踏み台悪役貴族に転生したので、最強になって壁になってやる!   作:カンさん

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第四話 復讐之炎

「ごめん――アンタ、誰?」

「な、な、なぁ……!」

 

 学園に入学して3週間経った。以前としてファーストらしき人は見つける事ができない。

 そんな最中、(オレ)はある日体育館裏に呼び出された。それも1年上のBクラスの男子生徒に。

 平民で目立っている(オレ)が気に食わないのかと思っていたら……告白された。

 なんでも、以前(オレ)が決闘で倒したAクラスの男子生徒に普段から虐められていたらしい。そこで(オレ)が完膚なきまでに叩きのめした事により、虐められなくなったとか。

 

「あ、あんなに会話したのにボクの事を覚えていないのか!?」

「……あー」

 

 そういえば、学食で食事をしていると毎回同席してくる人が居た。

 てっきり()()()()()()()思い込んでいたが、どうやら目の前の男子生徒だったらしい。

 

(オレ)、人の顔を覚える事ができないから」

「苦手にしても限度があるだろう! もういい! 君がそんな人だとは思わなかった!」

 

 多分怒っているんだろうな。言葉の節々が荒々しいから。

 (オレ)には分からないけど。

 

「呼び出してごめんね! さようなら!」

「あ、待って」

 

 立ち去ろうとした彼だが、(オレ)が呼び止めると足を止めてくれる。

 

「な、なに?」

「アンタの戦闘スタイルは双剣?」

「~~~! この前答えただろ!? 槍を使っているって! もう顔も見たくない!」

 

 彼は叫ぶだけ叫ぶとそのまま走り去っていった。

 ……そうか。もう既に確認した相手だったのか。しかし、困ったな。彼の名前はなんて言うのだろう。

 

「ティーダ・キルバスだよ」

「……誰?」

「おれだよ。クラウスだ」

 

 物陰から出て来た男子生徒……クラウスが呆れたように肩を竦めながら、先ほどの男子生徒の名前を教えてくれた。早速(オレ)はメモ帳を取り出し名前を書き込んでバツ印を付ける。

 そんな(オレ)の様子を見ながらクラウスはため息を吐きながら嘆きの言葉を吐いた。

 

「やれやら。罪深い女だよファースト。これで10人目じゃないのか? お前にアタックして玉砕した男子共は。全員、そこそこ女子人気あるんだぜ? まっ、おれ程の色男じゃないがな?」

(オレ)からしたら全員大差ない。お前含めてな」

「相変わらず手厳しい」

 

 それよりも。

 

「言った筈だ。もう(オレ)に関わるなと」

「だったらこっちも何度だって言うぜ。おれたちはお前を諦めない」

「……」

 

 思わずため息が出る。(オレ)の元にはお人好しのバカしか集まらないのか? ……だから(オレ)はあの時、ファーストに救われたんだけど。

 

「それはそれとして、お前さんあまり評判よくないぜ」

「何故?」

「当たり前だろうが! 双剣使いの男を見つける度に決闘を申し込んで! さらに負けたら「自分を好きにして良い」だ? 少しは自分を大切にしろ!」

 

 そうは言っても仕方がないだろう。(オレ)に残っているのは戦闘技術……つまりこの体だけだ。だからもし負けた場合は何でもする予定だった。実際に何をしても良いのか? と聞かれた時にそうだと答えたが。

 

「それがいけねぇんだよ! 羨ましい!」

 

 クラウスは何を怒っているんだ……? 文句を言われる筋合いはない筈だ。

 今の(オレ)が、彼を探し出せる唯一の情報は双剣使いである事だけだ。この5年間、彼との旅路を辿ったが再会する事は無かった。

 

 もっとも……こんな穢れた体で、彼と再会しても良いのか? という葛藤はある。

 しかし、それ以上に――最期に一目会いたい。褒めて欲しい。抱き締めて欲しいと思うのは……(オレ)の精神がまだ子どもだからだろうか? もしくは、何十年も繰り返して壊れたか――今となっては分からない。

 

「……それで」

「それで?」

「わざわざ趣味の悪い事をしていたんだ。(オレ)に何か用事があるんだろう?」

 

 あまり告白現場の覗きはしない方が良いと思う。

 (オレ)が訪ねるとクラウスは押し黙った。どんな顔を浮かべているのかは分からないが……何か言い辛い事だろうか。

 

