黒の英雄~都の暗黒期に降り立つ~   作:グランドマスター・リア

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大変長らくお待たせいたしました
新章開幕です


絆の章
第8話:鍛冶師


 

 かつて、その男は『英雄』と呼ばれていた。

 特徴的な黒衣をひるがえし、卓越した二刀を手に化け物を退ける姿を見た者は、誰もが次元の違いを悟ったと言う。曰く、『彼が二本目の剣を抜いた時、立っていられる者は居ない』とすら言い伝えられるほど。

 しかし、栄華に満ちた御伽噺(おとぎばなし)の裏にある旅路は、決して物語のように煌びやかな物ではない。美談というにはあまりに苦く、脆い。

 しかし、弱く欠陥だらけの少年は、それでも戦い続ける。

 そんな、(いしずえ)と犠牲の御話(おはなし)だ。

 

 

 すでに英雄と呼ばれた彼は、別の世界においてもそうなのだろうか。

 否、キリトは未だに自身を"候補"に過ぎないと考える。何せ、その手にはあるべき愛剣はなく、力も全盛の時代には程遠い。内の精神性がどうであれ、肉体にも相応の格が伴わなければ"英雄"とは呼べない。

 

 正式に『Lv2』になった今、ようやくその道が(ひら)けた。

 一時は高くそびえた壁も乗り越えて、再び彼の目前に広がるのは未開拓の荒野。ランクアップを果たした者は、より深い階層域への進出が認められ、より深いダンジョンの闇へ挑戦する権利を得る。

 

 そんな矢先、前回の戦いでメインウェポンである『黒鉄(クロテツ)』をロストしてしまったのは、キリトに取ってかなりの痛恨事だった。上層をうろつくぐらいなら【ロキ・ファミリア】の支給品でも大して問題がないが、中層以降ともなれば話も変わってくる。

 万全の準備をして挑むべきところ、信用に足る武器がなければ話にならない。

 

 それゆえに、安静を解除され一週間が経った今でも『中層』に関しては覗く程度で、未だにろくな探索が出来ていなかった。

 なら、さっさと新しい武器を調達すればいいと思うかもしれない。だが……

 

「そう簡単に事が済んだら、苦労はないんだよな……」

 

 場所は数ヶ月前と同様にバベルの中層階。

 ここ数日、空いた時間に通い詰めているものの状況は芳しくない。まず、キリトは武器調達に当たり、真っ先に前回と同じようにバベルの鍛冶物区画を訪れた。無論、お目当ては『鍛冶師レイン』の打った剣で、当時売られていた店で話で聞けば、例の鍛冶師に辿り着く糸口を掴めると思ったのだ。

 

 まあ、その思惑は現在の状況を見ればわかる通り、全く上手くいかなかったのだが……

 

『えぇ!?出来ないって、どう言う事だよ?』

 

『そういう決まりなんだ。こればかりはどうにもならん』

 

 これが、その時の会話だ。

 店主が言うには、基本顧客と鍛冶師の『仲介』などはしない決まりになっているそう。店によってその辺の対応は多少異なるものの、場合によっては客と鍛冶師のトラブルに巻き込まれる危険もある為、それならいっそ『関わらない事』がリスクヘッジになるのだとか。

 

「とは言え、あてもないのに探すなんて、無謀にも程があるぞ」

 

 キリトが知っている事と言えば精々『レイン』という名前だけで、当の『黒鉄(クロテツ)』にはファミリアのエンブレムすら刻まれていなかった。もっとも、それ自体は見習い鍛冶師なら特段珍しい事でもないらしいが、事ここに至っては『何て面倒な……』と言わざるを得ない。

 オラリオ内に鍛冶師は星の数ほど居る。

 名の売れたネームドスミスなら、ちょっと聞き込みするだけでどうとでもなるだろうが『見習い』になるとそうも行かない。まさに砂漠から一攫千金のお宝を掘り当てるに等しく、端的に言うと難しいのだ。

 【ロキ・ファミリア】の情報網を使って探してもらう手もあるが、それは出来れば最終手段にしたい。

 何しろこれは自分の武器だから、キリトとて自身の手でどうにかしたかった。

 

「レイン……レイン。男なのか女なのか、エルフなのかドワーフなのか。お前(・・)は一体、どんな奴なんだ?」

 

