踏み台悪役貴族に転生したので、最強になって壁になってやる!   作:カンさん

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間違えて投稿してしまったけど、まぁ良いでしょう
今後は2日に一回の更新を心掛けたいです


第二話 入学目前

 入学試験を終えて1週間後。実家で飯を食うか寝るか鍛錬するかというニートみたいな生活をしていた所、学園側から合格通知が来た。まぁ当然だな。

 親父に報告しに行くと「お前、大人しくしてくれよ? いつも苦情入れられるのは私なんだ」とお腹を抑える。便秘かな? そして「あといい加減婚約者候補選んでくれ」とすっかり後退した頭部のカツラのズレを直しながら激励の言葉を送ってくれる。優しいパパだ。どうせ未亡人になるから辞退させて貰います。

 兄上には苦笑しながら「やり過ぎるなよ」と言われる。何を?

 

『全てだろう。少しは労わってやれ』

 

 水魔法で治してあげたじゃん。

 

『治せば良いという話ではない』

 

 難しいなー。

 学園に通い始めるのは三日後らしいのだが、別に用意する物は無いんだよね。既に準備は終わっているし。

 

「ヒュース」

 

 倒立腕立て伏せしていると、オレの影から闇が吹き出しそこから現れたのは幼き少女。

 低い身長である事を抜きにしても背中を覆うほどに長い銀髪。そして透き通る程に白い肌に、半目に鮮やかな紅の瞳。何よりも特徴的なのは羊の様な……いや、悪魔の様なデカい角。

 

「何か用か、魔王」

 

 そう。この幼女は原作でもその存在がほとんど謎である、光の魔剣の担い手こと――魔王だ。

 

 原作において魔王は、物語においてとても重要な役割を持つ。

 主人公と対になる光の魔剣を持ち、闇の呪いをその身に宿した作中最強クラスのボスキャラ。

 魔法は光の魔剣で無効化し、唯一対抗手段である闇の聖剣も同じ闇の力で抵抗し、さらには優れた剣技と相手の放った魔法を模倣し強化して跳ね返すチートっぷり。

 てか、この魔王絶対に負けないんだよね。魔王戦の時は毎回負けイベント扱いだから。

 有識者が攻略を試みるけど、体力を0にした瞬間無条件で魔剣解放して、演出ムービーの後そのままシナリオ進行するという。

 

 まぁ、異界の神に体乗っ取られた結果、それが原因で命を落とすんだけど……。

 

「……用が無いと来たらダメ?」

 

 表情を変えずに、しかしシュンッと落ち込む様子を見せる魔王。

 ん゛ん゛。心が痛む!!

 御覧の通り、何故かオレは魔王に懐かれている。そもそもの発端は旅に出たと同時にこの幼女と出会ってしまった事なんだよな。

 

――「光と闇の力を感じる……貴方、何者?」

 

 どうして魔王と序盤マップでランダムエンカウントするんですか?

 

 アランとテレシアの存在を感じ取ったのか、当時全く余裕の無かった魔王はオレに襲い掛かりそのまま戦闘。

 7日間に及ぶ激闘の末、相打ちになりそれ以来懐かれた。何故???

 おかげで変装用に用意したマスクも服も変装魔法も解かれたんだよね。モノローグさんも初めは抗議しまくっていたけど、戦いが終わる頃には諦めたかのように何も言わなくなった。

 

 その後、オレは魔王に付き纏われながら旅に出たのだが……確かに予定通りに強くなったよ? でもまさか――秘密結社ソード・オブ・デザイアの幹部扱いされる事になるとは思わなかった。

 

「アストラからの伝言。早く会いたいって」

 

 それ絶対に殺し合おうぜって言っているだろう? あの戦闘狂に捕まったら学園に通う所じゃなくなる。

 

 ――秘密結社ソード・オブ・デザイア。原作でその存在が明かされるのは、聖剣使いが全員揃った後だ。

 作中で度々登場する人工魔剣は、実はこの組織が作った物だったりする。

 これにより数多の悲劇を引き起こすのだが、制作秘話や国中に出回った経緯を聞くと偶然が重なった故の悲劇としか言いようがない。

 

 ちなみに100年後のシリーズ第2作では、魔王たちが居なくなった事で秘密結社ソード・オブ・デザイアは悪の組織になってしまっている。第2作の主人公であるホムンクルスが魔王をベースに作られたって話だから、割と重要なんだよねこの組織。あと後続のシリーズでも度々名前が出る。

 

