大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第12話 コミヤカホの夢!

 ポケモンセンターの食堂にて。ロトムとラルトスを回復させた甜花は、カホたちとニビ博物館を観光し、現在はお腹も空いたことだしとポケモンセンターで昼食を取っていた。

 

 様々なトレーナーとポケモンが食事を楽しむ大食堂。

 その中に混ざって今日はシチューを食べる甜花は、やはりと言った顔で感想を漏らす。

 

「ポケモンセンターの食堂で出される定食は、小学校の給食並みに美味い……」

「え? 急にどうしたんですか、甜花さん?」

「う、ううん……なんでも、ない……」

 

 美味しさのあまり思わず呟いてしまった甜花は、これは自分だけの秘密というように押し黙る。

 そうして食事を楽しむ甜花は、目の前で美味しそうにシチューを頬張るカホを見て、ある疑問を抱いた。

 

「ねぇ、カホちゃん……ひとつ、質問してもいいかな……?」

「? はい! なんでも聞いていいですよっ!」

 

 スプーンを置いたカホは真剣に聞く姿勢を作る。

 しかし甜花はそのまま食べ続ける。

 

「その……カホちゃんは、ニビジムには挑戦したの……?」

「え? いえ! あたし、ジムバッジは集めていないんです!」

「──……え? そうなの?」

 

 カホはジムバッジを集めていない。つまりカホは、ポケモンリーグを目指しているトレーナーではない。その事実に気付いた甜花は、ならばカホは“どんなトレーナー”なのかと聞いてみる。

 

「えと……それって、どういうこと……? その、カホちゃんは……じゃあ、何を目指しているの……?」

「……! はい! よくぞ聞いてくれました! あたしはポケモンリーグを目指していないため、ジムバッジは集めていません。でも、あたしには夢があります!」

「夢……?」

「はい! それは────ワールドポケモンマスターズ、通称WPMでの優勝ですっ!」

 

 ……ワールドポケモンマスターズ。通称WPM……。

 その呼称について、聞いた事があるような、ないような甜花は、頭の中から記憶を掘り起こす。

 

(……あ、そういえば……たしかスマホで、新しいポケモンのゲームアプリが配信されるって……)

 

 現実世界における夏のある日。スマホでリリースされるポケモンの新作ゲーム。そのことを思い出した甜花は、この世界は新旧含め、あらゆる『ポケモン』の概念が集った世界なのだと了解する。つまり、この世界は日々アップデートされているのだ。

 

「……それじゃあ、カホちゃんは……そのWPMに優勝するために、何をしているの……?」

「えっと……それは……」

 

 急に甜花の瞳から視線を逸らしたカホは、もじもじとし始める。

 

「実は……あたしには、ポケモンバトルがすごい強いおじいちゃんがいて……そのおじいちゃんは、第一回セキエイリーグで優勝した人なんです」

 

(……あ……それって、もしかして────)

 

 十中八九、カホの言う“おじいちゃん”とは、かのオーキド博士のことだろう。

 

「それで……あたしは、そんなおじいちゃんが故郷のマサラタウンからセキエイ高原に着くまでのコースを辿ってみたくて……ずっと、この一年間“旅だけをしていた”んです……」

 

 カホは語る。コミヤカホが旅を始めたのは、11歳の誕生日を迎えた、二日後の朝だと。

 

          *

 

 タマムシシティ出身のカホは、誕生日の翌日に会いに来てくれたオーキド博士と一緒に、初めて街の外に出た。7番道路でポケモンの捕まえ方を教わったカホは、そこで初めて自分のポケモンをゲットした。そしてオーキド博士から、捕獲したガーディを誕生日プレゼントとして貰ったカホは、そのガーディに『マメマル』というニックネームを付けて、オーキド博士に兼ねてからの夢を語り、懇願した。

 

「お願いします! どうかあたしを、おじいちゃんの故郷に連れて行ってください!」

 

