令和のガンマン   作:星乃 望夢

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第3話 偏執

 

「ここか…」

 

 依頼を受けた俺は池袋から電車で新宿へと向かった。

 

 待ち合わせ場所はチェーン店のカフェ。

 

 依頼主の顔は依頼書に添付されていたから見れば判るだろう。

 

 既にショートメールで待ち合わせ場所に到着したとは送ってある。

 

 返信が来た。

 

 窓際の席に座っているらしいが、どこの窓際かと見渡せば、表通りからは見えない奥のボックス席に依頼人の姿を見つけた。

 

 そのボックス席へ歩み寄り、声を掛ける。

 

「待たせたな。アンタが依頼人だな?」

 

「はい。本日はよろしくお願いします」

 

 そのボックス席には、片方の椅子に二人掛けで女は二人座っていた。

 

 俺に返答したのは、如何にも仕事が出来ますと一目でわかる仕事女の雰囲気を纏っているレディーススーツの女。

 

 そしてその隣で不機嫌な空気を醸し出しているサンブラスと帽子を被った女、サングラスをしていても顔の作りが良いのが見て取れる。

 

 とりあえず立っていても始まらない。

 

 対面の椅子に座らせてもらう。

 

「さて、まわりくどい話をしても面白くないから単刀直入に訊く。アンタらが希望する仕事内容の確認だ」

 

「はい。(わたくし)共の希望は、彼女に付き纏うストーカーの調査です」

 

「ストーカーの調査、ね。警察に相談は?」

 

「勿論しましたが、彼女の自宅付近の巡回を強化するという返答をいただき、実際に対応してもらいましたが…」

 

「効果がない。ということか」

 

「はい。(わたくし)共と致しましては穏便に済ませたいのですが、彼女のメンタル面を考えると、あまり長引かせたくはないのです」

 

「調査とはあるが、実際には犯人の特定と排除がお望みか」

 

「排除とまでは言いません。穏便に話し合いで解決し、再発防止をお願いしたいのです」

 

「話し合いで、ね。それが出来たら世話がないだろうさ。ストーカーが単独であるなら話が早いが、この席、もう既に複数の人間に見られてるぜ」

 

「え?」

 

 俺がそういうと、依頼人の女は少し間の抜けた声を発した。

 

「店内に4人、店の外に2人、向かいのビルの屋上から2人。その隣のビルの3階から2人。この席を見ている人間の数だ。人気者も大変だな。おっと、周りを見渡すなよ? 気づかれたと向こうに知られると面倒だ」

 

「そこまで…」

 

「俺は暗黒街でも1、2を争うガンマンだ。素人の監視程度見抜けないんじゃ、とっくの大昔にくたばってるのさ」

 

 俺は依頼人の女──ではなく、その隣に座るサングラスの女に視線を向ける。

 

 サングラス越しにこちらを値踏みする視線を送って来ていたのは把握済みだ。

 

「へぇ、見掛けと違って実力は本物みたいじゃん。いいよ、合格」

 

「合格?」

 

 何が合格なのかはわからないが、この程度でなんの基準に合格したのだろうか。

 

「正直、探偵に頼むのも(うたぐ)ってったんだよね。ケーサツは役に立たないし、何人かの探偵を雇ってみたけど、みーんな外れだったし。アンタみたいにアタシを監視してる人間を言い当てたのは初めて。まぁ、暗黒街のガンマンとかアニメみたいで嘘くさいけど」

 

 ちょっと口が悪い、というよりノリが軽い感じの言葉使いの彼女の言葉に、俺は特に何を感じることはない。

 

 実際日本に居て、アメリカの暗黒街のガンマンという存在を信じろというのは難しい話だ。

 

「前提として先ず言っとくが、俺は探偵じゃねぇ。ガンマンだってことを頭に入れておけ」

 

「ふーん。じゃあ、アタシのこの状況をどうやって片付けるの?」

 