 そんなシリーズを通して重要な存在である秘密結社ソード・オブ・デザイア(以下デザイアと略す。長い)に、オレは何故か所属している。だいたいこの魔王のせいなんだよね。

 いや、なんか四天王に紹介されたんだよ。我より強い、と。

 

 何してんのこのロリババア!? と抗議する暇もなく、実力を見せろと戦う羽目になった。全員ボコボコにしたけど。その結果火の魔剣使いアストラにロックオンされたけど。勘弁してくれ。

 

 あ、ちなみに原作だとこのアストラさんにヒュースは殺されます。砂利扱いされて。

 

「……ヒュース。あんな場所行く必要ある?」

「ああ」

「……例の運命?」

「ああ、そうだ」

 

 魔王はどうにも主人公に対して懐疑的らしい。しかしそれも仕方が無いのかもしれない。

 原作主人公は魔王のやり方を否定し、魔王は原作主人公の在り方を認めなかった。

 しかし願いだけは一緒だったからこそ、世界を救う事ができたが……魔王は最後必ず死ぬから、結局分かち合う事は無いんだよな。

 

「信じられない。貴方ほどの存在がこの世界に二人も居る筈がない」

 

 そう言われましてもちゃんと原作主人公(リオン)は居たんだけどな。

 

『我も正直、あの小僧から貴様ほどの力は感じなかったがな』

 

 アランまでそんな事言って。

 確かに今は弱いかもしれないけど原作主人公だぞ? いつか必ずオレを追い越してくれるさ。その為の道筋は既に見えているし、契約内容的に必ず達成できると確信している。

 

 まぁ、もし達成できなくても結末は変わらないから……問題ないさ。

 タイムリミットはあと1年も無い。それまで楽しみにさせて貰うよ。

 

『……』

『……』

 

 何か言いたそうだな二人とも。

 

『別に何でもないわ』

『ふん』

 

 不満そうな声を出した後、二人はそれっきり黙り込んだ。

 何なんだよいったい。

 

「それとヒュース。オルディバからも伝言」

「……」

 

 一気に自分の表情がクシャッと歪むのを感じた。肉体と精神がシンクロしているのを感じる。

 

【オレは、あの狂気の男の言葉を聞きたくなかった……】

 

 モノローグさんもだった。

 しかし此処で聞かないのもそれはそれで、怖いな……。

 仕方ない。聞こう。覚悟を決めて無言で続きを促すと魔王は言った。

 

「人工魔剣が盗まれた」

「愚かすぎる」

 

 流石に絶句するわ! オレと関わって色々と改竄された筈の組織なのに、何故そこだけ原作準拠なんだよ!

 

 人工魔剣は、聖剣や魔剣の様にかつての人間の人格を照射されるのでは無く魔法を刻み込まれる。

 それにより己の適正と違った魔法を使う事ができたり、得意な魔法をさらに強化できる。

 しかしこの人工魔剣には問題があり、使い過ぎると精神汚染が起きて魔獣化と呼ばれる肉体の変異が起きる。

 そうなれば逆に魔法に操られる様に暴れ続け、最後には死んでしまう。

 

 デザイアはとある理由があって人工魔剣を造って世界中に広めた。その過程で多くの悲劇や犠牲者を生み出すのを承知の上でだ。

 

 しかしオレの存在によって、人工魔剣の存在は要らなくなった。人工魔剣ってこの世界だと麻薬的な扱いされているんだよね。

 誰でも超人的な力を手に入れる事ができるけど、精神汚染されて犯罪行為に手を染めるのなら国が認める訳がない。非人道的だし。

 だから、オレがデザイアに入ってからは人工魔剣の製造は辞めた筈なんだけど……この様子だとあの陰険クソ眼鏡、こっそり作っていやがったな。

 

「罰は」

「5回殺した」

「10回追加だ」

「うん」

 

 しかし――まさかこんな形で、原作ストーリーが補完されるとは。

 原作の序盤ストーリーである学園編では、人工魔剣による事件を主人公が解決するのがメインだ。父を人工魔剣使いによって殺された主人公にとっては因縁のあるアイテムだ。

 闇の聖剣という得た事で一度投獄された主人公は、自分が本当に勇者エルドの子である証明と闇の力を使いながらも人類の味方だと証明する為に、王都アーロンドで暗躍する人工魔剣とその使用者を探し出して倒すのが筋書きだ。

 

