大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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【第一部 四つのバッジ編 縹色の章 ~Blue Chapter~】

※とあるキャラが一時的に消えますが、タマムシ編で戻ってきます。



縹色の章 ~Blue Chapter~
第15話『おつきみ山、崩落!? 磁場とコンパスの脅威!!


 夕暮れのおつきみ山・山頂付近。シロナとのバトルから十数時間後。ちょっとした観光地なのかおつきみ山の歴史が記された看板が立つ傍らで、転落防止の柵の前に佇む甜花とカホは、絶景のハナダシティを鳥瞰していた。

 

「うわぁ……! 綺麗ですねぇ! 甜花さんっ!」

「う、うん……! ここまで、とっても、疲れたけど……頑張って登ってきて、よかった……!」

 

 標高2486mから望む圧巻の自然景色と人間の街が広がる先には、大海原の水平線が遠望できる。

 その時、双眼鏡でカントー地方の海を覗いていたカホが、急に大はしゃぎで甜花を呼びつけた。

 

「て、甜花さん! 見てくださいっ! あれがきっと、いま建設途中の人工島パシオですっ!」

「えっ……?」

 

 カホから双眼鏡を手渡された甜花は、彼女が指し示す方角に向き直り、覗いてみる。

 すると日本海の沖合────否、カントー地方の東海沖合付近にて、たしかに人工的に海が埋め立てられている平らな島が見えた。さらにポケモンの力で、あらゆる自然を人工的に創ろうというつもりなのか、人工島には火山や氷河、森林や砂漠など、相反する地形が幾つも点在していた。

 

「す、すごい……! 海の上に、ほんとに島を作ってる……!」

「はいっ!」

 

 やがて二人は、もう日が暮れるため、ここでテントを張ろうと準備を始める。

 

 軽量テントを張る甜花とカホ。あとは夕食のお弁当を開けて、夜の食事を楽しむ。

 その時、甜花のポケットからロトムが飛び出てきた。

 

「……ん? むーちゃん……?」

「ロトー! ロトロトー!」

 

 なにやらロトムは、軽量テントが気になっている様子。

 次の瞬間、テントをツンツンとつついていたロトムは、なんとテントの中に吸い込まれてしまった。それは幽体のため、テントの中にすり抜けたというよりも、テントと一体化したと言った方が正しい。

 

「む、むーちゃん……!?」

 

 慌ててお弁当を置き、駆けつける甜花は、なにやらテントの様子がおかしい事に気付く。

 

「て、甜花さん! テントがひとりでに震えています! これは、な、なぜでしょう……!?」

 

 混乱する甜花とカホ。

 やがて振動するテントが静まると、テントの入り口全体にロトムの顔が現れた。目をぱちくりとさせるテントのロトム。

 それを見た二人は、いったい何がどうなっているのかと驚いた。

 

「ど、どうしよう……! むーちゃんとテントが、合体しちゃった……!?」

「ロトトトト!」

 

 慌てる甜花だが、ロトムの方は面白がっている様子。

 その時、カホが名案を閃いた。

 

「そうだ、甜花さん! ポケモン図鑑をかざしてみてください! それで何か分かるかもしれないです……っ!」

「た、たしかに……!」

 

 言われた通り、甜花はこの謎を究明するため、ポケモン図鑑をテントのロトムにかざす。

 するとポケモン図鑑の画面に『テントロトム』という名前が表記された。

 

『て、テントロトム……!?』

 

 訳が分からないと、甜花とカホは目を見張る。

 どうやらタケシから貰った軽量テントには電子的な装置があるらしく、それは冷暖房だったり、遭難した際に発炎筒を焚く装置だったり、様々な電子的便利機能が統合されていた。

 そのためロトムはテントと融合し、フォルムチェンジできたらしい。

 ただしポケモン図鑑によると、戦闘力としてはあまり期待できないらしく、最近アローラ地方で開発されたロトム図鑑に類似する『ロトムを用いた便利アイテム』に留まるようだ。

 

 そこで物は試しと、カホはテントロトムの中に入ってみる。

 

「うわぁ! 中はすごいですよ、甜花さん! なんだか心なしか広くなったように感じられますし、横になればテントの上にお星様が見えます! 天然のプラネタリウムです! それに夜の山でも、テントロトムの中だと全然寒くないですし、いちいち冷暖房を操作しなくても勝手にテントロトムが適温に保ってくれています!」

「ロトトトトト!」

 

 自慢気に胸を張るテントロトム。

 しかして甜花とカホは、野宿する際かなり過ごしやすいテントロトムの中で、ポケモンセンターの宿泊施設に負けないレベルの心地良さの中、健やかな眠りに就いたのであった。

 

   ◇

 

 早朝。水平線から太陽が顔を出す頃。

 デビ太郎を抱き枕にしていた甜花と、マメマルを抱き枕にしていたカホが目を覚ます。彼女たちは近くの川で顔を洗ったあと朝食を済ませて、いざハナダシティ方面への下山を開始した。

 

「甜花さん甜花さん! テントロトムの中で寝るの、すっごく気持ちよかったですね!」

「う、うん……! 自分の部屋やホテルみたいに、快適だった……! にへへ……」

 

 昨晩テントロトムの中で過ごした有意義な時間を思い出しながら、二人と一匹は山道を下りていく。

 

