踏み台悪役貴族に転生したので、最強になって壁になってやる! 作:カンさん
本来とは異なる運命により死を迎えた魂があった。
その者は寿命を迎えて死ぬはずだったが、不慮の事故でその生を終えてしまう。
しかしそれは小さな小さな歪み。干渉せずとも世界の流れによって消え去る傷とも言えない……ありふれた不幸だった。
だが
「僕を主人公にしてくれ!」
何もない白い空間で飲酒運転によるトラックの事故に巻き込まれて死んだその少年は、神の様な存在感を放つ男から説明を聞き、異世界に転生する事を聞かされた。
それも彼のよく知る《世界的に有名な》ソードオブシリーズの初タイトルの世界に、だ。
嬉々として要望を声に出す少年に対して、男は眉を潜めて言った。
「それは無理だな。世界に主人公は一人だ。お前は既に死んだ身ゆえに、世界の中心に成り得る存在にはもう成れない」
「はー? なんだよそれ! お前のミスで死んだんだろ?」
「やっぱり話を理解していなかったか」
男は世界の観測者である。時々干渉しては世界を救ったり滅亡させたりするのが仕事だ。
そんな彼は一つの特異な世界を見つける。とてつもない重大なバグを抱えた、こちら側にも干渉しうる歪すぎる世界。剪定するにしてもリソースが大きくなり過ぎた為、今回迷い込んだ魂を打ち込んで様子を見ようとしたのだが……。
「何とかしてくれよ!」
「仕方ないなぁ」
本来なら出来ない事を男は試みる。このまま駄々を捏ねられて世界への観測ができない事態を避ける為に。
「なるべく要望には応えるが、かなり無理をする事になる。お前の望み通りにならない事が起きる可能性が高い」
「何でも良いから早くしてくれよ!」
「はぁ、やれやれ。人選ミスったかもな」
呆れつつも男は、これから観測する世界のルールに則って少年をその世界の主人公に
その世界における異能の魔法。契約。呪い。祝福。聖剣。魔剣。光。闇。
それらを総動員して少年をその世界の主人公である【リオン】に転生させる。しかし、やはり世界の法則を無視した行動の為か、所々綻びが見える。故に未来ではあり得ない事が起き、運命が捻じ曲がっていくが――観測者は気にしない。それを見るのもまた男の仕事だからだ。
「一応忠告しておくぞ。お前の立ち位置を理解しろ。役割を履き違えるな。それを誤れば、あの世界における契約の反動がお前に全て返って来る。
いいか? お前はあの世界の主人公である【リオン】だ。それを忘れるな」
「分かっているよ! そんな事より、頼んだことはできるのか?」
「……はぁ。やれやれ。まるで玩具を貰ったばかりのガキだな。ああ、ちゃんとしているよ」
運命の帳尻合わせによって、この少年が望む舞台は整うだろう。
しかし彼が望む
結果を求めてその通りになっても、その過程を見なければ痛い目に遭う。
それを理解しなければ待つのは破滅のみ。
「それと最後に――」
少年は男からある事を聞いた。
「ふーん。使うかどうか分からないけど、ありがとうな!」
「いいか? 本来の主人公の力とは似て非なる力だ。一度しか使えない。だから使い所はしっかりと考えるんだぞ?」
「オッケー! それじゃあ、ありがとうな神様!」
時間が来たのだろう。少年はそれだけ告げて【ソーデス】の世界へと転生し、
「さて、次の世界の観測をするか」
男は特に気にする事無く管理する別の世界へと視点を移す。
彼にとって、これから歪みに歪んでいく世界は数多ある一つにしか過ぎないのだ。
◆
僕の名前はリオン。この世界の主人公だ。
不幸によって事故死してしまったが、神様によってこの世界に転生させて貰った。それも主人公として! まさかネットにある二次小説みたいな展開が自分の身に起きるとは思わなかった。
僕が好きなのはシリーズ5作目の【エタニティ】だったんだけど、歴代主人公やヒロインが集う【レジェンド】で初代主人公に魅了された。
だって歴代主人公の中で最強格だからな! レジェンドの敵たちも唯一初代主人公を警戒していたし、歴代主人公たちも一目置いているその立ち位置は僕にとって魅力的で――だからソーデスの主人公になりたいって思った。
レトロゲームだから、初代版はなかなか手に入らなくて結局動画配信サイトでメインストーリーしか視れていない。けど僕が生きていた時代にあった人気ゲームと同じくらいには面白いんじゃないかな? と思える。
何よりヒロインたちが魅力的だし、あと踏み台悪役貴族を徹底的にボコボコにしているのもスカッとした。惨めに嘆く所はお気に入りだったりする。
だからこれからが楽しみだ。あのソーデスのストーリーを主人公として楽しめるこの世界が。
「と言っても、やっぱり最強ルートで行きたいよね」
異界の箱庭でのレベリングをしたいけど、それまであと3年もある。
それまでに色々と準備をする予定だ。
その為に僕は神様に頼んで12歳の時にリオンとしてこの世界に現れる様に頼んだ。
「――はっ!」
力を籠めると、漆を塗った様に綺麗な黒い剣が手に現れる。
これは本来なら物語の序盤に主人公が危機に瀕した際に覚醒して出て来る【闇の聖剣クラウディウス】。太古の勇者クラウディウスの人格が刻み込まれたリオンの相棒だ。
物語の通りなら、今この時代には現れていない。しかし、メインストーリーによるとリオンが12歳の時点で実は覚醒していた事が明かされる。
だから僕はこの時期にこの世界に転生したいと神様に頼んだ。
いや、赤ちゃんスタートとか苦痛でしかないし。母のマリアンが凄く美人で血の繋がりが無ければヒロインにしたい程タイプだったから、色々と性癖が拗らせそうで、ね?
