踏み台悪役貴族に転生したので、最強になって壁になってやる!   作:カンさん

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第四話 勇者の娘

「――行くか」

 

 アランとテレシアと出会って約1年と半年。何度も異界の箱庭に潜り続けていたオレだったが、二人と相談して世界中を旅する事にした。

 剣技も魔法も全部取得したんだよね。オレが人生を賭けて得られる最終奥義、禁術、秘伝全て。後は練度を上げるだけとなるとただ単に強いモンスター相手だけに戦い続けても意味が無いと断言された。

 

 それにあそこのモンスター、アランとテレシアを使って戦うとだいたいワンパン(剣)で終わっちゃう程度には慣れてしまった。魔素(経験値)を得てて強くなった実感(レベルアップ)が無いし、行く意味が無くなった気がする。

 

 そこで二人に提案されたのが武者修行である。

 オレは確かに最強クラスのモンスターを狩り続けて良くなり、強力な剣技も魔法も一通り使えるようになった。しかし()()()様にはなっていない。

 

 1年以上経った今でも二人の判断を上回ることなく、戦いの後は常に反省会だ。やっぱり才能によるゴリ押しには限界があるらしい。

 だからオレはこの旅では極力二人の指示を聞かないで自分の判断で動く予定だ。あと、原作開始前に聖地巡礼……じゃなくて、ライバルキャラとしての下準備の為に色々と暗躍する為でもある。

 

『我らはマスターに従うまでだ』

『剣技や魔法だけではなく、人間的にも成長する機会ね。様々な人との出会いはモンスターとの戦いでは得られない経験を得られる筈』

 

 ……人との出会い、ねぇ。

 そう言われて一気に不安になった。アランとテレシアと出会う前だったら頑張ろうと素直に思えたのかもしれない。しかし今はそんな事できるの? 大丈夫か? と自分自身を疑っている。

 何故なら――オレは、欲望を叶えて貰った結果体がおかしくなった。

 

『あら、頭ではなく?』

 

 だまらっしゃい。

 役割を全うする為に、最高のヒュース・カルタルトになりたいと願った結果か、オレは思った言葉が意図しない言い方になって出力されてしまう様になった。

 そのせいか、アランとテレシアを手に入れて帰ったあの日以来、親父や他の家族とは妙な溝ができてしまった。流石に寂しいぞ。

 

『元々マスターは本来のヒュース・カルタルトが気に喰わなかったのだろう? 何が不満なんだ』

 

 多分それが原因なんだろうな。……ちょっと色々と喋ってみるね。

 

 オッス! オレはヒュース! いっちょ戦ってみっか!

「――我が名はヒュース・カルタルト。我が使命の為、貴様には犠牲になって貰う」

 

 おっぱいは巨乳派です!

「――胸に抱きし大いなる実り」

 

 原作主人公さん! サインください!

「我が運命よ。この身に貴様を刻み込んでくれ」

 

 べ、別にアンタの事なんか好きじゃないんだからね!

「ふん、勘違いするなよ――貴様を倒すのは、このオレだ」

 

 だ、ダメだぁ……! 勝てる訳がない……!

「もはや我が命も此処まで――ならば、最期に醜く、無様に、そして人間らしく抗ってみせよう」

 

 ハッピーエンド! バッドエンド! トゥルーエンド!

「果てなき希望。避けられない絶望。未来へ続く真実」

 

 ケヒャヒャヒャヒャヒャ!

「――ふっ」

 

 エキ〇イト翻訳でももっとマシな翻訳すると思う。

 

『改めて聞き比べると酷いな』

『私たちはマスターの心の声も聞こえるから、まぁまぁ頭が痛くなるわね』

 

 オレもだよ。……いや、ケヒャヒャ笑いする踏み台悪役貴族よりは良いと思うけどね。

 

『本音は?』

 

 オレが昔考えた深みのあるキャラそのもので、物凄く複雑です……!