 ──その時、突発的な地震がおつきみ山を襲った。

 

『……!?』

「ワン! ワンワン! ワンッ!」

 

 鼓膜を劈く地響き。グラグラと揺れる木立と枝。木の葉が擦れあう音が騒々しくなっていく。

 足元が覚束なくなる感覚を覚えた二人は、互いの体を支え合うことで転倒を免れる。

 

「う、うわわ!? じ、地震ですかぁ……!?」

「けっこう、大きい……! こ、このまま、じっとしていよう……!」

 

 転んでケガをしないよう、二人は坂道の上で屈み込み、頭の上を守る。

 やがて地響きは静まっていくが……突然、甜花たちの足元に大きな亀裂が入り込む。

 

「……っ!」

「て、甜花さん……!?」

「キャン!?」

 

 瞬く間に広がっていく大地の亀裂。それは突如として轟音を立ち上げると決壊し、陥没した山道の上に立っていた二人の少女とガーディは、なすすべなく大穴の下に落下した。

 

『きゃあああああ────!?』

 

   ◇

 

 地震により陥没した下り坂。

そ の上に立っていた甜花とカホ、ガーディは、足場が崩れたせいで自由落下を始める。

 

「──……ッ!」

 

 恐怖により目を閉じる甜花。しかし、隣に守らなければならない年下の女の子がいることを思い出した甜花は、勇気を出して落下地点を目視する。

 

(ふ、深い……!?)

 

 甜花が目にした光景は、おつきみ山の深い空洞。先程まで立っていた山道から空洞の地面までの高さは、目測して十五メートル前後。それはビルの五階から飛び降りたような高さ。

 ──まず、命は助からない。

 すべてがスローモーションに見える世界の中で、甜花は命の終わりを覚悟した。

 

「甜花さん……!」

 

 その時、甜花の腕を引いたカホは、咄嗟に彼女の体を抱き寄せる。

 そしてカホは、自分が下敷きになることで、その背中を地面に強打した。

 

「カハッ……!?」

「……──っ!!」

 

 後頭部を打ち付けて悶絶するカホは、背中を強打したせいで一時的に呼吸が阻害されて、ひどく咳き込む。

 一方、カホがクッションになる事で助かった甜花は、しかし、立て続けに起きる事態に困惑していた。

 

「か、カホちゃん……なんで……!」

「けほっ! こほっ! あ、あたしは、だいじょうぶ、です……っ! それより、甜花さんは……だいじょうぶ、ですか……?」

 

 ひどく咳き込んでいるカホだが、その体に目立つ外傷は見当たらない。

 特に何事もなく起き上がった彼女を見て、甜花は更なる疑問を強めた。

 

(あ、あの高さから落ちて……受身すら取れないで地面にぶつかっちゃったのに……無傷……?)

 

 ──人間じゃない。

 ふと、そんな言葉が脳裏をよぎる甜花だが、すぐにこの世界はポケモンの世界であることを思い出す。

 

「……す、スーパー……マサラ人……?」

「へ? 突然なんですか、甜花さん……?」

 

 どうやらこの世界に住む人間は、甜花の世界の人間と比べて、肉体の強度が高いらしい。

 

「あ、えっと……ありがとう、カホちゃん……甜花、助かった……本当に、もう、ダメかと思った……だから、カホちゃんは……甜花の、命の恩人……──ありがとう……!」

 

 お礼の言葉を述べる甜花だが、カホに痛い思いをさせてしまった事に申し訳なさを感じる。

 しかしカホは気にする必要はないと、手の平を腰に当てて胸を張った。

 

「はいっ! どういたしまして! そして気にする必要はありません!  だってあたしは、タウリナーΩやブラムヘキサーΣのようなヒーローを目指す、ヒーロー見習いですから! だから誰かを守るのは当然のことなんですっ!」

「そ、そうなの……?」

 

 どうやらこの世界でも、カホはヒーローものにハマっているらしい。現実世界ではジャスティスレッドだったが、ポケモン世界ではそれに代わるブロムヘキサーΣやタウリナーΩに夢中のようだ。

 

「……でも……」

「うん……落ちちゃった、ね……」

 

 天井を見上げるカホと甜花は、頭上の大穴から射し込んでくる陽光に目を細める。

 飛行タイプのポケモンがいれば、すぐに地上へ脱出できるが……それも出来ない二人は、空洞を進んでおつきみ山からの脱出を図るしかない。

 

「……でも、なんで地震が起きたんでしょう……?」

 

 ふと、カホは疑問を口にする。

 

「え……? 今の地震って、普通の地震じゃないの……?」

「う~ん。その可能性もあるんですけど……なんだか、普通の地震とはちょっと違ったような……」

 

 首をひねって喉を唸らせるカホだが、地震の原因が自然発生的なものであるのか、または、それ以外の要因のものなのか悩んでいる様子。

 

 ──その時、二人の背後から忍び寄る影があった。

 暗い空洞。光が届かない闇の中。滔々と流れる水の音。

 不意に周囲の岩石が青白く光り輝き、電気を帯びているのかバチバチと音を鳴らす。

 

「うわぁ! なんだか急に明るくなりました! あの電気を帯びている岩はなんでしょう? とても綺麗ですね! 甜花さん! ……甜花さん……?」

「────……」

 

