踏み台悪役貴族に転生したので、最強になって壁になってやる!   作:カンさん

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第七話 積年乃想

「お前……いい加減にしろよ……!」

「アンタが……言うな……!」

 

 数十回の死に戻りの果てに、リオンはようやくエミリアに掴まった。

 闇の聖剣による死に戻りはできない為、彼が用意していたナイフは既に彼女に折られ、さらには誘導した地点に反転術式が刻まれた事により、魔法の行使も容易ではなくなっている。

 

 学園中を二人で駆け回った後に、二人は校舎裏の影にて息を切らして対峙していた。リオンは地面に書かれた術式により拘束されているが。

 

「くそ、なんで僕がこんな目に……!」

「……」

 

 イライラしながら悪態を吐き捨てる彼に、冷めた視線を向けながら……エミリアは一つ彼に問うた。

 

「ねぇ。その催眠魔法いつ覚えたの?」

「はぁ? お前に教える訳ないだろうが」

「……」

 

 リオンの彼女に対する態度には、敵疑心がありありと含まれていた。

 彼からすれば、何故自分がこんな目に遭うのか理解できなかった。自分は主人公の筈だ。選ばれた存在の筈だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えていた。

 故にエミリアに反発する。

 

「もし、(オレ)の質問に答えてくれるのなら中央騎士団に突き出すのは辞めてやる」

「はぁ? そんなの信じる訳ないだろう」

「だったらこのまま永遠に牢獄の中で人生を終えると良い」

「……」

 

 リオンは眉を潜めて悩んだ。このままずっと追い掛けられるのはいい加減に疲れた。

 これ以上ループしても改善されないだろう。

 だったらここは言う通りにした方が良い。

 

「ああ、分かったよ。だけどその前に祈らせてくれ」

「……いや、不審な行動はして欲しくない」

「おいおい。お前、この国の人間だろう? アルテミア教から異端扱いされたいのか? アルテミア様への祈りは、何時いかなる時も遮ってはならないって」

「……分かった。その代わり、質問には嘘偽りなく答えろ。そのアルテミア様に誓ってな」

 

 ゲームでは名が伏せられていた女神の名を口に出せば、この世界の住人であるエミリアは断る事ができなかった。

 リオンは上手くいったと祈り(セーブ)を行う。これであの鬼ごっこから解放される。

 

「まずその催眠魔法はいつ習得した?」

「……1年前だ」

「――本当のようだな」

 

 リオンの言葉を聞いたエミリアは、その事実に……少しだけ落胆した。

 もっと昔、あの時に習得していたと知れば――彼女は、リオンの事を遠慮なく恨む事ができたのに。

 そんな暗い感情を抱かれていると知らないリオンは、もう解放してくれと彼女に言った。

 

「お前も約束を守れよ? 僕は正直に答えたぞ」

「……ああ。直接突き出す事はしない――だが、しっかりと通報はさせて貰うぞ」

「――は?」

 

 エミリアの言葉に、一瞬リオンは理解できなかったが――意味を飲み込むと、顔を真っ赤にして怒り狂った。

 

「ふざけるな! 話が違うじゃないか!」

「何も違わないが? (オレ)は確かに突き出すのは辞めると言っただけだ」

「ぐっ……」

 

 エミリアの言っている事は正しい。確かに彼女は告げ口をしないとは言っていない。

 表情を歪めてこちらを睨みつけて来るリオンに対し、子どもだとエミリアは思った。

 戦闘能力はあるがそれ以外が乏しい。言動も迂闊で、信頼関係の築いていない相手との口約束にまんまと乗せられる。

 

「通報して欲しくないのなら、もう一つ質問に答えて貰おうか」

「こ、今度こそ約束しろ! 中央騎士団に突き出さない! 言わない! ……紙に書かない! とりあえず中央騎士団に、僕の事を知らせない! 分かったか!?」

「ああ、分かった」

 

 リオンの言葉に、エミリアは頷く。彼女は約束通り中央騎士団にリオンが催眠魔法を習得している事を伝えない事にした。

 あとでルティナたちに教えるつもりだが。その後彼女たちがどういう行動を取るかは知らない。

 

(……さて)

 

 エミリアは、リオンに聞きたい事は山ほどあった。

 お前は何者なのか。何故死に戻りの能力を持っているのか。自分がその能力に巻き込まれる原因に心当たりは……これは聞いても分からなさそうだなと思考を切り替える。

 

 だったら――ずっと聞きたかったあの事を、この男に聞こう。

 

「……ねぇ、アンタはさ」

 

 口の中が渇き、呼吸がし辛くなる。

 

