大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第14話 vsシロナ! むーちゃんの底力!!

 ニビシティと3番道路の境目にて。

 

「そ、それじゃあ……ばいばい……! ……またねー! チユキさーん……!」

「いってきまーすっ!」

 

 登山の準備を整えた甜花たちは、見送りに来たチユキとタケシに手を振って街を離れた。

 

 その道中、バイクのエンジンを蒸かすレオが、徒歩の甜花に声をかける。

 

「なぁ甜花」

「……?」

「改めてなんだが……ニビジム、勝利おめでとう」

「? う、うん……」

「それで、ジムバトル中に思ったんだが……お前のバトルの仕方は、やっぱりアイツにそっくりだ」

「────え?」

 

 甜花とダークテンカはバトルの仕方までそっくりなのか。でもそれがどうかしたのかと甜花は聞く。

 

「いや、どうもしねぇ。ただここまで来ると甜花とダークテンカに何か繋がりがあるんじゃないかと思えてくる」

「えっと……?」

「つまり、お前の“ここはゲームの世界”って奴が、なんとなくなんだが信じてきちまったんだな、これが……なんの根拠もねぇのによ……」

 

 レオは自分の心情に戸惑っているのか、やれやれとため息をつく。

 

「ま、そういうわけだ。これも何かの縁。ダークテンカは家事が壊滅的で、周りのポケモンが世話を焼かなきゃ満足に旅もできねぇ女だった。それは甜花も同じだろ? つまりほっとけなくなったんだよ。────まぁそれとは別に、お前についていけば、いつかダークテンカに会えるかもしれねぇ。そう思えてきたんだ。ダークテンカを探して三千里は飽き飽きだ。そろそろ決着をつけたい。というわけで、“改めて”よろしくな」

「────! う、うん……!」

 

 色々と理由をつけてきたが、要するにレオは“改めて”旅に同行する決意を表明しただけであった。ジムバトル勝利の祝福も甜花がほっとけないのも建前だ。きっとレオの中で、何か甜花とダークテンカの繋がりを感じ取ったのだろう。

 

「つーわけで、お前が嫌がっても付いていくぜ」

「……嫌じゃないよ。だって、バイクがあると旅が快適になるし……つまり甜花とレオは、ウィンウィンの関係……!」

「────。くっ、ははははは! そうそう、甜花(テンカ)はそうでなくっちゃな!」

 

 レオは後方を確認して、もう見送る人がいないことを確認する。

 

「よし、娘ども! バイクに乗れ! なーにが徒歩の方が強くなれるだ! アイツは電車に乗りまくって、たった一日でジムバッジ集めきってポケモンリーグで優勝した傑物だぞ! とっとと飛ばして行こうぜ!」

「うん!」

「え!? ゆっくり山の景色を見て回るんじゃないんですかぁ!?」

「そんなのバイクに乗りながらでも見れるだろ! さぁ乗った乗った! 通行禁止の所まで飛ばすぜぇ!」

 

 かくして甜花たちはバイクをかっ飛ばし、大半の登山にかかる時間を短縮していった。

 

           §

 

 それから一時間後。

 おつきみ山の洞窟に入る洞穴には、たしかに『この先おつきみ山の洞窟。現在は通行禁止のため、関係者以外は登山以外で立ち入らないでください』という看板が立て掛けられていた。

 そのため甜花たちは登り坂を選び、いざおつきみ山の登山をバイクで爆走する。

 

 未だ緑の葉が残る、紅葉に染まり始めた山林。

 カホは地図を広げて道順を確かめながら、レオに山道の行く方向を指示する。

 一方の甜花はサイドカーの中でうつらうつらとしていた。

 

「……そういえば、カホちゃん……」

「はいっ! なんですかぁ?」

「その……たとえば、なんだけど……道を歩いている時に……もし、目の前からトレーナーが歩いてきて……それで目が合っちゃったら……どうなるの、かな……?」

 

 ゲームでは、たとえ目を合わせていなくても、トレーナーの前を通り掛かればバトルが始まる。

 それについて質問すると、カホは当然というようにハッキリと答えた。

 

「はい! 別にどうもしません!」

「え……そ、そうなの……? た、例えば目を合わせたら、その人と絶対にポケモンバトルをしなくちゃいけないとか……ないの……?」

「はい! ありません! お互いにポケモンバトルがしたい場合は別ですけど、絶対っていうのはないと思います! ……それが、どうかしたんですか?」

「う、ううん……なんでもない。……ただ、突然ポケモンバトルを申し込まれたら、甜花……ちょっと、ビックリしちゃって……うまく、バトルできないと思ったから……」

 

