令和のガンマン   作:星乃 望夢

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第4話 黒き眼の啓示

 

「夜空に煌めく星々が、私の呼び声を運んでくる。魂が共鳴し、運命が交錯する。貴方は知っていたはず、この闇の中で私を待ち受ける運命を。さあ、今宵こそは、その真実を解き明かす時よ」

 

 俺は奈々香を連れて大宮に戻ると、寄る場所へと向かった。

 

 どうして彼女が一緒なのか。

 

 興味があるから着いてきたんだとさ。

 

 東口のとあるビルに店を構える占い師を、俺は訪ねた。

 

「ようこそ私の店へ。貴方たちの訪れを待ちわびていたの。それにしても、今日の貴方の装いはなかなか興味深いわね。どこか深淵の力を秘めているように感じるわ。貴方も、古より秘められし魂の根源の力を解き放つ時が来たようね」

 

 長い黒髪を首元で一房に纏め、黒い外套を纏う暗闇が人の形をしているような、瞳にも光を宿していない不気味な雰囲気の女は、そう言葉を紡いだ。

 

「……なんて言ってんの?」

 

「考えるな。感じろ」

 

「無茶言うなし」

 

「我が魂の奥底に宿る言葉は、貴殿らにとって解することは容易くはない。しかし、それが貴殿らに響くとき、その輝きは何よりも優美なるものとなるはず。闇の焔を解放し、全てを破壊する時が遂に訪れんとする刻、その時こそが私の真の姿を示す時。世界は激しく揺れ動き、待ちわびたるその日を、今やもう間近に感じるのよ」

 

「なに言ってるか全然わかんない」

 

 凝ってこての厨二病言語を理解するのは素人には厳しいだろう。

 

 ふむ、それじゃあ、お手本と行こうか。

 

「……闇の力を操る者が現れた。()の者の目は紅く燃え、禁断の書を携えていた。研ぎ澄まされし耽美なる銀の咆哮を洗礼と共に鳴り響かせる刻、()の呪いを解くことが俺の使命。果たせば、世界は救われるやもしれない。果たさねば、天地は虚空と割れ、暗黒の時代が訪れることだろう。果たすしかない。果たすべきだ。果たさなければならない。既に契約は結ばれた。果たすぞ、この願いを!」

 

「星辰の日はすぐそこに迫っている。汝等よ、この情勢を理解せよ。我が腕が必要とされるのだろう?」

 

「ポジティブ」

 

 ガシっと、俺は厨二病全開で相対する女と固い握手を交わす。

 

「なに、このやりとり…」

 

 若干一名、ついて来れていない様だ。

 

「さて、愉快な歌劇は一時閉幕。この私を訪ねてくるとは、それほどの要件なのかしら?」

 

「普通に喋れるん!?」

 

「ええ。でないと普通の人間とは意思疎通が出来ないのだから。常人などには理解できない、我が孤高の存在。その孤独と闇を抱えながら、この世界でただ一人、私は真実を見つめている。我が名は孤高の闇夜(ナハト)、他者とは一線を画す存在。たとえ誰も理解せぬとしても、この孤独を受け入れ、闇を操る者となる」

 

「前置きされるとわかるけど、わざわざそんな意味不明な言い回しで会話すんのめんどくさくないの?」

 

「フフ、貴女もその内に眠る宇宙(コスモ)を解き放てば理解できるわ」

 

「ないわ。絶対ないわ」

 

 厨二病は一度発症すると完治不能の不治の病だが、そうでない人間からすれば意味不明の概念だろう。

 

「して、どうやら中々愉快な状況になっていると推察するのだけれど」

 

 そう言って、厨二病女は俺と奈々香を見比べ、そして俺の身体を上から下まで嘗め回すように視線を向けてきた。

 

「率直に言う。カウンターを依頼したい」

 

「なるほど。それほどの腕が必要だとでもいうのかしら?」

 

「俺がやれば良いだろうが、今回は餅は餅屋に任せようと思ってな」

 

「理解したわ。それで、相手は?」

 

「BB弾だから得物まではわからんね」

 

「BB弾相手にこの私を劇場に上げようとするなんて。過剰ではないかしら?」

 

「相手がどう出てくるかも観察したい」

 