 でもまぁ、これで失言は少なくなるんじゃないかな? 普通にゲームとか原作主人公とか、この世界では言ったらアウトな発言していた可能性全然あるし。

 それにオレって演技が下手くそだから、体に引っ張られて悲惨な事になっていたかも。ふとした瞬間ケヒャヒャ! と笑ってしまう癖は矯正できなかったし。

 

『己の発言の法則性を見つける良い機会だろう』

 

 そうだね。結局今回の旅も変な言い回しをして、親父殿にはドン引きされながら見送られたし。

 帰ったらコミュニケーション取って誤解を解かないとな……。流石に寂しいぜ。

 

『……マスター。我には子どもが居ない』

 

 どうした急に。

 

『この世界を救う為に己を高めていた我は、ついぞ伴侶となる女性を得る事ができず残せたのはこの魔剣のみ。だから我には父親の気持ちを理解する事は一生できない』

 

 ……ふむ。

 

『だがな――我はお前の事を息子の様に思っている』

 

 ……。

 

『我が剣技をどんどん吸収する姿には、正直初めは嫉妬していたが……時が経つにつれ愛おしく思えた。それこそ、貴様の最期を看取るその時に恐怖を抱く程には』

 

 ……。

 

『だからマスター。貴様は一人ではない事を覚えていて欲しい。我は貴様の事をずっと見ているぞ』

『あら? そこは我()でしょうアラン』

『む、そうだったな』

『ふふふ。差し詰め私はマスターの母親かしら? もっとも私は結婚して子どもを作っているけど。それに現代まで私の子孫は残っているみたいね』

 

 お前ら……。

 

『故にマスター。もし辛ければ我らの事を』

『本当の両親の様に想っても良いのよ?』

 

 二人の言葉にオレは――こう答えた。

 

 

 

 いや、君ら別にオレの両親にはなれないよ。

 

『は……?』

『え……?』

 

 だってそうでしょう。最上秀一の父親は宗一郎だし、母親は裕子。

 そしてヒュース・カルタルトの両親は親父と亡くなったお袋だ。

 前世も今世も、オレをしっかりと生んでくれて、育ててくれている。

 何故出会って1年と半年の君らを両親だと思うんだ? いや、オレの事を息子の様に可愛がってくれるのは素直に嬉しいけど、それとこれとは話が違うでしょ。

 

『ぐおおおおおおお! 身体があったら張り倒してやるのに!』

『マスターって人の心が無いの?』

 

 いや……あるけど。

 それに君たちとの間の関係をさ、別の言葉を使った簡単に片付けるつもりは無いぜ?

 

『……』

『……』

 

 これから死ぬまでお前らとは一緒に居るんだ。何なら親父殿には話せない事もお前らは知る事ができる。

 だからと言ってお前たちが上だとか、親父殿が下とかそういう訳じゃない。

 その辺は勘違いしないで欲しい。

 

『……はぁ。やれやれ』

『ふふふ。ありがとうマスター。嬉しいわ』

 

 さて、そろそろ行くか! 聖地巡礼の旅に!

 

「我が運命の翻弄に、この身を委ねよう」

 

 ちょっと肉体くん勝手に喋らないでくれない?

 

 

 そういえばシロ助とは会えなかったな。寂しいぜ。

 

 

 

 

 平和な日々は突然終わりを告げた。

 全てを知るその日まで、私は何も知らなかった。ただ、悪魔の所業か、神の悪戯かは分からないが――私はこの日、全てを失う。

 

 

 

「お父さ~ん! 起きてよ! もう朝だよ!」

「うーん。もう少し寝かせてくれ……」

 

 私の名前はリオン。王都から離れた田舎に住む平民だ。

 お父さんは冒険者で、よく町を出ては仕事に行くから中々遊んでくれないので、今日みたいに久しぶりに帰って来た時は構って貰う為に甘えている。

 本当はあまり好きじゃない剣技のお稽古も、お父さんとなら楽しいと思える。あっ、お母さんとの魔法の練習も楽しいよ?

 

「リオン。お父さん疲れているから、そっとしてあげなさい」

「えー!」

「ふふふ。リオンは本当にお父さんの事が大好きなのね」

「うん! だってお父さんは勇者だもん!」

 

 そう、お父さんは昔この世界を救った勇者なんだ。王様にだって認めて貰っている凄い人。

 小さい時からお母さんに読んで貰った絵物語は、本当にあったお父さんの英雄譚。聞いていると凄く楽しくなるし、胸がポカポカするし、嬉しくなる。

 ただ、そのせいで町に居ない事が多いけど……寂しいけど……でもお父さんにしかできない事をして、世界中の人を助けていると思うと我慢できる。

 だから今日だけは甘えたいって思うのは娘として当然の権利だよね!

