黒の英雄~都の暗黒期に降り立つ~   作:グランドマスター・リア

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序章終わりです

そして読者の皆さん、沢山の高PT評価を本当にありがとうございます!
お陰で週間ランキング8位まで来れました
モチベもかなり保ててるのでもっともっとこの作品を次の領域へと進められるように精進して参ります


第7話:勝利の余韻

 

 フィン達が十二階層に到着した時、戦闘はすでに終盤戦へと突入しようとしていた。

 ラウルの言っていた、(ワン)パーティーを包囲する程のモンスターの大群は見当たらず、そこに居るのはキリトと、黒い大型モンスターのみ。しかし、だからと言って状況は変わらず切迫している。

 キリトと黒いモンスターは一進一退の攻防を続けており、今も継続的に死力を尽くしている彼の鬼気は、第一級冒険者であるフィン達すらも気圧(けお)されていた。

 

「何とか間に合ったようじゃが……尋常ではないな、あれ(・・)は」

 

 ガレスの言葉にフィンもまた私見を述べる。

 

「ああ、気迫もそうだが……『やっている事』もずば抜けている。相対している漆黒の大型モンスターに見覚えはないが、甘く見積もっても『Lv3』クラスはあるだろう。それに対してキリトは『Lv1』、真正面からやり合って拮抗できる相手じゃない」

 

 レベルがふたつも違えば、それはもう戦闘にすらなり得ない。

 単純な技量で補うにも限度のある差だ。

 蹂躙と呼ぶのすらおこがましい地獄絵図が待っていてもおかしくないのに、現にキリトは目の前の圧倒的な強敵を相手に一歩も退かず応戦し続けている。しかも、その戦い方とて逃げるだけの消極的なものではなく、明確に勝利を見据えたものだ。

 

「ふつうなら……な。あの男ならやるだろう。嗚呼(ああ)、やってしまうのだろう」

 

「リヴェリア?」

 

 先に到着していたハイエルフの女は、意外にも傍観を決め込んでいた。

 彼女の性格上、いかなる理由があろうと真っ先に助けそうなものだが、現実にはそうせずただ拳を握りしめて戦闘を見守っている。

 

「私は、この戦いを見届ける。お前達も、分かっていると思うが余計な茶々を入れるような真似はするなよ」

 

「……分かっているとも。こんな戦闘(モノ)を見せられて、途中で横槍を入れるほど野暮ではないさ」

 

 本来なら、即座に助けに入るべきだ。

 しかし今彼は戦っている。諦めず、勝利だけを見据えて、目の前の大きな壁を乗り越えようとしている。冒険者が真の意味で『冒険』を出来る機会はそう多くない。今ここを逃せば、キリトの成長は著しい低迷を見せるだろう。

 だが、ここを乗り越えれば彼は誰にも止める事の出来ない速さで、『強さの坂道』を駆け上がっていくに違いない。

 

「あの剣、やはり業物じゃな。圧倒的格上を相手に傷を付けるだけに留まらず『受け』までこなしておる」

 

「それも本人の技量あっての物だ。しかしまだ浅い。あと少し踏み込みが深ければ……」

 

 キリトの戦略と技量、そして武器の性能は凄まじいが、それでも『あと一歩』が僅かに届かない。

 そうしたズレが往々にして彼を窮地へと追い込む。決まり手かに思われた刺突を防がれ、モンスターの打撃によって吹き飛ばされた彼が転がった時、リヴェリアの表情が歪む。だがまだ手は出さない。何故なら視線の先で、黒い瞳はまるで星の輝きを内包したように、鋭い眼光を宿しているからだ。

 

 間髪入れず追撃していきたモンスターを相手に、立ち上がったキリトがカウンターを叩き込むと、後退ったモンスターが武器を『斧とバックラー』から『刀』へと変更した。

 

「モンスターが、武器を変えたじゃと?」

 

「驚異的だね。だが、見たところキリトに焦りはない。分かっていたのか?思えば、先程までの動きもまるで全て先読みしたような動作だったし、それは『知っていた』から……まさか……」

 

 フィンの明晰な頭脳が戦局を分析する。

 しかし、すぐさま頭を振って余計な思考を追い出した。

 

「――いや、やめとこう。今はそれどころではないな」

 

「ああ、次で決まる」

 

 リヴェリアが確信を含んだ声音でフィンの言葉を肯定する。

 真正面から接近した両者の刀と剣が衝突して、甲高い金属音を響かせる。キリトが僅かに剣を一瞥して、顔をしかめた。おそらく今の衝突が、メインウェポンに重大な損傷もしくは、戦闘に関与するほどの支障を与えたのだろう。