「それは企業秘密だ。とりあえず、お前を監視している人間がどれ程居るのかを調べる。暫くは行動を共にさせてもらうが、文句はあるか?」

 

「別に。てーかさ、うん。もうめんどくさいからさ。アンタが暫く、アタシの恋人代わりになってよ」

 

「はあ?」

 

「ちょっと、奈々香(ななか)…!」

 

「別にいいっしょ? つーか、いい加減アタシも我慢の限界なんだよね。もう今回でキレイさっぱり終わらせたいんだよ」

 

 いつからストーカー被害に遭っているかはわからないが、見る限り結構なフラストレーションが溜まっているのは見て取れる。

 

「俺は虫除けじゃねぇぞ」

 

「なに? アタシが彼女になるってのに、なんか文句あんの?」

 

「スキャンダルとかイメージダウンとか、そういうのには慎重になる業界だろ?」

 

「ふんっ。その程度でストーカーを黙らせるんだったら、アタシは構わない。それともなに? アタシの隣に立つ自信がないわけ?」

 

「はっきり言うな。まぁ、それで良いなら、俺は別に構わねぇよ。あぶり出す為のエサはある方が仕事がしやすい」

 

「んじゃ、決まりね」

 

「ちょっ、勝手に決めないで! そんなことをして貴女の価値が傷つけられたらどうするの!」

 

「それくらいで傷つく価値なら、それって本当の価値じゃないじゃん。だったらアタシは、そんなのいらない」

 

「奈々香…」

 

 俺と彼女で話が進んでいたが、横から止めてくる依頼人の女。

 

 その女に言われて言い返した言葉を、俺は気に入った。

 

「とりあえずもう依頼は受けて、報酬の計上も契約も済んでる。なら、あとはどう行動するかという擦り合わせだけだ。朝から動き詰めで喉が渇いてるんでね。コーヒー注文してくるから、その間に決めてくれ」

 

 そう言って、俺は一度席から立ちあがる。

 

 喉が渇いてるのはホントの事だ。

 

「ねぇ、アタシにもキャラメルラテ買ってきて」

 

「キャラメルラテな。アンタは?」

 

「え? わ、私はブラックで」

 

「ブラックな。んじゃ、ちょいと行って来るぜ」

 

 背中を向けて俺はカウンターへと歩き出す。

 

 やはり4人分の視線が動く。

 

 今判っているだけでも10人は俺たちを見ているとなると、おそらく組織的に動いているだろう可能性を考えておく。

 

 単独なら話は早かったが、そうでないとなると、これは少し骨が折れそうだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「おい。歩き難いだろ」

 

「なに? アタシが腕組んであげてるのに、文句あるわけ?」

 

「あるだろ。咄嗟に動けねぇ」

 

「ふーん。例えばどんな?」

 

「そらお前。こうして腕組みしてるところに嫉妬して、ヤッパ持ち出されたらとか」

 

「なら問題ないんじゃん。その時はアンタを盾にするし」

 

「構わねぇけどさ。一応、ボディーガード業務も適応されるからな。今回のヤマは」

 

 結局、依頼人の女──マネージャーを七霧(しちきり) 奈々香(ななか)は押し切って、俺は虫除け兼釣り餌として、恋人役をすることとなった。

 

「ボディーガードね。今までどんな仕事してきたの?」

 

「まぁ、色々だな。聞いたって、特に面白くもなんもねぇよ」

 

「なにそれ。答えになってないじゃん」

 

「過去をベラベラ喋るのは二流三流のすることだ。一流は、ただ自分の背中で語りゃ良いのさ」

 

「それって、ただのカッコつけじゃん」

 

「格好もつけられねぇようじゃ、男はモテないんだよ」

 

「なに? アンタモテたいの?」

 

「ああ。モテりゃ仕事が途切れることがないからな」

 

「なにそれ?」

 

「お前と同じさ。道端の石っころに誰も興味を持たないのと同じだ」

 

 俺からは特に話を振ることはない。

 