 これがゲームだったら、並み居る挑戦者をバッタバッタと薙ぎ倒して経験値を手に入れていくが。

 これは現実であるため、並み居る挑戦者とはなるべく戦わず、甜花は先を進みたいと思っていた。

 

 もちろん、それでは手持ちのポケモンは育たない。

 ただこの世界はゲームのシステムに縛られていない現実だからこそ、ポケモンの育て方は色々とあるはず。だからこそ“通りすがりのトレーナーに声を掛けられていきなり勝負する”という、甜花にとって心臓に悪い出来事には、あまり遭遇したくなかった。

 

「う~ん……もしかして甜花さんって、人見知りするほうですか……?」

「う、うん……割と……」

「でも甜花さんは、あたしやチユキさんとすぐに仲良くなれたじゃないですか! それなら大丈夫ですよ!」

「そ、それは……っ! カホちゃんが、果穂ちゃんみたいで……チユキさんが、千雪さんみたいだったからで……!」

 

 わたわたと甜花は、ぼのぼの汗を流す。

 

 その時だった。噂をすればなんとやら。ハナダシティ方面の山道から一人の女性が歩いてきた。黒い服装に身を包む優雅でセレブそうな金髪ロングの美女は、岩場で腰掛ける少女ふたりを見つけるなり、まさか話しかけるつもりなのか近付いてくる。こちらがバイクで爆走しているにも関わらず。

 

(う、うわ……ど、どうしよ……こ、こっちに手を振ってる……! う、俯いて無視するのは失礼だし……で、でも……!)

 

 カチコチに凍る甜花は、まさかポケモンバトルの申し込みではないかと懸念する。

 一方カホは、遠巻きの美女を見つめるなり、首をかしげて喉を唸らせていた。

 

「あれ……? あの人、どこかで見た事があるような……」

 

 やがて美女は甜花たちの前に仁王立ち、バイクは急停止した。

 

「どわっ! おい危ないなアンタ!?」

「失礼! そしておはよう! 貴女たちはポケモントレーナーかな? こんな朝早くから山を登るなんて、とっても元気な子たちね!」

「はいっ! ……そういうお姉さんは、どういう人なんですか?」

「私? 私は……そうね。カントー地方じゃ、あまり知名度ないのかな……えっと、シロナっていうポケモントレーナーよ。よろしくね!」

 

(────えっ?)

 

 ふと、その名を耳にした甜花は、思わず顔を上げる。

 するとシロナと見つめ合う形となり、次第に甜花の目は丸くなった。

 

「あら。もしかしてその反応……私のこと、知ってくれてる?」

「……っ!」

 

 こくこく、と甜花は頷きを繰り返す。

 するとシロナは突然、どこか挑発的な態度で、甜花の体を上から下まで舐め回すように見つめた。

 

「それなら貴女……もしかしなくても、ポケモンリーグを目指しているトレーナーでしょう?」

「……!」

「はいっ! 甜花さんは今ジムバッジを集めていて、昨日ニビシティのジムに挑戦して勝って、一個目のバッジを手に入れたところなんです!」

「へぇそう! なら駆け出しかぁ……ちょっと残念ね。勝負を挑もうと思ったけど、力の差がありすぎると、ね……?」

 

 ────シロナ。シンオウ地方におけるポケモンリーグのチャンピオン。

 そんな人物が、なぜカントー地方の辺境に来ているのか、甜花は不思議でならない。

 

「あぁそう。実は声を掛けたのは、ほかに理由があって……えっと、私ってばニビシティに行きたいのよね? でも途中で地図を見ても道が分からなくなっちゃって……二週間くらい遭難しちゃってたの! アハハ!」

「えっ……えぇ!? そ、それって、大丈夫だったんですかぁ!?」

 

 言っている事は壮大だが、まるでなんてことないようにシロナは自身の失敗を笑う。

 

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。サバイバル生活はポケモンと一緒に居れば大体なんとかなるし。……それで、よければ道を教えてもらっても構わないかしら?」

「あ、はい! えっと……ニビシティに下りるためには、この下り坂をまっすぐと進んでいけば、大丈夫です!」

「あらホント? なんだかんだで、すぐ近くに来ていたのね。夜の星を読み違えなくて良かったわ。────それじゃ! 貴女たちも旅を楽しんで!」

 

