102期生組終わったけどとっくに卒業しちゃったよ。
あと4ページ目 乙宗梢に小話追加しました。
僕と、部活の先輩、藤島慈さんとはかなり仲の良い方だと思う。一緒に出かけたりもするし、撮影のお手伝いなんかもしている。
きっかけはあまり詳しくは覚えていないけれど、彼女の動画配信のファンだったからかもしれない。
「って言うことで!動画のネタを探しに行くためにショッピングモールに行くよ!!」
今日は午前授業だったため、いつもより早い時間に教室に二人で話していると、僕と彼女の間に置かれている机分の距離を一気に縮めるように彼女は身体を乗り出す。
僕が肯定の意を示すために頷くと嬉しそうに笑った。
「でも、それなら別のところの方が良くないですか?」
僕は安さの殿堂を掲げるペンギンがいる店を上げる。
「チッチッチ、確かにあそこはネタは沢山あるけど、ショッピングモールは夏服のコーディネート!とか飲食店1万円企画!とか出来るから便利なんだよ」
「なるほど」
僕は疎いのであまり分からないのだけれど、慈さんが言うならそういうことなのだろう。
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僕と慈さんはデパートに着くと、まるで決められた手順でもあるかのように、淡々と、そしてどこか急くように歩き出した。
エスカレーターを上がり、照明の白い売り場を横切りながら、彼女は必要なカットを手際よく撮っていく。
一つ、また一つと、映像の断片をまるで拾い集めるように。
その姿は、冬を目前にしたクマが黙々と食料をため込んでいくようにも見えた。
幾つかの動画を取り終えると、区切る様に彼女は大きく息を吐いた。
「よし、これで動画用のやつは終わり!あとはデートを楽しも!めぐちゃんとデート出来るなんて幸せなやつめ!」
「うりうり」と彼女が呟くように言いながら、僕の頭を軽く小突いた。
まるで合図のように。あるいは、朝のパンにバターを塗るみたいに自然な所作で。
それが僕と慈さんの間で暗黙のうちに定められた、お決まりの儀式だった。
最初の数時間は、彼女の動画を撮るための、言ってみれば実務的な時間だ。
慈さんはその間、動画を沢山撮り、僕はその横で黙って歩いたり、笑ったり、時には立ち止まったりした。
決められた手順のように。
一連の「仕事」が終わると、僕たちはようやく一息ついて、肩を並べてあちこち見て回る。
ウィンドウの中のマネキンや、天井から吊るされた装飾品や、季節外れのディスカウントの文字たちを。
それは毎回変わることのないパターンで、まるでどこかで誰かが作ったプログラムに従って動いているかのようだった。
「最初は文房具でも見に行こー!」
「来る度に買ってますけど、慈さんには文房具は必要ないんじゃないんですか?使ってますか?」
「失礼な!ちゃんと使ってるよ。動画のネタ考えたり!次のライブどうしようかなって考える時とか!」
「勉強には使ってないじゃないですか」
「うるさい!いいの別に勉強しなくたって」
彼女は話し合いから逃げるように顔をそらす。
「それじゃ、僕シャーペン買いますね、最近無くしちゃって」
「ついでにさ、筆箱のシャーペン全部新しくしちゃおうよ!気分が変わっていいかもよ」
慈さんはそう提案した。
僕の今の筆箱にはシャーペンが三本程入っていた。
確かにそれもいいかもしれないが、些かまだ使えるものを交換するのは勿体なく感じた。
別に僕にはこだわりがある訳では無いのだけれど。使えればなんだっていいのだ。
紙に書けるという役割さえ果たせるのなら、木の棒だって構わない。
「んじゃさ、君の使ってたものは私が貰っていい?」
「別にいいですけど、なんで?」
僕が問い返すと、慈さんは、ほんの一瞬だけ視線を外した。
その仕草は、まるで、予定にない感情がスケジュール帳に入り込んできたときのような、どこか戸惑いを含んでいた。
「うーん……なんとなく。ほら、こういうのって縁じゃん?」
と、彼女は曖昧に笑った。
その笑みには、理由の輪郭が曖昧なまま、何かを包んで隠しているような柔らかさがあった。
僕は「はあ」とだけ返し、レジに向かって歩き出す。
シャーペンの替え芯と、見た目が少し気に入った青いペンを一緒に手に取った。
「その代わり私が買ってあげるからさ!」