 ちなみに原作ヒュースは、聖剣に選ばれた主人公に嫉妬して度々人工魔剣が起こした事件に首を突っ込んでは、主人公や敵キャラに雑に倒されている。

 それなのに学園編のラストはヒュースの決闘で締めるから、序盤のラスボス扱いなんだよな。当時はイライラしながらプレイしてたぜ。

 

 オレがデザイアに入ったことでこの辺のストーリーに何かしらの影響があると思っていたが……果たしてどうなるやら。

 少なくとも【ナイトメア】【トリプルアクセル】【ブースター】の人工魔剣があるのは確定か。

 

「手伝おうか?」

「いや、辞めておこう。ここは王都だ。王族の目がある。それに1年前のアレでクレスがお前の存在に疑念を抱いている。この時期に、魔王と人工魔剣の存在を結びつけるのは得策ではない」

 

 やれやれ。無事に半年後(原作開始)まで辿り着けるのかね。

 

 

 

 

 ――なんだったんだ、アレは?

 

 ジョニーの持つ別荘で、無事に合格通知を受け取った僕だったけど心中穏やかではなかった。

 ルティナとフィリスは願い通りに初めから学園に通っているのは嬉しかった。これで彼女たちと楽しい学園生活を送る事ができる。

 しかしヒュースがおかしい。確かに魔法も剣技も才能がある天才だったけど、あそこまで強くなかった筈だ。僕が強くなったから相対的にアイツも強化されたのか?

 

「ふさけんなよ……」

 

 ギリッと歯ぎしりしてしまう。せっかく努力したのに敵も強かったら意味がないじゃないか。剣技もたくさん覚えて、人工魔剣も何個も壊して強い魔法を覚えたのに。

 苦戦せずにさっさと敵全部を気持ちよく倒したいのに、これではそれができるか怪しい。

 

「はぁ……」

 

 とりあえずどうしようもないから祈りを捧げ(セーブす)る。

 これは癖みたいなものだ。こうして小まめに祈りを捧げ(セーブし)ないと落ち着かない。実際、原作隔離が起き掛けていた時があった。その際は何度も何度も祈りを捧げ(セーブし)て流れを修正した。

 特にディバイン・アーマーを習得する時は細心の注意を払う必要があった。

 エルドの旅にいつマリアンが同行するのか把握していないと置いて行かれる可能性があったし。何とかジョニーを巻き込んで成功したけど。

 それにしてもあのキャラは迫力あって怖かった。流石は主人公の仇。あまりにも怖過ぎて、原作みたいに怒りのまま殴り掛かるなんて事できなかった。

 まぁ、ディバイン・アーマーはちゃんと習得できたから良いけど……。ガチャ要素多いよなこの作品。

 

 それに……いや、アレは忘れていい事だ。気にしたらダメだ。

 

「ヒュースの事は学園に入ってから考えるか」

 

 それよりも気にするべきことはルティナとフィリスだ。今日話し掛けてみたが、二人はとても良い子だった。オレの名前を聞いてすぐに勇者エルドの子だと認識し、会ってみたかったと言ってくれる。結構好感度が高いんじゃないか?

 

 しかし問題は原作の悲劇が起きているか否かだ。もし起きていなかったら好感度を稼ぎにくいのかもしれない。

 ……いや、聖剣と魔剣の奪い合いでイベントは起きるし焦らなくて良いか。それに一緒に学園に通えるから大丈夫だろう。人気のあるサブクエストを一緒に攻略するのも良いかもしれない。そこで手に入るアイテムを渡したら喜ばれるかも。

 

 学園編が楽しみだ。

 

 

 

 

 王都の外れにあるテントで野営していると、人の気配が近づいてくるのを感じた。

 咄嗟に腰の双剣に手を伸ばすが……。

 

「待て待てファースト。おれだよ、クラウスだ」

「……アンタか」

 

 暗闇から出て来た男は(オレ)をファーストと呼び、そして聞き慣れた口調だった。それにこの軽薄な言葉……クラウスか。

 彼は一つの封筒を手にいつものヘラヘラ態度で(オレ)の隣に……って。

 

「――いつも言っているでしょ。隣に座るな。前に座れ」

「おっと、相変わらずガードが固いねぇ」

 

 睨みつけると「これは失敬」と言ってクラウスは焚き火越しに(オレ)の前に座った。大袈裟なリアクションに思わずため息が漏れ出た。

 

「ほら、合格通知だ」

 

 そう言ってピッと投げて来る封筒を受け取り懐に入れる。

 

「にしても、住所をおれの別荘にするだなんて大胆だねぇ。なんならおれの家に住むかい? 歓迎だぜ?」

「冗談は顔だけにしろ」

「……顔だけ、ねぇ。笑えない冗談だ」

 