 優雅で快活な美女は、二人に別れを告げて背中を見せる。

 

「……っ!」

 

 その時だった。

 バイクから降りて立ち上がった甜花は、シロナの背中に向かって声を掛ける。

 

「──ぁ……あ、あのっ……!」

 

 しかし緊張して喉が詰まるのか、それ以上の言葉が開いた口から出てこない。

 一方、去ろうとしていたシロナは振り返り、やはりという顔で甜花と対峙した。

 

「……なに? もしかして……もしかしなくても……」

「……ぅ……っ」

「て、甜花さん……?」

 

 涼やかに佇むシロナと、立ち上がって声を掛けたはいいものの何もできない甜花。

 そんな甜花を見つめるカホは、いったい何事かと状況を見守る。対するレオは静かに見守っていた。

 

 やがて甜花は、勇気を出して声を絞り上げる。

 

「そ、その……て、甜花と────ぽ、ポケモン、バトル……してくだしゃい! あ……し、して、くだ……さい……」

 

 甜花はオロオロとしながらも、自らポケモンバトルを申し込む。

 それにシロナは────

 

「えぇ! これでも私、トレーナーの目を見るのだけはたしかなのよね! だからきっと……勇気を出して挑戦しに来てくれると信じていたわ!」

 

 ────黒いスーツの裾を翻して、懐から一個のモンスターボールを取り出した。

 

「えっ!? し、シロナさんとバトルするんですか! 甜花さん!?」

「う、うん……こんな機会……滅多に、ないから……っ!」

 

 敗北は明白。しかし真の強者とバトルする事で、トレーナーとポケモンは一気に成長できる。

 負けたら経験値は入らない。それがゲーム。だが、この世界は現実だ。

 

 なにより甜花は知っている。アイドルをしている時は、毎日のように“そうだった”!

 敗北や失敗から学ぶべき事はたくさんある。WINGへの挑戦だって……そうだった!

 

「ま、マサラタウンの……大崎甜花です! よ、よろしくお願いします……!」

「えぇ、こちらこそ! 私はシンオウ地方ポケモンリーグのチャンピオン! シロナ! お互いにこのポケモンバトルを、目いっぱい楽しみましょう!」

「え……ちゃ、チャンピオン……!?」

 

 あっと驚くカホをよそに、甜花はモンスターボールを取り出す。

 

「行け、むーちゃん……!」

「天に舞え! ミカルゲ!」

 

 二人の手元から繰り出したるは、幽体のポケモン。ロトムとミカルゲ。

 

「ロトォオオ!」

「オンミョオオオオオン!」

 

(やっぱり一番手のミカルゲを出してきた……! なら、このバトルはむーちゃんにとって……!)

 

 ────大きな成長の鍵となるはず。

 しかして、いざ山道をフィールドに見つめ合う甜花とシロナは────いざ、尋常に……。

 

「先手は取らないの? なら容赦なく────ミカルゲ! 悪巧み!」

「ゲェエエエ!」

 

 ミカルゲの口角が糸を引き、ニタァ……とした悪い笑みを浮かべる。

 対する甜花は、とんでもない命令を出した。

 

「むーちゃん! 『充電』しながら『騒ぐ』って、できる……!?」

「ロトォオ!」

 

 甜花には試したい事があった。

 この世界のポケモンバトルは、やや不思議のダンジョンに近い現象が発生している。

 たとえば、地面タイプにも電気タイプの技が若干効くように……ともすれば、相手より素早さが高い場合、相手より一手先を行って“二回行動”できるのではないか、と。

 

(たしかミカルゲは素早さが低い……! そしてむーちゃんは結構レベルが高いから……レベル差で素早さの差が埋められる事もないはず……!)

 

 その甜花の予想は、ほぼ当たりとなった。

 次の瞬間、ロトムの体内に大量の電気が充電されていき、同時に放電現象を引き起こす事でエレクトリックな雑音が周囲に響き渡る。

 

 その間もミカルゲは悪巧みの最中であり、ノーマル技の騒ぐに多少の煩わしさは感じているものの、ほぼ動じていない。

 それゆえロトムには、更なる行動が約束されていた。

 

「二つの技を同時に使用……? かなりバトル向きに育てられているわね……レベルだけならミカルゲと互角……そんなポケモンを持つ子が、まだバッジ一つ目……?