 

「あらあら。こんなにお父さんっ子になって。私嫉妬しちゃいそう」

「あ、その、お母さんも好きだよ! 綺麗だし、強いし、カッコいいし!」

「ふふふ、ありがとう。私もリオンの事は大好きよ」

 

 お母さん昔優秀な魔法使いで賢者って呼ばれていて、お父さんとは旅の仲間だったらしい。

 お父さんの事が好きな女の人はたくさん居たけど、最後に選ばれたのはお母さんだった。

 私はそれが凄く嬉しい事だと、ありがとうって言いたい事だと思っている。

 お父さんとお母さんが一緒になったから、私はこの世界に生まれる事ができた。この二人の子どもになる事ができた。

 正直、お父さんが勇者じゃなくても、お母さんが美人じゃなくても嬉しかったと思うし感謝していると思う。

 それだけ私は幸せだと自覚していたんだ。

 

 そう、幸せだったんだ――あの日までは。

 

「お父さん、喜んでくれるかな」

 

 お父さんが帰って来て数日。そろそろ次の仕事の為にまた町を出るらしい。寂しいけど仕方ないよね。困っている人を助ける為だし。

 だから今日はプレゼントを送る事にした。その為に今日の為にお小遣いを溜めて、あの人にはあの商品を私が買うまでキープして貰う事にしていた。

 

「ジョニーさん!」

「ようリオンちゃん。よく来たな」

 

 旅商人であるジョニーさんが快く出迎えてくれる。ジョニーさんはお父さんの昔の仲間で、この町にはよく来ては色んな物を見せてくれる。町から出た事のない私は、ジョニーさんの持ってくる者に興味津々だったし、彼が話してくれる旅の話には胸を躍らせていた。

 

「これお金! 足りるよね」

「ああ。確かに受け取ったぜ。それにしてもエルドの奴には妬けるぜ。マリアンみたいな美人な奥さんを娶って、さらにはリオンちゃんみたいな可愛い娘が居るんだからな」

「当然だよ! お父さんは最高の勇者なんだから!」

「……ああ。そうだな」

 

 ちなみに、実はジョニーさんはお母さんの事が好きだったらしい。でもお父さんの事も大好きで、だから二人の結婚を一番祝福してくれたのはジョニーさんだったとか。

 だからこの町によく来てはお父さんの代わりに私たちの様子を見てくれるし、売ってくれる商品も安くしてくれている。

 私はジョニーさんの事も好きだった。その事をお父さんに話したら物凄い顔をしてジョニーさんと話してくるって家を飛び出した事があったけど。あれは何だったんだろう? お母さんはあらあらって笑って教えてくれなかった。

 

「ほら、これで良いんだよな?」

「うん!」

 

 ジョニーさんから買ったのは銀の腕輪だ。月と太陽の紋章が刻み込まれていて、とある国では魔除けとして売られているらしい。

 別にマジックアイテムとしての機能はないけど、見た目が綺麗だったからお父さんに似合うと思ってずっと欲しかったんだ。

 

「ありがとうねジョニーさん!」

「おう! エルドとマリアンによろしくな!」

 

 ジョニーさんは笑顔で私を見送った。

 

「お父さん、喜んでくれるかな」

 

 やっと買えた腕輪を手に胸を躍らせながら、私は家に着いた。

 そして中に居るであろうお父さんとお母さんにいつもの様に、元気にただいま! と言おうとして。

 

 世界が揺れた。

 

「っ! ……なに、今の?」

 

 胸がギュッと締め付けられる様な嫌な感覚が走った。でももう苦しくない。それなのに……ねっとりとイヤな感触が体に絡み付いているような、そんな感覚がある。

 でも私は気のせいだと思って、家のドアを開けた。

 

 それが、地獄の始まりだと知らずに。

 

