異界冒険譚シリーズ 【セシル編】-始まりと終わり-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第18話『でも、そろそろ冒険者生活もおしまいね』(リヴィアナ視点)

(リヴィアナ視点)

 

 

 

当初私たちが想定していたよりも世界は大人しく、穏やかな時は静かに流れていった。

 

セシルたちと冒険者の様な事もやったし。

 

ヴェルクモント王国に戻って来た時には、アリスさんやエリカさんとお茶会をして、ジュリアーナさんやローズさんとも下らない話をした。

 

みんな、しっかり貴族の務めを果たし、子供を産んで、民を導いて、国や世界を安定させていった。

 

呑気にフラフラしているのは私くらいだ。

 

いや、まぁセシルもそういう意味じゃ同じだけれど。

 

「セシルさんは結婚にご興味は無いのですか?」

 

「んー。無い事は無いけれど、相手がなぁ、難しいんじゃない? ほら、魔法使いって子供作れないから」

 

「申し訳ございません。大変失礼な事を」

 

「いえいえ。全然気にしてないですよ。リヴィと呑気な冒険者生活をしてるのも楽しいですからね」

 

明るくケラケラと笑いながらそんな事を言うセシルに、アリスさんやエリカさんはやや困った様な顔をしたが、私は嘘じゃないと二人を見ながら頷いた。

 

「でも、そろそろ冒険者生活もおしまいね」

 

「あら、そうなんですか?」

 

「それはそうよ。私達が何歳か忘れた訳じゃないでしょ? そんな無茶できる年じゃないのよ。私は」

 

「いやいや。リヴィアナ様はまだまだお若いじゃないですか」

 

「嫌味のつもりかしら。アリス・シア・メイラー」

 

「え」

 

「何歳になっても子供の時と変わらない見た目の癖してよく言うわ」

 

「えー? 少しは成長したと思うんですけどね?」

 

「ふふっ、聞いて下さい。二人とも。アリスちゃんってば、この間の舞踏会で、二回りも年下の子に求婚されちゃったんですよ」

 

「ちょ! その話は!」

 

「もはやここまで来ると恐ろしいわね」

 

「流石はアリスちゃんです」

 

「も~! セシルさんまで!」

 

王城の選ばれた者しか入る事の出来ない中庭で、私たちはお茶を飲みながら言葉を交わし合った。

 

楽し気に笑うアリスさんとエリカさんを見ていると、本当に普通のお茶会をしている様に思えてしまう。

 

が、それは表面上だけの事だ。

 

何せ私達がヴェルクモント王国に戻ってきたのは、アルバート兄様とエリオット兄様から緊急だと呼び戻されたからなのだから。

 

「あー、おかしい。久しぶりにいっぱい笑っちゃったな」

 

「アリスさん」

 

「……なんですかー。リヴィアナ様」

 

「エリオット兄様から聞いたわ」

 

「あら。急にお茶会を。なんて言うから何かと思えば……聞いてしまったんですね」

 

アリスさんは落ち着いた顔でお茶を飲みながら、小さく息を吐く。

 

「私は、何も後悔してませんよ」

 

「……アリスさん」

 

「エリカさんとまた会えて、エリオット君と結婚出来て、子供も出来て。リヴィアナ様やセシルさんとお友達になれた」

 

私のすぐ隣で、何かの気配を感じて両手を握りしめているセシルを横目で見ながら、アリスさんを見つめる。

 

そして、アリスさんの隣に座っていたエリカさんも同じ様に微笑みながら口を開いた。

 

「そうですね。私もアリスちゃんと同じです」

 

「……」

 

「この世界に来て、多くの物を貰いました。生きていて、生まれてよかったと思えました。それだけで十分」

 

「エリカさん……? 何の話を」

 

「でも、二人とも何か心残りがあるから、私達を呼んだんじゃないの?」

 

私の問いに、エリカさんは静かに笑みを深めてから目を伏せた。

 

そして、小さく息を吐いてからまた微笑む。

 

「実は、ですね。お二人とお別れをしたくてお呼びしたんです」

 

「お別れ……?」

 

「はい」

 

消えそうなセシルの声に、エリカさんはハッキリと答えた。

 

「世界国家連合議会は以前よりも力を付けました。これから人類が生き残る事を絶対の正義として、行動を始めるでしょう」

 

「私たちはヴェルクモントから離れる気は無いし、流石に向こうも私達をどうこうするつもりは無いみたいだから」

 

「だから……お別れ、という事なのですか?」

 