 冷や汗を流して押し黙る甜花。彼女はこの時点で背後から忍び寄る気配を察知していた。そして、突然周囲の岩石が電気を帯電させた理由も────推測できていた。

 

「グルルルルル……」

「ま、マメマル……?」

 

 背後から忍び寄る気配にいち早く勘付いていたのはガーディも同様。

 しかし振り返れば即バトルが始まる事を察して、主のカホに視線を送る。

 

「……カホちゃん。今すぐバトルの準備をして……」

「……え?」

 

 甜花は懐からロトムのボールを取り出し、勇気を出して背後に振り返る。

 同時にカホも切羽詰まった様子の甜花とガーディを目にして、即座に状況を察した。

 

『……っ!』

 

 振り返った二人と一匹。

 そして今、彼女たちの眼前に姿を現した、忍び寄る影の正体は────

 

「Nォオオオオオオオオオズ!」

「Zィイイイイイイイイイバ!」

 

 かたや、モアイ像のような風貌に、三つのユニットを浮遊させている、コンパスポケモン。

 かたや、楕円状の寸胴に一つ目が赤く光り、二つの巨大な磁石を有する、磁場ポケモン。

 

『────ダイノーズとジバコイル!?』

 

 次の瞬間、肩を並べる二匹のポケモンは容赦なく、甜花たちに電磁砲を撃ちだした。

 

『きゃあああ!?』

 

 彼女たちの足元に命中し、地面を砕く大爆発が起きる。

 咄嗟に飛び退った二人と一匹は、飛び散る砂礫でケガをする事もなく、電磁砲の命中率の低さに安堵する。が、それも束の間────後退した先で、彼らは足を滑らせた。

 

「えっ……!?」

「こ、これは……っ!」

「ガウ……!?」

 

 電磁砲を躱す為に後退した彼らは、しかし。その回避行動が、次の致命的な失態に繋がった。彼らの背後には40度の傾斜があり、水量20センチ程度の水流が緩やかに流れ落ちていた。

 

「も、もしかしてこれって……おつきみ山の水脈……!?」

「だ、だとしたらまずいですよ! あたしたち、このままだと……ッ!」

 

 てっきり後ろには、平らな地面が続いていると思っていた。しかし実際は急な傾斜があり、地層の狭間から滝が流れていた。足を滑らせた二人と一匹は尻餅を搗き、緩やかな滝に押し流されて斜面を滑り落ちていく。

 

「っ────むーちゃん!」

 

 その中で繰り出されたロトム。しかし甜花の前に飛び出たロトムは、何か強力な力に引っ張られて、傾斜の中に点在する電気岩の一つに縛り付けられた。

 

「ロ、ロトォ!?」

「むーちゃん!?」

 

(しまった……! あの電気岩、電気タイプのポケモンを引き寄せる力があるんだ……!)

 

 おつきみ山内部に充満する特殊な磁場と重力により、特性が浮遊のロトムは行動を阻害される。

 

「Zィイイイイイイイバ!」

「Nォオオオオオオオズ!」

 

 爛々と光る赤い双眸。我を失っているのか、凶暴化しているジバコイルとダイノーズは、標的を逃がすものかと滝の上を浮遊して、甜花とカホ、ガーディを追いかける。

 

「甜花さん! ジバコイルとダイノーズが近付いてきます……っ!」

「……っ!」

 

 唇を噛む甜花は、この度重なる危機的状況を切り抜けようと知恵を絞る。

 

(考えろ……考えろ……! まず電気タイプのポケモンを引き寄せる効果が電気岩にあるなら……なんでジバコイルは平気なの? ……そういえばジバコイルとダイノーズは、どっちも磁場操作の技を覚えたはず……そして、その技の効果は────っ!)

 

 大崎甜花は直感する。

 

「──っ! むーちゃん! ほかの岩石にプラスかマイナスの電気技を!」

「……! ロトトォオ!」

 

 甜花の指示に従い、ロトムは電磁波を繰り出す。その電撃が暗い岩石に命中すると、突然黄色く光り出した。

 

「その帯電した岩に移動!」

「ロトォ!」

 

 刹那、青白い電気岩に縛り付けられていたロトムは、突然電気を迸らせて黄色い電気岩に移動。続けてほかの青白い電気岩に移動したロトムは、再度、暗い岩石に電磁波を放ち、黄色い電気岩を作り出す。するとロトムは、新たに作り出した黄色い電気岩に一瞬で移動して、またほかの青白い電気岩にも瞬時に移動した。

 

 その移動方法は、ロトムが編み出した即興の対処術。

 ロトムは青白い電気岩がプラスの電荷を持っている事を見抜いた。ならばマイナスの電荷を持つ電気岩を作り出せば、あとは互いに引き合う性質を持つプラスとマイナスの電気岩を利用する事で、色の異なる電気岩を行き来する事が出来るのではないかと考えた。

 結果、その思考は正解だった。甜花の命令の意図を汲み、瞬時に電気岩の正体を見抜いたロトムは、急いで甜花を追いかける。

 

「ナイス、むーちゃん! そのまま付いてきて!」

 

 しかしロトムと甜花の距離はかなり離れている。

 このままでは襲い来る二匹のポケモンに、甜花は為す術なく攻撃されてしまう。

 

「甜花さん! ここはあたしとマメマルが戦います!」

「でも、二対一じゃあ……! それに、早くこの滝から脱出しないと……!」

 

 そうは言っても、今の甜花はロトム以外のポケモンを持っていない。

 ポケモンにはポケモンを。

 その法則が叶わない状況に持ち込まれた時点で、甜花は役立たずとなる。

 

(……どうすれば……!)

