大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第11話 vsチユキ! フルーツポケモン!!

「むーちゃん……!」

 

 審判により甜花の勝利判定が叫ばれた直後。ロトムの下に駆けつけた甜花は、ポロポロと零れる涙を袖口で拭いながらロトムを抱き上げる。

 

「むーちゃん……勝ったよ……っ! むーちゃんのおかげで……甜花たち、勝ったよっ……!」

「ろ……ろとぉ……」

 

 最初のバトルはゴンベに負けて、リベンジにも負けて。負け続きだったロトムのプライドは、おそらくズタボロになっていたことだろう。そのことを心配していた甜花だからこそ、多少無理させてもロトムによる単騎駆けを決行した。それはロトムにとってチャンスであり、自分はバトルで勝てるポケモンなのだと証明するため、甜花の無茶な命令にも従って、見事に勝ちを掴み取った。

 

 このバトルは甜花とロトムにとって、今までで一番の経験になったことだろう。ポケモンの交代を駆使するトレーナーのスキル。トレーナーの命令に応えるポケモンのネバーギブアップ。まさにトレーナーとポケモンの気持ちがひとつになったからこそ、この勝利はもらえたのだと、誰よりも甜花は理解しており、ロトムは実感していた。

 

「……ありがとう……むーちゃん……っ!」

「ろ~とぉ……!」

 

 にへへ、と甜花の笑いを真似したロトムは、深い眠りに就くようにまぶたを伏せる。

 

「むーちゃん……!」

 

 しかし、それは単に疲れて眠りに就いただけであり、安堵した甜花はロトムをモンスターボールに戻す。

 

 その時だった。

 ふいに甜花の背後で、自動ドアの開閉音が鳴る。その音に気づいて振り返った甜花は────

 

「……え?」

 

 ────見覚えのあるポケモンの姿に目にした。

 その黒いポケモンは一歩、足を前に踏み出し、徐々に助走をつけて、甜花の傍らを通り過ぎる。

 

「────ゴンッ!」

 

 そして突然、地面を抉るほどの脚力で跳躍し、なんとチユキに襲いかかった。

 

「ご、ゴンベ……!?」

「チユキさん、危ない……!」

 

 甜花とカホが驚きの声を上げる。

 しかしチユキは、思わぬ乱入者に動揺すら見せず、冷静に適切に対処した。

 

「出てきて、トロピウス!」

「ピィユー!」

 

 チユキを守らんと前に飛び出したトロピウスは、ゴンベのメガトンパンチを胸で受け止める。

 その胸は頑丈の一言に尽き、逆にゴンベは相手の体格に負けて押し返されてしまう。

 

「ゴンッ!」

 

 しかし空中で見事に一回転して着地するなり、地面にペッ! と唾を吐いたゴンベは、鼻の下を指先で拭い捨てる。

 そして、ふいにゴンベは背後の甜花に目をやると────

 

「……」

 

 ────人差し指を立ててクイックイッ……と、まるで『命令を寄越せ』と言いたげなジェスチャーを繰り返した。

 

「え? え……? な、なに……?」

 

 しかし甜花は、ゴンベが何を言いたいのか分かっていない様子。

 そこでレオが解説する。

 

「甜花! そのゴンベ、お前に指示を任せたいみたいだぞ! 知り合いなのか?」

 

「……え? ────…………えぇ……!?」

 

 甜花は何がどういうわけなのか頭を抱えて混乱する。

 そこでなにやら事情を知っていそうなチユキが謝罪と共に説明を始めた。

 

「驚かせてごめんなさい。甜花さん。実はその野生のゴンベは、よくこのジムに挑戦しに来る子なんです」

 

『……えぇ!?』

 

 野生ポケモンなのに? と疑問を抱きつつ、驚きを隠せないカホ。

 一方の甜花は、このゴンベはそこまで強さを追い求めているのかと感心せざるを得ない。

 

「それで、お願いがあるんだけど……」

 

 ふいに改まるチユキは、申し訳なさそうに甜花を見やる。

 