「自分の父親は死ぬべきではなかったと……思っている? アンタは――自分の父親は好き?」

 

 勇者エルドがこの世を去った時、この国は大いに揺れた。

 その者の死を嘆く者がほとんどの中、彼の死を非難する者が居た――それは、この国の貴族だ。

 元より平民の身でありながら、この国の王に特別視している者を彼らは快く思っていなかった。野蛮だと。卑しい人間だと常日頃からその存在を羽虫の如く毛嫌いしていた。

 

 さらに、最悪な事に勇者の死はこの国を危機に陥れるリスクがあった。エルドの死を知った隣国は、この国に侵略行為を推し進めてあわや戦争になりかけた。

 それだけ勇者は戦力として警戒されていた事の裏返しであり、勇者の不在はこの国にとって弱点となり得る情報だ。

 

 尤も、何処かの覇王様が十万の兵隊を蹴散らし、直接隣国に乗り込み()()交渉して解決したが。

 

 だからエミリアは――自分の父親の死をどう思っているのか、リオンの口から直接聞きたかった。

 

 彼女の問いにリオンは――。

 

「……そんなの死ぬべきではなかったに決まっているだろ」

「――」

「僕は、あの人の事が好きだったんだから」

「――」

 

 勇者の息子として、主人公として当然の答えを紡ぐ。

 そして、それを聞いたエミリアの表情からは――一切の感情が削ぎ落された。

 

「――(オレ)、少し特別な耳を持っていてね」

「な、なんだよ急に」

 

 突然様子が変わったエミリアに、リオンは戸惑う。

 何故? 主人公の答えに変な所は無い筈だ、と。

 

「時々、言葉にノイズが入るんだ。聞いていて凄く不快」

「……呪いか病気じゃねぇのか」

「うるさい――それでさ、その時の共通点を(オレ)は知っている」

 

 そこまで言って――エミリアは勢いよくリオンに掴みかかり、壁にドンっと叩き付けた。

 ぐあっと声が漏れるがエミリアに掴まれた所以外は痛みを感じないリオン。しかしそんな事がどうでも良くなるくらいに――彼女が自分に向ける目に心底怯えた。

 

(オレ)は! 人の嘘が分かる!」

「……っ!?」

「お前は――勇者エルドが死ぬべきだと! 死んでも良かったと思っているんだろう!」

 

 ――答えは、是である。何故ならエルドは原作で死んでいるから。

 

「お前は! 別に勇者エルドが! ……自分の父親が好きではなかった!」

 

 ――答えは、是である。何故なら彼が最も好きなのは本編に出る主人公とヒロインであり、脇役ともいうべき立ち位置に居るエルドに何ら感情を抱いていない。

 むしろ、自分が強くなるためには、勇者の力を得る為には――邪魔な存在であった。

 さらに、前世の時と同じ様に自分に説教をする存在は、精神年齢の近さもあって煩わしいとすら思っていた。

 

 ――リオンは、エルドの死に対して心に痛みを感じる事は無かった。親を失うという恐怖を抱かなかった。

 

 ああ、原作通りに死んだな。それくらいにしか思っていなかった。

 

 それなのに――彼は原作主人公の答えを自分の答えの様に言ってしまい、エミリア(本当の娘)の怒りを買った。

 

「そんなのデタラメだ! お前の嘘だ!」

「ああ、そうだろうな! お前ならそう言うと思ったよ!」

 

 エミリアは、リオンが自己愛の塊だという事を一年前の事件で知っている。人を救う事よりも、モンスターを倒して名を上げる事を優先した。さらに、己の名を広める様に杜撰な暗躍をした。

 

 親をどうも思っていないと言われてリオンが反論するのは知っていた。惚けるのは予想していた。本心は違うと言い逃れすると分かっていた。

 

 しかし、そんな事はどうでもいい。彼がどう思っているよりも――それ以上に彼女は許せなかった事がある。

 

「アンタ――勇者エルドとその妻マリアンの墓に行った事はあるか?」

「――」

 

 答えは――否、である。

 

「行っていないよな。行っていたら、少なくとも命日には(オレ)と会っている筈だ」

 

 エミリアは、勇者エルドが死んでから毎年欠かさず彼らの墓に向かい――懺悔していた。

 やはり彼は人に好かれていたのだろう。誰かが毎年白い花を添えてくれていた。本来なら息子であるリオンが立向けていると考えるが――ジョニーの証言で、その可能性はゼロだという事が分かっている。

 

――「あいつはエルドに対してまだふんぎり着いていないんだろう。死んでから一度も墓に行っていない。……守れなかったオレは、ずっと見守っていくつもりだ」

 

