異界冒険譚シリーズ 【セシル編】-始まりと終わり-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第9話『例え世界の果てだろうと、苦しむ人が居るのなら私は向かいます』

時が過ぎるのは早いもので……。

 

世界国家連合議会が本格的に始まってから5年の月日が経った。

 

動き出すまでには随分と時間が掛かったけれど、動き出してからは順調そのもので、世界から少しずつではあるが争いは消えていった。

 

食料の問題も、上手く国連が仲介をする事で争いの種は消え、盗賊や魔物等の問題も協力し合う事で解決へと向かっている。

 

かつてそうであれと願った様に、世界は一つにまとまっているのだ。

 

素晴らしい事だ。

 

涙が出るほどに。

 

 

 

しかし、そんな安定した世界の中でもよからぬ事を考える人は居るもので……。

 

「ですから! 世界国家連合議会発足時に聖女の力は特定の国が独占せず、加盟国が平等に! という話だったではないですか!」

 

「無論覚えている。だからこそ、聖女セシルはどの様な国であろうとも手を差し伸べている。貴国も同じだと認識しているが?」

 

「聖女セシル様のお力で我が国が救われている事は無論よく理解しております。しかし、足りないのです。それだけでは!」

 

「足りないだと……?」

 

「これは我が国だけの話ではありません。そうでしょう!? 皆さん! 皆さんだって思っているはずだ。口には出さずとも、そう思っている!」

 

私は会議の場で、まるで劇場の様に声を上げる男を見て、誰にも聞こえない様に小さくため息を吐いた。

 

また、この話だ。

 

「聖女エリカ様、そして聖女として覚醒されたアリス嬢は何故ヴェルクモント王国に留まったままなのか!」

 

「エリカは私の妻だ。そしてアリス嬢は聖女としての力は持っているが、その力は不安定で、とてもじゃないが他者に使える物ではない。無理に使えばアリス嬢の命が危うい」

 

「その様な言葉を誰が信じるというのです! ヴェルクモント王! 我々から見れば、貴方が聖女を独占している様にしか見えない!」

 

「話にならないな。良いか? 彼女たちは聖女である前に一人の人間だ。彼女たちがどの様に生きるか、それは彼女たちに強いる権利がどこにある。聖女の力を平等に。というのは、あくまで我らに協力しても良いと考えている聖女だけに限定した話だと皆も納得したはずだ!! 違うか!?」

 

「それは、そうですが」

 

「ですが、なんだ」

 

「世界には未だ苦しんでいる人が多く居ます。そんな彼らを放置して個人の幸せというのは「どこですか?」っ! 聖女セシル様……!」

 

私はやや怒りを滲ませた声で言葉を遮り、アルバート陛下に言いがかりをつけている男を静かな瞳で見据えた。

 

「苦しんでいる多くの方というのはどちらにいらっしゃるのでしょうか。すぐにでも向かい、癒しの力を使います」

 

「い、いえ。それはですね。たとえ話の様な物でして」

 

「では居ないという事ですね。であればエリカさんやアリスさんがヴェルクモント王国を離れる必要は無いと私は思います」

 

「それは……!」

 

「何か間違えているでしょうか」

 

「……いえ」

 

おそらくだが、この会議場にて私の言葉は誰よりも強い。

 

その理由は酷く簡単だ。

 

私がこの世界で唯一、世界の人々を癒している聖女だからだ。

 

エリカさんやアリスさんも癒しの力は使っているが、国内のごく限られた人間にしか使っていない。

 

それは彼女たちの力が未だ自らの命を削って使うものだからだ。

 

リヴィと私の中に居るイザベラ様が協力して、癒しの力を命を削らずに使える様に頑張っているが、それもまだ時間がかかる。

 

だから、それが全て終わるまで、私は戦うのだ。

 

「例え世界の果てだろうと、苦しむ人が居るのなら私は向かいます。不満があれば私に仰ってください」

 

強い視線でこの場に居る人たちを見据えながら、私は言葉を解き放った。

 

 

 

会議の終わり、私はホッと一息吐きながら誰も居ない部屋で目を閉じて壁に寄りかかっていた。

 

無論帰れるものならさっさと帰りたいのだが、アルバート陛下はまだやる事があるらしく、私は彼が来るのをまっている。

 