「甜花ちゃん。そのゴンベと一緒に、私のトロピウスとバトルしてくれないかしら?」

 

「────え?」

 

 突然のお願いに困惑する甜花。

 そこでチユキは、両手を合わせて懇願する。

 

「もちろんジムバトルは甜花ちゃんの勝利よ。あとでグレーバッジをあげるわ。……だから、これから行うバトルは、ただのトレーナーバトル。そういうことで、ひとつお願いできる?」

 

「……」

 

 一転、不安な面持ちになった甜花は、少し警戒するようにゴンベを見る。

 当のゴンベは甜花の顔をまっすぐと見つめており、その理由をチユキが説明した。

 

「きっと、そのゴンベ……甜花ちゃんのポケモンバトルの駆け引きの上手さを見て、認めたのね。だから、あれだけ一匹狼を気取っていた野生のポケモンが、モンスターボールに入る前から貴女の命令を待っているんだわ……」

 

「──……そ、そう……なの……? ゴンベ……?」

 

 首をひねる甜花に対し、ゴンベはただ一度だけ頷く。

 それからゴンベは甜花に背中をあずけて、眼前の好敵手たるトロピウスを睨みつけた。

 

(…………)

 

 まだ戸惑いを持っている甜花は、なかなか連戦への気持ちが切り替わらない。

 だが、これからのバトルを待ち望んでいるゴンベの背中を見て、甜花は決心した。

 

「……は、はい……! そのバトル……受けましゅ! ぁ……受けます!」

 

 噛んでしまったが、とりあえず立ち上がった甜花は、トレーナーが立つべき陣地へ駆け出す。

 

「甜花さ~ん! 頑張ってくださ~い!」

 

 カホからの声援に手を振る甜花は、所定の位置に着いて振り返り、チユキと対峙する。

 その時、審判は交差するフラッグを掲げて────

 

「それでは不肖この男。今は『トレーナーバトルの審判役』として、このバトルを見届けます!

 かたや、マサラタウンの大崎甜花!

 かたや、ホウエン地方カナズミシティより北東にある土地出身のクワヤマ チユキ!

 いざ両者、正々堂々と見合って────バトル・開始(スタート)!!」

 

 ────合図と共にフラッグを振り下ろした。

 

 同時に甜花はリュックサックからポケモン図鑑を取り出す。

 一方のチユキは余裕をもって甜花に声を掛けた。

 

「ねぇ、甜花ちゃん。実は私ね? 岩タイプのポケモンは、あまり得意ではないの」

 

 チユキの語りを聴きながら、甜花は図鑑のカメラ機能を用い、咄嗟にゴンベの背中を映す。

 すると画面に、ある程度の力量(レベル)を示す数値や測定した種族値、覚えている技や持っている道具など、様々なデータが文字や数値、図解やグラフが、エラー表示や解説付きで映し出された。

 

 

 

全国図鑑:No.446(けつばん) 分類:おおぐいポケモン 名前:ゴンベ

タイプ:ノーマル・■■ 特性:ものひろい・あついしぼう

レベル:5~14~60(乱高下のため計測不能)

種族値:耐久A++ 攻撃A++ 防御A++ 特攻A++ 特防A++ 素早A++(カンスト)

習得技:沢山(通常では覚えない技も習得している)(画面の砂嵐により閲覧不可)

持ち物:進化の石や木の実を沢山(道具保有数が膨大のため閲覧“負荷”)

 

 

 

(……な、なに……これ……?)

 

 図鑑の画面に映し出されるゴンベの情報。その中で『レベル』の数値が、特に激しく乱高下している。さらに習得技の閲覧が不可であり、どのような技を覚えているのかが分からない。

 

 ────自分の知っているポケモン図鑑とは、表記の仕方が違う……。

 頭の中が大量の疑問符で埋め尽くされる甜花だが、それの考察は後回しにして、今はバトルに集中する。

 

 一方、対戦相手の準備が整うのを待っていたチユキは、図鑑をリュックサックにしまった甜花を見るなり、先の言葉を続けた。

 

「じゃあ……どのタイプのポケモンが得意かというとね?