 亡き親友の忘れ形見を支えると心に決めたジョニーのその言葉に――エミリアは何も言えなかった。

 ジョニーは優しい。リオンが求める物があればどんなに珍しい物、危険な物を集め、普段の日常生活で必要な物を用意し、生活費も出してくれて、この学園の入学だって彼の口添えがあってこそだ。さらには維持費の高い別荘にも住まわせている。

 

 自分がエルドを守れなかったから。リオンの前で死なせて、そのまま抱えて逃げて……彼の心に消えない傷をつけたと後悔しているから。

 

 

 そしてリオンはそれを知っている。知っていて、ジョニーの優しさを利用していた。原作主人公もそうだったから――たったそれだけの理由で。

 

「……お前は、あの人たちの子どもだろう?」

 

 その立場を奪われたエミリアは、胸の奥に鋭い痛みを抱えながら血を吐くように訴える。

 

「何でそんな残酷な事ができるんだ」

 

 エミリアは、彼女は――勇者エルドの子【   】ではない。

 

「お前は、リオンだろうが!!」

 

 言いたくなかった歪められた事実を叫ぶが――この男には届かない。

 

「し、知らねぇよ! お前の勘違いだろうが!」

「だったら! アンタはなんであの人たちの墓参りに行かないの!? ジョニーさんからお墓の場所は聞いているんでしょ!?」

「……他人のお前には関係無いだろうが!」

 

 しかし、罪悪感はあったのだろう。リオンはエミリアの拘束を振り切って逃げ出した。

 

「逃げるな!」

 

 その背中に彼女は叫ぶ。

 

「なんでお前が……!」

 

 その背中を見て瞳が濡れる。

 

「もっと、良い奴だったら……()の代わりでも良いって思える奴だったら……!」

 

 やりきれない想いが――零れ落ちる。

 

「――なんでなんだよぉ……」

 

 その答えを知る者は――居ない。

 

 

 

 

 ……落ち込んでも仕方がない。(オレ)は再びあの男を追いかける。

 思わず感情的になって、アイツを追い詰めてしまった。このまま放置したら何をするのか分からない。ルティナたちに催眠魔法の事を伝えて、その後中央騎士団に通報してくれるまでの間は監視しないといけない。……凄く嫌だけど。

 

 走っているとすぐに見つけた。アイツ、また祈ってやがる。

 (オレ)を見つけると「ちっ」と大きな舌打ちをしてきた。(オレ)の方がしたい。それに、コイツもう(オレ)の前では猫を被るのを辞めたみたいだ。

 作った勇者の顔を脱ぎ捨て、その奥にある醜悪な自己愛まみれの男の本性が表に出ている。見るに耐えないな。

 

「まだ何か用があるのかよ! 勘弁してくれよ!」

「アンタがあの魔法を使わないか、監視しないといけないから」

「もう使わねぇよ! それに普段から使ってる訳でもないし……」

 

 どうやら、その言葉に嘘は無いらしい。

 それでも必要なら使うつもりと言っている様なものだ。

 ……それにしても【げんさくもち】や【てんせいしゃ】とは何だろうか?

 

 さっき聞くべきだったのはこちらだったかもしれない。……感情的になり過ぎたな。

 今さら問い詰めても、(オレ)(リオン)に戻る訳じゃないのに。

 

(オレ)が信頼するとでも?」

「ちっ」

 

 ……しかし、苦痛だな。この男と一緒に居るのは。

 元々印象は良くなかったが、接して本性を知った今は尚更である。外面を良くして、特定個人の悪評を広めている事を知っているから余計に。

 

 だからコイツに対して不利になる様な行動はしたくない。聞きたい事を聞く時は、弱みを握ってからだ。

 

 中央騎士団にしょっ引かれたら話は別だが。

 

「──ファースト、さん」

「──っ!?」

 

 突然背後から声を掛けられて心底驚いた。

 全く気配を感じなかった。

 警戒しながら振り返ると、そこには男が居てこちらを見ている。

 (オレ)をファーストと呼んだという事はこの学園の生徒か。

 

「誰?」

「……そんな、酷いよ。この前告白したのに」

 

 ……しくじったな。クラウスが教えてくれた二年生のティーダだったか。

 言葉から深い絶望を感じる。彼を傷付けてしまった。

 

「ごめん。(オレ)本当に顔を覚えるのが苦手で、悪気があった訳では──」

「は? お前僕の顔見て思いっきり肩掴んできたじゃないか」

 

 背後から悪意に染まった言葉が投げかけられる。思わず振り返って睨み付けた。しかし勇者の末裔サマもこちらを睨み返し、さらにこれまでの意趣返しの様に続けた。

 

「それに、告白した相手の顔を忘れるとか酷くないか?」

「お前、本当に黙れよっ……!」

 

 (オレ)の事情を知らないで……!