「この私が眼として必要、そういうことなのね」

 

「対応は任せる。オールウェポンズ・フリーだ」

 

「それこそ過剰でしょう。でも良いわ。今店を閉めるから少し待っていて」

 

 そう言って、厨二病女はいそいそと店じまいを始めた。

 

「ホントに大丈夫なの?」

 

「その手の腕に関しちゃ、俺より上だ」

 

「へー。認めちゃうんだ」

 

「俺はガンマンだからな。得意なのは早撃ちであって、探せば俺とは別ベクトルのプロはごろごろ居る」

 

 店の片づけを待っていると、店の入り口が開いた。

 

「アリス、頼まれていたものを届けにき…た……、……何をしているんだ、お前は…?」

 

「……なんでお前がここに居るんだ。浮気調査はどうした」

 

「あの程度、1日あれば終わる。それより、なるほど、ついにそういう趣味に目覚めたkグホッ」

 

「ようし、今すぐその頭に風穴開けてその記憶を撃ち抜くからそこに立て」

 

「いきなり、人の頭を叩くとは何事だ。そもそも、お前がそのような格好を晒しているのが悪いのだろうが」

 

「うるせぇよ。とっとと頭出せや」

 

 まさか上場が来るとは思わず、この格好を見られたくない相手に見られたという事実を早く消し去りたかった。

 

「お待たせ。これからお店に行くのでしょう?」

 

「なんでここにコイツが居るんだよ」

 

「異なことを聞く、私が呼んだからに決まっているでしょう。面白くなりそうなのは朝の占いでわかっていたのだから」

 

「私は被害者だと、これで証明されたわけだな」

 

「ドヤ顔浮かべんな。思わず撃っちまいそうになるわ」

 

 最悪な気分になりつつ、深いため息を吐いて、俺は占い師アリスの店を出て、イザベルの店に向かうことにした。

 

 その間に色んな知り合いに見られるって?

 

 見られたってネタにしてくる悪い奴は居ないから気にはしない。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 店に入ると見知った背中がカウンターに座っていた。

 

「おう。来てたのか」

 

「先に始めさせて貰ている」

 

 座っていたのは松永だった。

 

 相変わらずオレンジジュースしか飲まない奴だ。

 

 本人は下戸だから飲めないわけじゃない。

 

 パワハラじみた飲み会でも悪質な上司を軒並み撃沈させるほどのザルだ。

 

「あら、あらあらまぁまぁまぁ!!」

 

 俺の声に気づいたイザベルが顔を上げると、頬に手を当てて黄色い声を発した。

 

「着替えてくるから適当に座ってろ」

 

「え、あ、うん…」

 

 俺はそう奈々香に言い残して店の奥に入る。

 

 店の奥は仮眠できるように部屋がある。

 

 もちろん着替えもある。

 

「もう着替えるなんて、もったいないわ」

 

「見せもんじゃねぇよ」

 

 ジャケットに手を掛けると、イザベルがやって来てそう言うのに返した。

 

 実際、店にたどり着くまでに何も言われずとも顔見知りにはガン見されたため、着替えられるなら早く着替えたかった。

 

「お、おい」

 

「手伝ってあげるわ」

 

「いらねぇよ。ガキじゃあるまいし」

 

 近寄ってくるイザベルにそう返すものの、こちらの言葉は意に介さずにじりじりと近寄ってくる。

 

「まぁまぁ、いいじゃない」

 

「店に戻れよ脳内真っピンク女将!」

 

 パシャ!

 

「ちょ、撮ってんじゃねぇよ!!」

 

 いつの間に取り出したのか、スマホをこちらに向けてシャッター音を鳴らすイザベル。

 

 無駄に早撃ちの技術を使って一瞬でスマホを構えながらおそらくカメラアプリも立ち上げていたんだろう。

 

 スマホを向けられたその時にはもうシャッター音が鳴っていた。

 

「ぜってぇアイツに見せるんじゃねぇぞ」

 

「うふふ。はいはい」

 

「ちっ」

 

 舌打ちしていつものジャケットに腕を通し、スラックスを履いてスカートを脱ぐ。

 

 下着には言及するな、ドたま吹っ飛ばすぞ。

 