 それは見ての通り────草タイプのポケモンが、私の本領なのよ!」

 

「……!」

 

 自信に満ち溢れた台詞に続いて、チユキは指示を出す。

 

「トロピウス! まずは様子見の────はっぱカッター!」

「ピィイイイ!」

 

「ゴンベ、躱して!」

 

 大きく羽ばたいたトロピウスの翼から、鋭く旋回する木の葉が何十枚と撃ち出される。

 飛来する木の葉の手裏剣。その全ての軌道を見極めたゴンベは、最小限の動きで躱していく。

 

(やっぱり、このゴンベは純粋に強い……! レベルだけならチユキさんのトロピウスより上だ……!)

 

「トロピウス、甘い香り!」

「ピィイイ……ピュァアアアア!」

 

 トロピウスの体から香る果物の匂い。

 その香りを羽ばたきにより拡散させることで、フィールド全体に甘い香りが充満する。

 

「ゴ、ゴン……!」

 

 対するゴンベは大食いポケモンであるため、食べ物の香りにはめっぽう弱い。なんとか誘惑を跳ね除けようと必死になるが、どうしても腹の虫が収まらなくなり、バトルに集中できない苛立ちが募っていく。

 

(回避率を下げてきた! ……それに、たしかチユキさんは、ゴンベがよくジムに挑戦しに来ると言っていた。ということは、たぶんゴンベが進化の石を食べることも知っているはず……!)

 

 つまり、こちらの手の内は読まれている。それを知った上で、どう動くか。

 甜花は頭の中で作戦を組み立てる。

 

「トロピウス、マジカルリーフ!」

「ピュァアアアアア!」

 

 緑の葉っぱに紫の思念が宿る。その数十枚の木の葉ははっぱカッターと同様に打ち出されたが、それは先の攻撃とは異なり、必中の概念を伴って迫り来る。

 

「ゴンベ、炎の石で打ち払え!」

「──ゴンッ!」

 

 懐から炎の石を取り出したゴンベは、それを丸呑みにするなり毛並みを赤く燃え上がらせる。

 相手の攻撃は必中技。それはゴンベも了解しており、回避するのではなく迎撃に出る。

 

「ゴォオオオン! ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン────ゴオオオオンン!!」

 

 毎秒、七発か九発の連続パンチ。

 その拳には炎が灯っており、数十枚のマジカルリーフを打ち払って焼き尽くす。

 

「す、すごいですっ! なんですか、あのポケモンは!?」

「とんでもねぇ奴だな……進化の石を食いやがったぞ!?」

 

 カホとレオが驚く傍ら、チユキは冷静に分析する。

 

(パンチが素早い……! もしかしなくても、炎のパンチと連続パンチの合わせ技……!?)

 

 なんとも芸達者な戦い方を見せてくれるゴンベ。

 その姿にトレーナー魂の火がついたのか、チユキの瞳に本気の闘志が燃え上がる。

 

「やっぱり、そのゴンベは只者ではないわね……ならば、こちらも負けてはいられない! ────トロピウス! リーフストーム!」

「ピュァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 刹那、トロピウスの体から数百枚の木の葉が巻き上がる。

 同時に翼を羽ばたかせることで突風が吹き、旋回する木の葉の嵐はゴンベを襲う。

 

「──っ!」

 

 ────どうすればいい。どんな命令をすれば、この大技から逃れられる?

 一瞬の気の迷い。それは相手が格上であるほど、致命的な出遅れとなる。

 

「ゴン────」

 

 眼前より迫り来るリーフストーム。その大技を見てもなお、ゴンベは臆せず立ち続ける。いや、トロピウスに向かって立ちはだかる。その強気な背中は、背後に立つ少女からの命令を期待して待つ、強者の余裕と言えた。

 

「────っ! ゴンベ、炎の石を吐き出して!?」

 

 そんな『待つ姿勢』を見せられては、トレーナーとしてポケモンからの期待を裏切ることはできない。

 しかし甜花自身、今の命令は咄嗟に口に出たもので、そもそもポケモンの技ですらない。

 そのため、これからゴンベがどう動くかは予想もつかない。

 