「……それにしてもジョニーの奴」
日課の剣技の練習をしながら僕は不満を溢す。原作前だからか、ジョニーはなかなか僕の言う事を聞いてくれない。
原作だと両親が死んでいる僕に対する負い目から、売ってくれるアイテムを格安にしてくれたり、有益な情報をくれたり、マップ移動をしてくれたりと便利なのだが……上手くいかない。
「原作前に強い魔法を手に入れて置きたかったんだけどなぁ」
本当はこの時期にあったというクドルラの【フリーズ】の人工魔剣を破壊して、その魔法をこの闇の聖剣で習得しようと思ったのに。結局カルニアの【ブースト】の人工魔剣を破壊するに留まった。まぁ、初めてで苦戦して一度死んじゃったけど。
「それにしても便利だよな……闇の聖剣」
物語の序盤と終盤、あとサブクエストで出て来る人工魔剣を倒すと主人公は魔法を覚える事ができる。その理由がこの闇の聖剣だ。
元々人工魔剣は、本当の魔剣と違って1000年前の住人とその力が宿っているのではなく、一つの魔法が刻み込まれている。それを闇の聖剣で倒す事で魔法を奪って習得できるのが、ソーデスの主人公の凄い所だ。
僕がこの時代に転生したのもそれが理由だったりする。プレイ動画の解説や考察で、この時代の主人公の故郷に結構やばい人工魔剣があるらしいから、今のうちに習得したかったんだけど……。
「まぁ、ゆっくりやっていくか」
もう少ししたら王都周辺で行動ができる様になる。そろそろエルドとマリアンが原作イベントの為に、主人公の仇である人工魔剣使いによって殺される。
そうなればジョニーに連れられてラティスを離れて、アーロンドを中心に色んな所に足を運べる。そうすれば人工魔剣探しも自由にできるし、異界の箱庭でレベリングできるし、それにヒロイン二人の悲劇も止める事ができるかもしれない。
その為にも僕は最強にならないと! だって原作主人公だから!
そう思っていたのに。
「……此処って本当にソーデスの世界なのか?」
あれから3年後。僕は順調に強くなった……と思う。あと少ししたらクラウディウス魔法騎士育成学園の入学試験があるのだが――何故か僕はその入学試験に推薦されなかった。
何故!? と驚くことはなかった。でも前々から嫌な予感がして、それでも主人公だから大丈夫だと思っていたんだけど……僕の予想は当たってしまった。
原作が崩壊している。
その原因は――おそらくエルドだろう。
どういう訳かエルドは死ななかった。本来なら死ぬはずのイベントで、原作には無い加勢が入って生き延びてしまったらしい。
確か、現代の……何だっけ? 覚えているのは双剣使いだ。イベントムービーでしか映えない雑魚スタイルなのに……。この村は田舎だから情報が入って来ないんだよ。
明らかに原作ではいない筈の存在だ。そいつが原作を壊しているんだ。くそ、忌々しい。物語を汚しやがって。
あの神が忠告していた通りだった。
「ちょっとリオン! あなた仕事は!?」
「うるさいな。もうやめたよ」
さらに最近マリアンが口うるさい。初めは美人でラッキーだと思っていたけど、ここまで口うるさいと流石に邪魔だ。
エルドも帰って来ては小言が多い。オレがクラウディウス魔法騎士育成学園に行きたいって言っても認めてくれない。
お前は戦わず普通に過ごせ? ふざけるなよ。せっかく主人公になったのに。
前世みたいな……いや、日本じゃない分もっと酷い生活を送る羽目になっていた。ゲームもアニメも無いから、これだと前世の方がマシだ。
「多分これが神様の言っていた【バグ】だな」
だったら――アレを使うしかない。
僕はこの世界に初めて降り立った森へと向かった。
◆
エミリアと旅をして3年が経ち、いよいよクラウディウス魔法騎士育成学園の入学試験が目前となった。そこでオレ達は王都アーロンドの宿に泊まっている。
「ふぅ。久しぶりに宿で休めるねファースト」
そう言って同室でくつろぐエミリアは随分と成長した。身も心も。
身長が伸びた彼女の手足はスラリと長く、しかし出る所は出て引き締まっている所はしっかりと引き締まっている。同性異性問わずに見惚れるプロポーションを持つ美少女へと変貌していた。かつての子猫の姿は見る影もない。3年でここまで変わったのは、この激動の時間の賜物か。