「ねぇ、下はどうなってるの?」

 

「るせぇよド淫乱!!」

 

「キャン!」

 

 イザベルの頭を叩いて店の中に戻る。

 

 カウンターのいつもの席にどかりと少々乱暴に座り、煙草を出そうとするが、このジャケットには煙草が入っていないのを思い出す。

 

「あら、着替えてしまったの? なんということか、その身に宿る力を無駄にしているとしか思えない。()の姿こそが真の姿なのに、人々には理解できぬということね。もっと認められるべきだと思わない?」

 

「じゃかましいわ」

 

 俺は椅子から立つと、アリスと共にテーブル席で座っている奈々香のもとへと歩み寄る。

 

「おい。ジャケットの中の煙草とライターをくれ」

 

「あ、うん」

 

「それと、あそこに座って仏頂面でオレンジジュース飲んでる奴は警視総監だから、文句があるなら言うと良いぜ」

 

「ふーん。……は? ──はぁ!?」

 

 松永を差して警視総監だと言ってやると、奈々香は素っ頓狂な声を上げた。

 

「け、警視総監って、ケーサツのトップじゃん! なんでこんなところに居んの!? つかガチのモノホンなの?」

 

「現職の警視総監は俺だ。何か問題でもあったのか?」

 

 松永が席を立って身体を奈々香へと向けて言葉を投げる。

 

「あ、いや、その、うぅ、つ、告げ口みたいでカッコ悪いじゃん」

 

「告げ口じゃないだろう。警察官の仕事の質を上げる貴重な意見ってやつだ」

 

「そうだ。問題があるのならば忌憚のない意見を述べてくれ。必ず改善すると誓おう」

 

「うっ、なんか、ガン決まってる感じすんだけど」

 

「こいつは正義一直線バカだからな。まぁ、こいつが警視総監になってから警視庁管内での日本人の犯罪率はほぼゼロになったがな」

 

「ゼロではない。それに、管轄外では犯罪者をのさばらせてしまっている上、表に出ていないだけで犯罪は管轄内でも横行している。それらを撲滅するのが、警察官としての俺のやるべきことだ」

 

「マジガン決まりじゃん…」

 

 松永の言に若干気圧されている──引いている奈々香に代わって、俺が言葉を紡ぐ。

 

「実はこいつにストーカー被害の調査依頼を受けてるんだが、相手は複数で組織的に動いてやがってな。こいつも警察には相談したが、自宅回りの巡回を強化するっていう在り来たりな対応で、結局は被害を抑えられてねぇ。まぁ、普通のストーカーならそれで充分なんだけどな」

 

「カークライトを招集する程の事態ということか。理解した。担当管区には俺から言っておく。その調査には俺も同行しよう」

 

「おいおい。そうトップが現場に出て良いのか?」

 

「踏ん反り返って椅子を尻磨きするのが俺の仕事ではない。犯罪者が徒党を組んで民間人の安穏を脅かすというのなら、是非もなし。全員捕まえて留置所に収監する。それに合わせて、警視総監権限の下、お前の捜査権限を有効とする。必要とあれば、俺の名で人員を動かせ」

 

「ポジティブ。っても、アリスを入れるからそう人数を動かすこともないだろうが、ガサ入れが必要になったときは使わせてもらうぜ?」

 

「ああ。それで構わない」

 

「ホント、なんなのアンタ。なんでケーサツのトップとツーカーなワケ?」

 

「色々とあるのさ」

 

 俺はそう言うと、席に戻って煙草に火を点ける。

 

「それで? ストーカーは複数と言っていたが?」

 

 隣に座る上場が俺に声を掛けてきた。

 

「とりあえず10人は居る。他にも居る可能性はあるぞ」

 

「七霧 奈々香。読者モデルになったのは中学生の頃。友人に雑誌に応募されてデビューしたらしい。今現状は女子高ということもあって情報の精査が難しい。それほどのストーカー集団が居ると言われても不思議ではない程度には新進気鋭の現役女子高生人気モデルだ」 

 

「とはいえ、庇護されるべき未成年であることには変わりはない。俺と上場で周辺調査に当たる。お前は彼女のガードと、その精査しきれない情報を当たってくれ」

 