 しかして命令を受けたゴンベは、リーフストームが直撃するところでギリギリ────

 

「っ……ンガァアアアアアアア!!」

 

 ────口から火炎放射を噴き出した。

 

『えっ……!?』

 

 驚きのあまり開いた口がふさがらない甜花とチユキ。

 観客席のカホとレオも思わず手すりから乗り上げており、審判の人は目を見開いて呆気に取られていた。

 

 激突する火炎放射とリーフストーム。火炎の息吹と木の葉の旋風。

 風により炎の勢いが強まるかと思いきや、単純な威力の差で強風により火炎が消し飛ばされる。しかし風の中に含まれる木の葉を燃料とすることで炎は勢いを取り戻し、技の応酬は拮抗する。

 

(で、でも、なんで……吐き出せって言ったら、口から炎が……!?)

 

 混乱しながらも、甜花は推測する。

 

 このゴンベは、鉱物を溶かす特殊な胃液を有していることは、既に明らかなこと。

 そして『進化の石を消化している間』は特定の進化の石に対応したタイプに変化し、『進化の石を消化しきった時』は元のノーマルタイプに戻る。

 ならば、その中間たる『進化の石を消化している途中』に『吐き出す』を命じた場合、おそらく吐き出すのは溶けた進化の石ではなく、特定の代謝や熱量に変化した純然たるタイプエネルギーになるのではないか。

 

 つまり炎の石を食べて、消化中に吐き出せと命じた場合は、炎エネルギーが口から放出される。

 水の石を食べた場合は、口から水エネルギーが。雷の石ならば、雷のエネルギーが。

 

(だ、だとしても……たしかゴンベって『吐き出す』の技を覚えないはず……?)

 

 それは、今までのゴンベとのバトルで説明がつく。

 このゴンベは特殊な胃液を持つばかりか、『目にした技を真似て覚える』才能を持っている。

 つまり『吐き出す』という本来は覚えない技も、どこかでほかのポケモンとバトルした際に盗み覚えたのだろう。

 

(……すごい……)

 

 しかし、そんな天才ポケモンでも、今までジムリーダーの代理に負け続けているという。

 やはりポケモンの才能を活かせるのは、ポケモンを育て、戦わせるトレーナーの腕次第というわけか。

 

 刹那、互いに技のエネルギーを出し切ったゴンベとトロピウス。

 フィールドの中央で激突する炎と風は爆発し、巻き上がる砂塵はトロピウスの翼で払われる。

 

「……驚いたわ、甜花ちゃん。今の技、私も初めて見たわ。やっぱりポケモンバトルはトレーナー同士でやるものね? ……あなたも、そう思うでしょう?」

 

 ゴンベに向かって微笑むチユキ。

 対するゴンベは、どこか様子がおかしかった。

 

「……ゴンベ?」

「────……、」

 

 甜花の視点からは、ゴンベの背中しか見えない。

 しかしチユキの視点からは、ゴンベが白目を剥いて気絶していることが分かる。

 

「……なるほど。どうやら普通じゃない技の使用には、ある程度の反動があるようね……」

 

 ぼそりと呟いたチユキ。

 次の瞬間、ゴンベは意識を取り戻すが、少しだけ動揺を見せる。

 

「ご、ゴン……!?」

 

 ────互いに無傷。口の中がやけに熱いが、厚い脂肪のおかげで大丈夫。

 自分の体と相手の状態を確認するゴンベは、それでも判然としない意識をハッキリ保とうと頭を振る。どうやらゴンベは、自分が一瞬だけ気絶していたことに気が付いていない様子だった。

 

「……よし、それじゃあ、これならどう! トロピウス、はっぱカッター!」

「ピュウウ!」

 

 バトルの最初で様子見のために使った数十枚のはっぱカッターとは異なり、今度は数百枚の木の葉が旋回して襲いかかる。

 

「ゴンベ、炎の石!」

「ゴン──!」

 

 炎の石を呑み込むゴンベ。しかし先程とは木の葉の量もスピードも段違いのはっぱカッターは、ゴンベが反撃するより早く、その体を切り刻もうと迫り来る。

 

(──っ! 次の指示が間に合わない!)

