五月雨を越えて   作:衝角

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俺ガイルTS転生はもうちょっと供給があってもいいと思うんだ。
だから、やったぜ☆




第1話 胡蝶の夢というには長すぎた。

 

 

 朝日が眩しくて、目が覚める。

 気怠げに身体を起こして仕方なく学校の準備をしていく。

 昔は慣れなかったけれど、今はなんとなくでこなしていける。おっと、そうだ。リップを忘れていた。化粧用ではなくて乾燥防止。

 肌の保湿には気を遣ってるつもりだけど、少しでも唇がカサつくと気になってしまう。

 前より長くなった前髪を瞼の辺りからはらって鏡の前に立つ。

 

(やっぱさ、目立つよね。わたしの容姿)

 

 鏡の前に立つと俺はあいも変わらず見目麗しい少女の姿をしていた。

 背中まで伸びる長い銀の髪に、抜けるような白い肌。顔立ちはあどけないながらも相当に整っており、極め付けに髪色と同じ銀の瞳。

 小学校5年生にしては発育も良く、質素なデザインのブラが育ちかけの胸を覆っていた。

 

(まさか、こんな可憐な女の子の中身に前世野郎の魂とかいう異物が混入しているとは誰も思うまい。いや、俺もこんな可愛い娘の中にぶち込まれるとは思わなかったけどさぁ……)

 

 初めは胡蝶の夢ではないかと思った。

 ただ長い長い夢を見ているだけだと思った。だって前世の俺はバイトとかサークルをろくにやってなかったから時間は余ってたし、一度寝たら長いこと死んだように眠るし。

 けれども、この身体になって10年寝起きして未だに鏡が写す像が女の子のままなら流石に諦めもつく。さすがにこのレベルで体感時間が長い夢なんてない。……いやまぁね、固有名詞が俺の知ってるのからずれてたから夢だと思ってたんだけどなぁ……。

 ともあれ、転生してから10年。色んなことを疑い、確かめながらも女の子として生きてきてしまった。

 こればかりは疑いようのない事実だった。

 

 *

 

 少女……亀井野皐月としての日々は前世と比べるとあまりに違いすぎた。

 性別が異なるのもそうだが、育ちも違う。

 俺が生を享けた亀井野の家はかなり裕福だった。全国レベルとはいかないが、関東ローカルならそれなりの影響力があるホテル・賃貸業の創業者一族。

 俺はその亀井野一族の次女として生まれてきた。姉とは8歳離れていて、もう大学で一人暮らしを始めたからあまり関わり合いになることはない。

 ともあれ、そんな家だから一般家庭だった前世とは異なり普通にお嬢様をやっている……いや、演じざるを得なかった。

 小学校に入学する頃に始まったお嬢様教育は俺のがかつて有していた男の子的な感覚を徹底的に叩き折った。

 貞淑であれ、優雅であれ。

 亀井野のお嬢様というだけで俺が望まなくても周りは勝手にそう見てくる。だから、自衛のためにそう振る舞わざるを得なかった。

 その結果、小学5年生になる頃には内面はともあれ対外的に俺はちゃんとお嬢様をしていたりする。

 

「雪乃ちゃん、おはよう」

 

「……おはよう」

 

 教室で濡れ羽色の長い髪の少女と出会したので会釈する。初めて彼女……雪ノ下雪乃と出会った時、俺は自分が置かれた状況を知った時は震えた。

 どうやら俺は俺ガイルこと、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』の世界にTS転生してしまったらしい。それも、伏魔殿として悪名高い雪ノ下家に近い立場として。

 自分の見た目がぶっちゃけゆきのんの2Pカラーっぽいのと、チバテレの番組提供のテロップでやたら雪ノ下建設とうちの会社が連番で出てたから薄々察してたけど、まさか従姉妹として生まれてくるとは思わなかったよ。

 

(いや、どうせいっちゅうねん)

 

 あの時は内心で俺は嘆息した。

 原作において、雪ノ下姉妹と葉山隼人にまつわる過去はいわばブラックボックスだ。

 何かがあってそれが原作の段階まで尾を引く。その何かを類推できるけど、明言されていない以上はそれは推測でしかないからなんとも言えない。

 ともあれ、今の環境は遠からず破綻する。時期は色恋沙汰が原因だからか小学校高学年……2年以内には必ず起こると見た。

 正直言って理由がわからない破綻ほど、恐ろしいものはない。

 だから、俺は雪ノ下雪乃と葉山隼人の幼馴染として近くで過ごしてその破綻の予兆を掴むと決めた。

 

「亀井野さん。そんなに目を遠くしてどうかしたのかしら?」

 

「いーや、なんにも。……強いていうならわたしたちの未来に思いを馳せていた、かな」

 

 様子がおかしいと見て話しかけてきたゆきのんにテキトーな返事を返す。まさか、あなたたちが将来やらかすせいで困ってますとか言えない。言ってしまえば、陽乃さんに締められてしまう。

 原作では厄介なお姉さんだった陽乃さんだが、今の時点でも厄介というか困ったお姉さんだ。

 この時期はゆきのんが可愛くて仕方ないのを隠すつもりがないのか、小学校を出て行くまではずっとわたしとゆきのん、隼人を連れ回して遊んでいた。

 手加減を知らない遊びぶりから年下三人衆からはめちゃくちゃ嫌がられたが、本人はずっと楽しそうにしていた。ひたすら楽しいものが好きな性分はきっと彼女の仮面の下にあった姿なのだろう。ただ、これも原作の前におそらく失われる。そのことを思うと少しだけ寂しく思えた。

 できれば、今の環境は守りたいと思う。

 なまじ中身に大学生だった前世が入ってるせいで、小学校の中で本当に話が合うのは大人びたゆきのんや隼人ぐらいだ。

 せっかくの話し相手を失うのは俺としても少々辛いものがあるし。

 

(出来るかわからないけど、やってみよう。原作と違ったならそれはそれで面白くなるかもだし。せっかく俺ガイルの世界に転生しても何もしないは面白くない)

 

 向かい合うゆきのんをもう一度視界に収めつつ、俺は密かに決意するのであった。

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