヴェリアにも理解できる。

 

 だが、キリトのそれはハッキリ言って『武器オタク』と言っていいレベルであり、度が過ぎている。本来なら止めた方が良いのかもしれないが、今回に関して言うと、リヴェリアがキリトの金使いに口を出す権利はない。それはリヴェリアが武器の良し悪しに本職の剣士ほど詳しくない事もあるが……

 その金自体が、本人が命がけで稼いだ物で、自分のしたい買い物をしたに過ぎないからだ。

 

「いや、お前が満足しているならそれで良い」

 

 だからこそ、この言葉だ。

 返品が出来る訳でもないし、言うなら買う前に言うべきだったので、今更説教をした所で本人のモチベーションが下がるだけだ。第一、オーダーメイドが出来ない中で、自身の手腕でもって納得のいく物を見つけたキリトの判断を責めるような事はできない。

 

 そう簡潔した彼女をよそに、キリトはおずおずと言った様子で次の言葉をかけた。

 

「……それで、リヴェリア?早速、ダンジョンの方でこの剣の試し斬りをしたいんだけど……」

 

 折角買った新しい剣なのだ。休日なのは重々承知しているが、今すぐにでもその使い心地を確かめたい。

 ロキ・ファミリアでは休日にダンジョンへ潜っても大丈夫なのだが、キリトのような下級冒険者は一人でダンジョンに入る事を禁止されている。故に、今からダンジョンへ行くとなるとリヴェリアの協力が必要不可欠なのだ。

 当然、リヴェリアはこの提案にあまり良い顔はしない。

 

「ご、ごめん!リヴェリアも休日を返上して付いてきてくれたのに、わがまま言ってるのは分かってる。でも、どうしても明日まで我慢できそうに無くて……」

 

 まるで子供の駄々みたいな理由を声高らかに述べる様に、リヴェリアため息一つで返答した。

 

「……昼食を食べてからだ。それ以降なら付き合おう」

 

 時間はお昼時よりも少し早いが、ダンジョンに行くのであれば先に済ませる必要がある。断って勝手に行かれても困るし、リヴェリアからすれば選択肢のない頼みに等しかった。

 

「ありがとう。このお礼はいつか必ず精神的に……」

 

「仕方のない奴め。貸し一つだからな」

 

 生真面目で厳格なリヴェリアだが、こうして身内には甘い部分がある。

 今までもアイズと言ったじゃじゃ馬に愛想を尽かさなかった彼女らしい言葉だった。

 

 

 

 

 

 

◇ダンジョン第10層◇

 

 端的に言うと、新しい剣の馴染み具合は好調も好調だった。

 それはもう、長年一緒に戦った愛剣とも見紛うべき冴えを見せ、上層のモンスターなど歯牙にもかけないと言わんばかりに切り伏せる。その姿は僅かながらにアインクラッドを駆けた英雄の偶像を想起させ、それに乗ってドンドンと階層を下りていつしか予定を遥かに上回って十層まで来ていた。

 

「結局10階層まで下ってしまうとはな」

 

 リヴェリアがこぼす。

 本来はもっと浅層で数体倒す程度にするはずだったのだ。

 

「この剣の使い心地が思ったよりずっと良くて、つい……」

 

 それ程にこの『黒鉄』が気に入ったキリトは、どこの誰だか分からない『鍛冶師レイン』に感謝する。

 願わくば自身が冒険者として大成すれば、今度はオーダーメイドでエリュシデータクラスの物を作ってもらいたいと密かに思っていた。それはまだ当分先の話になるのだが、その足掛かりを掴んだのは確かだった。

 

「その戦いぶりなら、うちに居る第二級冒険者のパーティーに入れても足手纏いになるような事はまずないだろう。そろそろ、『中層』以降へ進出する事も考えた方がいいかもしれないな」

 

「中層か……確か、13階層から24階層までの層域の事だったよな?」

 

 記憶の中にある知識を口に出すと、リヴェリアは頷く。

 

「そうだ。『中層』は『上層』とは比較にならない程に、モンスターもダンジョンその物も凶悪になる。お前も挑戦する時が来れば、事前の用意と下調べを怠るなよ?」

 

 曰く、上層から中層へ初めて下りた冒険者は、環境やモンスターの違いにまるで別世界かのように錯覚する。多くの上級冒険者が拠点とする中層の楽園、18階層(アンダーリゾート)の話もキリトからすれば興味をそそられるものだった。

 もっとも、それ以降の層に下りられるのは基本的にLv.2からであるが故に、多くのルーキーが器の昇華(ランクアップ)を目標とするのだ。

 

「分かってるよ。のぼせた頭で危険地帯に突っ込むような真似はしないさ」

 

 【ロキ・ファミリア】では、有望な新人をある程度まで上層で育成すると、経験を積ませる為に敢えて上級冒険者のパーティーへ加入させてLv1の時期から『中層』へ下りる事も珍しくない。更にLv3以上になると、本格的に大規模遠征へ同行できるようになる。

 それは普通、十年以上を冒険者として過ごしてようやく達成できるか否かの目標となるが、リヴェリアから見て、キリトが()()へ到達するのは意外にも早いかもしれないと感じていた。

 

 何せ、彼の成長速度は既に通常の冒険者の限界を越えているからだ。




知っての通り今後重要になる人物のちょい見せです
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