 

 その時、頭上に手を伸ばしたチユキは渾身の指示を繰り出した。

 

「今よ、トロピウス! ────グラスミキサー!」

「えっ……!」

 

 一直線にゴンベへと迫っていたはっぱカッターが急激に軌道を変える。やがて数百枚の木の葉は三つのつむじ風に分かれて、ゆらゆらとフィールドの砂を巻き込みながらゴンベに近付いていく。それだけで甜花の頭の中は混乱した。はっぱカッターの対策を考えていたら、突然グラスミキサーの対策を考えなければならなくなった。

 

「……ふふっ。さっきのお返しよ、甜花ちゃん。何事も命令した技がその通りに出るとは限らない……。でもトロピウスには、あらかじめそういう作戦を伝えていなかったから、最終的に口で命令することになったけどね?」

 

 てへっ。とチユキさんは微笑む。彼女の言う仕返しとは、先のバトルにおいてロトムが繰り出した『影分身からの放電に見せかけた身代わり』について言っているのだろう。

 

「で、でも……このくらいの技なら────ゴンベ! 炎のパンチで消し飛ばして!」

「ゴンッ!」

 

 茶色いつむじ風に向かって飛び込んだゴンベは、その旋風に炎のパンチを喰らわせる。

 

「ゴン……!?」

 

 しかし、つむじ風はびくともせず、危うく前進するつむじ風の中に巻き込まれそうになったゴンベはバックステップで後退する。その間にも、ほか二つのつむじ風が、ゴンベの逃げ道をなくすようにゆっくりと近付いてきていた。

 

(ど、どういうこと……? グラスミキサーは草タイプなのに……炎技が効かない……?)

 

 動揺する甜花。三つのつむじ風により、ジリジリとゴンベは後退せざるを得ない。

 そこでチユキがヒントを呟く。

 

「確かにグラスミキサーは草タイプの技。でも今のグラスミキサーは砂を巻き上げているのよ?」

「────っ!」

 

 今のヒントから、甜花は瞬時に解答を導き出す。

 

(そうか……! 木の葉を舞わせるつむじ風……そこに砂が混じることにより、炎技の威力を削減している……!)

 

 それだけではない。特殊技のグラスミキサーは、砂という物理的要素を巻き込むことで、物理技にもある程度の耐性を持たせている。さらにトロピウス自身の強風を起こすパワーも相まり、ただ火力に物を言わせた攻撃では、砂のグラスミキサーは破れない。

 

「……ご、ゴンベ……!」

 

 砂のグラスミキサーを破る方法。それを模索する時間すら与えてくれず、ゴンベを取り囲む三つのつむじ風は合体し、ひとつの大きなつむじ風となりゴンベを襲う。

 

「ご、ゴン────!!」

 

 強風により巻き上げられる数百枚の木の葉と砂のつぶて。それはリーフストームと同程度の物理技として、大つむじ風の中心に立つゴンベの体力を徐々に削っていく。

 

「リーフストームで特攻が下がっちゃったから、こうして無理やり特殊技を物理技にするしかないのよね」

 

 チユキにとって、ここまでは全て計算通り。

 彼女の手の平の上で踊らされる甜花は、しかし諦めまいと戦局を見極める。

 

「────ゴンベ! たくわえる!」

 

 今のゴンベは炎の石を呑んだことにより炎タイプに変化している。そのため草タイプの技は半減しており、それほどダメージは負っていないはず。しかし現在進行形で砂嵐と同程度のダメージを受けていることから、長いこと大つむじ風の中に囚われていれば、体力を無駄に消耗してしまう。

 

(それでも、今は耐える時────!)