 もっとも、鍛冶師であるなら前者の可能性は限りなく低い。

 もしもエルフが汗水たらして鉄など打っていたら、ラグナロクもかくやという大騒ぎになるだろう。

 

 それはさておき、顔すら分からない相手を追いかけるのは骨が折れる。SAOでも同じような事は何度かあったけど、大抵の事はアルゴに頼めば分かったあの時代に、人探しでここまで苦労をした経験はない。

 こうして、鍛冶系ファミリアの集まる場所に通い詰めても手掛かりひとつ掴めないという事は、少なからず精神にストレスを溜め込む要因となっていた。

 

「……やめよう。これ以上ここに居ても収穫はないだろうし、それくらいならダンジョンにでも行った方が幾らかマシだ」

 

 鬱憤が堪ったら、剣を振るに限る。

 今日はオフなのでラウルやアナキティは居ないが、『Lv2』になればソロでの上層探索が許可される。探索メインウェポンが無いとは言え、流石に上層のモンスターに遅れを取るような事は無い。

 

 

 商業フロアから降りて、ギルドを横切り、ダンジョンの入口へ向かう。

 今ではもう何てことのない日常と化した風景。

 

「ん、なんだ?」

 

 だが、キリトはふと【始まりの道】を目前にして足を止めたかと思うと、即座に振り返る。最初に回廊の柱(・・・・)、それから周りをきょろきょろと見回して、訝しげに首を傾げる。その動作は傍から見て、挙動不審にも映るが、本人は眉根を寄せて言葉を吐いた。

 

「今、誰かの視線を感じた(・・・・・・)んだけど……気のせいか?」

 

 それはギルドを通過して、ダンジョンの入り口へと向かう時だ。

 明確な確証もなく、誰かが自身に近付いてくる様子もなかったが、視られているという予感がして辺りを見回してもやはりその正体は判然としない。キリトはSAOでの経験ゆえに他者からの視線に恐ろしく敏感で、本職のスカウトの完璧なスニーキングすら見破るほどの観察眼を持つ。

 そんな彼をして察知できないのだから、それはもう『気のせい』と捉えるしかない。

 

「まだ疲れてんのかな」

 

 邪念を追い出すようにかぶりを振って、彼は再びダンジョンへと歩みを進めた。

 

 

 ――それから数分後、まさにキリトが注視していた柱の裏で可憐な赤いシルエットが靡き、姿を表す。周囲を往来する人間はその者の出現に一切の反応を示さず、赤い髪をした少女(・・)もまた、黒衣の剣士が去っていったダンジョンの入口を注意深く見つめていた。

 

 

 

 

 

 やはりおかしいと感じたのは、九層に差し掛かった時だ。

 この層は上層でも最後の洞窟タイプとなる事から、連絡路付近では別の冒険者もそれなりに往来する。しかし、フロア全体で見れば、わざわざ探索する者はそこまで多くない。せいぜいニュービーが新米卒業の最終試験に使う程度で、正規ルートから大きく外れてしまえば人の気配がする方が稀だ。

 最近はもっぱら、こう言った上層でも未探索だった場所を重点的に冒険しているのだが、故に分かる事もある。

 

(間違いない。やっぱり、誰かにつけられてる)

 

 一度はその気配も消えたものの、五層を越えた辺りからまた何者かの視線を感じ始めた。

 連絡路付近や正規ルートならまだしも、人が寄り付かないような層の外れた場所ですらこうして視線や気配を感じるのは明らかにおかしい。しかし、そこまで分かっていても何処から見られているのかすら分からないのだから、相手のスニーキングの腕前は相当な物だ。

 おそらく、キリトでなければ尾行に気付く事すら出来ないだろう。

 

「…………」

 

 キリトは歩みを止めずに思考を巡らせる。

 幸か不幸か、こう言った状況には何度も遭遇した事がある。なにかと恨みを買いやすい立ち回りをしていたから当然だが、それ以外にもPKプレイヤーの潜伏に気付けず罠にハマった事だって一度や二度じゃない。

 場所も行方も分からない追跡者を補足し、捉える為の方法。

 幾つかある方法の中から取捨選択、その末にキリトはプランを決定し行動に移す。

 

