大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第13話 おつきみ山への挑戦!

 早朝。食堂で朝食を済ませた甜花たちは、さっそく次の街へ出発するため外に出た。すると見知った顔を目撃する。それはチユキだった。

 

「あ、おはようございます! チユキさん!」

「お……おはよう、ございます……!」

「おはようさん」

「はい。おはようございます。カホちゃん、甜花ちゃん、レオさん」

 

 挨拶を済ませたチユキは、顔を出した理由を語る。

 

「二人の旅を見送ろうと思って。次はどの街に向かうの? やっぱりハナダシティ?」

「えーっと……それは甜花さんが決めることです!」

「え……て、甜花が、決めるの……?」

「はい! ぜひそうしてほしいです! あたしはもうカントー地方は一周しましたし、あとはWPMが開催するのを待つだけなので、黙って甜花さんに付いて行きます! だから、バッジを集めている甜花さんが、自由に行き先を決めてください!」

 

 そうは言われても、やはりゲームの流れに則れば、次はハナダシティが順当かと甜花は考える。しかしハナダシティに行くためには、おつきみ山の内部を通る必要がある。もしその内部がゲーム通りなら、おつきみ山の洞窟は暗いだろう。きっと明かりがなくては通り抜ける事ができない。

 

「……それじゃあ……ハナダシティに行くまでの電車って……ある、かな……?」

『え……電車……?』

 

 カホとチユキが声を合わせて驚く。まさかこの世界に電車がないという訳ではないだろう。二人の反応からして『電車』という存在は知っている模様。ならば何に驚いたのか。

 

 その時、それを説明する男が現れた!

 

「それはいけない! それはトレーナーとして楽な道のりを選ぶ事になり、次なる成長には繋がらない怠惰になってしまうぞ! そこのお嬢さん!」

「ひゃ!? え、えぇ……だれ……?」

 

 突然、甜花たちの背後から大声を出して登場して来た男。

 その姿を一目見た甜花は────あっと驚き、目を見張る。

 

「驚かせてしまってすまない。俺はニビシティのジムリーダー、タケシだ!」

「うわぁ! た、タケシさんです……! あ、あの! ……おはようございますっ!」

 

 ジムリーダーのタケシをお目にかかれて嬉しいのか、カホは挨拶を忘れない。

 対するタケシは、カホの傍らで静かに背筋をピンと立てて寄り添っているガーディを見て、喉を唸らせた。

 

「あぁ、おはよう! 元気がいい女の子だ。それに……うん。君のガーディ、毛並みがよく整っている。毎日根気よく手入れをしている証拠だ。まだ若いのにしっかりしているね」

「……っ! は、はいっ! ありがとうございますっ!」

 

 しかし甜花は目を凝らす。彼はいったい『どのタケシ』なのかと。

 見た目と声はアニメ版のタケシだが、性格はゲーム版に近い気がする。しかしポケモンの体調を観察して、トレーナーを褒めるところは、まるで────ポケモンブリーダーみたいだった。

 

「おかえりなさい、タケシさん。ポケモンブリーダーになるための実習訓練は終わったんですか?」

「はぁい! チユキさぁん! 無事に実習訓練は終わらせてきましたぁ! ──あぁ、このタケシ。毎日貴女の事を思い、片時も忘れた事はありません……俺の兄弟たちの面倒を見てもらって、さらに代理でジムまで任せてもらって……本っ当に感謝しています……! ……そしてこれは、まさに帰りを待つ女性と仕事に行く男性……! ですからその、つまり、もしよろしければ……このまま僕とぉ────!」

 

 刹那、タケシのポケットからグレッグルが飛び出してくる。その片手を紫色に光らせて毒づきの態勢を整える。しかしグレッグルは、タケシのアプローチ相手がチユキだと気付くと────

 

「このまま僕と────結婚してくれませんか!?」

「ごめんなさい、タケシさん♪」

 