「ボディーガードは構わないが、女子高になんて入れねぇぞ?」

 

 いくらボディーガードつっても女子高という女の花園に部外者の男が入れるわけがない。

 

「それについては──」

 

「待て」

 

 上場が何か言おうとしたところに、松永が険呑な顔つきになった。

 

 そして店の窓ガラスが割れる音が響く。

 

 何事かと後ろを振り向くと、何かが転がっていた。

 

「っ、耳を塞いで目を瞑って地面を向け!!」

 

 俺はこの場で唯一一般人の奈々香へ向けて叫ぶように声を張り上げながら、カウンターの中へイザベルを押し倒しながら飛び込んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 カウンターの中へと飛び込んだと同時に激しい閃光と甲高い爆音が解き放たれる。

 

 ドサッと左右に上場と松永も落ちてくる。

 

 俺は押し倒したイザベルの耳を塞ぎ、逆にイザベルは俺の耳を塞いでくれたが、狭い店の中ではやらないよりマシ程度の効果しか無く、耳の奥がキーンと鳴って声があまり聴こえない。

 

 ハンドサインでこの場の3人に確認を取るが、3人とも似たり寄ったりだ。

 

 まさかスタングレネードを投げ込まれるとは思ってもみなかった。

 

 さらにはカウンターの中に弾頭の様な物が入って来て、それから盛大に煙が発せられる。

 

 咄嗟に口を塞いだが、目が痛みと共に涙を流し始める。

 

「クソッ、催涙ガスまでもか!」

 

 悪態を吐きながらカウンターの影から表を見ると、次々と催涙ガスを発する弾頭が撃ち込まれている。

 

 リボルバーグレネードまで用意されているらしい。

 

 店の中は煙で真っ白だ。

 

「ちくしょう。あの磨りガラスもう何処でも作ってねぇんだぞ。なんてことしてくれやがった」

 

 さらに酒棚の瓶も割れていく。

 

 床の上に転がるのは8ミリの弾だが──。

 

「おい、鉛玉だぞ」

 

 同じ様に気付いた上場が弾を摘んで掌の上に転がしながら言う。

 

「それだけじゃねぇ。本物も一挺混じってやがる」

 

 耳がバカになっている為、音での聞き分けは出来ないが、瓶が一部異なる割れ方をしている物がある。

 

 そして酒棚を壊している弾の当たり方は実弾の壊れ方だ。

 

「営業妨害に器物損壊、銃刀法違反か」

 

「しっかり豚ブタ箱にブチ込んで損害賠償毟り取ってくれよ?」

 

「無論だとも。この俺の目の前で犯罪を犯そうなどと赦すわけにはいかない。俺が先陣を切る。援護は任せるぞ」 

 

「いや、俺が出る」

 

 身を踊り出そうとする松永の肩を掴んで、俺はカウンターの中から外へ躍り出る。

 

 すると丁度良いタイミングで店の入り口の戸が蹴破られる。

 

 戸の擦りガラスも当然割れる。

 

 入って来たのはミリタリースーツに身を包んでガスマスクを付けた人間。

 

 手にはM16を持っているが、一目でガスガンの類だと見抜く。

 

 質感が本物と違うからな。

 

「こ、こいつ!?」

 

 ガスマスクをしているから死角が多い。

 

 とはいえ入り口は正面のみで、入ってすぐがカウンターである為、カウンターから躍り出た俺と真正面で鉢合わせたワケだが。

 

 着地と同時に膝を曲げて低姿勢となって、そこから脚のバネを伸ばしながら入って来たミリタリー被れの顎を蹴り上げる。

 

 そのまま仰け反るミリタリー被れの身体を蹴り飛ばして店の外に転がす。

 

 脇を見れば倒したテーブルの陰にアリスと、そのアリスに匿われている奈々香が見える。

 

 俺は小さく息を吐いて、スラックスのポケットに手を突っ込みながら店の外に出る。

 

 店の外には10人程度のミリタリー被れが各々銃を構えて居た。

 

 その中から一挺、本物を見つける。

 

 AKMか。

 

 まぁ、比較的入手難易度は低いアサルトライフルの一挺だ。

 