「ちゃんとついてきてくれよ」

 

 丁度曲がり角に差し掛かったタイミングで、突然に走り出し疾走する。

 背後に尾行者が一定の距離を保って追ってくるのを確認して、キリトは"ある地点"を目指す。数度別れ道を経由する形で辿り着くのは、この層域でもひときわ別れ道が多く迷路の如く入り組んでいる地帯。

 そこでは音が反響し、視界も悪い事から、特定の人物に対する追跡や捜索は困難を極める。

 

「この辺りか」

 

 キリトはその性質を利用し、追跡者からの視認が完全に遮られるタイミングを見計らい急停止。

 即座に岩陰に身を潜めて気配を消す。

 

 するとそれから数秒後、キリトが来た道から一人の少女が姿を現したのだ。

 

(赤い髪の女の子。まさか、あの子が追跡者の正体?)

 

 特徴的な尖った耳に、琥珀色の瞳をしたエルフの少女は、赤いストレートを靡かせて周囲を見回している。

 ゴシックな印象を受ける軽装を身に纏っている事から、(ジョブ)はシーフかスカウトで間違いない。魔法職(メイジ)ではないだろう。何故なら、見えずらいが腰の辺りに二振りの直剣が携えられているからだ。

 

「……はぁ、見失っちゃった」

 

 少女は肩を落としてそう言葉をこぼした。

 その言葉で彼女が追跡者だと言う事が確定する。

 

「いやはや、流石は新たな英雄候補様。まさかこの距離で、わたしのスニーキングに気付くなんて……聞いてた通りタダ者じゃないね」

 

 まだ出ない、これは誘いだ。

 わざと独り言を呟き油断している様に見せる事で、潜伏者が尻尾を出すのを待っている。だが、キリトが近辺に身を隠している確証を少女を得ていない。だから本当の意味で彼女が油断するのを、キリトもまた根気強く『待っている』のだ。

 

「………隠れてる気配はない、か」

 

 それまでの柔らかい声音が嘘のように、真剣な色を帯びる。

 警戒は緩めないまでも、相手に逃げられる事は想定していなかったのか、辺りを見回してどうするか決めかねている。キリトとしては尾行された理由も含めて明らかにしておきたいので、出来ればもう少し潜伏していたいと考えていた。

 

「まあ、仕方ないね。バレた以上警戒はされるだろうけど、まだチャンスはあるし、今日はもう一旦諦めて帰ろっと」

 

 肩を落として、赤髪の少女は歩き出す。

 その足は徐々にキリトが隠れている岩陰の方へと向かってきていて、それを察知して彼は薄く笑みを作る。かかった、そう思った同時に決して気付かれないように気配を消し、絶好の時を今か今かと待ち続ける。

 その数秒はまるで数分にも思える程に長かったが、ようやく彼に千載一遇のチャンスが巡ってくる。

 

(かかった。後はこっちまで来るのを待って……)

 

 赤髪の少女がちょうど岩陰の前を通り過ぎるタイミングで、キリトはそこから躍り出て奇襲した。

 

「確保ォ!!」

 

「えっ、なに!?」

 

 先程までよりも警戒のレベルを下げていた少女は、目の前に突然飛び出してきた少年に僅かに反応が遅れる。

 身構えようとした時にはもう遅く、キリトは彼女に覆い被さると、身動きを封じるべく両手足を押さえつける。

 男が女の子にのしかかり、ホールドするという傍から見れば事案でしかない絵面が完成する訳だが、前後の状況だけに彼にも弁明の余地は十分にあるだろう。

 むしろ、このまま帰らせる方が余計な憂いを残しかねないので、キリトは冒険者として当然の自己防衛をしたに過ぎない。

 

「おい、暴れるな!答えろ。お前は誰だ?何で俺の後をつけてたんだ?」

 

 相手は見た目こそ可憐な少女にしか見えないが、あれ程のスニーキング技術を持つ以上、そんじょそこら下級冒険者なんて目じゃないくらいの実力者なのは明らかだ。

 元より、神の恩恵を受けた冒険者ほど見た目と中身が一致しない存在も居ない。ステイタスの加護によって老化が遅くなるのに加え、相手は長命なエルフ。一瞬でも油断すればやられる可能性だってゼロじゃないのだ。