 ……なんにせよ、催眠術と夢喰いの対策を取ってきた以上、こちらの手の内は読まれている……。ポケモンのみならず、トレーナーすらも油断大敵……いいわね……なんだかすっごく面白くなってきた!」

 

「むーちゃん! 影分身!」

「ロトッ!」

 

 ロトムの分身が数十体、地面に影を残さず現れる。

 

 電気技の威力向上、眠り対策、回避力の向上。

 あらゆる補助技を駆使して、甜花は万全を期する。

 

「それじゃあ、こっちの番! 全てを打ち消せ、ミカルゲ! 悪の波動!」

「ゲェエエエエルゥウウウ!!」

 

 刹那、ミカルゲの要石からドス黒いオーラが収束し、一気に解き放たれる。

 

「“放電”で後退しながら“放電”で相殺! ──むーちゃん!!」

「ろ、ロトォ……!?」

 

 突然の無茶苦茶な命令。

 しかしロトムはその指示に応えようと、数十体の影分身と共に全力で後退しながら、放電を引き起こして悪の波動とぶつかり合わせる。無論、ロトムは忘れていない。バトルの最初に『放電』と命じられた場合は────

 

「放電で悪の波動を相殺しながら逃げるつもりね。──でも甘い! ミカルゲ、もっと強く波動を飛ばして!」

「ゲェエエエエエ!!」

 

 範囲攻撃型の悪の波動。その射程圏外へ逃れようとするロトムを確実に捉えるため、ミカルゲは悪のパワーを最大限まで引き上げて、おどろおどろしいオーラを全力放出する。

 

「危ない、甜花さんっ!?」

「────っ!」

 

 悪の波動の範囲が広がり、その威力は甜花の近くに押し寄せる。一歩、二歩と後退する甜花は、必ずロトムより十歩以上の距離は取るようにして、放電とぶつかり合う悪の波動がどこまで届いてくるのか見極める。

 

「ろ……ロトォ……!」

 

 充電しながら騒いでいたロトムは、今度は充電した分を放電に回して、なおも影分身を維持して騒ぎながら『その時』を待っている。そのためロトムは、甜花の方へ振り返り────

 

(……! むーちゃんの限界が近い……だったら、今だ!)

 

 ────その視線を受けた甜花は、小さく頷く。

 その時、最大限のパワーを放出した悪の波動が、拮抗していたロトムの放電を押し切った。

 

「ゲェエエエエエ!」

 

 次の瞬間、悪の波動は数十体の影分身を消し去り、放電を発生させていた本体のロトムに直撃。爆発が巻き起こり、フィールドに砂塵が舞う。しかし、当のシロナは────

 

「……っ? ちがう……今のは、悪の波動が押し切ったのではなく────っ!?」

 

 ────放電の威力が弱まっていた。

 それが意味する事は、ただ一つ。

 

「今だ、むーちゃん! 怪しい風!」

「────私の背後に『不意打ち』!」

 

 刹那、ミカルゲは悪巧みにより向上していた知能で、シロナの命令の意図を完璧に把握。要石の影から実体のある影を伸ばして、即座に自分の背後へ攻撃した。それはシロナとミカルゲにとって、自らの死角を狙った攻撃にほかならない。下手をすればミカルゲの攻撃がシロナに命中してしまう危険な行為だ。しかし彼女たちは、互いに強い絆で結ばれており、決してそんな間違いは冒さない。

 

「むーちゃん……!?」

「ロトォ……!!」

 

 シロナの髪を掠り、彼女の頭上後方で怪しい影を繰り出そうとしていたロトムの『身代わり』が、実体のある影に打ち消される。

 

「ゲーッ!」

「そう……ミカルゲ。あなたは“手応えがなかった”と……そう言いたいのね?」

 

 シロナとミカルゲは一度も背後に振り返っていない。だというのに、今に怪しい風を繰り出そうとして、ミカルゲの不意打ちにやられたロトムが『身代わり』だったことを即座に勘付く。

 

「見事な布石だわ。でも────ごめんなさい。楽しかったけど、これで終わりね」

「え────?」

 

 シロナの物言いに甜花は焦る。たとえ不意打ちが命中したロトムが『身代わり』であったと勘付かれても、ならば本物のロトムがどこにいるのかまでは、シロナとミカルゲには分からないはず。