 旧ソ連が大量生産し、世界で最も生産されたというアサルトライフルであり、ソ連崩壊時に国外へ大量に流出したという事情と、大量生産モデル故の構造の模倣のし易さなどで、裏社会でもポピュラーな一挺でもある。

 

 しかし、まさか実銃を持ち出して来るとはな。

 

「へっ、出て来やがったな、カウボーイ気取り」

 

 AKMを持つミリタリー被れから言葉を投げかけられるが無視する。

 

「なぁ、一つ聞きたい。お前たちの目的はなんだ?」

 

「決まってんだろ。俺たちの奈々香タソに近寄る害虫を消しに来たのさ」

 

「そうか。ちなみにだが、その彼女も店の中に居ると承知の上でコレか?」

 

「なっ、そんなはずないだろ! 奈々香タソはまだ撮影が終わっていないハズ。適当なことを言ってんじゃねぇぞ!」

 

 と言われるが、もちろん彼女は店の中に居る。

 

 まさか、俺の格好をした程度の変装を見抜けなかったのか?

 

 だとしたらこいつら相当のアホだな。

 

 いや、サバゲーとかミリタリー知識だけがいっちょ前のアマチュア以下の奴らにそんなことを言う方が酷か。

 

「それで。この落とし前は一体どうしてくれるんだ? こんなにボコボコ穴開けやがった上に、もう何処にも売っていない磨りガラスを何枚も割ってくれた上に、ビンテージ物の酒を何本もパーにしてくれたんだぞ? ちなみにいうとだな、この店はそれなりの財界人とか政治家、地元の組長なんかも懇意にしてくれててな。そのお客のキープボトルも軒並みお前たちは全部おじゃんにしてくれた。……お前ら、一族郎党無事でいられると思うなよ?」

 

 声のトーンを一段低くして、帽子の下から睨みを利かせてやると、ミリタリー被れどもは「うっ」と息を漏らして後ずさった。

 

 ちなみに今言ったことはすべて本当だ。

 

 財界人や政治家は敵が多いからな。

 

 15年も商いをしていれば地元組合とも顔見知りだ。

 

 つまりこいつらは人生終了ボタンがあちこちにある地雷原でブレイクダンスをしたようなものだ。

 

「う、うるせぇ!! てめぇが消えちまえばすべて終わりだ!」

 

 AKMを持ったミリタリー被れが叫ぶが、俺はそれを鼻で笑ってやった。

 

「なにがおかしい!」

 

「例え俺がここでくたばろうとも、お前たちは終わりだ。この店には今、警視総監が飲みに来ていてな。もうこの周囲一帯の繁華街は警察に非常封鎖されてる頃だろうさ。どのみち、逃げられやしねぇよ。そのついでに、お前たちの情報が割れたら芋ずる式にお前たちの家族もどんな目に遭うか楽しみだな」

 

 俺はミリタリー被れ共に現実を突きつける。

 

「資産凍結に、父親は会社をクビ、母親は適当にまぁ、水商売に売り飛ばされるか、そういう年齢でなけりゃ臓器うっぱらって魚のエサだな。弟も学校なんて行ってられないし、妹なんて若いんだ。マニアに高く売れるぜ? 兄貴が居るなら人生真っ暗だ。結婚していれば嫁さんも裏に売り飛ばされるな。姉とかも若ければ良い値段するぜ? 顔が良ければなおさらな。不細工でも海外ならまぁまぁな値段で売れる。日本人は珍しいから付加価値があるのさ。爺さん婆さんが生きてりゃ資産凍結の上に実家は追い出されて路頭に迷うな。この時期の寒さは凍え死ぬには苦労しねぇぜ? 親兄弟に子供とか赤ん坊が居ても、裏社会で臓器提供待ってるところに売れるし、そういうヤバい性癖の客もゴロゴロ居るから売り先に困るこたぁねぇ。──お前ら、それほどのことをやっちまったと理解しろ」

 

 俺がそう言葉を区切ると、ひとりのミリタリー被れが銃を手放した。

 

「お、俺はあいつが言ったからやっただけだ。俺じゃねぇ、俺は悪くねぇ!!」

 