「はぁぁぁぁぁああ……何でおれは、お前を……」

「……? 用が無いなら行くぞ。授業に遅れる」

「はいはい。やれやれ……ロデュウ。おれたちに勝ち目は無いぞコレ」

 

 一人ブツブツと呟くクラウスを置いて、(オレ)は教室に戻り授業の準備を行う。

 次は……Aクラスとの実技授業か。

 

「Aクラス……」

 

 Aクラスと聞いて、思い出すのはEクラスと行われたという実技授業。

 あの授業では覇王と……アイツが出ていた筈だ。

 目立ちたがり屋で自分が大好きなアイツは、(オレ)たちより有名な覇王に挑むと思ったけど、どうやらしなかったらしい。

 

 やっぱりそういう人間なんだなアイツは。……それなのに、なんでお父さんは――いや、もう今更か。

 

 それよりも気になるのはあの覇王だ。

 人工魔剣を使っている様子が無いのに、人並外れた魔法の力。いや、もっと凄いのは魔法の制御か。本来なら広範囲に放つ魔法を一点に集中させて、周囲に及ぼす力すら逆転させていた。音が漏れていたのは……まだ未完成だからかな。

 そして何よりも傍目から見ても洗練されていると分かる剣技。あの一瞬で試験官の急所を20回も当てていたのは、はっきり言って人間技じゃない。死なない様に手加減しているし。

 

 前の世界でも見た事のない強さを感じた。おそらくファーストよりも……悔しいけど……。

 もし彼が双剣使いだったら――いや、あそこまでの領域に辿り着くには(オレ)と同じ様に何かを捨てる必要がある。呪われていないみたいだし、多分魔法と剣技の修行を死ぬ気で頑張ったんだろう。

 

 だから理解できなかった。彼が【悪役貴族】と呼ばれている事に。

 なんでも、同じクラスメイトに酷い事を言ったり、実技授業で必要以上にEクラスの生徒を虐めたとか。……(オレ)は信じていないけど。だって言い出したのアイツっぽいし。でも根も葉もある噂だから、みんなだいたい信じている。

 

「……良い機会かも」

 

 正直噂には興味が無い。覇王の人相についても。

 ただ確かめたいだけだ。彼がファーストである可能性を。

 

 校庭に出て教師のいつも通りの説明を聞く。その最中、ヒソヒソと(オレ)に対する声が聞こえた。

 

「アレが双剣漁り?」

「そうそう。強い双剣使いを探しているらしいですわ」

「自分の身体を餌に男をとっかえひっかえ。イヤらしいですわね、現代の英雄さまって」

 

 ……? よく理解できなかった。

 

「それでは、組み合わせですが……」

 

 教師が予め決めていた対戦カードが発表される。

 (オレ)の相手は多分Aクラスの女子生徒だ。Cクラスでは聞いた事のない名前だし、リリスって名前で男の可能性は低い。

 

「よろしくお願い致しますわ、英雄様。本日は胸をお借り致します」

「分かった」

「ふふふ。私が殿方でなくて、がっかりしましたか?」

 

 クスクス、と周囲から小さな笑い声が聞こえるし、さらに目の前の相手がなにか言っているけど、(オレ)はコイツに興味は無い。

 女だし、身のこなしからして(オレ)よりも弱い。

 何も言わずに黙っていると、相手から一瞬怒気を感じるが無視する。無駄な時間だ。

 

「それでは――始め!」

 

 審判役の教師が開始の合図を出し――瞬間、(オレ)は持っている木剣で相手の剣を弾き飛ばし、もう片手の木剣で胴体に叩き込んで5m先まで叩き飛ばした。

 

「い、ぎぃ――ぁああああっ!」

「や、やめ! 勝者ファースト! ……おい、セントゥリアン! 大丈夫か!?」

 

 教師が慌てて(オレ)の対戦相手に駆け寄り、水魔法で回復させる。

 骨に罅が入っているだろうけど、魔法ですぐに治る程度の手加減している。

 先ほどまで笑っていた女子生徒たちは一瞬で押し黙り、(オレ)が視線を向けると怯えた様に後退った。

 

 悪意を向けるなら、死ぬまで向けていれば良いのに。

 

「先生」

「っ……なんだ?」

 

 治療中の教師に話しかけると、少しだけ(オレ)に警戒した様子を見せる。もしかしてやり過ぎだったのか?