 向こうからの話題に答えながら、彼女の今日の仕事場に引っ張られながら向かっている。

 

「それでさ。今何人くらいに見られてるわけ?」

 

「追って来てるのは3人だな。2人が見失わないように()けて来て、1人がスマホで連絡役。おそらくそれで移動先を伝えて、落ち着いた場所に人数を配置するやり方だろうな。素人にしては中々考えた動きをしてやがる。ストーカー連中にサバゲ好きかミリタリー好き、最悪現職か元が居るかもわからんね」

 

 単独犯でないところから組織的に動いている可能性も考えていたが、素人にしては動きに軍隊的な雰囲気を感じさせる。

 

 おそらく現場組に指示を出している頭か、あるいはストーカー連中の中に軍経験か、サバゲーやミリタリー知識がある奴が居て、人員を動かしている可能性を頭の隅に考えておく。

 

《──目標、依然変わりなし。送れ──》

 

《──了解。くぅぅぅ、ぼくの奈々香たんと腕を組むなんて許せない! あいつ、あとで特定してやる!!──》

 

《──でもこれはスクープだ。あの七霧 奈々香に彼氏が居たってネタは使えるぞ──》

 

《──特定班から報告。…天使に近づく悪魔が判明した。送れ──》

 

《──よくやった!──》

 

《──kwsk!──》

 

《──名前はノワール・フォンティーヌ。アメリカの暗黒街で1,2を争う本物のガンマン、らしい──》

 

《──はい嘘乙ー。そんなアニメみたいなやつ居るわけナイナイ──》

 

《──フランス人の名前にしたって、どう見ても日本人なんですがそれは──》

 

《──黒い泉…か。そもそも本名か?──》

 

《──見た目もなんか高校生くらいだしな──》

 

《──辿れた古い記録だと、2000年にノワール・フォンティーヌとして、NYに戸籍の届け出が出されてるな。送れ──》

 

《──は? ならアイツ少なくとも20代ってことか?──》

 

《──ウッソだろお前。どう頑張っても10代後半だろJK──》

 

《──武器は銀のマテバ 8インチモデル。44マグナムを撃つ裏社会でも名の通った凄腕のスイーパーとも呼ばれている。活動拠点は大宮周辺らしいが。送れ──》

 

《──スイーパーって、始末屋だろ? なに、おれら始末されるん?──》

 

《──やべぇよやべぇよ──》

 

《──落ち着け。スイーパーでも無暗矢鱈に日本では銃を撃つことは出来ない。各自軽率な行動は控え、スイーパーとは通行人を盾にして観察を続行。一般人の居るところで銃は抜けない。送れ──》

 

《──楽しくなってきたぜ。何かあれば、俺のVSR-10が火を噴くぜ!──》

 

《──いいねいいね。やっちまおうぜ!──》

 

《──おい。勝手な真似は止せ。相手は本物だぞ──》

 

《──俺の奈々香タソと腕組むだけでも許せねぇのに、和気あいあいと話してるのも気に入らねぇ。この距離ならバレっこねぇよ──》

 

《──YOU、撃っちゃいなYO!──》

 

《──俺たちの力が、見たいのか──》

 

《──目標、赤信号で停止。今ならドたまにぶっ放せるぜ──》

 

《──さぁ来いよ。ツラぁ見せな──》

 

 耳に差してあるイヤホンから聞こえてくるのは、連中の無線だ。

 

 今日日無線なんて一般人は使っていないから、声の聞こえる周波数を特定してやれば、会話は拾い放題だ。

 

 首を傾けてやれば、その横を弾が過ぎていった。

 

 そして身体を半身後ろに振り向きながら、射線から計算して辿った先──ビルの屋上に見える狙撃手に向けて、指鉄砲を撃つ仕草をする。

 

《──あ、あいつ避けやがった!──》

 

《──や、やろう…。これが実銃だったら終わってたって言いたいのかよ!──》

 