 

 何か策があるのか。甜花の瞳は、これより二手三手先の戦局を見据えている。

 

「……強敵ね」

 

 甜花の瞳を見たチユキは、ただ威勢がいいだけではないと見切り、警戒して布石を残す。

 

「トロピウス、日本晴れ!」

「ピィイイ!」

 

 トロピウスの額の上に太陽を模した光球が作られる。

 その光球が天井近くまで昇っていき、フィールド全体を明るく照らし出した。

 

(──っ! あれはきっと、ソーラービームの前準備……!)

 

 草タイプの日本晴れといえばソーラービーム。

 対戦の環境次第ではあるが、ある程度の常識にいち早く勘づいた甜花は指示を出す。

 

「ゴンベ! もう一度たくわえる!」

「トロピウス、成長!」

 

 陽射しが強い状態での『成長』は、攻撃と特攻が倍増しで向上する。

 そうして互いに大技の準備を整えていく中────先に動いたのは、甜花だった。

 

「ゴンベ! ────呑み込む!」

「──っ。『たくわえる』からの『呑み込む』は予想できていた。けれど────!」

 

 炎の石を呑み込んだゴンベが、それをたくわえて、たくわえて、呑み込んだとなれば……はたしてゴンベはどうなるのか。それは誰にも予想がつかない。

 

 ────刹那、茶色い大つむじ風の中心が真っ赤に燃え上がる。

 

『……っ!?』

 

 次の瞬間、赤熱化するゴンベの全身から炎が燃え盛り、大つむじ風は火災旋風と化した。

 

「っ……! ゴンベ! そのままグラスミキサーを振り払え!」

 

 その甜花の指示通り、

 

「ゴォオオオオオオン────!」

 

 赤く燃え盛る右腕の振り払いのみで、巨大な火災旋風は薙ぎ払われた。

 

 黒焦げの葉がひらひらと舞い、熱せられた砂粒がポツポツと降る。

 その中で仁王立つゴンベは、眼前のトロピウスを睨み、深く腰を屈めた。

 

「トロピウス! ソーラービーム!」

「ゴンベ! ソーラービームを打ち破れ!」

 

 トロピウスの口から強力な草エネルギーが放出される。

 その大技を眼前に見据えるゴンベは、爆熱の肉体を疾駆させた。

 

 刹那、ゴンベが踏み出し、駆け抜けたところ────音の衝撃波が空気を蹂躙する。

 

「っ! なんてスピード!!」

「────っ!」

 

 ゴンベは肉体を燃え上がらせて爆走する。おそらく炎の石には、筋肉の運動能力を活性化させる効果があるのだろう。もはや鈍重なゴンベとは思えないスピードで、爆熱の肉体とソーラービームが激突した。

 

「ピュウイイイイイイイイイイイイイ────!」

「ゴォオオオオオオオオオオオオオン────!」

 

 草タイプの中でも大技のソーラービームを、赤く熱する額の頭突きのみで押し返すゴンベ。

 

「ゴンベ! 両手でも押し返して!」

 

 指示を受けたゴンベは頭突きだけでなく、両手を使ってソーラービームを押し返していく。

 

「うそ……ソーラービームが、あんなふうに掴まれるだなんて……」

 

 さながら力士の取っ組み合いの如く、ゴンベはソーラービームを下から持ち上げる。

 しかし、一直線に放出されるエネルギーを斜め上に逸らす、などという芸当は不可能。あくまでソーラービームの指向性は一直線にあるため、斜め上に軌道を逸らしたところですぐに直撃を喰らってしまう。

 

 ならば、あとは持ちこたえるのみ。

 

「ゴンベ! そのまま耐えて──!」

「──っ! トロピウス、一気に決めなさい!」

 

 飛び交う号令。

 

「ゴォオオオオオオ────!!」

「ピィイイイイイイ────!!」

 

 ぶつかり合う気迫。

 しかして先にエネルギーが切れたのは────トロピウスだった。

 

 ソーラービームの発動が終わり、トロピウスの口からエネルギーの放出が途切れる。

 一方、エネルギーを受けきったゴンベは、最後に大きな爆発を身に浴びた。

 

『────っ!』

 

 爆風が屋内を蹂躙する。

 フィールドを覆う爆煙と砂塵。その中でゴンベはどうなっているのか、皆が見守る中────

 