 刹那、タケシの世界が崩壊する。ショックのあまり石化したタケシは、そのままボロボロに崩れ去っていく。

 

「……ケッ」

 

 グレッグルは知っていた。タケシがポケモンブリーダーとしての訓練を終えてジムに帰るたび、チユキにアプローチどころか最近は求婚を申し込むようになったものの、今チユキにはそういった恋愛や結婚をする気は一切ない。ゆえに毒づきをするまでもなく、タケシが失恋して崩れ落ちる事を知っていた。

 

 そのためグレッグルは、自らタケシのボールに戻っていく。

 一方の甜花とカホは、突然の求婚と怒涛の失恋を間近で見て、その口をあんぐりと開けていた。

 

「……それで、タケシさん? 甜花ちゃんに何か言う事があったんじゃないですか?」

「──ハッ! そうでした! ……コホン!」

 

 襟を正して咳払いするタケシは、甜花の『電車』発言について物申す。

 

「えーっと、お嬢さん! すまないが、まずは名前を聞いてもいいかな!?」

「あ、はい……! えと……お、大崎、甜花、です……」

 

 その名前を聞いたタケシは、はてと眉をひそめる。

 

「テンカ……? いや、似てはいるが……別人か……?」

「……?」

「……」

 

 ぼそりと呟かれたタケシの一言。

 その発言に甜花は首をかしげ、レオは黙りこくる。

 

「おっとすまない。君と似た名前の女の子と、かつてバッジを懸けてバトルした事があってね」

「────え……?」

「だけど、よく見たら別人だ。まったくのね。……さて、では、なんでポケモントレーナーの旅に電車が良くないのか、説明させてもらおう!」

「え、あ……そ、その……待っ……」

 

 甜花は、タケシが口にした『似た女の子』について訊こうとするが、生来の引っ込み思案もあってタケシの勢いに負けてしまう。

 

「まず、基本的にトレーナーは、徒歩で冒険した方がいいんだ。なぜかというと、実際に自分の足で歩いて様々な自然を体験する事で、色んなポケモンと出会い、貴重な体験が積めるからだ。でも体力に自信がない場合、自転車でも構わない。とにかく街から街への移動は、もちろん多少の危険もあるが、自分のポケモンと協力して移動する事で、トレーナーとポケモンは共に成長できる。……俺の言っていること、分かるかな?」

「う、うん……わかる……」

 

 とりあえず甜花は頷いてみせる。ポケモントレーナーとして経験を積み、成長したいのなら。自ら過酷な環境に身を置き、修行をするというのは、とても理にかなった特訓法だからだ。

 

「その点、電車に乗れば、たった数分で次の街に到着する。急ぎの用があるなら話は別だが、理想としては“この大地の端から端まで冒険する”つもりでないと、ポケモンリーグの高みには届かない。……俺の親友が、そうだったようにな」

「……!」

 

 ふと、タケシの『親友』とやらに、甜花は反応する。

 だが、その反応はカホの方が早かった。

 

「あ、あの! それってもしかして、アローラリーグで優勝したサトシさんのことですかぁ!?」

「あぁそうとも! サトシはすごいんだぞぉ! あいつは頑張って頑張って……新しい地方に行くとバカみたいに馬鹿になる事もあるけど……それでも頑張ってポケモンリーグに優勝したんだ!」

「ふふっ。サトシくんが優勝したと知った時、タケシさん。随分と喜んでいましたからね」

「…………、……」

 

 事此処に至り、大崎甜花は察する。ここまでくれば明白だ。

 彼女がやって来た世界。

 そこは、ゲーム・アニメ・漫画を問わず、様々な『ポケモン』という概念が統合して構成された異世界なのだと。

 

「……おっと、話が逸れたな。久しぶりに帰ってきたから、色々な話に花を咲かせてしまう。申し訳ない……」

「う、ううん……すごく、タメになった……」

 