 ゆえに甜花は平静を装い、この勝負。シロナという強者を相手に一撃でも与えれば僥倖という中、如何にして勝つかを考え、この自力の差、戦力差をひっくり返すために────

 

「むーちゃん! エレキボール!」

「ミカルゲ────魂のみ天に舞え!」

 

 ────甜花は、むちゃぶりに応えてくれたロトムが成し遂げた、最高の布石を解き放った。

 

 次の瞬間、砂塵に紛れてミカルゲの要石の影に潜んでいたロトムは、至近距離からミカルゲの背中にエレキボールをブチ当てようとする。

 一方、シロナの命令に従ったミカルゲは、不定形の胴体を鞭打たせて、地面に要石を残したまま、一気に幽体だけを数十メートルの高さへ跳躍させた。それから空中で振り返り、要石の影にロトムの姿を見つけ、自分の影から今にエレキボールが解き放たれた瞬間を目撃したミカルゲは────

 

「そして、騙し討ち!」

「ゲェエエエエエエエエエ!」

 

 ────108個の魂で形作られる幽体が要石に引っ張られる力を利用して、弾力性のある体と顔を勢いよく、自分の影に叩き付けた。

 その際、ロトムのエレキボールがミカルゲの顔面に命中したものの、要石に幽体が引き戻されるパワーの方が強かったのか、あまりダメージは見込めず、エレキボールは正面から打ち破れられた。

 

「ロトォオオオオオ!?」

 

 空に跳躍して逃げたと思っていたミカルゲは、実は逃げておらず。

 要石の封印の力を利用して勢いよく戻ってきたミカルゲは、今度はその戻る力を利用してエレキボールを正面から打ち破った。

 その『騙し討ち』に文字通り面食らったロトムは、一撃で目を回し、戦闘不能に陥る。

 

「……っ! むーちゃん……」

「────…………ふぅ」

 

 場が静まる。砂塵も晴れて、周囲の木々に帯電するエレクトリックな雑音現象も鳴りを潜める。

 その中で甜花は、どれだけ裏を掻いても敵わないチャンピオンとの実力差を思い知り……

 かたやシロナは、理論的な思考を即座に実戦的に落とし込む相手の戦い方に満足していた。

 

「ふぅ……別にオーバじゃないけど、今の戦いは燃え尽きちゃうくらい熱い駆け引きだった……! ねぇ貴女! いったい何をどう考えたら、そんな面白い作戦を思いついちゃうの!?」

「え、えと……その……ま、まずは……むーちゃんを……ボールに……しまい、たい……?」

 

 両手を広げて近付いてくるシロナは、今に甜花にハグしそうな勢いでまくし立てる。

 それから逃げはしないが、ハグされる前に止めようと、甜花はボールを取り出す。

 

「あら、ごめんなさい。たしかにバトルをしたポケモンたちにお礼を言わなくちゃね。ありがとう、ミカルゲ。戻りなさい。────そして、貴女のロトムも回復させてあげる」

「え……ほ、ほんと……?」

 

 ミカルゲをボールに戻し、ロトムを抱き上げたシロナは、元気のかけらと回復の薬でキズを治療する。

 

「はい、これでOK! バトルありがとね!」

「う、うん……甜花と、むーちゃんも……いい経験、できた……!」

 

 微笑む甜花は、ミカルゲとのバトルを思い出す。

 彼女自身、バトルの最中に命令した『充電しながら騒ぐ』や『放電で後退しながら放電で相殺』という指示は、我ながら無茶が過ぎた指示である事を自覚していた。しかしロトムの技構成から考えて、かなり高レベルなポケモンである事は把握していたため、甜花はロトムを試したのだ。

 

 ────はたしてロトムは、どこまで強気な命令に応えてくれるのか。

 その結果は、甜花の予想以上だった。

 

 ……おそらく甜花の手持ちになる前のロトムは、ただの野生ポケモンではなく、誰かのポケモンだったのではないだろうか?