 

 故に、次で決めるしかないのだ。

 

 再び接近した少年とモンスターの攻防は一瞬で、第一級冒険者ですら目で追うのがやっとだった。

 キリトが驚異的な技量でモンスターの腕を斬って技を阻止し、流れるような切り返しで刺突を放ち、魔石を狙う。言葉にしてみればそれだけだが、実際には彼の特異性をこれでもかと現した『死合い』だったのは言うまでもない。

 

 ――だが、決着はついた。

 

 結果として、キリトが勝利した。

 それは誰の目にも明らかだった。

 

「本当にやってのけるとは……」

 

 ガレスがそう言葉をこぼした時、緑髪のハイエルフはすでに勝利した剣士へとその足を進めていた。

 

 

 

 

 コボルトの王は砕けた魔石を残して、跡形もなく消滅した。

 それまでの激戦が嘘のように静まり返った十二階層で、少年の(かす)れた息遣いがこだまする。剣を突き出したままの姿勢から、おもむろに切っ先を下げて全身を脱力させる。臨戦態勢の解除と同時に、ガラスの割れるような音と共に『黒鉄(クロテツ)』が砕けた。

 

「ありがとう。最後まで、一緒に戦ってくれて」

 

 微笑んだキリトは、砕けた愛剣に感謝の言葉を囁いた。

 

「はぁ………疲れた。このしんどい戦闘を何度もこなさないと、第一級冒険者にはなれないのか。冗談きついぜ」

 

 本当に、笑えて来るほどキツかった。

 これでまだ『Lv2』といった所なのが何よりもメンタルに来る。まあ、『楽しかった』か『そうでなかった』かで言えれば前者なものの、こんなの『当分はごめんだ』と思うくらいには生きた心地のしない戦闘だった。

 でも、久しく忘れていたように思う。

 他人の命を(いと)わず、己の身体のみをかけて行う限界ギリギリの戦い。そうだった。最初の頃、キリトはこの感覚を味わいたくてSAOへとダイブしたのだ。現実のしがらみから解脱した場所で、自分だけの『強さ』を極めたかった。

 この世界はそれを許してくれる。

 

「うん、やっぱり『ボーナスタイム』だな」

 

 迷宮の地面に腰を下ろす。

 そのままリラックス状態になって息を吐くと、そんな彼に声を掛ける者が居た。

 

「ダンジョンの中では一秒たりとも気を抜くな。お前にはいの一番にそう教えたはずだぞ、キリト」

 

「………勘弁してくれよ。もう一歩も歩けないくらいクタクタなんだ」

 

 視線を向けると、そこには見慣れていても尚美しいと感じる緑髪のハイエルフが居た。

 それだけでなく後ろには見知ったドワーフとパルゥムも居て、キリトはそんな三人に苦笑まじりに言葉をこぼした。

 

「お前らなぁ。戦闘が終わった途端にぞろぞろと出てきて、もしかしなくても途中から見てただろ?」

 

「まあね、しかと見届けたともさ。仲間を救い、窮地を乗り越え、果てには『偉業』すらも成し遂げた剣士の姿を、ね」

 

「………そうかよ」

 

 フィンの言葉は裏表のないものだった。

 こうも手放しに称賛を送られると、キリトとしても恨み言のひとつすら言えなくなる。そんな折に、僅かに視線を傍のリヴェリアに向ける。彼女は黙々と傷の箇所に治癒魔法をかけてくれており、そのお陰で幾分か痛みもマシになっていた。

 そうして居ると、視線に気付いたリヴェリアが極めて理性的な声音で言った。

 

「ふっ、安心しろ。今回の事に関して、お前を咎める気はない。……最も実力のある者がその場に残り、パーティーを逃がしつつモンスターの上層への進出を防ぐ。ていのいい所で逃げなかったのは見直すべき所だが、結局は逃げようと戦おうと、あのレベル差では生存率にそこまでの違いはないだろう。全体を通して見れば及第点と言っていい」

 

「リヴェリア……」

 

 リヴェリア"先生"の採点は予想よりもかなり良かった。

 こってり絞られるとばかり思っていたので、怒られないのは喜ぶべき事で。なによりも、その言葉はまるで、リヴェリアが自分を一人前と認めてくれたように思えて、筆舌に尽くし難い嬉しさを感じた。