何より背中まで伸びている黒髪はサラサラで美しく、彼女はいつも丁寧に整えている。
『あなたが好きだと言ったからでしょう』
……ん゛ん゛。流石に照れ臭いな。まぁ、お母さんから褒められたらしいからな。あの時禄でもない親だと勘違いしたのが恥ずかしいぜ。
『見た目もそうだが、本当に彼女は強くなった』
そうなんだよな。エミリアって本当に凄い。
アランの言葉をオレを通じて、エミリアに勇者の剣技を教えたのだがあり得ないくらいに吸収していくのだ。剣技に関してはオレ以上の才能があるんじゃないのか? 魔法は何故か使えなかったけど。
今ではオレと同じくらいにまで上り詰めており、1年もしたら勝てなくなりそう。
『……それに比べてマスターは』
言いたい事は分かるよ。オレ、3年前に比べて
あの時に既に完成していた、と捉えるべきなんだろうけど……オレ達は契約違反による反動なのでは? と睨んでいる。
その理由は……。
「あっ! ファースト。今日の夜はフィリス達とご飯食べるけど、あまりツンツン言葉使ったらダメだよ?」
「善処する」
「本当かな……この前ロデュウさん怒らせたじゃん。みんな、私たちの応援に来てくれているんだからっ」
いや、それは君のせいでもあるんだけどね人たらしさん?
さて、今エミリアが言ったフィリスとロデュウだが……それぞれ原作に登場する水と地の聖剣使いの担い手なのである。
そう、オレは何故かエミリアを通して二人と……いや、それ所か残り二人の聖剣使いとも関わりがあるのだ。火のルティナと風のクラウス共に。
――どうしてこうなった? と言われれば、どうしてこうなったんですかとこっちが聞きたい所存である。
しかし思い返してみれば、始まりはセケレンティアに向かったのが始まりだった。
オレの契約的に、原作前のキャラ達とはそこまで関われないと思っていた。だって、主人公の仲間とライバルキャラにそこまで深い繋がりは必要ないじゃん? もし好かれでもしたら物語どころじゃないよ。
だから大丈夫だろう、はははと高をくくっていたら――なんかね。フィリスのね、悲劇がね、防がれていたの。原作崩壊させていたの――エミリアが。
いや、どういう事? って思っても後の祭りで、いつの間にかエミリアとフィリスは友達になっていた。まぁ仲が良いのはいい事なのでそこまで気にしなかったんだけど……。
その後も行く先々で原作キャラ達に出会ってはエミリアを通して
いや、目立つ黒と白の剣を持ってマスク付けていれば当然なんだけど。原作キャラ達には会う度に怪訝な顔されるのにはもう慣れた。
そして、トドメは……。
「……あと、エルドさんからも手紙が来てる」
「……そうか」
何処か複雑な声を出すエレミア。どうも彼女は勇者エルドと賢者マリアンが苦手な様だ。
出会い頭にオレに斬り掛かって来たあっちにも落ち度があると思うが、多分それ以外の理由があるんだろうな。
『我の存在をいち早く気付くとは、流石は勇者といった所か』
そうだね。光の勇者としては闇の魔剣であるアランは無視できない存在だよね。
しばらくは警戒されて、それにエミリアがキレてとお互いに険悪になったけど……最後は和解できたのは良かった。原作と違って生き延びたけど、今にして思えば良かったと思っている。
そのせいでファーストの名前が広まったんだよね。【現代の英雄】ってなんだよ。イかすじゃん。おかげで行く先々でアランとテレシアを抜く度に騒がれる。
その隣でエレミアがむふんっと嬉しそうに同じ色の双剣を出すのはちょっと可愛いと思った。
それにしても現実は分からない物だ。
オレはヒュース・カルタルトだから、原作の悲劇は救えないと諦めていた。
原作主人公が一番好きだが、原作キャラ達も好きだ。彼らの幸せを願う程度には。
しかし、旅の初めに助けに行こうとしたら……【オレの役割ではない】と動けなかった。
だからエミリアには感謝している。
『……マスター』
分かっているよ。契約違反によってオレは明らかに弱くなっている。