 しかし、コイツの吐いた言葉はティーダには効いたのか、向けられる絶望がさらに強くなる。

 

「やっぱりさっきの話は本当だったんだ──ファーストとリオンが付き合っているって話は」

「──は?」

 

 ティーダの言葉に一瞬脳内が真っ白になる。

 (オレ)と勇者の末裔サマが付き合っている? ──鳥肌が立つのを感じた。怒りで顔が真っ赤に染まるのを自覚する。

 

「ふ、ふざけないで! 何で私がこんな奴なんかと!」

「はぁあああ!? それはこっちの台詞だ! こんな野蛮な女願い下げだ!」

 

 コイツ、一度ぶん殴ってやろうか。

 そもそも何故そんな話になっているんだ?

 

「学園中で噂になってるよ。まるでラブコメ小説みたいに、ファーストがリオンを追いかけているって」

 

 ──さっきのか。

 表情が歪んだまま勇者の末裔サマを見れば、向こうも理解したのだろう。コイツも嫌そうな顔をしていた。

 

「それにさっきの反応もまるで主人公とヒロインみたいだ」

「誰がコイツなんかと!」

「誰がコイツなんかと!」

「ほら、息ピッタリ」

 

 ああ、もう! 何でこんな事になるんだ! (オレ)はファーストだけが好きなのに!

 こんな事ファーストに知られたら生きていけない。それも、よりにもよってコイツなんかと……!

 

「耐えられない──だから」

 

 混乱していた(オレ)の頭は、すぐに冷静になる。ティーダの取り出した宝玉を見て。

 

「それは──」

「だからボクは! 全部壊してやるんだ!」

 

 彼の持っていた【P】の文字が描かれた宝玉から禍々しい魔力が吹き出し──目の前に岩のゴーレムが現れる。

 

「人工魔剣!? 何故この時期に!?」

【ぐおおおおおおお!!】

 

 魔獣は絶望に染まった雄叫びを上げると、こちらに向けて光線を放ってきた。

 ……コレに当たったら不味い!

 

「ちっ。なんだこ──」

 

 直感で回避した(オレ)だったが、勇者の末裔サマはガードしたのだろう。

 しかし不自然に言葉が途切れており、一瞬だけ視線を向けて絶句する。

 

「石化の魔法……!」

 

 つまりこの人工魔剣は【ペトレフィケーション】の魔法が刻まれている。そして石化の魔法を使うゴーレムタイプのモンスターは……ゴルゴンゴーレムか!

 

【砕いて殺してやる!】

「ちっ!」

 

 岩の拳を握り締めて、石化したアイツを殴り殺そうとする魔獣の前に出て、闇の魔法で召喚した二つの剣で受け止める。

 

【どけ!】

「心情的には応援したいが、殺させない!」

 

 アイツは死んでも元に戻るだろう。だからと言って殺人をみすみす見逃すつもりはない。

 ……この人に人を殺したあの感触を味わって欲しくない。元はと言えば(オレ)が原因なのだから。

 

【だったら、お前を石化させて永遠にボクのものにしてやる!】

 

 そう言って目の前のゴーレムは口を開いて、そこから石化の光が漏れ出す。

 マズイ、これは回避できないか!?

 (オレ)は最悪の事態を想定し、己の中におる一振りの剣に意識を向ける。使いたく無かったが──。

 

「避けろ、小娘」

「──っ」

 

 しかしそれよりも先に、後ろから男の声がして咄嗟にジャンプする。

 すると駆け付けた誰かによる一撃が魔獣に直撃し──。

 

【ぐ、ぐあああああああああああああ!?】

 

 魔力が荒れ狂い、そのまま爆発した。

 ……死んだか? 一瞬そう思うも地面に倒れた男の姿に怪我は無く、さらに砕けた人工魔剣の破片が散らばっているのを見るに助かったらしい。

 

 しかし、誰が助けてくれたんだ?

 地面に着地した(オレ)は、爆煙の中から出てきた男に視線を向けて──息を呑む。

 

 その者は──純白で美しい剣と漆黒で見る者を圧倒する剣を両手に携えていた。

 

 ──色々と忘れてしまったが、その二振りだけは覚えている。だって、その二つの剣を振るう姿に憧れた、私は同じ物を用意して……その隣で戦っていたのだから。

 

 ああ──居ないと思っていたけど、本当に居たんだ……!