 思えば、今まで剣士として(・・・・・)の彼に師や先生と呼べるような存在は居なかった。

 常に先行者として進んできたキリトにとって、リヴェリアは初めてそう言った存在として接してくれた人だったのだ。

 

 だからこそ無償に嬉しいと感じたし、愛する人から向けられる物とはまた違った温かさがあった。

 本当ならもっと歓談にふけりたい所だが、くさってもここはダンジョンの中。上層とは言え、そう呑気に茶を飲めるような場所ではない。

 

「二人とも、談笑は良いが、一先ず地上へ戻ろう。キリトの処置は?」

 

「問題ない。既に全て終わっている。私が肩を貸せば、道中も問題なく進めるだろう」

 

 言って、リヴェリアは当然のようにキリトに肩をかして起き上がらせる。

 それを見てフィンもガレスも意外そうに目を見開いたものの、すぐにその表情を微笑に変えた。

 

「ありがとう。助かるよ、リヴェリア。俺もう体力がすっからかんで……」

 

「すっからかんな奴は軽口など叩かん、黙って歩け」

 

 レベル差も、身分の差も、冒険者としての外面的な差も感じさせない対等な関係。

 第一級冒険者にして、やんごとない身分のハイエルフである彼女の肩を借りる様な不敬事をしても、なお違和感がない彼の佇まいに、フィンもガレスも顔を見合わせて表情を緩めると、地上への道筋に歩を進める。

 

「帰ろうか」

 

「そうじゃな」

 

 こうして、十二階層より黒衣の剣士が無事地上への帰還を果たした。すぐさまギルドへの報告を余儀なくされたキリトだったが、彼はこれに快く応じた。しかし結局、異常(イレギュラー)の真相は分からずじまいのまま、ギルドが調査隊を出すという方向性で今回の騒動は幕を閉じる。

 そして――――その夜、このオラリオに新たな『Lv2』の冒険者が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 キリトが地上に帰還してすぐ、【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッド・テアサナーレから言い渡されたのは、三日間の安静だった。

 禁止されたのはダンジョンへの侵入と、危険性の高い訓練のふたつで、街を出歩いたり軽く剣を素振りする程度なら問題ないとの事だったが、キリトは二日目にして早くもかなりの退屈を覚え始めていた。

 

「はあ、それにしても退屈だ。仮にこっそりダンジョンへ行こうたって、『黒鉄(クロテツ)』が破損してしまった以上そもそも戦う事もままならないし……」

 

 『Lv2』へランクアップしたお陰で、素手でも上層のモンスターくらい訳ないが、それではただサンドバッグ殴るのと大差ない。

 やはり剣士たる者、戦いともなれば剣を振らなければ趣に欠ける。勝つ為の手段として剣を囮に使うならまだしも、ただ退屈しのぎの為にモンスターを殴りに行くのは気が引けた。

 しかし、退屈は毒だ。何処かで晴らさなければいずれ体に差し障る。

 そんな思いが、彼をこうして『市壁の上』へと誘った。

 

「でも……やっぱり、ここからの景色は最高だな。日当たりも良好だし、退屈しのぎには丁度いい」

 

 広がる景色はあまりに広く爽快感があって、自然と胸の中のモヤモヤも晴れていくような気がした。しかし、そこにはそよ風の安らかな音色以外にも、ひとつの足音が少年へと近付いていた。

 

「ふむ、確かに()った思考を晴らすには丁度いい場所だ」

 

「おっ、リヴェリア。休憩か?」

 

「まあな。直感的に、お前はここに居ると思っていた」

 

 もうすっかり行動心理を見透かされている。

 とは言え、キリトが頻繁にここを訪れているのは、親しい者ならば誰でも知っている事なので、そう驚くような事じゃない。

 

「傷の具合はどうだ」

 

「んー、もう八割は治ったかな。あと一日休めば、万全の状態で戦えると思う」

 

「そうか。しかし治ったからと言って油断はするなよ?まずは少しずつ体を『Lv2』のステイタスに適応させ、ズレを少なくしていくんだ」

 

「えっと……ランクアップによる心身のズレ、だったか?」

 

 リヴェリアが首肯する。

 これはランクアップした殆どの冒険者に起きる事で、急激に成長したステイタスに感覚が追い付かず、体がいつものように動かなくなる現象の事を言うらしい。SAOでも事例は違えど同じような事は稀に起こっていたし、その辺は全然あり得る話だ。

 

「ああ、もっともお前に限ってそんな心配はいらないだろうがな」

 

