大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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プロローグ(intro.01) すべてのはじまり

 夜の9時ごろ。大崎宅・甜花の自室にて。

 今日の甜花はとても良い買い物をした。大通りを歩いていたら露天のおじさんに声を掛けられて、とある据え置き型ゲーム機を勧められたのだ。そのゲーム機の名称は『多機能互換機ジョイステーション』────略してジョイステ。

 

 それはハードを問わず、あらゆるゲームのカセット・ソフト・アプリ等を導入できる夢のようなゲーム機だという。しかもグラフィックやローディング等の質が落ちることもなく、なんなら向上するという有り得ない性能を持つ。つまりこれ一台でどんなゲームも最高性能で遊べる……それがジョイステの魅力なのだと、露店のおじさんは熱く語っていた。愉しそうに売り込んでいたのだ。

 

 その熱意に当てられて宣伝を静かに傾聴していた甜花は、みるみる購買意欲が湧いてきた。が、流石に半信半疑でもあった。「だったら試しに遊んでみるといい」……そう露店のおじさんに言われてジョイステを起動。コントローラーを握って様々なゲームをプレイしてみた。結果、甜花は愕然とした。あっと言葉を失った。恐るべき性能を誇るゲーム機の素晴らしさに心の底から驚いたのだ。

 そしてトドメは露店のおじさんの一言。「お客さんかわいいから、特別に|無料(タダ)でいいよ!」

 

 かくして大崎甜花は一台のジョイステを持ち帰った。事務所帰りの出来事である。

 

「にへ……にへへ……」

 

 今日の甜花は、本当に良い買い物をした。それが奇妙な買い物であったことなど気にも留めず、不思議な買い物であったことも気にせずに。ほくほく顔で幸せそうに、謎めいたジョイステを抱えていた。

 

 ジョイステ。多機能で互換機なゲーム機。或る機種のゲームを遊びたくなった時、いちいち棚からハードを取り出さなくて済むというのは、多くのゲーム機を持ち、多くのゲームを遊ぶ甜花にとって、まさに理想的なゲーム機と言えた。さらに新しいハードが発売されても、すぐに無料のパッチをインストールすれば、最新機種のゲームにも対応できるという。それはなんとも犯罪的に美味しすぎる話である。

 

「えと……コンセントを差して……電源ボタンを……オン……!」

 

 さっそくジョイステを起動してみた甜花は、ジョイステが本当に多機能で互換性があるのか確かめるため、様々なハードのカセットやソフトを差し込み、アプリをインストールするのことにした。

 

 そこで最初に目をつけたのが【ポケットモンスターシリーズ】。

 第一世代の『赤・緑・青・ピカチュウ』

 第二世代の『金・銀・クリスタルバージョン』

 第三世代の『ルビー・サファイア・エメラルド・ファイアレッド・リーフグリーン』

 第四世代の『ダイヤモンド・パール・プラチナ・ハートゴールド・ソウルシルバー』

 第五世代の『ブラック・ホワイト・ブラック2・ホワイト2』

 第六世代の『X・Y・オメガルビー・アルファサファイア』

 第七世代の『サン・ムーン・ウルトラサン・ウルトラムーン』

 第八世代の『Let's Go! ピカチュウ・Let's Go! イーブイ・ソード・シールド』etc...

 それだけではない。さらに甜花は『ポケモンスナップ』『ポケモンコロシアム』『ポケモンXD 闇の旋風ダーク・ルギア』『ポケモンレンジャーシリーズ』『ポケモン不思議のダンジョンシリーズ』……ほかにも『多数の外伝作品』を導入した。

 

「うわ……すごい! ほんとに全部、導入できちゃった……

 それなのに、まだメモリがたっぷりある……にへへ……じゃあ……」

 

 ジョイステはインターネットに接続できる。動画視聴・電子書籍、ネットゲームも可能。ジョイステにキーボードとマウスを繋げば、そのままテレビをパソコンとして使える。まさにジョイステは万能の称号を冠していた。

 