 

 赤髪の少女は明らかに動揺した様子を隠せていないが、気丈に笑って見せる。

 

「……やるね、英雄候補様。わたしのスニーキングを見破るだけじゃなくて、逆に潜伏して奇襲してくるとは……完全にしてやられたって所かな?」

 

「挑発する余裕があるのはいいけどな。まずは状況を見た方がいいぞ?こっちもあまり手荒な事はしたくない。素直に事情を話してくれると助かるんだけど」

 

 少女は視線で周囲や自らの状況を確認する。

 手足は思いの外ガッチリとホールドされていて動かせず、剣を抜く事も、抜け出す事も叶わない。押さえつける力も生半可な物じゃなく、力任せに押しのけるのも不可能だろう。言うまでも無く万事休すな事を悟るのに、そう時間はかからなかった。

 

「そうだね。これは……」

 

 やがて、少女はため息を吐くと、降参の意を込めて体の力を抜いた。

 

「いいよ、降参。わたしの負け。全部話すから」

 

 不満を隠そうともしない少女に、キリトは内心で安堵する。

 これで相手が意地になって抵抗しようものなら、いよいよ実力行使もやむなしだった。そうしなくて良かったのは、ひとえに相手が引き際を弁えていたからだが、ともかく状況が悪い方向に向かわなかったのは僥倖(ぎょうこう)と言える。

 

「まず、わたしの名前だけど………はぁ~」

 

 しかし、少女は名乗りを前に億劫さを全面に押し出すようなため息をついた。

 

「え、何でそこでため息?」

 

「いやぁ、こんな形で名乗る事になるなんて思いもしなかったからさ。あはは」

 

 虚ろな目をして自嘲する様は、あまり似つかない。

 何に対してこぼれた笑いなのかも分からず困惑する彼に、少女は観念したように名乗った。

 

「……レイン(・・・)。それがわたしの名前よ。レベルは2で、所属は【ヘファイストス・ファミリア】」

 

「そうか。君はレインって……ん?」

 

 聞いた瞬間に違和感が顔を出す。

 目の前の少女の名前をキリトは知っている。それも最近は、とある理由からその人物の事ばかりを考えていたから、すぐに思い当たった。

 

「ちょっと待て、今『レイン』って言ったか?まさか……えぇ!?」

 

 レイン。

 その名前はまさしく、ロストしてしまった彼の愛剣である『黒鉄(クロテツ)』に刻まれていた製作者のものだ。つまり『鍛冶師レイン』の正体は、一番可能性が低いと思っていたエルフの少女で、さらにスニーキングを姿を隠して人を尾行するようなストーカーだったという事で。

 

「嘘だろ」

 

 そんな事あるのか、普通。

 いやしかし、実際にこうして起こっている事は、もう否定しようがない事実だ。だからこそ、反応に困っているのだが……

 それをどう受け取ったのか、レインはあからさまに睨みつけて来た。

 

「ちょっと、何よその反応。もしかしなくても、今凄く失礼なこと考えたよね?」

 

「ああ、そうかもな。でも、俺だって驚いてるんだ。探し求めていた鍛冶師の正体がエルフの女の子だった上に、自分の顧客をストーキングするような……その、個性的な奴だったとは……」

 

 一応オブラートに包んで言ったつもりだったが、とうの本人は涙目になって顔を逸らしていた。

 

「ははっ、分かってるよ。どうせわたしは、剣の購入者を隠れてつけ回す様な変人ですから。あぁ最悪。絶対にそういう反応をされるから、名乗りたくなかったのに……もうやだぁ」

 

 涙ぐむレイン。

 そして、そんな少女を覆い被さって押さえつける男。

 何だろう、凄く居心地が悪い。

 

 キリトは別に悪い事はしていない。していないはずなのに、こんな反応をされたらまるで自分が悪者みたいに思えてくる。あまりにいたたまれず、それ以上拘束し続けるのすら億劫に感じてきた。

 一応、所属も聞けたし、もういいかと判断してキリトはおもむろに彼女の上から退いた。

 

 すると、少女は逃げるどころか両手で顔を隠して、こちらに背中を向けてしまった。

 

「えっと」

 

 あんまりな空気にキリトは言葉を探す。

 