 

(オレ)、満足していないのでもう一戦させてください」

「……だが」

「対戦相手は、ヒュース・カルタルトを求めます」

 

 教師は、続く言葉を詰まらせる。

 

「はっきり言います。このままではこの授業に価値は無いです。できないのなら、自主練させてください。時間の無駄です」

 

 クラウスから聞いたが、入学試験で目立った(オレ)たちは現在学園側から観察されているらしい。なまじ、教師よりも強いからこの学園に通っている意味がなくて、このまま卒業されるのは沽券に関わるとか。くだらない。別にこの学園の歪さを吹聴するつもりないのに。

 でも今は都合が良い。

 (オレ)の言葉に教師はどうしたものかとオドオドする。

 

「面白い。引き受けよう」

 

 教師が答えないなか、集団の中から男子の声が響く。

 そちらを向くとこちらに向かって来る一人の男子生徒。教師は彼を見ると途端に動きを止めた。どうやら彼がヒュース・カルタルトらしい。

 片手には木剣を持っている。……やっぱり双剣使いではないのか。

 

(オレ)はファースト。できれば全力を出して欲しい」

「――ふっ。自惚れるなよ女」

 

 もしかしたら、の可能性がある為ヒュース・カルタルトを挑発するが、返って来たのは嘲笑だった。

 

「お前にそれだけの価値があるのか。それを示さずにオレに力を示せと?

 ――逆だ。死力を尽くすべきなのは貴様だ。女」

「――安い挑発」

 

 でも、イラっと来た。

 

「怪我しても知らないから」

「ふん。よく吠える」

 

 ――空気が張り詰める。誰もが、呼吸を忘れていた。

 教師もただ茫然と眺めているだけだった。本来だったらさっきみたいに審判役を頼もうと思ったけど……もういいや。

 

 だって、既に戦いは始まっているから……この場で(オレ)たち以外で追いつける人間は居ない。

 

「――疾ッ」

 

 地面が砕ける音を聞きながら、一瞬で懐に入る。そしてそのまま双剣を掬い上げる様にヒュース・カルタルトの顎向けて振り上げた。

 

 ――ギャリン!! と、およそ木材で作られた剣同士の衝突とは思えない音が響いた。

 人の事を言えないけど、当たり前の様に魔力で強化している。割と高等技術なのに。

 

「双破・黒炎刃!」

 

 木剣に浸透させた魔力を解放すると、瞬く間に黒い炎が噴き出す。

 当たれば(オレ)が消す意志を出さない限り消えない地獄の炎。受ければ死にはしないけどダメージは必ず負う。そうすれば動きにブレが起き、そこを(オレ)の目が隙を見つける筈だ。

 

 ――しかし、(オレ)はヒュース・カルタルトを舐めていた。

 

「――虎牙螺刺(こがらし)

 

 螺旋の魔力が乗せられた刺突が、(オレ)の黒い炎を散らした。あり得ない。属性も乗せていないただの魔力で!?

 剣技は魔法の一種で、唯一属性を付与せずに使用できる。優れた使い手は一瞬で魔法よりも強力な一撃を放つことが可能だ。

 (オレ)の剣技はそもそも黒炎を使った物で簡単に対処できる技じゃないし、ヒュース・カルタルトが使ったのは教科書に載っている様な基本技。

 

 つまり、魔力運用と純粋な剣術が人外の域に達している。

 

「――っ」

 

 そんな相手、前の世界含めて見た事が無い――認めたくないっ!

 全身に一瞬痛みが走り、次の瞬間視界に映ったのは男の背中と(オレ)の残像。

 相手が人外の技を使うのなら、こちらは人外の身体能力(スペック)だ。

 自分の姿が一瞬残る程の速度なら捉えられない筈だ。現に、背中から見たヒュース・カルタルトは隙だらけだ。そういう色をしている。

 

「瞬刃剣!」

 

 剣に流した魔力を解放し、高速の斬撃を解き放つ。必ず当たる――筈なのに。

 

「瞬刃剣」

 

 いつの間にか、(オレ)の剣技が弾かれた上に相手の剣技が当たっていた。

 身体に走る鈍い痛みに思わず顔を顰める。咄嗟に嫌な予感がしてもう片方の木剣でガードしたが――半ばから折れている事から防ぎ切れていないのは明らかだった。

 

「――ほう。よく見抜いたな」

「……」

 

 カランッと折れた剣先が落ちて、同時に(オレ)は悟った。

 

「……参った」

「ふん。噛み付き癖はあるようだが、引き際は弁えている、か」

 

 ――コイツには剣技だけでは勝てない。

 普段使っている剣と()()()を全開にしてようやく届くか届かないか。その領域に彼は居る。

 そして悔しいが……彼がファーストである可能性は低い。あまりにも強過ぎる。ファーストはここまで強く無かった。思い出す限り、今の(オレ)と同じくらいの強さだ。

 

 何より、あの人は此処まで人間を辞めていない。

 だが――。

 

「……もしかして、あなたは」

 

 ――ファーストが探していた【我が運命】なのか?