「──っ! ゴンベ! ブレイズキック!!」

 

 ────甜花だけは、黒い煙で覆われるフィールドの中で、赤く揺らめく人影を見逃さなかった。

 

「ゴンッ!」

 

 刹那、黒煙を振り払い、赤く熱する肉体にて、特に右足を燃え上がらせるゴンベが飛び上がる。

 

「トロピウス、空を飛ぶ!」

「ピュウ!」

 

 一方のチユキは油断も慢心もしていなかった。黒い煙の中からゴンベが飛び出てきた時は、そのタフネスに驚いたものの、今まで彼女は『このゴンベ』を見誤ったことはない。即座に攻勢に転じると見抜いて冷静に対処した。

 

「躱された──!」

「ゴンッ!?」

 

 葉緑素の特性により勢いよく翼を羽ばたかせたトロピウスは、陽射しの強い状態の中、圧倒的なスピードを見せつけて天井近くまで飛び上がり、地上を見下ろす。

 そんなトロピウスを見上げる甜花とゴンベは────

 

「ゴンベ! スカイアッパー!」

「ゴンッ────!」

 

 ────かつて、ロトムを相手に空ぶった技名を同時に思い出した。

 指示を出す甜花。

 それとまったく同時に、ゴンベは天高く飛び上がる。

 

「その技は! いけないトロピウス! ソーラービーム!!」

「ピュアアアアアアア────!」

 

 燃え盛る右腕を突き出した跳躍。

 炎の拳を迎え撃つエネルギー砲。

 中空にて再度激突した炎と草の猛攻は、今までにない互角の競り合いを見せていく。

 

『……っ!』

 

 固唾を呑んで見守る一同。

 

『────ッ!!』

 

 力の限り、己の最大をぶつけ合う二匹のポケモン。

 

 やがて、その激突の趨勢は────またも相殺に終わった。

 

 中空にて大爆発が巻き起こる。ソーラービームを打ち消した炎のゴンベは、跳躍の勢いを殺されてしまい、空中にて無防備となる。だが、それは致命的な隙にはならない。

 

「ゴンベ! ────吐き出す!」

「ンガァアアアアアアア────!!」

 

 刹那、口から火炎放射を噴き出したゴンベ。

 

「トロピウス────エアスラッシュ!」

「ピュイイン!」

 

 そこでチユキは、ゴンベにとって最後の炎技を前にしながら、それを相殺できるソーラービームを撃たなかった。

 

「陽射しが強い状態では炎技の威力も上がる! だから草技での相殺は狙わない! これは────賭けよ!」

 

 トロピウスの翼から空気を切り裂く刃が放たれる。

 それはゴンベの両側面から囲い込むように、厚い脂肪をも切り裂く鋭さで命中した。

 

「ピュァアアア────!?」

 

 一方、火炎放射に巻かれたトロピウスは全身を黒焦げにし、弱りながら地上に墜落。

 ゴンベといえば、口からエネルギーを撃ちだす時は一瞬だけ気絶してしまうため、そのまま地上に落下する。

 

 ────……ドォン……と地響きが鳴る。

 頭からフィールドに墜落した二匹のポケモン。

 天井の光球は消え、砂埃が舞う中、トレーナーも観戦者も審判も事の成り行きを見定める。

 

 大量に汗をかき、ぜえぜえと息を吐いて、体を黒く焦がしながらも、なんとか起き上がるトロピウス。

 一方のゴンベは仰向けの状態で大の字となり、白目を剥いたまま微動だにしない。

 

「……ご、ゴンベ……!?」

 

 その状態が数秒は続き、もはや起き上がってくる気配がないと見るや────

 

「……ゴンベ、戦闘不能! よって勝者は、クワヤマ チユキ!!」

 

 ────審判はフラッグを掲げて、バトル終了を合図した。

 

「う……うわぁああああああん! 負けちゃいましたぁあああ!!」

「うおびっくりした! おいおい嬢ちゃん。何もそんなに悔しがらなくても……」

 