 

 斜面を滑り落ちて数十秒。いったい、あと何秒で地上に辿り着いてしまうのか。

 その前に決着をつけなければ、甜花もカホも滝の下へ真っ逆さまに落ちて、二度とおつきみ山から脱出できないほど、地下の奥深くへ流されてしまうかもしれない。

 

「────ア、アッ……!」

 

 ──その時、甜花の近くで、誰かの鳴き声が発される。

 

(あれは……!?)

 

 おそらく先程の落盤に巻き込まれて、水の流れる傾斜に足を取られてしまったのだろう。甜花から少し離れたところには、必死に四本の脚で滝を登ろうとしている一匹のアメタマの姿があった。

 

(──っ!)

 

 刹那、甜花はリュックサックの中から、空のモンスターボールを取り出す。

 そしてアメタマに向かって声を張り上げた。

 

「あ、アメタマ! ……助けて欲しいなら、このボールに入って!」

 

 そう言って甜花はモンスターボールを投げつける。

 

「──アッ! アメェ!!」

 

 その呼び声に驚いたアメタマは、自分に向かって飛んでくるボールを仰ぎ、選択を迫られる。

 ……今まで滝に流されまいと踏ん張っていたアメタマは、もはや体力が限界に近付いていた。そのため、もしも目の前のトレーナーのボールを避ければ、それだけで体力が尽きてしまい、自分は滝の下に流されてしまう。

 ……でも、もし飛んでくるボールを受け入れれば、少なくとも命だけは助かるかもしれない。

 

「アッ────メェ!」

 

 アメタマは選択した。

 最後の力を振り絞って水の上を跳躍し、甜花が投げた的外れなボールの行き先に合わせて、そのスイッチ部分に頭を突き出した。

 

 刹那、アメタマは開かれたボールの中に吸い込まれる。しかしボールはその場で落ち、滝の上をぷかぷかと流されて、コロコロと転がっていく。

 

「っ────!」

 

 ふと、甜花は考える。地を蹴ってスライディングし、滝の水を切りながら滑る勢いを強め、転がるボールを追いかけようかと。だが到底間に合わないと判断すると、咄嗟にポケモン図鑑を取り出した。

 

 図鑑のカメラをかざす先は、無論────アメタマ入りのモンスターボール。

 

 

 

全国図鑑:No.283 分類:あめんぼポケモン 名前:アメタマ

タイプ:むし・みず 特性:すいすい

レベル:9

種族値:耐久C 攻撃D 防御D 特攻B 特防B 素早A

習得技:あわ・でんこうせっか・あまいかおり

持ち物:なし

 

 

 

 さらに甜花は振り返り、頭上から迫り来る二匹の凶暴ポケモンに図鑑をかざした。

 

 

 

全国図鑑:No.462 分類:じばポケモン 名前:ジバコイル

タイプ:でんき・はがね 特性:がんじょう・じりょく

レベル:??~70(error. error.)

種族値:耐久D 攻撃D 防御B 特攻A 特防C 素早E

習得技:レベルアップで覚える技すべて

持ち物:なし

 

全国図鑑:No.476 分類:コンパスポケモン 名前:ダイノーズ

タイプ:いわ・はがね 特性:がんじょう・じりょく

レベル:??~70(error. error.)

種族値:耐久C 攻撃D 防御A 特攻B 特防A 素早E

習得技:レベルアップで覚える技すべて

持ち物:なし

 

 

 

(レベルが高い……! でも────この特性なら!)

 

「──よし……カホちゃんはジバコイルを! 甜花はダイノーズと戦う!」

「了解ですっ!」

 

 甜花とカホは指示を飛ばす。

 

「アメタマ! ボールから出て! そして────甘い香り!」

「マメマル! ジバコイルに火炎放射!」

 

 次の瞬間、ボールの中で小休憩をはさんだアメタマはボールから飛び出し、その勢いを利用して水面を滑り、全身から甘い香りを放出する。

 一方、四本足で姿勢を崩さず、しっかりと滝の流れる斜面を後ろ向きで滑るガーディは、口から逆巻く火炎を噴き出した。

 

「アァアアアッメッ!」

「ガウゥウウ!」

 

 辺り一帯に甘い香りが充満する。それで甜花は、理性を失っている二匹のポケモンを落ち着かせようとする。が────

 

『ZIIIIII────!!