 

 

 

「ヒュース・カルタルト」

「なんだ」

 

 授業が終わった後、(オレ)は見失わない様に彼を見続けてから話し掛けた。

 

 ファーストは何か理由があってこの学園に入学しようとしていた。今となっては聞く事ができない。しかし、何がなんでも探し出そうとしていた。……私と会う前から。

 

 ファーストは時々未来予知じみた行動をしている。この世界を一人で旅をしたからこそ分かる。彼は、未然に災害や悲劇を防いでいた。……前の世界では彼が居たからこそたくさんの命を救えた。(オレ)と違って。

 

 そんな彼が、他者の存在を……力を求めた。つまり――ファーストでもどうしようもない事が起きる。だから探そうとしていたんだ。

 

 そして、(オレ)の考察を裏付ける様にこの男は規格外の力を得ている。その出所が何なのかは分からない。

 

「ヒュース・カルタルト。ファーストという名前に覚えは?」

「……貴様が今名乗っている名だろう」

「違う。(オレ)以外だ」

「……少なくとも、この世界では聞いた事が無いな」

 

 ――この世界、か。

 

「もう一つ聞かせてくれ。お前は何故この学園に来た?」

「……父上の名を汚さぬ様に――」

「建前は良い。本音を言ってくれ」

 

 (オレ)の雰囲気に何か感じ取ったのか、ヒュース・カルタルトはしばし押し黙り、

 

「役割を果たす為だ」

「……役割?」

「この世に生まれる前から決まっていた宿命。それに抗い、我が運命を共に行く道標を求め此処に来た」

「――」

 

 ……我が運命。やはり、こいつは!

 

「ヒュース・カルタルト! 我が運命とは――」

「悪いがこれ以上は無しだ。貴様では役者不足だからな」

「……っ」

 

 確かに(オレ)はコイツに遠く及ばない。戦っていて分かったが、(オレ)と戦っている時まったく力を入れていなかった。

 ……現代の英雄と呼ばれて思い上がっていたのかもしれない。

 だが――収穫はあった。

 

「顔が見れないのが残念だ」

「……?」

「何でもない――いずれ再び決闘を申し込む。その時は受けてくれるか?」

「良いだろう――子猫と戯れるのは得意でな」

 

 ……子猫、か。

 

「では、失礼するヒュース・カルタルト」

「ふん。ヒュースで良い。……ファーストと呼べば良いか?」

「……ああ」

 

 私の名前は、あの人に取っておきたい。

 そして、このヒュースの近くに居ればいずれファーストが現れるだろう。……その時が待ち遠しい。何十年待った事か。

 

 話は終わった為、校舎に戻ろうとする(オレ)にヒュースが最後に問い掛ける。

 

「ファースト。その力――何の為に得た?」

「……」

 

 ……この力、か。

 

 思い出そうとして……思い出せない。しかし、それも仕方ない。

 だって、人の姿を保つ為に――悪魔に奪われてしまったのだから。

 ただ、記憶が無くても……感情が覚えている。

 

 この力はファーストとは関係ない。彼を探す上で必要のない力だ。

 ならば、何故この力を手に入れたのか? ――そんなもの、一つに決まっている。

 

 ――アイツの顔が思い浮かぶ。父も、母も、友も……ファーストすら忘れたのに、アイツの顔だけは思い浮かぶ。

 

 そしてアイツがこの学園に来る事を――ずっと前から知っている。

 何故なら、本人が嬉しそうに語っていたからだ。この学園が楽園だと。会いたい人に会える聖地だと――まるで絵物語を語る様に。

 

「復讐だよ――(オレ)から全てを奪ったあの男を殺す為に」

 

 ファーストと会いたい想いと同じくらいに――黒く、強く、その憎しみ(想い)は燃え上がっていた。

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