いつからかモノローグさんも消えたし、言語の強制力もかなり弱くなっている。
つまりそれはオレの契約が実行されていないって事だ。でもそれをエミリアのせいだとは思わない。
『マスター。私たちは随分と前から思っていたのよ――あなたにはもっと生きて欲しいって』
うーん。でも多分無理だと思うんだよね。そうなる様に願ったのはオレだし。感覚的にタイムリミットは変わらないというか……。
結局原作主人公については名前だけが分かっただけで、どれくらい強いのか分からず仕舞いだった。これでは保険も機能しないと思う。
「……ねぇファースト。会えるの楽しみなの? 【我が運命】って人」
「どうした急に」
「だって今、その人の事を考えていたでしょ」
そう言ってムッとした表情でこちらを見るエミリア。
オレの顔は契約によって無表情の筈だが、どういう訳か彼女には表情を読み取られる事が多い。仮面越しなのに。
『愛の力よ』
前にも言っているけど吊り橋効果だって。オレ視点この子は娘なのよ。
『意気地なしめ』
この色ボケ聖剣魔剣コンビ。
さて、実際のところあの学園に主人公が居るのかは怪しいんだよね。だって、あの学園に入れたのってエルドが死んだからってのが大きいし。
エルドが死んで勇者が不在になった分、主人公への期待が過剰に寄せられて半ば無理矢理入学させられたんだ。コンプレックス拗らせてサボって落ちこぼれ扱いされるけど。
だからこの世界だと居ない可能性があるが……。
「さぁな。だが――」
「……?」
正直旅経つ前ほどの原作主人公に対する執着が薄れたのを自覚している。多分自分の中にある憧れの偶像よりも、身近にある大切な人との暮らしに幸せを感じたからだろうか。
そう考えると親父たちに対して結構失礼な事していたな。あとでエミリアの事を紹介がてら謝るか。
そしてエミリアにもそろそろオレの本当の名前を教えないと。今なら契約の妨害なく名乗れそうだ。
「ねぇ、ファースト」
「なんだ?」
「私、色々と悲しい事あったけど――いま、すっごく幸せ! ファーストが居るから!」
彼女の言葉に、オレは――。
「そうか。――オレも」
◆
「深刻なバグを見つけた時は【リスタート】しろ」
「リスタート?」
「ああ。原作主人公は死んだら経験値を持ったままセーブポイントに戻れるだろ? あれの強化版みたいなものだ」
「何が違うんだ?」
「修正力が違う。これを使えばお前が転生した時間軸に戻るだけじゃなく、戻る前の世界の致命的なバグを徹底的に起きない様にする。しかしそのせいで経験値は得られないし、お前自身の記憶も引き継げない」
最も例外は存在するが。
「しかし運命の帳尻合わせが激しくなる分、何が起きるか分からない。俺としては使わないに越した事は無い」
リオンが、あの男の言葉を思い出しながらも。
「主人公になれないならこの世界に価値は無い。次に期待だな」
始まりの地で――その命を絶った。
◆
「――え? なんで?」
「ここは、あの時の?」
「――ファースト? ねぇ、何処?」
「――
「――そんな、いや……!」
「全部夢?」
「嫌だ、そんなの」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「いやぁぁぁああああああああああああ!!!!」
◆
「……いよいよか」
旅に出て3年。オレは原作主人公のライバルキャラとして相応しい存在となった。あの時とは比べ物にならない程強くなっている。
【ようやく会えるのだな――我が運命に】
その分、モノローグさんと肉体言語の不自由さはそのままになっているけど……まぁ大丈夫でしょう。
「……ヒュース」
「なんだ、魔王」
「四天王がアーロンドに着いたって。会いに行こう?」
ただ、オレの方でも色々とあったんだけどね。やっぱりゲームの様に上手くいかないな。
それにしても――。
どうしてオレは、原作のボスの一人と一緒に居るんだろうか。
正体不明の漆黒の鎧の無口で、推定おっさん。それが魔王……だったんだけど。
そんな原作でも謎の存在だったボスキャラ──その中身と名乗る銀髪幼女と行動を共にしていた。
……いや、ホントになんで?