「そ、そうだ。こんな状況で言うのもなんだけど……俺、君をずっと探してたんだよ」

 

 思いついたように、自身の要件を述べる方向へシフトする。

 ピクリと震えた肩を見て、あとひと押しと言葉を続ける。

 

「『黒鉄(クロテツ)』を作ったのは君なんだろ、レイン。俺はどうしても、あの剣の製作者である君に会う必要があったんだ」

 

「…………どういうこと?」

 

 それを聞いて、ようやくこちらを向いてくれた。

 ようやくまともな話が出来ると見て、ほっと胸をなでおろす。

 

「実は俺、この前『Lv2』になってさ。でも、ランクアップの偉業を乗り越える為に、『黒鉄(クロテツ)』を壊してしまって……今、俺の手にはメインウェポンがない。こうして急場しのぎの武器をあつらえてはいるけど、やっぱり中層以降へ潜るなら、ちゃんと自分に合った武器を用意する必要があるだろ?だから、君に会いたかった。他でもない、あの剣を作り出した君に」

 

 その言葉でレインは思考を巡らせ、キリトの言葉を頭の中で整理する。そして、彼の言わんとする事を察した。

 

「つまり、わたしに新しい武器をオーダーメイドしたくて、探してたってこと?」

 

「ああ、不躾な話だけど、今の俺にとって君の作る武器以上に自分に合った物はないからな」

 

 壊れてしまったから新しいのをくれ、というのは鍛冶師から反感を持たれてもおかしくない要求だ。

 無論、『黒鉄(クロテツ)』を数か月程度で壊してしまった事は申し訳なく思っている。本来、第二級クラスの性能を誇るはずだったあの剣の寿命を削ったのは、間違いなくスキルの連続使用による過剰な負荷が原因だ。

 

「なるほど、だから……」

 

 何やら得心いった様子で頷いたレイン。

 そんな彼女は特に何か意図するでもなく、自然な微笑みでこう言った。

 

「話は分かった。でも、今すぐには返事できないかな。なにせ、わたしは破損したって言う『黒鉄(クロテツ)』をまだ見てないし、あなたの事も何も知らない。あの『黒鉄(クロテツ)』を壊したって言うほどだから、相当な腕前なのは分かるけどね?」

 

 体裁も整っておらず、情報も不足している。

 そんな状況では武器は打てないと彼女は語る。

 

「でも、それがあなたの要求なら、わたしは一人の鍛冶師として精一杯答えたいと思う」

 

 立ち上がり、それまでとは打って変わった凛々しい顔つきで言う。

 すると、レインは懐から一枚の紙を取り出して、"何処からともなく現れたペン"でスラスラと文字を書き始める。

 

「ここ。明日の昼頃に来て」

 

 紙切れを受け取ると、そこには所定の時間に【ヘファイストス・ファミリア】のホームへ来いとの旨が記されていた。

 

「……分かった」

 

 ひとまずはその要求をのむ。

 元より、こちらは仕事を頼む側だ。尾行云々の事で貸しをつけるつもりもないし、彼女の言う事には素直に従う。

 

「オッケー。いやぁ、キリト(・・・)くんが話の分かる人で助かったよー。あのまま押さえこまれて、このうら若きレインちゃんはどうなってしまうのかと……」

 

「おい、そもそも先に尾行してきたのは……って、あれ?そう言えば俺、君に名前なんて教えたっけ?」

 

 さらっとキリトの名を呼んだレインに疑問符を浮かべると、彼女はまるで小悪魔のように妖々しく人差し指を立てる。

 

「そこから先は、明日のお楽しみ。それじゃあ、До свидания(ダ スヴィダニャ)。英雄候補のキリトくん」

 

「ちょっと待て、まだ………居ない」

 

 呼び止めようと伸ばした手は虚空をかく。

 立ち去る足は誰よりも早く、気付いた時にはすでにそこに彼女の姿はなかった。

 

 




本当にめっちゃお待たせしました
大事な話と言う事で作者も非常に難航を繰り返しどうにか書きあがりました

因みに補足しておくと・・・

この回で登場したレインはSAOからの転生や転移ではなく、完全に『ダンまち』世界の住人バージョンのレインです
わりと重要な事だけど、この先描写する機会もなさそうなのでここに書いておきます
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