《──言っただろう、本物だと。屋上班は速やかに撤収。気づかれているなら上からの監視は無理だ。地上班も50mは間隔を開けろ。見失ったとしても今日は仕方がない。終わり》

 

《──ちっ、あのやろう、覚えとけよ!──》

 

 俺は無線を聞きながらくつくつと笑うと、横から腕を引っ張られた。

 

「いきなりカッコつけたと思えば、なに笑ってるのさ。気持ち悪いよ?」

 

「なに。撃たれたから撃ち返してやったのさ」

 

「は?」

 

「BB弾だがな。屋上から狙撃してきた」

 

「なにそれ。BB弾って、エアガン?」

 

「おう。まぁ、殺気が駄々洩れだから避けるのに苦労はねぇけどな」

 

「狙われてるの? アタシ」

 

「や、お前さんに近づく野郎に対する嫌がらせ用さ。これまでそういう経験なかったのか?」

 

「アタシ女子高だから男子なんて居ないし」

 

「なるほど。まぁ、あの程度ならどうとでもなるが。今日の帰りに寄る所が出来たな」

 

「寄る所? どこさ、それ」

 

「餅は餅屋に頼むのさ」

 

 そう言って、俺は奈々香に腕を引かれながら、今日の仕事場の撮影スタジオに入った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「へぇ、いいじゃん。似合ってる似合ってる」

 

「────」

 

「アタシの見立て通り、アンタ素材が良いよね。危ない仕事なんて止めて、コッチで食べていけばいいじゃん」

 

「真っ平御免だね」

 

 今の俺は、いつものスーツと帽子を取り上げられていた。

 

 白のシャツにノースリーブの黒いジャケット、ネクタイは赤。

 

 此処までなら色味も合わさってコーデとしては問題ない纏まりだ。

 

 ただ問題は、スカートを履かせられているという事だ。

 

 太腿の高さ程度しかないミニスカ一歩手前みたいな丈のスカートに、ソックスも普通の長さであるから、太腿から膝下辺りを肌が露出している。

 

 つまり、女の格好をさせらている。

 

「勿体ない。ぜーったい、ウケるの間違いないのに」

 

「この格好でウケても、なんも嬉しかねぇよ」

 

 そもそもなんで俺が女物の格好をしているのかと言うと、奈々香とツーショットを撮る予定のモデルが急に体調不良で来られなくなったからだ。

 

 だったらひとりで撮れば良いだろうと思ったのであるが、構図的にツーショットでないとイヤだと奈々香が言って、そうしたら彼女が俺を指名した。

 

 そこから何故か着替えさせられ、今に至る。

 

「すっぴんなのにこんなに肌白い上に、脚だってこれ、ホントに男の脚なの? キレイ過ぎだっての。なんかしてんじゃないの?」

 

「んなこと言われてもなぁ」

 

 特になに、と言われても、思い当たる節は無い。

 

「引き立て役どころか、充分売り出せるレベル。アンタレベルのモデル、そう居ないよ?」

 

「そうでもないだろ」

 

「そうでもあるんよ。甘い顔に鋭い目つき。王子様系とかオレ様系で売り出せばイケるって。だからさ、アタシと組もうよ」

 

「悪りぃが、あいにく間に合ってる」

 

「なにさ。このアタシが誘うなんて滅多にないんですけど」

 

「女の格好して写真撮らせるんだ。今回が最初で最後だ」

 

 こんな格好で写真を撮るなんて本当は御免被りたいんだが、雇い主の頼みとなると聞かざる得ない。

 

 1枚程度なら、まぁ、耐えてやろう。

 

 と、思っていたんだが──。

 

「おい。ソロで撮るなんて聞いてねぇぞ。それに、何枚撮るつもりだ?」

 

「別にいーじゃん。折角なんだから撮れるだけ撮るだけ。ほら、顔硬くなってるから」

 

「硬くなるなってのが無理あるだろ」

 

 何故か俺だけでの撮影も組まれて、指示させれたポーズを撮る。

 