 

「──ファーストッ!!!」

 

 長く会えなかった愛しき人の名を叫び、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──【    】。

 

「いいや、お前の出番はまだ先だ」

 

 男の声がしたと思った瞬間──(オレ)は動けなくなった。

 

「我が美しきシナリオの為に元に戻させて貰おう。それでは──一度死んでくれ。エミリアよ」

 

 そして次の瞬間、(オレ)の胸に鋭い痛みが走り──。

 

 

 

 

「……ちっ。まだ何か用があるのかよ! 勘弁してくれよ!」

「……は?」

 

 胸を抑える――いま、確かに心臓を貫かれて……死んだ。

 そして一度死んだ(オレ)は時間が巻き戻って――。

 

「うっ――」

「え? うわっ……」

 

 口を抑えるが、耐え切れなかった。腹の中にあるものをぶちまけてしまい、思わず膝を付く。

 汚れてしまったが気にしている余裕はない。心臓を貫かれた痛みが、感触が……最期まで残っていた。

 いや、それよりも……。

 

「――せっかく」

 

 せっかくファーストに会えたのに……! なんで!

 辛い。しんどい。死にそう。死にたい。会いたい。会えない。ファーストファーストファーストファーストファーストファーストファースト――ファースト!!

 

「な、なんだよコイツ……」

 

 ――ここで、挫ける訳には行かない。

 会えたんだ。居たんだ。この世界にもあの人が居る事を知れたんだ! だったら、ここで諦める訳にはいかない。

 

 その為には、先ず――。

 

「勇者! さっきの人工魔剣使いは石化の魔法を使っていた」

「は?」

 

 さっきの魔獣にやられない様にしないといけない。ファーストが来るまで耐えるか、もしくは(オレ)たちで倒すか……。

 しかし、それに関係なくあの魔法を受けるべきではない。石化の魔法を解除するのはそう簡単な事ではないから。

 勇者の末裔サマはさっき石化してしまっているから、どんな魔法を受けたか分かっていない筈だ。だから前もって情報を与える。

 

「お前、何言ってんだ?」

「だから、さっき襲って来た人工魔剣使いの魔法だ! イニシャルは【P】!」

 

 しかし――勇者の末裔サマは、様子がおかしかった。

 

「さっき襲って来た人工魔剣使いって――何の事だ?」

「……え?」

 

 その言葉は、これまで生きて来た中で何度も見た反応だった。

 おそらく勇者の末裔サマの死による時間の逆行が起きた時、その事に気が付いていない(オレ)が行ってしまった失言に対する周囲の反応。それと同じだった。

 

 もしかして――(オレ)の死で起きた時間の逆行を、コイツは認識できない?

 

「──ファースト、さん」

「……っ!」

 

 新たに判明した真実に混乱する中、ティーダ・キルバスは前と同じように突然現れた。

 その後は、前と同じやり取りが行われてティーダは魔獣化する。

 

 予め相手の魔法を知っていた(オレ)は持っていたサンドイッチを当てる事で、石化魔法の事を勇者の末裔サマに認識させて……不本意だけど、二人で協力してティーダを倒した。

 

 そして……ファーストは現れなかった。戦いながら待っていたけど――会えなかった。

 何故? どうして? (オレ)はその理由が分からないまま、勇者の末裔サマと一緒に学園の教師や中央騎士団から事情聴取を受ける。勇者の末裔サマが、(オレ)を頻りに見ていたけど……催眠魔法について言うつもりは無かったし、正直どうでも良かった。

 

 ヒュース・カルタルトも同時期に人工魔剣使いと戦って撃破していたらしいけど……どうでも良かった。

 

 事情聴取が終わり、(オレ)の中に残ったのは――ファーストと会えなかったという落胆だけだった。

 

 ファースト……何処に居るの?

 

 

 

 

 

「ヒュース・カルタルト……いや、彼女風に言えばファーストか?」

 

「つくづく厄介な存在だ。本来なら温存しておきたかった【V】の人工魔剣を使う羽目になるとは」

 

「それにしてもリオンとヒュース。こうも【げんさく】から離れていると、見ていて面白い」

 

「……やはりヒュース・カルタルトも【てんせいしゃ】なのだろうか」

 

「そして、エミリア……いや、この世界ではファーストか。彼女は……どちらだろうね?」

 

「まぁ――良い。私は、私の描いたシナリオ通りに動くだけだ。そして、必ずあの力を取り戻させて貰う」

 

「だから」

 

 

 

「――ヒュース・カルタルト。次こそは、貴方を攻略してみせる……!」




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