「アホか。散々そのM4カービンで鉛玉をトリガーハッピーで撃ち込んだんだろう? ガンマン相手に銃を抜いて鉛玉ぶち込んでおいて、俺はやってねぇ? ナメてんのか世の中を」

 

「た、頼む! 妹だけは見逃してくれ! 今年受験でまだ中学生なんだよ!」

 

「へぇ、中学生ね。今なら欧州方面が結構買値が高いな。あっちの界隈はえげつない性癖持ちが多いから気をつけた方がいいぜ? 処女膜を熱したアッツあつの棒を捻じ込んで泣き喚こうが何しようが嗤いながら焼き貫いてそのまま子宮まで貫通させるのが去年あたりのトレンドだったんだぜ」

 

「や、やめろ、やめてくれ! 店なら弁償するから──」

 

「なら今すぐ3億耳揃えて持ってこい」

 

「さ、3億!?」

 

「当たり前だろ。二度と手に入らない磨りガラスからビンテージ物の酒類、それを関係各所に示談するにゃ、それくらいは掛かるって言ってんだよ」

 

「そ、そんな金、用意できるわけ」

 

「なら一族郎党悲惨な目に遭うだけだな。ごくろうさん」

 

「ま、待ってくれよ! 姉ちゃん来週結婚するんだよ! 姉ちゃんは見逃しくれよ!!」

 

「だから3億持ってこいって言ってるだろ」

 

「そんな金、どうやって」

 

「知るかよ。その手の中のベレッタでも使ってどうにかしろ」

 

 次々に意味のない許しを請うミリタリー被れどもだが、既に賽は投げられ、コイツらはその軽率な行動でベッドして、結果地雷原であるのを知らない無知蒙昧軽挙妄動の自業自得であるから情け容赦一切不要で同情の余地もない。

 

 ここで笑えるのは、やっちまった本人よりその身内の方が悲惨な目に遭うのが先だってことだ。

 

 本人は留置所送りで起訴されたらブタ箱送りで、そのあとに(バチ)が下るわけだが、死んだ方がマシ程度の地獄は味わうだろうな。

 

 そのあとはミンチになるか海外で的当ての練習台か臓器空っぽで魚のエサだな。

 

 ま、運が良ければ海外で鉄砲玉になって生き残れれば死なない程度の生活は出来るんじゃねぇかな?

 

「ハッ、どうせハッタリだ。それにな、許しを請うのはお前の方だ。おい!」

 

 AKMを持ったミリタリー被れがそう声を張り上げると、路地裏から別のミリタリー被れに連れられたサオリが出てきた。

 

 後ろ手を縛られているんだろう。

 

 アイツ、店に居ないと思ってたら捕まっていやがったのか。

 

 まったく──。

 

「ごめん、ノワール」

 

「どうだ。こいつを酷い目に遭わされたくなかったら大人しく土下座でもして二度と奈々香タソに近寄らねぇと約束しな。それと迷惑料として3億持ってくるんだな。そうすりゃ、コイツは見逃してやってもいいぜ?」

 

 形成逆転だと言いたげにするミリタリー被れどもを前に、俺は盛大にため息を吐く。

 

「お前ら、やっちゃあいけねぇことをしちまったな…」

 

 俺は後ろ腰からマテバを抜くと、近場に居たミリタリー被れの持つM4A1を撃つ。

 

 材質がプラスチックであるから簡単に銃は砕け、そして454カスール弾はそのミリタリー被れの指を何本か抉って地面に着弾した。

 

「ぎあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! 指がっ、ゆびがああああっつ」

 

 指を抉られたミリタリー被れは地面をのたうち回って悲鳴を上げた。

 

「裏社会の人間に喧嘩売って、ガンマン相手に銃を抜いて、鉛玉をぶち込んだんだ。ただで帰れると思っているのか? それとな──」

 

「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、あしがっ、あしいいいいいいいい!!!!」

 

 また別の近場のミリタリー被れの安全靴の上から撃ち抜いてやる。

 

 そんな板べっこ程度で、454カスール弾は止められねぇよ。

 

「なに人の女に手ぇ出してやがんだ。殺すぞ」

 

 俺は冷たい殺意をマテバに込めて、さらに続けて454カスール弾を撃ち放った。

 

 

 

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