 NOOOOOO────!!』

 

『……っ!?』

 

 ジバコイルとダイノーズは、およそポケモンとは呼べない鳴き声を発し、人間の鼓膜を痛めつけた上で、さらに狂暴化した。

 

 その時、ガーディの火炎放射がジバコイルに命中する。しかしジバコイルは炎に巻かれても平気なのか、疾く迎撃態勢に移った。

 

「マメマルの炎が効かない……!?」

 

 否、確実にダメージは効いている。しかし我を失っているジバコイルが、自身のダメージを自覚できていないだけ。

 次の瞬間、ジバコイルは炯々と揺らめく双眸をガーディに合わせる。それはロックオンの動作。さらに高速で回転し始めたジバコイルは、カホも巻き込む形でガーディめがけて突撃する。

 

「あれはジャイロボール……! ──っ! マメマル、逆鱗!!」

「──……ガォオオオオオオオオオ!!」

 

 狂暴には凶暴を。

 途端、ガーディの肉体が変容する。その筋肉は忿怒を体現するため戦闘用に作り替えられていき、迫り来る鋼鉄の旋回を目にしたガーディは、恐れを知らずに迎え撃った。

 

 鋼鉄の回転と凶暴な猛獣が中空で激突する。

 

 その一方では────ダイノーズが三つのユニット・チビノーズを自律行動させて、それぞれのチビノーズからトライアタックを繰り出していた。

 

「アメタマ、電光石火で躱して!」

「アメェ!」

 

 一撃でも命中すれば、アメタマは瀕死に陥る。

 麻痺の光線、火傷の光線、凍傷の光線……本来は三つの効果を一本の光線にまとめて放つ技が、三本の光線に分かれて撃ちだされる。

 

 三条のビームを頭上に仰ぐアメタマは、電光石火の速さで水面を滑り、素早く躱していく。

 ダイノーズのレベルは70。アメタマのレベルは7。十倍の力の差は歴然。しかしあらゆる状況がアメタマに味方している。

 フィールドは傾斜のある水流。アメタマの得意な地形。さらに相手は理性を失っているため混乱しており、相次ぐ攻撃の標準が定まっていない。

 

「カホちゃん! 甜花とアメタマが時間を稼ぐから、先にジバコイルを倒して!」

「了解ですっ!」

 

 激突するガーディとジバコイル。

 やがて鋼鉄を爪で弾き、爪を鋼鉄で弾いた両者は距離を取る。

 

「マメマル! 今こそ修行の成果を見せるとき! 滝を駆けて────フレアドライブ!」

「ガォオオオオオオオオオオオオ────!!!」

 

(えっ!? 逆鱗中に、さらに指示を……!?)

 

 カホとマメマルの戦い方に圧倒される甜花。

 なんとガーディは逆鱗により凶暴化した状態で全身に炎の鎧を身に纏い、斜面を駆ける脚で水を切り、滝の一部を蒸発させながら、渾身の一撃をジバコイルにぶち当てる。

 

「いっけぇえええ────!」

「ガォオオオオオオオオゥン!」

 

 燃え盛るガーディの突進を喰らったジバコイルは、その鋼鉄の胴体を徐々に融解させていく。

 

「ZIIIIIIIIB────!!?」

 

 しかしジバコイルは痛みを感じず怯まないのか、眼前のガーディを凝視するなり、胴体の発光を始めた。それはラスターカノンの前兆。

 

「あ、ダメ! マメマル────!」

 

 咄嗟に回避を命じるカホだが、逆鱗状態のガーディに、これ以上の命令は届かない。

 

「────今だ、むーちゃん! 祟り目!」

「ロトォオオオオ!」

 

 その時、電気岩から電気岩へと移動してきたロトムが、ようやく甜花たちに追いついた。ジバコイルの後方数メートルまで距離を詰めたロトムは、融解を始めている鋼鉄の胴体を見据えるなり、現在ジバコイルは重度の火傷状態であると見切る。

 それゆえの祟り目。状態異常の相手にダメ押しの攻撃を加えるトドメの一撃。

 

「畳み掛けて、むーちゃん!」

「ロトォ!」

 

 刹那、ロトムの背後から漆黒の影が現出する。その影はプラズマで出来ており、死に神のような風貌を象って、肥大化した一つ目の眼球を真紅の色に充血させていた。

 その祟り目に睨まれたジバコイルは、死の怖気を背筋に感じ取る。直後、奮われた死に神の鎌で袈裟斬りにされたジバコイルは、鋭い一撃を与えられて白目を剥いた。

 

「Z────ィ……バ……」

 

 ラスターカノンを放つ直前に意識を失ったジバコイルは、浮揚する力を失って斜面に激突する。そのあとは勢いよく滝の下へ転がっていった。

 

 その時、甜花が行動を起こす。

 

「アメタマ! 大量の泡でチビノーズを撹乱!」

「ア……アメェ!」

 

 今まで甜花の指示に従い、電光石火での回避を繰り返していたアメタマは、レベルの低さもあり既に疲労困憊。それでも甜花は布石を敷くため、最後の指示を飛ばした。

 

 アメタマの口から放出された多量の泡。それがダイノーズとチビノーズの視界を邪魔するようにぷくぷくと浮かび上がる。

 

 次の瞬間、甜花とカホはボールをかざし、電光石火の連続でパワーの限界を迎えたアメタマと、逆鱗が終了して混乱状態に陥ったガーディをボールに戻した。

 

「カホちゃん!」

「──!?」

 

 叫ぶ甜花は地を蹴り、水しぶきを上げながらカホの傍へと合流。

 そうした理由は、彼女たちの滑り落ちる先にあった。

 

『……っ!』

 

 数十メートル先に滝の終点が見える。そこから落ちれば、おそらくおつきみ山の地下に落ちる。また、滝の奥には絶壁が聳え立っており、おそらく山肌の裏側であろう事が分かる。