 立ち姿や椅子に軽く腰掛けた姿。

 

 ちょっとした小物を持ったポージング。

 

「なぁ。これホントにやらないとダメか?」

 

「なに? 今さら恥ずかしいの?」

 

「ちげぇよ。必要ねぇだろ」

 

「アンタ、プロでしょ? 途中で放っぽり出すの? それでも男?」

 

「俺はモデルのプロになったつもりはねぇよ」

 

 とは言え、途中で放り出すのも敗けた気分になるのも癪だったから、半分ヤケクソで次のポーズを撮った。

 

 両膝立ちでスカートの両端を掴んで摘み上げるとか、奈々香と組んで俺は下で、彼女が上で、互いに見つめ合ったり、後ろのカメラに視線を向けたり。

 

 仰向けで片腕を頭の上に置いて、もう片方は腹辺りで、片膝を軽く立ててアンニュイな表情を浮かべる。

 

 抱き枕のプリントみたいな構図の写真も何枚か撮らされた。

 

 結局数時間ソロで撮影されて、今まで感じたことのない無駄な疲れをこさえることになった。

 

「おい。この格好のまま外に出すとか正気か?」

 

「そっちの方が警戒されなくていいじゃん」

 

「俺の服をお前が着てる意味は?」

 

「変装」

 

 とか言いつつも、面白がっているのが見え透いている。

 

「必要ねぇだろ。さっさと服返せ」

 

「いいじゃん別に、減るもんじゃないし」

 

「俺の尊厳が減るわ!」

 

 なんで撮影が終わってまで着替えられず、女の格好のまま外に出なけりゃならないんだと抗議したい。

 

「でもさ、ホントに似合ってんよ。アンタと組めたら楽しいんだろうなって、思ったんだよ」

 

 どこか暗気な顔を浮かべる奈々香。

 

「アタシってさ、読モからこの業界に入ってさ。ま、上手く行ってはいるけど、上手く行きすぎるとやっかみとかそういうのフツーにあるんだよ。学校でだってさ。勝手に応募して、ウケて人気出たらさ。もうワケわかんない」

 

「だったらやめちまえばいいだろ」

 

「今更辞められると思う? マネージャーにも迷惑掛かるし。モデルでなくなったアタシにはなんにも残らない。モデルじゃないアタシなんて、もうどこにも居場所なんてないんだよ…。だから」

 

「寂しいから、仲間が欲しいってか。そんなのは御免だね」

 

 俺がそう言うと、彼女は顔を俯かせて肩を落とした。

 

「…そう、だよね。こんなアタシなんか」

 

「俺が気に入らねぇのは、お前のその態度だ」

 

「っ、仕方ないじゃん! これがアタシなんだし」

 

「この仕事を続けてるのはただの惰性か? この仕事しかないから、そこにしがみついてるのか? お前に、モデルとしての誇りはねぇのかよ。それがあるから、やっかまれても続けてるんじゃねぇのか?」

 

「誇り…?」

 

 顔を不思議そうに上げた奈々香に、俺は返してもらった後ろ腰のホルスターから銃を抜いて構える。

 

「誰にも譲れない一本芯がありゃブレねぇ。プロの先輩としての言葉だ。心の片隅にでも留めておきな」

 

 構えたマテバを手の内で回して、後ろ越しに収める。

 

「…うん」

 

 少しはマシになった顔を見て、俺はジャケットのポケットに手を突っ込んで歩き出す。

 

「なんだよ。その恰好なら腕組む必要ねぇだろ」

 

「別にいいじゃん。アタシら恋人なんだし」

 

「ごっこ遊びだろうが」

 

「でも恋人じゃん」

 

 これは何を言っても無駄そうだと早々に判断した俺は、彼女に腕を組まれながら歩くことにした。

 

 12月の夜にシャツとノースリーブのジャケット、さらに生足晒して歩くのは寒すぎる。

 

 世の中の女子は胆力あるなと、どうでも良いことを考えた。

 

 

 

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