「いやいや、この前みたいな事がまた起きないとも限らないし、忠告は素直に受け取っておくよ」

 

 この前の異常(イレギュラー)を経て、キリトもまた考えを改めた。

 『SAO』と『この世界』の違いは言うまでも無く、ダンジョンに関する知識や経験においても未熟な点が多い事を思い知らされた。そんな折、こうして受けた忠告やアドバイスを素直に受け取らなければ早死にする。

 あくまでゲームとして調整され尽くしていた『SAO』と、冒険者を本気で殺しに来る『ダンジョン』とではトラブルの理不尽さは比較にもならない。

 本人には何の落ち度もないのに、運が悪かっただけでコロっと命を落とす事もザラにある世界だ。心構えくらいはしておくべきだろう。

 

「この前の……か。今にして思えば、不可解な点が多い異常(イレギュラー)だったな」

 

「へぇ、リヴェリアから見てもそう感じたのか?」

 

「その様子だと、キリトも『同じ感想』を抱いたようだな」

 

 まあ、と返答してキリトは視線を景色へと移す。

 果てしなく広がる大地に、無限の晴天。果てを見通すにはあまりにも遠く、そして広すぎる世界。その先へ思いを馳せるのか、はたまたもっと別の思考を抱くのか。

 しばし瞑目してから、彼は口を開く。

 

「リヴェリアの言う通り、今回の異常(イレギュラー)には不可解な点が多すぎる。俺の世界に居たモンスターが出現したのもそうだけど、それ以上に終始おかしかったんだよ。こう、空気感みたいなのが……」

 

「空気感。漠然とした表現だが、具体的にはどう(・・)感じた?」

 

「…………あれは、人の殺気だった」

 

 告げると、リヴェリアも気配を変える。

 これはとてつもない事を聞いてしまったとでも言わんばかりに、急く心を理性で押さえて順を追って問うた。

 

「まさか、あの出来事は、第三者による仕業だったと?」

 

「いや、そこまでは分からない。でも、何かしらの干渉があったのは間違いないと思う」

 

 もっとも、その正体までは分からないからあくまで『そう感じた』と言うしかない。

 

「……私以外には、誰に話した?」

 

「フィンだけ。多分、もうガレスにも伝わってる」

 

 きっかり、三首領のみに伝えた。

 それは彼の内面にある慎重さ故ではあるが、その行動をリヴェリアは『理性的』と捉え称賛する。

 

「そうか、良い判断だ。こんな事、私達以外には伝えられん」

 

 情報とは確定し次第、迅速に共有し対応すべきだが、非確定な上に推測の域を出ないなら限られた人の所で止めておくのも必要な事だ。

 特にダンジョンの異常(イレギュラー)に関する事は特級レベルに類する重要案件であるからして、ギルドも詳細が分かるまでは緘口令(かんこうれい)を敷くのだ。今回にしたって、キリトは既に確信に近いものは持っているが、証拠不十分であるが故に共有者をフィン達のみに留めた。

 

「ああ。でも、いずれは決着をつける時が来ると思う。『何と』かはまだ分からないけど、確実に」

 

 キリトは他人の悪意に対して、常人よりも敏感だ。

 終始感じていた濃密なまでの違和感、感じた殺気、突如現れたボスモンスター。それら全ては線で繋がり、ひとつの『最終原因』に帰結する。この原因(・・)がキリトの前に現れた時、それは彼がこれより『この世界』で経験する最大の死地となるのだろう。

 今はまだ闇の中、しかし必ず突き止めるとキリトは決意する。

 

 とは言え、そればかり気にしている暇はない。

 リヴェリアは翡翠色の瞳を目前の外界へと向けて、彼に言った。

 

「気には止めておこう。だが、今は回復が優先だと言う事も忘れるなよ」

 

「勿論、流石に俺でも今回のは結構(こた)えたし、しばらくはまったりにさせてもらうよ」

 

 旅路はまだまだ序盤も序盤。

 この先彼に何が待ち受けるのかは、もはや神や観測者ですら分からない。何しろ、この世界はすでに『未知のルート』へと進んでいるのだから。




次回から本格的にこの作品のメインとなるキャラ達が登場していきます
既に序章でも名前の出てきたあのキャラやこのキャラが……
基本的に3キャラほどを考えており
その辺と関わりつつキリトの成長

その先にアストレアレコードという流れになります

何としてもでも暗黒期の終わりまでは書きたいのでしぶとく頑張って行きます!!
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