 頭を掻いて謝るタケシに対し、甜花は首を横に振る。

 

「で、でも甜花……洞窟は、ちょっと怖い、かも……」

「あぁ、なるほど。それなら問題ない」

「……?」

「実は最近おつきみ山の内部でロケット団の姿が確認されていてね。ジュンサーさんによると危険だから、一般トレーナーはおつきみ山の洞窟に立ち入ってはいけない決まりになったんだ。だからこのニビシティからハナダシティに行きたい場合、一般トレーナーはおつきみ山の登山をしなければならない」

「お……おつきみ山を、登山……」

 

 それはそれで大変そうだと、甜花は尻込みしてしまう。

 それを見抜いてか、タケシがおつきみ山の登山の素晴らしさを語る。

 

「そうは言っても、おつきみ山の登山は素晴らしいぞぉ! 春は花畑に花が咲き、夏は緑の青山が美しく、秋は紅葉の山が綺麗で、冬は枯れ木ばかりだが珍しいポケモンがいっぱい出てくる」

「えと……それじゃあ、今の季節は……?」

「今は夏が終わり、秋に入ろうとしている! 登山には打って付けの季節だな!」

 

 夏が終わり秋に入る。ということは、残暑は残るが涼しさが入ってきて、しかし紅葉はまだ拝めない。だが、そもそも甜花は、登山そのものに成功できる自信がない。

 それを見抜いたのか、タケシはバッグからあるものを取り出した。

 

「甜花くん。これは、俺が実習訓練で使ったテントなんだが……ほうれ!」

「えっ! えぇ……!?」

 

 突然タケシは、折り畳まれたテントを甜花に放り投げる。

 しかし折り畳まれているとはいえ、そのテントは結構大きい。咄嗟の事で慌てて受け取ってしまう甜花だが、次には押し倒されてしまう事を覚悟する。が────

 

「あ、あれ……? 軽い……?」

「そうとも! それは軽量テント! 軽い割に頑丈だから、野生ポケモンに襲われても大丈夫だ! 俺にはもう不要のものだから、君が使ってくれても構わないぞ!」

「え……ほ、ホントに……?」

「あぁ! だから野宿の練習として試してみてくれ! まずテントの開き方は────」

 

 その場でタケシによる野宿の訓練が始まり、甜花はテントの開き方を教えられる。

 それは至って簡単であり、テントの下面を地面に置き、テントの上部にあるスイッチをカチッと押すだけで、傘のように丸まって折り畳まれたテントが半自動的に展開していくという代物。逆に折り畳む時は、同じく上部のスイッチを押すだけで、勝手に寝袋含めて折り畳んでくれる優れもの。

 

「どうだ! 便利なものだろう! 軽いし簡単だし。何より頑丈だし。これさえあれば登山の夜に怖いものなし!」

「はい! さらにテントの中には、あったかいねぶくろが二つと、目覚まし時計が用意されているなんて思ってもいませんでした! これで登山の朝も大丈夫ですねっ!」

「甜花ちゃんも、そう思う……?」

「う、うん……。すごいと、思うよ……?」

 

 盛り上がるタケシとカホ。

 あまりピンと来ていないチユキと甜花とレオ。

 

 そうしてタケシから軽量テントを貰った甜花は、しかし────

 

(別に、経験とかいいから……人が少ない時間帯に、電車で行きたい……)

 

 ────とは言えず、仕方なくおつきみ山の登山に挑戦する事と相成った。

 




《手持ち》
 すーちゃん/ラルトス。
 むーちゃん/ロトム。

《旅の仲間》
 レオ/ピカチュウ。
 コミヤカホ。マメマル/ガーディ。

《所持品》
 寝巻き。
 所持金2000円。
 軽量テント。

《大切なもの》
 デビ太郎のぬいぐるみ。
 スマホ型ポケモン図鑑。
 ゴンベが捨てた炎の石。
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