 ヘラヘラと(オレ)の物言いに笑っていたクラウスだったが、ふと真面目な空気を出して訪ねてきた。

 

「なァ。本当に居るのか、お前の想い人」

「……」

「ずっと探しているんだろ? ……でもよォ、その反応を見る限り尻尾すら掴めていない。

 おれもロデュウもさ、この学園に先に入って探してみたし、実家の力を借りて探したけど――純白の聖剣と漆黒の魔剣使いなんて居なかった」

 

 ――そんな事は、(オレ)が一番よく分かっている。

 

「ファースト。おれたちはお前に救われた。おれたちはお前に恩義を感じている。だからおれもロデュウも学園に入ったし、ルティナとフィリスも入学した。

 お前が足手纏いだって言うから死ぬ気で修業した。おれたちはもうお前一人に負けない。守れる。隣に立てる。戦える。

 

 だから――おれたちを見てくれ」

 

 ……クラウスが、みんなが(オレ)の事を気に掛けてくれている事は分かっている。彼が心の底からそう言っているのはよく聞こえた。

 いつもお茶らけているコイツが必死にこんな事を言うって事は、それだけ本気なのだろう。

 ルティナとフィリスが学園であえて話し掛けて来ないのも、(オレ)のあの話を信じているから。

 

 でも、()の答えは変わらない。想いは変わらない。

 

「――頭に乗るなよ、(オレ)より弱いくせに」

 

 一瞬でクラウスの背後に回り込む。風の聖剣使いはスピードに秀でている筈だけど、どうやら(オレ)の動きを見れなかったようだ。視えた通りに。

 ビクッと体を跳ねらせてこちらを見るクラウスに、(オレ)はできる限り冷たい視線を向ける。

 

「思い上がるのも大概にするんだな。……他の奴らにもそう伝えろ――もう、(オレ)に構うな」

「……絶対に諦めないぜ。おれは、おれたちは。必ずお前を救ってみせる」

 

 それだけ言うとクラウスは王都に戻って行った。そんな彼の背中を見送って……私は火を消してテントの中に入り毛布で身を包み込み目を閉じる。

 

 これで良い。これで良いんだ。

 (オレ)の心が揺れ動く事は無い。誰に想いを寄せられても、誰に愛を囁かれても、誰に引き留められても――あの時間に勝る宝物はない。

 

 例えそれが、この世界に存在しない幻想だとしても。

 

「――ファースト」

 

 私は――夢を見る。

 すると、今日は心が苦しかったのか……いつものお気楽なお兄さんと夢の中で遊んだ気がした。

 次に目を覚ました時、夢の内容は覚えていないが――(オレ)は諦めない。

 

 

 

 

「【現代の英雄】に【勇者の末裔】。さらには集いし【四人の聖剣使い】。そして――【覇王】」

 

 闇に潜む一人の男が居た。

 彼の足元には人が倒れており――しかし既に事切れている。手元には禍々しい見た目の剣が握り締められていたが罅が入っており、さらには中央に埋め込まれている宝玉は粉々になっていた。

 

 そして男の手にも禍々しい見た目の剣が握り締められていた。こちらには傷一つない宝玉が埋め込まれており、そこには【F】のアルファベットが刻み込まれていた。

 

「本来ならさっさと逃げるべき危機(ピンチ)ですが――同時に機会(チャンス)でもある」

 

 男は、剣とは逆の手に持っている【N】【T】【B】の文字が刻まれている宝玉を見る。他にも残り22個の宝玉があるが――それを知るのは彼と盗まれた制作者のみだ。

 

 世界的に有名な実力者が一ヶ所に集まっているこの状況は、男の目的を果たすのに適した環境だった。

 王都には様々な人間が居る。貴族と平民の確執が最も良く見られる場所で欲望渦巻く醜くも美しい場所だ。そこに彼らの様な英雄たちが集えば――より強い欲望を見つける事が出来る。

 

 それに――勇者の名を聞くと嫌でも思い出す。

 己が殺したあの男――エルドとその妻マリアンの事を。

 

「せいぜい私の為に役に立ってくださいよ勇者の子ども」

 

 最期まで理解できなかった愚者。その男の息子を嗤い、

 

「そして――ヒュース・カルタルト」

 

 男は覇王の姿を思い浮かべ、

 

「――次こそは、貴方を……!」

 

 どす黒く、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜた狂気の色を瞳に宿し――熱い息を吐いた。

 

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