のだが、どうやらお客様が来た様だった。

 

「セシル。誰かが来た」

 

「ん」

 

私はレーニの言葉に目を開いて、扉の外で護衛をしてくれているニナとリリィさんが案内してきてくれた人に視線を向けた。

 

どうやら面倒な人ではなく、信頼できる人の様だ。

 

「お久しぶりですな。セシル様。スタンロイツ帝国のアンドレイ・スフレイズス・スタンロイツです」

 

「アンドレイ様。お久しぶりです」

 

「私に敬称など要りませんよ。私は大した人間ではありませんからな。ハッハッハ」

 

なんて、軽く笑っているが、スタンロイツ帝国という北東の果てにある国は、魔物の被害も多く、騎士も皇帝も相当な強者だと聞いている。

 

まぁ危険な国ほど、体も心も強い人が育つのだろう。

 

毎度毎度アルバート陛下に絡む面倒な人たちとは大違いだ。

 

「いやはや。会議の度に苦労されておりますな。ヴェルクモント王も」

 

「世界は平和に向かっているというのに、難しいですね。私にもっと力があればと思ってしまいます」

 

「ハッハッハ。セシル様。それは違います」

 

「え?」

 

「世界が平和に向かっているからこそ、人間同士で争う余裕が出来るのですよ」

 

「あぁ、そうだな。セシル。この男の言う通りだぞ」

 

「レーニ。この男、だなんて。アンドレイ様に失礼ですよ」

 

「構いませんよ。セシル様。エルフであるレーニ殿からすれば我らは皆子供の様な者ですからな」

 

「ほら。こう言ってるじゃないか」

 

「いくらアンドレイ様が良いと言っても、それで失礼をして良い理由にはなりません」

 

「……面倒な話だ」

 

「もう! レーニ!」

 

「分かった。分かった。アンドレイサマ、ね。覚えておくよ」

 

「……もう」

 

「わっはっはっは! お二人は本当に良い関係ですな!」

 

「笑われちゃったじゃないですか!」

 

「知らん。勝手に笑ってるのはコイツだ」

 

「もう!」

 

私はレーニの体を叩きながら、何とか真面目にさせようとしたが出来ず、やや強めにその背中を叩いた。

 

しかし、そんな物レーニにとっては大した事では無かったらしく、フンと笑って、腕を組み顔を逸らしてしまった。

 

まるで反省がない!

 

「申し訳ございません! アンドレイ様」

 

「いえいえ。お二人のやり取りを楽しませていただきましたから。むしろ私が貰い過ぎなくらいです。ですから、セシル様もあまり気になさらないで下さい」

 

「そうですか?」

 

「はい。この老体に誓って」

 

長い髭が白くなる程に年を重ねても、衰えていない鍛えられた体を固そうな拳で叩き、アンドレイ様は微笑んだ。

 

その微笑み、私は安堵しながら息を吐いてやや真剣な眼差しでアンドレイ様を見据える。

 

「では、アンドレイ様……本題を伺いましょう」

 

「……実は、太古の森で不穏な動きがありましてな」

 

「魔物ですか?」

 

「おそらくはそうかと思うのですが……それにしては動きに統率が取れ過ぎている様に思います」

 

「人間という線はありますか?」

 

「おそらくは無いでしょう。かなりの規模でしたからな。あれだけの人員を動かすとなれば、どうやっても我が国で補足出来ます」

 

「では賊が出たという話も無さそうですね」

 

「はい」

 

私はうーんと考えてから、チラッとレーニを見た。

 

「レーニ。太古の森で集団で行動出来る種族とかは居る?」

 

「そんな物。数えるのもバカらしいくらいには居るさ。エルフや獣人だってそうだし、淫魔やドワーフ達、それにオーガだって住んでいる」

 

「……魔法使いは?」

 

「セシル」

 

「居るんでしょう? まだ太古の森に」

 

「それは考える必要のない事だ」

 

私は首を振るレーニを睨みつける様な勢いで見つめるが、レーニの答えは変わらなかった。

 

そして、アンドレイ様もレーニと同じ様に魔法使いは既に滅んでいると言葉を残し、何か変化があればまた声を掛けて下さるという事で、この場は別れる事になった。

 

しかし、私の中にはいつまでも、あの時森で出会った少女の事が消えないのだった。

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