 そんな考えが頭に浮かぶほど、あまりにもロトムはトレーナー戦に場慣れしていると言えた。

 

「それにしても放電と命じておいて裏では身代わりを命じておいたなんて……ゴーストタイプらしい面白い作戦ね! 相手を驚かすのが大好きなゴーストタイプにピッタリな戦術よ。きっと貴女のロトムも、その作戦を気に入って、やる気を出して応えてくれたんじゃないかしら」

「う、うん……むーちゃんも、面白そうだねって、言って……そのおかげで、ジム、勝てた……! にへへ……!」

 

 チャンピオンに自分の戦術を褒められて嬉しいのか。または、一矢報いること叶わずともシロナを相手にバトルできたこと自体が嬉しいのか、あるいはそのどちらもか。微笑む甜花はロトムについて誇らしそうに話す。

 

「……ねぇ、貴女……」

「……ふぇ?」

 

 その時、急にシロナの雰囲気が豹変し、まじまじとした真剣な面持ちで甜花の顔付きを睨む。

 

「…………その、笑った時の顔…………」

「……え? な、なに……?」

 

 まさか、なにか怒られるのかと、思わず甜花は身構える。

 一方のシロナは、突然、甜花の両頬をつまんで、優しく引っ張り、もちもちしたりした。

 

「なにその『にへへ……!』っていう可愛い笑い方ァ!? ハァ、ハァ……ちょっと今の笑い方、もう一回いいかしら……? 写真……じゃなくて、動画で撮りたいから……っ!!」

「ふぇ、ふぇええ……!?」

 

 甜花のほっぺたをつまんで上下に揺らしてもちもちして触感を確かめて匂いを嗅いで喘いでどさぐさに紛れてハグするシロナは止まらない。それに甜花は抵抗できず、シロナの“すごい体”に圧迫されて息ができなくなる。

 

 まるで女子プロレスの如く、甜花の手がシロナの背中をタップし、降参を告げるもシロナは気付かない。

 その時、甜花お助け隊が出動した。

 

「はい! シロナさんそこまでですっ! 甜花さんが苦しそうです! 放してあげてくださいっ!」

「そうだそうだ! うちの甜花に何してくれてんだおばさんよぉ!」

「ワンワン!」

 

 ジュンサーさんみたくガーディことマメマルを付き従わせるカホは注意のクマ避けホイッスルを吹き、レオはしっぽではたくようにシロナを突き飛ばす。その『ピピッー!』という笛の音と体当たりに驚いたシロナは、我に返って甜花を放した。

 

「──ハッ! ご、ごめんなさい……! 私ったら、可愛い女の子を見ちゃうと、つい……!」

「けほっ、こほっ……!」

 

 咳き込む甜花は戸惑いを隠せない。まさか、この『ポケモン』という概念に埋め尽くされた世界は────まさかまさか、“非公式の概念”まで取り入れているのかと。

 

(こ、このシロナさん……残念な美人要素だけじゃなくて……ダメナさんの要素も併せ持っている……だと……!?)

 

 危うく窒息死しかけた甜花は、心中の言い回しがおかしくなる。

 

「大丈夫ですか、甜花さん!?」

「て、甜花は……大丈夫……ちょっと、驚いたけど……」

「ほ、ホントにごめんね……? あぁ、二人きりじゃなくて良かったわ……私ってば理性なくすと押し倒してそのまま……ンンッ! ──いえ、何でもないわ」

 

 本能を封印するシロナは、理性を失くしたケダモノにはなるまいと己を律し、自制する。

 対する少女たちからは、まるで変態(ダメナ)から(甜花)を守る両親(カホとレオ)のように、一歩距離を置かれていた。

 

          §

 

 数分後。どちらも落ち着いた頃。

 ふとシロナは懐から、専用の容器に収納されているポケモンのタマゴを取り出した。白いタマゴで青い斑点が付いているタマゴだ。

 

「うわぁ! シロナさん! それってポケモンのタマゴですかぁ!?」

「えぇそうよ。ハナダシティより南にある育て屋さんからいただいたタマゴなんだけど、預かってくれるトレーナーを探しているの」

「えっ!? シロナさんが孵さないんですか……?」

「そうね……今の私は新しいポケモンを育てるより、私を追いかけてくれる誰かを育てたい立場に在りたいと思っているの。もちろんこうして色々な地方を旅し、そこで捕まえたポケモンを育てたりはしてるけど……このタマゴは、そのために持ち歩いている“誰かへの贈り物”なの」

 

 ポケモンのタマゴを大事そうに抱えるシロナは、真剣な面持ちでカホに想いを伝える。

 

「へぇ! そうなんですかぁ!」

「うん……だからね? 私、このポケモンのタマゴは、ぜひ甜花ちゃんに預かってもらいたいなと考えているのよ。だから……そろそろ甜花ちゃんとお話をさせてもらっても構わないかし──」