 

「カホちゃん! もう一度マメマルを出して……!」

「あの絶壁を壊すんですね! 分かりました!」

 

 カホは再度、マメマルを繰り出す。混乱状態のポケモンは一度ボールに戻せば正気に戻る。

 

 ──その時、突然轟音が立ち上がると、彼らの真横をダイノーズが転がっていった。

 

「えっ……!?」

 

 喫驚するカホ。

 ダイノーズは五体満足のはずなのに、なぜ戦闘不能に陥ったジバコイルと同じように斜面を転がっていったのか。その理由を甜花が説明する。

 

「ジバコイルもダイノーズも、特性が同じ磁力だった……! 磁力同士は違う磁極なら互いに引き合う性質を持つから、一方を倒して斜面を転がせば、もう一方もそれに引きずられていく……!」

 

 もちろん、それは賭けだった。もし同じ磁極同士だったらジバコイルとダイノーズは反発し合うため、ダイノーズは引きずられる事なく、甜花たちとの連戦が始まっていた。

 しかし観察していると、常にジバコイルとダイノーズは隣り合わせで動いていた。そのため、もしかしたら違う磁極同士で引き合う性質を持っているのではと、甜花は直感的に推測していた。

 

(そして、ダイノーズには悪いけど……その重量のある体を利用させてもらう……!)

 

「カホちゃん! ダイノーズを絶壁にぶつけて突破しよう……!」

「──なるほど! 少し可哀想ですけど……マメマル! 全身全霊のぉおお……起死・回生ッ!」

「ワオォオオオオオオオオオンッ!」

 

 満身創痍の体であればあるほど威力を増す起死回生の一撃。フレアドライブの反動でダメージを負っていたガーディは、全力を込めた体当たりでダイノーズに突撃する。

 

「さらに破壊力を増すため────高速移動!」

「ガオオン!」

 

 空を切るガーディは、目にも止まらぬ速さで滝を駆け下りていく。転がるダイノーズに追いついたガーディは、その巨体が滝の終点から身を投げ出したタイミングを狙って、その岩石の胴体に起死回生の一撃をぶち当てる。

 

「ガォオオオオオッッッン!!」

 

 ガーディの一撃を喰らったダイノーズは絶壁に激突。壁一面に亀裂が入り込むが、絶壁を破壊して地上に通じる空洞を作るには、あともう少し火力が足りない。

 

「DアアアアアアアNオオオオズ!」

 

 ダイノーズが咆哮を上げる。それが迎撃に入る準備だと予測した甜花は、ロトムに指示を飛ばした。

 

「むーちゃん! 怪しい光!」

「ロトォ!」

 

 ダイノーズは鋼のエネルギーを込めた爆弾を生成する。それはマグネットボムと呼ばれる必中技。しかしロトムの怪しい光を喰らったダイノーズは、その赫々と光る双眸を回し始める。

 

「お願い……!」

 

 ここで訳も分からず自分を攻撃してくれれば、マグネットボムの威力が乗っかり絶壁を破壊できる。

 

「D……Nオオオオオオオオオズ!」

 

 だが、そう上手く事は運ばない。混乱状態でも凶暴化しているのなら関係ないと言わんばかりに、ダイノーズは手当たり次第にマグネットボムを乱射した。

 

「キャウウウウン!?」

 

 ダイノーズの捨て身の攻撃を受けたガーディは吹き飛ばされる。

 一方のダイノーズは断崖の窪みに嵌っており、そこから抜け出そうと暴れていた。

 

「マメマル!?」

 

 刹那、爆弾の直撃を受けて吹き飛ばされたガーディにボールを掲げたカホは、間一髪、滝の下に落ちていくガーディをボールの中に吸い込ませる。

 しかし今の一撃でガーディは瀕死となった。亀裂の入った断崖はあとひと押しで壊せそうだが、ロトムやアメタマの火力では、おそらく破壊できそうにない。

 それでも諦めきれない甜花は、目前に迫る滝の終点を見据えて、最期の指示を飛ばした。

 

「むーちゃん! 全力の……電撃波ぁ!!」

「ロォオオオオ……トォオオオオオオ!!」

 

 全身から電撃を放つロトム。しかしロトムが放出した電撃は、すべて周囲の電気岩に吸収されてしまった。

 

「──……そんな……」

「て、甜花さん……っ」

 

 滝の終点まで、残り数メートル。

 もはや打つ手なしの絶望的状況下で、二人は互いの手を取り合い、その目を固く閉じた。

 

「────。」

 

 ふと、水の上を走る軽やかな足音が聴こえてくる。

 

「────、」

 

 ふと、甜花とカホの真横を颯爽と駆け抜けた、高速の黒い物体。

 

「……え?」

 

 ふと、甜花は覚えのある匂いを嗅ぐ。たくさんの木の実の匂い。たくさんの鉱石の匂い。大崎甜花は、その特徴的な匂いを持つポケモンを────知っていた。

 

「ゴォオオオオオオ────ンンン……ベェエエエエエエ!!!」

 

 刹那、炎の石を丸呑みにしたポケモンは、その右腕に火を灯し、ダイノーズめがけて炎のパンチを繰り出す。すると絶壁全体に大規模な亀裂が迸り、圧倒的な衝撃によって地響きが発生。