「帰ったか、リオン。今日は……」

「お父さんただいま! あのね、お父さん。今日はお父さんにプレゼントを――」

 

 いつもあまり喋らないお父さんは、知らない人はちょっと怖いって言う。でも私はお父さんが凄く優しい事を知っているし、クールでカッコいいと思っている。

 でも、この時のお父さんの目は……声は凄く怖かった。

 

「君は誰だ」

「……え?」

「私は、君の父親ではない。町で見ない顔だね。旅商人の娘かな?」

「え? お父さんなにを言っているの……?」

「私からすれば、勝手に家に入って来ていきなり私の事をお父さんだと言う君の方がおかしいのだが」

 

 こちらを見るお父さんの目は警戒していた。どうしてそんな目を向けて来るのだろう。やめてよ。その目嫌だよ。嫌いだよ。怖いよ。

 

「どうしたの、お父さん?」

「だから、私は君の父では……」

「どうしたの、貴方?」

「お母さん! お父さんが何か変だよ!」

 

 キッチンの奥からお母さんが来た。お昼ごはんを作っていたのかエプロンを着けて不思議そうな顔をしている。

 私は胸の奥をザワザワさせながらお母さんに叫ぶと、お母さんはこっちを見てビックリした顔をするけど、すぐに優しい顔を浮かべてこっちに来て視線を合わせて来た。

 

「こんにちは可愛らしいお嬢様。迷子になったのかしら? お父さんとお母さんを探しているのかな?」

 

 でも、その優しい顔はいつも私に向けるモノではなくて……まるで他人に向けるその優しさが凄く怖くて、胸が苦しくなって、涙が出てしまう。

 

「あ、あら? どうしたの?」

「どうしたのって……おかしいのはお父さんとお母さんだよ! 何でこんな意地悪するの!」

 

 訳が分からなかった。さっきまでは普通だったのに。ジョニーさんの所に行く前までは、二人とも私に優しかった。

 お父さんは朝の稽古に付き合ってくれて「また強くなったな」って苦手な笑顔を浮かべてゴツゴツした手で頭を撫でてくれた。その感触と温かさをまだ覚えている。

 お母さんはお昼ごはんを食べた後はピクニックに行こうか、って言ってくれた。私がお父さんともっと遊びたいけど、恥ずかしくて言えない。だから代わりに誘ってくれたんだ。

 

 なのに……!

 

「お父さん、これ……」

「これは……」

「お父さん、そろそろ旅に出るでしょ? だからね、いっぱいお小遣い溜めて、今日ジョニーさんに売って貰ったんだ」

「……ジョニーの事も知っているのか」

 

 お父さんの観察する様な目に胸がズキリと痛む。

 

「私本当は寂しいの。でもお父さんは勇者だから。だから我慢するって。勇者の娘だから我慢するって。でも無事に帰ってきて欲しいから、この腕輪を――」

「もういい。君の魂胆はよく分かった」

 

 お父さんが冷たい声で立ち上がる。それと同時に私の体は動けなくなった。

 自分の身体を見てみると、光の鎖で縛られていた。

 私はお母さんを見る。そこにはこっちを悲しそうな目で見ながら地属性の捕縛魔法を使うお母さんが居た。

 

 なんで。

 

「お父さん! お母さん!」

「マリアン。一度眠らせてあげてくれ。……はぁ。まさかこの町でもオレの子を名乗る孤児が現れるとは」

「悲しいわね。本当の親は何をしているのかしら」

 

 そっとお母さんの手が頭に触れる。すると凄く眠くなって目が閉じていく。

 ダメだ。今ここで寝てしまったら……取り返しのつかない事になる。

 でもお母さんはお父さんと仲間だった凄腕の魔法剣士。それも剣よりも魔法の方が得意だったらしい。子どもの私が抗える筈も無く。

 

「それにしてもリオンは何処に行ったんだ」

()()()ですもの。今頃森で遊んでいるんじゃないかしら?」

 

 その会話を最後に、私は意識を落とした。

 

 

 

「……此処は?」

 

 ガタガタと体が揺れる感覚に目を覚ます。周りを見ると既に暗く、どうやら私は荷台に乗せられているらしい。掛け布の隙間からお月様が見える事から、どうやらもう夜になっているらしい。