 観客席からカホの悲鳴が響き渡る。まるで我が事のように悔しがるカホは涙目で手すりにもたれかかった。

 

「……トロピウス、よくやったわね。ありがとう────」

「ピュイ……!」

 

 トロピウスをボールに戻すチユキ。

 一方の甜花は、倒れたままのゴンベを見つめて、心配そうに胸を押さえていた。

 

「────急所」

 

 ふと、ゴンベの下に歩き始めたチユキは、今のバトルの勝因と敗因を説明する。

 

「エアスラッシュは急所に当たりやすい技。そして火炎放射よりは出が早い技で、早く相手に命中する技でもある。さらにゴンベは『吐き出す』技を使うとき、一瞬だけ気絶してしまう。そこが、このどちらが勝つか分からない勝負の分かれ目だった」

 

 ゴンベのそばに座り込んだチユキは、手持ちの回復道具でゴンベを回復させる。

 

「ボクシングと同じよ。想定している攻撃と、想定外からの攻撃は、それが同じ威力のパンチだったとしても、後者の方が遥かにダメージを大きく感じられる。さらに気絶しているゴンベは受身が取れない。この子は天才だから、見た技は全て見切る。自分の急所なんて絶対にさらけ出さない。

 ────だから、気絶している時を狙った。賭けとはそういうことよ。最後にエアスラッシュが急所に当たらなければ、ゴンベは普通に起き上がってきたでしょう。さらに太陽の石を呑み込んで回復までしたかもしれない……」

 

 ゴンベの回復が完了したチユキは立ち上がり、まっすぐと甜花の瞳を見据える。

 

「それでも────よく健闘したわ。こんなに胸が熱くなるバトルは久しぶり。どうもありがとう、大崎甜花さん。きっと貴女は、すぐに私よりも強くなっちゃうわ」

 

「……っ!」

 

 ニコッと微笑むチユキ。

 その笑顔が、甜花の知る桑山千雪にそっくりで────

 

「……っ。こ、こちら、こそ……バトル、ありがとう、ございました……」

 

 ────負けた悔しさ。懐かしい温もりの笑顔。

 様々な感情が綯い交ぜとなる中で、涙をこらえようと、それでもこらえきれない甜花は、涙声でお礼を言う。

 

「ううん。お礼を言うのはこちらの方。……でも、ありがとね?」

 

 ゆっくりと甜花の前にやってきたチユキは、彼女の手を取り、あるものを渡す。

 

「はい、これがグレーバッジ。ニビジム突破、おめでとう! 甜花ちゃん!」

「……!」

 

 目元を拭う甜花はバッジを受け取り、コクコクと何度も頷く。

 その様子を見守るカホもまた、甜花とチユキの下に駆け寄っていく。

 

「……っ! おめでとうございますっ! 甜花さん! そして最後のバトルは、とても惜しかったです! でも、あたしすっごく感動しました! あんなに熱くなれるポケモンバトルを生で見たのは、とってもとっても久しぶりです!」

「カホちゃん……応援……ありがとね……?」

「はい! 当然のことですっ!」

 

 褒められた甜花は満更でもなく「にへへ……」と微笑む。

 そこでチユキが別れの言葉を告げた。

 

「ねぇ、甜花ちゃん」

「? チユキさん……?」

「急にこんなことを言うとびっくりするだろうけど……なぜだか私、貴女のことを他人事だと思えないの。初めて会った気がしないというか……いえ、変なこと言っちゃったわね。とにかくニビジム突破おめでとう! 次はハナダジムかしら? 頑張ってね!」

「……っ。うん……!」

 

 下手な笑顔で力強く頷いた甜花は、チユキと離れてポケモンセンターに向かう。

 そうして忘れ去られたゴンベは、目を覚ますなり自分の敗北を悟って、また修行を積もうとおつきみ山に赴く。気付いたらその場からいなくなっていた甜花のことは特に気にしていないのか、彼は野生ポケモンとして孤高を気取り、特に気にせず山に向かったのであった。

 

 ……特に、気にせず。

 

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