 

「D────Nッッッ!?」

 

 ダイノーズの岩石の胴体に激烈なヒビが入り、その眼球が一気に裏返る。

 次の瞬間、おつきみ山を構成する地肌は、圧倒的な拳の一撃で────完膚なきまで砕かれた。

 

『……っ!?』

 

 ガラガラと轟音を立ち上げて崩れ去る絶壁。粉々に砕かれた山肌は、豪快な土砂崩れを起こして豪雨の如く降り注ぐ。同時に刳り貫かれた外への穴。陽の光が入り込み、彼女たちの眼前に見渡す限りの湿地帯と黄金の大草原が目に映る。だが、天井から降り注ぐ土砂の中を突っ切って、刳り貫かれた穴から外の世界に脱出することは不可能に近い。飛び込んだところで土砂崩れに巻き込まれ、生き埋めになる未来が見えている。それでも決死の覚悟で飛び込まなければ、どのみち滝の下に落ちてしまう。

 

 そのため甜花とカホは、繋いだ両手をしっかりと握り────

 

「カホちゃん……!」

「はい! せーのっ!」

 

 ────滝の終点。一歩踏み外せば奈落の底。まさにギリギリの地点で、二人は跳躍した。

 

「っ……!」

 

 だが、滝と断崖までの距離は十メートル前後。その距離を飛び越えるのは、人間の身体能力では無謀と言えよう。

 

「カホちゃん!」

「え────?」

 

 それゆえ甜花は、躊躇なく背中を押した。

 カホの背中を押して、少しでも彼女が前に進めるように────

 

「て、甜花さん……!?」

 

 甜花の手助けを得たカホはギリギリで断崖の端に着地する。膝小僧を擦りむきながらも、カホは間髪入れずに起き上がり、頭上から降り注ぐ岩石なんて意に介さず咄嗟に振り返った。

 

「甜花さ────!」

 

 その時には、もう。

 甜花の茶色い髪の先端が、断崖より下に見切れていた。

 

「甜花さ──んっ!?」

 

 次の瞬間、カホの真横を黒い物体が疾走する。

 そのポケモンは崖の下に手を伸ばすと、すぐに何かを掴んだようだった。

 

「──……ッッ!!」

 

 直後、頭上から迫り来る轟音に総身を震わせたカホは、山の斜面を仰ぎ、絶句する。

 木々と岩石、土と砂。あらゆるものを巻き込んでなだれ込んでくる、おつきみ山の土砂崩れ。

 

 ──これに巻き込まれれば、もはや助かる見込みはない。

 甜花とカホは、滝の下に落ちる事を回避しようと、絶壁に穴を開けようとした。しかし穴を開けるどころか……とある黒いポケモンは、山全体を切り崩す大打撃を与えてしまっていた。

 

「……っ!」

 

 頭を抱えるカホは恐怖により身が竦み縮こまる。これから自分たちは、迫り来る土砂崩れに呑み込まれてしまう。その事実を受け入れて、訪れる“死”を認めざるを得ないと────。

 

「────、……。」

 

 その時、おつきみ山の空洞から一拍遅れて脱出した、一匹の黄色いポケモンがいた。

 彼は溜めに溜めた電気を身に纏い────今ここに、万物を打ち砕く雷撃を爆発させる。

 

「ロォオオオオオ────────トォオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 鼓膜を突き破る大放電。その雷鳴はハナダシティまで轟くプラズマの咆哮。莫大な電撃は岩石を砕き、木々を切り裂き、強力な磁場の障壁を作って土砂崩れを塞き止める。

 

「……え……?」

 

 だが、その電撃も十数秒で力尽きる。その前に土砂崩れから逃げなければならない。

 

「ゴン……」

「あ、ありがとう、ゴンベ……」

 

 カホの目の前で、断崖の下から甜花が現れた。ゴンベに腕を掴まれて引っ張り上げられた甜花は、息も絶え絶えに地上へ生還し、頭上で土砂崩れを塞き止めるロトムを見るなり走り出す。

 

「て、甜花さん……! よかった、生きてて……っ!」

「カホちゃん! 早く逃げよう……! ──むーちゃん! もう少し頑張って!」

 

「ロトォオオオオオオオオ!!」

 

 圧倒的な電撃を迸らせるロトムは、甜花たちに危害を加える障害物を全て切り裂き、砕き割り、焼き滅ぼす。

 その間にカホの手を引いて走る甜花は、穴をくぐって併走するゴンベに指示を飛ばす。

 

「ゴンベ! むーちゃんが力尽きたら、地面を思いっきり殴って隆起させて! それで土砂を塞き止めるの……!」

「ごん────!」

 

 そう言った矢先、ロトムのパワーが途切れた。

 再度迫り来る土砂崩れ。立ち止まったゴンベは振り返り、およそ一匹のポケモンがどうこうなる自然災害ではないというのに────

 

「ゴォオオオオ、ンッ! ……ベェエエエエ────!」

 

 水の石を丸呑みにするなり、圧倒的な膂力で大地を叩き割った。

 次の瞬間、地割れを引き起こす殴り込みの衝撃で、地下の水脈が破裂したのか、地中から膨大な噴水が立ち昇る。やがてその水流は土砂崩れと合流し、大規模な洪水となってゴンベを呑み込んだ。