 

「起きたかい、嬢ちゃん」

「……ジョニーさん?」

 

 声を掛けられてそっちに視線を向けると、そこには対面に座ってこっちを見ているジョニーさんが居た。

 でもジョニーさんの顔は怖かった。いつも私に向ける優しい表情は無く、お父さんと同じ様な……いや、それ以上に警戒した顔でこっちを見ていた。

 

「ジョニーさん! あのね、お父さんとお母さんが――」

「――嬢ちゃん。君には何か事情があるんだろうが、俺は聞くつもりはないぜ」

 

 ジョニーさんはとても冷たい声で私の言葉を遮った。

 

「アイツの情報を何処で嗅ぎつけたのかは知らんが……ここまで悪質なのは初めてだ。君をここまで狂わせた元凶には腹が立つし、君には同情するよ」

「な、何を言っているの?」

「嬢ちゃん。はっきり言うぜ――君は狂っている」

 

 私は、声が出なくなった。

 

「マリアンが魔法で調べたが、君の肉体には何の魔法も掛けられていなかった。しかし、君がアイツらの事を両親だと思い込んでいるって事は……生まれた時からそういう風に教育、いや洗脳されているんだろうな」

「洗脳……?」

「そうとしか考えられない。魔法ならマリアンでも何とか治療できたんだろうが、こっち関係だと流石にお手上げだ。

 君を別の街の孤児院に預ける事にした。そこでゆっくりと洗脳を解いて貰うと良い」

 

 言葉が出なかった。おかしい、おかしすぎる。何でこんな事になっているのか、訳が分からなかった。

 

「……そうだ。腕輪」

「……」

「ジョニーさん! 私、あなたから腕輪を買ったでしょ! お金だって払った!」

「お金ってのは、コレの事か?」

 

 そう言ってジョニーさんは、今日の昼に渡したゴールドが入った袋を私に渡してくる。

 

「その金は返すよ。そしてあの腕輪は本来の買取人に返している」

「え……?」

「嬢ちゃん。あの腕輪はな? リオンが父親の為に小遣いを溜めてようやく買えたプレゼントなんだ。それを何故君が持っていたのかは知らないが……あまりこういう事はするな」

「ち、違うよ! 私が買ったんだよ!?」

「……はぁ。話にならないな」

「そんな……酷い! ジョニーさん、何でさっきから――」

 

 

「酷いのは君の方だろう!!」

 

 

 ヒッ、と喉の奥から悲鳴が上がりそうになる。視界が滲んで、涙が零れそうになった。

 そんな私を見てジョニーさんは一瞬バツが悪そうにしていたが、すぐに顔をしかめて静かに語り掛けて来る。……こんなジョニーさんは初めてだった。

 

「……アイツは、勇者である事を重荷に思っている。いつも旅に出て自分の子どもとの時間を作れていない事に心を痛めていた。

 だがアイツの()()は、寂しいのを我慢して勇者の子どもである事を誇りに思い、我儘を言わなかった!」

「む、息子……?」

「ああ、そうだ。勇者エルドの息子リオンだ」

「ち、違うよ! 勇者の子どもは私! 私は男の子じゃないよ!」

「……はぁ」

「ジョニーさん!」

 

 しかし私はそれ以降ジョニーさんに相手にされなかった。何を言っても聞き入れて貰えず、私を頭のおかしい子だと言って防御魔法で外に出られなくされた。

 ……外ではジョニーさん達が何か話しているけど、呆然としていて聞く事が出来なかった。いや、聞きたくなかったのかも。あんなに仲が良かったのに、私の事をまるで知らない人みたいに話すジョニーさんが怖かったから。

 

 それに、私がまるで偽物で本当のお父さんの子どもは別に居るみたいな言い方。あんなの酷いよ。

 

「私が【   】なのに」

 

 ──え?

 

「な、何で……!?」

 

 私は自分の名前を何度も呟く。言う。叫ぶ。

 しかし喉の奥をギュッと見えない手で止められているみたいに、【   】と言うお父さんとお母さんから貰った大切な名前が出てこなかった。

 

 

 

 私はこの日、自分の名前を失った。

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