僕の手からそれを取ると、会計をさっさと済ませてしまった。
「お金は払いますって!」
「いいの、いいの、私が先輩なんだし、お金は余裕あるし!」
彼女はよく奢ってくれるけれど、僕が払おうとしても頑なに譲らないし、つい押し切られてしまう。
すごく申し訳ない気持ちが僕の中にいる。
それにしても——
彼女の言う「縁」って何だろう。
今まで僕が使っていたペンが、彼女の手の中で新しい物語を始めるわけでもない。
だけど、たぶん彼女にとっては、それが大事なのだろう。
捨てられてしまう「かもしれない何か」を、自分の中に留めておきたいという気持ち。
僕の使いかけのペンも僕より慈さんに使われる方が嬉しいだろうし、何より勿体なくない。
僕はカバンから筆箱を出し、彼女にいくらかのペンを渡した。
「ありがと!」
まるで赤ちゃんに触れるみたいに僕の手から優しく触って、嬉しそうに笑った。
そして、時計のネジを確かめるみたいに何回か顔の前で芯を出し、力強く握った。
僕の手には僅かに触れた彼女の手の温もりだけが残っていた。
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その後小腹を満たす為におやつを食べることになって、近くのフードコートで食べる事にした。
僕と慈さんはドーナツを食べ、そして、熱く濃い珈琲を飲んだ。
僕が手持ち無沙汰から何となくコーヒーの容器を眺めていると、慈さんはお手拭きやトレーをさっさと片付けようとしていた。
「そのくらい僕がやりますよ」
「いいのいいの、私が先輩なんだし!」
代わりに持とうとするけれど、決して譲ってくれなかった。
「片付けてくるからさ、ゆっくりしててよ」
そう言って彼女は毎度同じようにゴミを捨てに行ってくれた。
彼女はじっと僕の目を見つめて言うのだ。
何故か僕はその目から必死さや何か淀みの様なものを感じていた。
「すみません、毎回。」
戻ってきた時に僕は彼女に言う。
彼女は鞄に物を仕舞いながら、何でも無いように"いいよ、別に"と言うだけだった。
「結構遊んだね!」
彼女は腕に着けた時計で確認する。
僕は何か違和感を感じた。まるで服のボタンを掛け違えてしまった様な。
「その時計、前僕が持ってたやつと同じですね」
以前僕が気に入って使っていたものと瓜二つだった。僕はそれを無くしてしまっていたのだけれど。
こんなに近くに僕と同じものを使っている人がいるとは思わなかったけど。
「同じの持ってるなんてまるで〜、カップルみたいだね!」
おどける様に彼女はそう言った。
「僕はもう無くしちゃってますけどね」
僕がそういうと、彼女はただ笑顔で僕の顔を見るだけだった。
「凪、これも前確か持ってたよね」
そういうと筆箱から2、3本程ボールペンを出した。
確かに全て僕が持っていたものだった。無くしてしまった物。
そして、ふと気づく。
「そういえば筆箱もその消しゴムも前僕が失くしたものですね」
「確かに、そうだね!」
彼女はこの場にそぐわない様な元気さではっきりと言った。
僕はそれに気づくと空気が鉛のように重くなったように感じた。
「この後、ちょっと寄ってかない? 私の部屋」
「部屋、ですか?」
僕が聞き返すと、彼女はすぐに言い直すように微笑んだ。
「うん。今日撮った映像、家でちょっと見せたくてさ。編集の相談とかもしたいし」
「なるほど」
彼女が僕の目をじっと見据えてそう言った。
表情から笑みの要素を抜いた。まるで、何かを考えているふうに。
けれどすぐに、いつもの調子で柔らかく笑って、言った。
「なぎに見せたいいいものがあるからね」
彼女は僕の横にぴたりと寄り添いながら、小さな声で言った。
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彼女の部屋に着き、扉を開けた瞬間に僕は言葉を失った。
彼女の部屋は異様だった。
まるでこの部屋だけ世界と切り離されてしまったかのように。
暫くその部屋には、時計と心臓の脈動を刻む音が漂っていた。
所狭しと並んでいる日付と共に厳重に保管されているスプーンや箸、ボールペンなど小物から洋服などのものまで。
全て僕が無くしていたものだった。
僕と目が合うと、彼女はゆっくりと笑った。けれどその笑顔は、まるでどこかの店先に飾られているマネキンの顔みたいに、妙に整っていた。