 その日の夕方。両親とよく相談した結果、旅に出る決意を固めたカホは、オーキド博士の自動車に乗り、マサラタウンに向かった。その日の夜はオーキド研究所で一泊したあと、いざカホは“マサラタウンから踏み出すカントー地方一周の旅”を始めた。

 

 それから約一年の時が過ぎ、カントー地方一周を成し遂げたカホは力を付け、目標だったWPMに挑もうとしている最中だった。

 

          *

 

「そんな訳で……今はWPMの開催が決まるのを待っている状態なんです」

「そうだったんだ……」

 

「……あの、甜花さん……」

「?」

 

 ふと、カホは真剣な面持ちで甜花を見つめる。

 対する甜花は首をかしげて、カホの言葉を待った。

 

「その……もし、よければなんですけど……あ、あたしと一緒に……WPMに出場してくれませんかぁ!?」

「──……えぇ!?」

 

 突然の勧誘に、甜花は目を見張って驚く。

 対するカホは食卓の上に身を乗り出して、まっすぐと甜花を見つめて頭を下げた。

 

「お願いします! あたし、甜花さんと一緒にWPMを勝ち抜いてみたいんですっ!」

「で、でも……なんで、甜花と……?」

 

 なぜ自分なんかを誘うのか。その理由がまったく分からない甜花は問い返す。

 それにカホは、俯きながら答えた。

 

「えっと……甜花さんはWPMのルールは知っていますか? WPMはトレーナー三人がチームを組んでバトルする、まったく新しいポケモンバトルなんです!

 ……だから、あたしは仲間探しも兼ねて、カントー地方を旅していたんですが……なかなか、あたしと一緒にWPMに出場しよう! って言ってくれる友達や仲間があまりいなくて……みんな学校に通っているし、WPMは海外でするので、そんな遠くまで長期では行けないって……」

 

 その話を聞いた甜花は、なるほどと納得する。

 おそらくWPMは、この世界にとって未だ情報の少ない不透明な大会であるため、様子見を図るトレーナーが多いのだ。まさか大会が開催される前から優勝を目指している向こう見ずなトレーナーなんて、きっとカホくらいのものだ。なかなか同志が見つからないのも当然だろう。

 

「それで、その……甜花さん! お返事は……っ!?」

「……うん。いいよ……」

 

 軽く頷いた甜花は、軽く答える。

 対するカホは、重く相手の答えを受け止めようと準備していたため、予想外の軽い了承の返事に面食らっていた。

 

「え? ……えっ? ──……ほ、ホントですかぁ!? 甜花さん! 一緒にWPMに出場してくれるんですかぁ!!?」

 

「うん……甜花も、ワールドポケモンマスターズのアプリが配信されたら、とりあえず遊んでみるつもりだったけど……この世界に飛ばされちゃったから……当分は帰れないと思うと……いっそ、こっちの世界でやっておきたいなって……思っただけだから……」

 

「…………???」

 

 甜花にしか分からない事情を明かす。

 とりあえず二人は、こうしてWPMに出場する事になった。

 

「……っ! やったぁー! ありがとうございます、甜花さん! あたし、すごく嬉しいですっ!」

「う、うん……甜花も、カホちゃんと一緒なら……たぶん、新しいところでも、怖くない……」

 

 しかしWPMは三人一組の大会。つまり甜花とカホは、あともう一人の仲間を探す必要がある。

 

「それじゃあレオさんは!?」

「!? お、オレか!? いやぁ……すまんがオレはトレーナーじゃないからな……」

「あ、そうだったんですか……すみません! 先走っちゃって!」

「いやいや。それより良かったな。仲間が増えてよ」

「……! はいっ!」

 

 甜花という仲間ができて嬉しさのあまり元気いっぱいになったカホは、さらにWPMについて現在判明している事を語る。

 

 それはWPMに出場する際、トレーナーは1匹のポケモンしか持ち込めないこと。

 そもそもWPMにも出場権はあり、出場権を獲得するためには、WPMが開催される現地で新たに五つのジムバッジを手に入れる必要があること。そしてカホは既にジムバッジを五つ持っているため、だからもうバッジを集める旅はしていないということ。