「にへぇ……にへへぇ……すごすぎて、甜花……ほんとうに、こまっちゃう……!」

 

 甜花は思う。これはまるでコタツの周りに冷蔵庫や電子レンジ、果てはトイレまでも完備した完璧な環境だと。ジョイステひとつで数多の創作物が楽しめる。ワクワクが高まった甜花はジョイステの更なるすごさを探すため、今度はネットの世界に潜り込む。

 

 『ポケットモンスターSPECIAL』や『週刊少年ジャンプ』系列の漫画を購入。さらに元から持っていた『女神転生シリーズ』『デジタルモンスターシリーズ』『牧場物語シリーズ』『ルーンファクトリーシリーズ』『Fateシリーズ』『ドラゴンクエストシリーズ』のゲームを導入。これで甜花は、いつでもジョイステを起動することで、たくさんのゲームだけでなく、アニメを見たり漫画を読んだりネットサーフィンしたりと、なんでもできるようになった。

 

「えと……あとは、FPSゲームだけど……」

 

 ────しばらく甜花は考えて、今一度、思い直すことにした。

 

「……FPSは……使い慣れてたマウスと、見慣れたゲーム画面の方が良いから……いいや」

 

 甜花はそっと『FPSシリーズ』のゲームパッケージを床に置く。

 

「よし……じゃあ、はじめよう……!」

 

 かくして甜花はコントローラーを手に持ち、ふんすと鼻を鳴らして、傍らに落ちているジョイステの取扱説明書すら読まず────真剣な面持ちでゲームをプレイし始めた。

 

          *

 

 未明5時ごろ。白み始めた空の光は、暗い室内の窓に掛けられたカーテンをすり抜け、ほんのりと空間を照らしている。しかし甜花は室内の明暗の変化に気付かず、脳死状態でゲームに熱中していた。だがそれも長くは続かない。ずっとジョイステで遊びほうけていた甜花は、そろそろお休みの時間が迫っていた。

 

「あう……甜花……もう、現界……おやすみ、なさい……」

 

 甜花は重たくなるまぶたに耐え切れず、デビ太郎のぬいぐるみを抱き締めて横になる。ゲーム機の電源を切る余力さえなく、うつらうつらとするまぶたは静かに閉じていった。

 

          …

 

 初めから消灯された室内。光源は明滅するテレビ画面とカーテンを通過する陽射しのみ。静かな稼動音を上げるジョイステの傍らには、天使のような寝顔を見せる眠り姫がひとり。

 

 ……────ヒュオオオオオオ────……

 

 窓のすきま風が甲高い音を上げる。

 昨夜のニュースでは、今日の朝方には毎年恒例の大型台風が近付くと報道していた。

 

 ……────ゴオオオオオオオオオ────……

 

 窓にぶつかる強烈な颶風。唸りを上げる風切り音。

 遠方よりこだまする雷鳴。ザーザーと土砂降りの雨が降り続ける。

 

 次の瞬間、カーテン越しに雷光が迸った。一拍遅れて豪快な雷鳴が轟き渡る。どうやら大崎宅の近くに雷が落ちたらしい。尋常ではない爆音が轟然と辺りに響き、甜花に似た別人の悲鳴が家の中で叫ばれる。

 

 ドタドタと家の中を走る音。

 それは甜花の部屋の前で立ち止まり、緊急時につきノックはせず扉が叩き開けられた。

 

「て、甜花ちゃん!? 大丈夫だった!? 今の雷、すごかったね……!」

 

 大崎甜花の部屋に駆け込んできたのは、甜花の双子の妹・大崎甘奈。

 姉の安否を確認するため駆け付けてきた甘奈は、しかし────ポカンとした顔で、部屋全体をぐるっと見渡す。

 

「……あれ? 甜花、ちゃん……?」

 

 雷が落ちる瞬間まで、ゲーム機の傍らで眠っていたはずの大崎甜花。

 しかし甘奈が駆け付けてきた時には、既に……、

 

 ……──その体は、この現実世界から飛び立っていた。

 

          /了

 

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