「こうして私の部屋に、君のものが増えていくとね……ちょっとずつ、君と一緒に暮らしてるみたいな気分になるの。おかしいかな?」
「……いえ、まあ」
僕は曖昧に笑うことしかできなかった。
「次は何くれる?洋服?文房具?髪の毛?君のものならなんでも欲しいな」
いつもの調子で彼女は淡々と投げかけてくる。
「でもね、本当に欲しいのは、“もの”じゃないんだ」
と、彼女が声のトーンをわずかに落として言う。
僕が彼女の方に目を向けると、その瞳はまっすぐ僕を見つめ返していた。
「大丈夫だよ、私はちゃんと君から貰ったものは大事に保管してるもん。だから君も大事に私の部屋で保管するからさ」
その目は恍惚と純粋さに満ちていた。まるで初心な少女が愛を語るみたいに。
「でも、一番私が欲しいのは〜、君の意思かな。それまでもめぐちゃんのものに出来たらいいなって!逃がさないよ、私のたった一人の大切なめぐ党さん。凪なら分かってくれるよね?」
小話
僕には最近付き合い始めた彼女がいる。
僕の1個上の先輩、藤島慈だ。
「ねぇ?めぐちゃんのこと好き?」
二人で歩いて帰るとき、彼女は不意にそう訊ねてきた。
たぶん、いつもと同じ確認の儀式だ。
そういうことを彼女はときどきする。
まるで目覚まし時計のベルが毎朝同じ時間に鳴るみたいに。
あらかじめ決められたプログラムを実行するだけの動作。
「もちろん好きだよ。」
「世界で1番可愛いのは?」
「もちろん、慈に決まってる」
「私も大好き!世界で1番かっこいい彼氏だよ!!」
いつもの事をやり終えると彼女は満足そうな笑みを浮かべた後に僕の腕を組んでくる。
「ねぇ、今度の休みにさ指輪でも買いに行かない?」
「指輪?」
「そう!二人でお揃いの」
そう言って彼女は左手の薬指を右手の人差し指でトントンと叩く。
「まだ早いよ。僕はまだ18歳じゃないし」
「冗談だよ!でも君の薬指はめぐちゃんが予約してるから」
そう言って、まるで指輪の痕を作るみたいに左の薬指を爪を立てて軽く食い込ませる。
「じゃ!またね!授業終わったら向かうから教室で待っててね!」
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「ねぇ」
僕は放課後、帰る準備をしているとクラスの女子に話しかけられた。
「どうしたの?」
と僕は返す。
「明日の休みの日に次のクラスのお楽しみ会につかう道具一緒に買いに行かない?同じ係だしさ」
僕は小道具関係の役割を担っていた。だから僕を誘ったのだろう。しかし、時間も遅くなってしまっているため、今日は買いに行けない。
「大丈夫だよ、教えてくれれば僕が一人で買いに行く。そして、次の日にでも渡すよ。」
「で、でも色々沢山あるから一人だと大変だから……。2人の方が効率いいよ!」
「たしかにそうかもしれないね。君の方が詳しいだろうし。」
そう言って、2人の予定を合わせようとスマホを取り出した瞬間に扉が勢いよく開かれた。
「ごめんね!凪って誰にでも優しいからさ、勘違いしちゃうのは分かるんだけど私の彼氏だからさ!明日私と凪で買いに行くよ。丁度行きたいところもあったし」
「でも藤島先輩に他のクラスの、ましてや他の学年の事をお手伝いをしてもらう訳には……」
「気にしなくていいよ、凪の問題は"彼女である"私の問題でもあるし。何が必要なの?」
彼女はそのまま無理やりクラスメイトに聞きだすと、満足したような笑みを浮かべて僕の手を取り教室を出た。
廊下に出ると彼女はいつもより強く僕の腕に組んできた。
「慈、ああいうことすると人に嫌われちゃうよ」
僕はアドバイスのつもりでそういった。
人付き合いが良い方が上手くいく。それは彼女はわかっているはず。
しかし彼女は別の次元の出来事のようにあっけらかんとしていた。
「別にいいよ。私は凪さえいればいいし。」
そういうと誓いの様に彼女はキスをしてきた。
「君も気をつけてよね!君にはめぐちゃんしか必要ないんだから」
君に貰ったものは全て保管してるよ。だって私にとって唯一の大切なめぐ党さんだもん。のめぐちゃんのお話でした。
コンセプト的にも落ち着いた感じで書いたからめぐちゃんっぽくないって言われたらめぐちゃんっぽくない。でもめぐちゃんはこんな感じのことしそう(偏見)