 

 そのような事を甜花に語り明かす。そして気付けば夕方になり、あっという間に夜が来た。カホは話し疲れたのかうつらうつらとする。そんなカホを連れて宿泊施設の寝室に戻ってきた甜花は、彼女をベッドに寝かせて、自分も就寝に就いた。

 

          *

 

 深夜。草木も眠る丑三つ時。

 突如として、部屋の中央に置かれた小型テレビが音を立てて起動した。

 砂嵐が流れてザーザーとうるさい。しかしカホは熟睡しており、目覚める気配はない。

 

「……ん……?」

 

 一方、その音に気付いて覚醒した甜花は、テレビの前にロトムの姿を見つける。

 

「むーちゃん……? どうしたの……まだ夜中だよ……?」

「ロト……ロトロト……」

 

 まぶたをこする甜花はベッドから足を下ろす。

 砂嵐が映るテレビ画面に夢中になっているロトム。その様子を見て甜花は首をひねる。

 

「──……むーちゃん……?」

 

 刹那、テレビ画面の砂嵐は突如途絶え、深夜に放送されるニュース番組が流れた。

 ニュースキャスターたる女性のアナウンサーが、緊迫した面持ちで視聴者に情報を伝える。

 

『──速報です。一時間前、無人発電所で大規模な落雷が発生し、双子島では猛吹雪が、ともしび山では大噴火が起こりました。そしてこの三ヶ所で、胸のあたりに『R』のトレードマークが描かれた、黒い身なりの集団が目撃されたという情報が入ってきています。おそらくこの集団は、カントー地方を中心に活動する悪の組織ロケット団である可能性が非常に高く、近隣の住人は深夜の外出は控え、トレーナーは警戒態勢を怠らないよう注意してください』

 

「……え? ──なに、これ……」

 

 徐々に女アナウンサーの映像が、画面左上に矮小化していき、やがてワイプになる。

 そして切り替わった画面には、新たな映像が映し出された。

 

 落雷による山火事が発生し、大きな爆発が起きたものと予想できる破壊された無人発電所。

 二つの凍った島が、何か強力な万力によって歪曲し、三つの島に曲がってしまった双子島。

 火山噴火が起きたのか、ナナシマ全体を覆う火山灰と、止めどなくマグマが流れる灯火山。

 

 その時、新たに緊急速報が入ったのか、女アナウンサーが資料を読み上げる。

 

『──また緊急速報です。無人発電所の爆発、双子島の歪曲化現象、灯火山の火山噴火……これら三つの事件と同時に、ナナシマにおける誕生の島から不思議な発光現象が確認されたという報告がありました。さらに未確認のエスパーポケモンが、何らかの機械の残骸を撒き散らしながら、北空の彼方に飛び去ったという目撃証言もある模様です────』

 

「…………なにが、起きているの……?」

 

 衝撃的な映像を見つめる甜花は、心ここにあらずといった様子で、気付けば自分の体を抱き込むように震えていた。

 それは怯えにほかならない。

 

 この世界に住む人たちは、この事件が何を意味しているのか理解できないだろう。

 しかし、この世界をゲームとしてプレイした事がある甜花は、とある漫画のことを思い出して、この事件が何を意味しているのか、一瞬で理解してしまった。

 

 ────ロケット団の三幹部により、ファイヤー・フリーザー・サンダーが、おそらく捕獲された。

 ────ロケット団の研究者が生み出した人造ポケモンたるアーマード・ミュウツーが、誕生の島に漂着した宇宙よりの使者デオキシスと戦闘し、おそらくその戦いでミュウツーの束縛が解かれて逃亡した。

 

「……………………っ!」

 

 ……何か、この世界で、とてつもなく恐ろしい事が始まろうとしている。

 震える甜花はテレビを切って、こんな悪夢は見たくないと布団の中に潜り込んだ。

 

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