「ダメです」

「そこをなんとかァ! カホちゃぁん……っ! 子供に警戒される大人にはなりたくないのよぉ! もう二度と襲ったりしませんからァ……!」

 

 岩場の上に、美女と美少女が三人。そして苦笑いするレオが一匹。

 変態の砦たるカホを挟んで、両側にぼのぼの汗を流す甜花と、食い下がるシロナが座っている。

 

「前科アリには厳しいのね……カホちゃん。貴女、将来いいジュンサーさんになれるわよ」

「別にジュンサーさんにはなりませんっ。あたしはWPMで優勝を目指しているんです!」

「あら。それってカントー地方の東の海で現在建設されている、人工島パシオで開催される予定のワールドポケモンマスターズのこと?」

「……! はい、そうですっ! 私と甜花さんは、そこに出場するつもりなんですっ!」

 

 WPMについて知っているトレーナーがいて嬉しいのか、カホは目を輝かせて肩を上下させる。

 

「へぇ……実は私も出ようと思っているのよ! というか、世界中のジムリーダーや四天王、地方チャンピオンが乗り込んでくると思うわ。それはもう世界一白熱した大会になるわね……!」

「わぁ……! 世界中の、ジムリーダーや、四天王に、地方チャンピオン……っ! 俄然やる気がモリモリと湧いてきました! ですよね甜花さん!」

「う、うん……」

「そこで、つかぬことをお伺いするのだけど……WPMに出場する為には三人一組のチームを作らないといけないのは知っているわよね? そこで私はまだ一人だから、この三人でっていうのは」

「お断りさせていただきますっ!」

 

 満面の笑みで断ったカホ。

 一方のシロナは「いけずぅ~っ!」とダダをこねていた。

 

「……さて、ここらへんで閑話休題。本題に戻ると、このポケモンのタマゴ。甜花ちゃんに預けようと思っているんだけど……」

「どうしますか、甜花さん?」

「え!? て、甜花が……? え、えと……甜花なんかで、よければ……。────あ! で、でも……タマゴの孵し方とか……孵ったあとの育て方とか……甜花、分かんない……」

 

「それについては問題ないわ。常にタマゴを適温以上に暖めていれば、それだけ早く孵るし……別に人間の赤ちゃんと違って離乳食が必要な訳でもないから。それもポケモンの種類にもよるけど、基本的にはポケモンフードでいいはず。というわけで、はいどうぞ」

「シロナさんからポケモンのタマゴを受け取りましたっ! はい、甜花さん!」

「あ、えと……ありがとう……」

 

 どのような場面でもカホを介して、シロナと甜花の意思疎通が行われる。そんな保護者カホという高い壁に阻まれて観念したのか、岩場から降り立ったシロナはうんと背筋を伸ばし、山の澄んだ空気を腹一杯に吸い込み、甜花との別れを決意した。

 

「よし! それじゃあ私はニビ科学博物館に急ごうかしら! 貴女たちとは、ここでお別れね。────グッドラック!」

 

 額から二本指を弾いて爽やかに去っていく黒服の美女。

 しかしその実態はクールビューティーとは程遠く、とんだ変人だった。

 

「……なんか、ポケモンリーグのチャンピオンって、すごい人なんですね……」

「え、えと……カホちゃん……全部のチャンピオンが、たぶん、そうじゃないから……きっと……」

 

 カホのチャンピオンに対する誤解を解きながら、甜花は膝の上に置かれているポケモンのタマゴを見つめる。

 

「……勢いに任せて預かっちゃったけど、甜花……ちゃんと孵せるかな……」

「甜花さん! あたしも付いていますから大丈夫ですよっ!」

「そうだな。甜花だけだとタマゴ割っちまいそうだ!」

 

 いったいこのタマゴから、どんなポケモンが生まれてくるのか。

 それを楽しみにしながら、休憩も終わった事だしと、甜花たちは登山を再開した。

 

          /了

 





《手持ち》
 すーちゃん/ラルトス。
 むーちゃん/ロトム。
 タマゴ(白と青まだらの模様)

《旅の仲間》
 レオ/ピカチュウ。
 コミヤカホ。マメマル/ガーディ。

《所持品》
 寝巻き。
 所持金2000円。
 軽量テント。

《大切なもの》
 デビ太郎のぬいぐるみ。
 スマホ型ポケモン図鑑。
 ゴンベが捨てた炎の石。
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