「はい」

 

「そうだよ。セシルさん」

 

セシルは視線をさ迷わせながら、何かの答えを求める様に、私を見つめた。

 

「アルバート兄様は今も世界国家連合議会の議長なのでしょう?」

 

「そうですが、こんな状況ではそれもあまり意味はありません」

 

「エリオット兄様は」

 

「もうエリオット君も年ですからね。戦場へ行けば命を落とすだけですよ。リヴィアナ様」

 

「っ」

 

「だから今の内に、彼らの手が届かない遠くへ」

 

「エリカさん……! アリスちゃん……!!」

 

縋る様なセシルの声に、二人は静かに首を振った。

 

セシルを甘やかす様ないつもの顔ではなく、厳しい顔つきでセシルを拒絶する。

 

「時が来たのです。セシルさん。別れの時が」

 

「……なら、なら、私が国連に行けば」

 

「駄目だよ。それは駄目」

 

もはや我慢の限界を超え、セシルは両手で顔を覆いながら涙を零した。

 

堪えられない気持ちを、感情の濁流に身を投げて、子供の様に首を振って涙を流す。

 

「セシル」

 

「……っ! リヴィ!」

 

「少し悲観的に考え過ぎよ。貴女も、エリカさんもアリスさんもね」

 

「……リヴィアナ様」

 

「大丈夫。分かってるから」

 

少し強い口調で私の名を呼ぶエリカさんを、私は手で制しながら笑う。

 

分かっている。

 

分かっているのだ。

 

二人がこんな事を言い始めるのが、国連だけが原因じゃないという事くらい。

 

私にだって分かっているのだ。

 

おそらく、二人の命はもう……長くない。

 

「セシル。貴女のお陰で世界は明るくなったけど、人間の欲望が消えるワケじゃないわ。私たちが同じ場所に居るリスクくらい、貴女も分かるでしょ?」

 

「……うん」

 

「だからもしもの時の為に、別々に暮らす方が良いね。っていう話をしているだけ」

 

「うん」

 

「だから、隠れながらにはなるけど、また会えるだろうし。何なら手紙でのやり取りくらいなら出来るわ」

 

「そうですね」

 

「でも、世界は何が起きるか分からないから、もしもの時の為にお別れだけはしましょう。っていう話。分かるでしょ?」

 

「わかるよ」

 

「良かった。ほら、私も、エリカさんもアリスさんも、貴女だって後悔を残したくは無いじゃない。だから、ちゃんとお別れ。良い?」

 

「うん……!」

 

ボロボロと涙を流しながらセシルは何度も頷き、テーブルから離れてエリカさんとアリスさんに抱き着いて別れの言葉を交わした。

 

もう二度と会えないとしても、後悔はしない様に。

 

 

 

そして、私はセシルの事をレーニに託して、エリカさんとアリスさん、それにアルバート兄様を含めて最後の話をする事にした。

 

「そうか……リヴィはセシル嬢と共に行くか」

 

「えぇ。あの子を一人には出来ない。少しでも長く一緒に居るわ」

 

「お願いします。リヴィアナ様」

 

「お願いします!」

 

「良いのよ。気にしないで。私に出来る事なんてこれくらいしか無いんだから」

 

私は少しでもこの場が明るくなるようにと軽く告げたが、二人は静かに微笑むばかりで、以前の様に笑う事は無かった。

 

「エリカさん」

 

「……はい」

 

「アリスさん」

 

「はい」

 

「そんなに悪いの?」

 

「……そこまでお見通しでしたか」

 

「そりゃ、長い付き合いだからね」

 

「そうですね。確かに」

 

「リヴィアナ様の言う通り、私もエリカさんも、もう長くないです。早ければ季節が変わるよりも前に」

 

アリスさんの言葉に私は思わず窓の外を見た。

 

これから冷たい雪の降る季節が来る。

 

が、それはもう、明日来てもおかしくはないのだ。

 

「助かる道は」

 

「色々と調べたけど駄目でした。いっそ魔法使いになれればとも思ったんですが、それも簡単では無いようで」

 

「そうね」

 

私も色々と調べたから良く知っている。

 

魔法使いになる事が出来るのは選ばれた人間だけだ。

 

「……悪いけど、手紙は私が書くわよ」

 

「えぇ」

 

「お願いします」

 

私はキュッと唇を噛み締めて、一日でも長くセシルの中でエリカさんとアリスさんを生かそうと誓った。

 

あの子が受け止められる様になるまで。

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