 

「て、甜花さぁああん! あのゴンベ、力加減間違えて、さらに被害拡大させてまぁああす!?」

「……!? ……っ!! !?!?」

 

 一難去ってまた一難。訪れた事態は、まさに────絶体絶命の一言。

 水の力を受けて更に勢いを増した土砂崩れが、甜花とカホに襲いかかる。

 

『きゃあああああ────!?』

 

 少女ふたりの甲高い悲鳴。

 それと同時に────不思議と涼やかな声色が、轟音の中で響き渡った。

 

「ドダイトス……ハードプラントで、ございます……」

 

 甜花とカホの背後から根太い樹木が生え伸びる。その樹木は一本だけにあらず、百数本もの樹木となって複雑に絡み合い、ほんの一瞬で大規模な森林を形作った。森林に塞き止められる形で、圧倒的な土と水の土砂災害は完全に勢いを失い、沈黙する。

 

「……っ! はぁ、はぁ、はぁ────うぅ……こ、怖かった……」

「も、もう……ダメかと、思いましたぁ……」

 

 背後から迫り来る土砂災害が収まった事を確認するや、甜花とカホは腰を抜かしてへたり込む。服はずぶ濡れ。脚は擦り傷だらけ。全身は泥だらけ。もはや満身創痍の二人は互いの体に寄りかかり、いっときの休息を得る。

 

 ──しかし、いったいなぜ自分たちは助かったのか?

 

 募る疑問はあれど。

 とにかく甜花とカホは、自分たちが生きている実感を噛み締めていた。

 

「…………」

 

 やがて二人の耳元に──コツ、コツ──と、誰かの足音が近づいてくる。

 その足音は前方から。おそらく草タイプの中でも最強の技『ハードプラント』を使って甜花たちを助けてくれた人物。

 

 命の恩人たる人物の顔を確認してお礼を言おうと、疲れきった様子の甜花とカホは面を上げる。

 

「────へ?」

 

 そこで、甜花の思考はフリーズした。

 一方のカホは、礼儀正しくお礼を言う。

 

「あ、あの! 助けてくれて、ありがとうございますっ! おかげで助かりましたぁ……!」

「いえ……大事がないようで……何よりです……」

「あの、私の名前はカホって言います! こちらは甜花さん! それで……あなたのお名前は?」

 

 名を問われた人物は着物の裾を正し、丁寧に会釈する。

 

「モリノ リンゼと……申します……」

 

 とても落ち着いた物腰の美少女。

 そんな彼女を見て、思わず甜花は呟いた。

 

「……凛世、さん……」

 

 青い着物。ゆったりとした含蓄ある喋り方。そのどれもが自分の知る社野凛世と瓜二つ。しかしカホやチユキの件を考えると、やはり別人なのは分かりきっていること。そのため甜花は、すぐに『リンゼ』と『凛世』は別人だと割り切り、初対面の挨拶を交わす。

 

「あ、えと……本当に、助けてくれて……ありがとう、ございました……」

「いえ……この戦場ヶ原で修行していたら……突然、土砂崩れが起き……必死にこちらへ逃げてくる人影が見えたもので……慌ててハードプラントを……。こちらこそ……声掛けもせず、いきなり技を使用してしまい、申し訳ございませんでした……」

 

 確かにハードプラントは扱いが難しい究極技。下手をすれば甜花とカホも巻き込まれていた。しかし目の前のリンゼというトレーナーは、扱いが難しい筈のハードプラントを巧みに操れていた。それだけで、彼女が途轍もなく強いトレーナーである事が分かる。

 

「……ロトォ! ロトロトォ……!」

「あ、むーちゃん……!」

 

 空から追いついてきたロトムは、甜花が無事だと知り、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「むーちゃん。ありがとう……もしむーちゃんがいなかったら、たぶん甜花たち……土砂崩れから逃げる前に、断崖のところでぺしゃんこだったと思う……」

「ロトォ!」

 

 お礼を口にした甜花は、ロトムをボールに戻す。

 その時、リンゼが声を掛けた。

 

「あの……もしよろしければ、ハナダシティまで案内いたしますが……」

「えっ! ホントですかぁ!」

「えぇ……その汚れた姿のままでは、風邪を引いてしまいます……」

「それじゃあ、よろしくお願いします! 甜花さん! リンゼさんに付いて行きましょう!」

 

 リンゼとの同行を勧めるカホ。

 それに頷く甜花は、しかし残された問題を口にする。

 

「う、うん……できれば、そうしたいけど……でも甜花、もう……歩けない……」

「あ……そういえば、あたしも……もう疲れすぎて動けませんでしたぁ……」

 

 ぐったりと疲れ果てる甜花とカホ。

 その様子を見たリンゼは、ドダイトスに目配せする。

 

「ならば……ドダイトスの背中に乗る、というのは、どうでしょうか……?」

「ドダァイ!」

 

 甜花とカホの前で低く屈んだドダイトスは、甲羅の上に乗れと鳴き声を上げる。

 

「え……いいんですか……?」

「ドダイトスの背中の木……寄りかかったら、気持ちよさそう……」

 

 少しの遠慮を見せるカホに対し、眠たげな眼をする甜花は、ドダイトスの背中に登る。

 そしてドダイトスの宿り木に腰掛けた二人は、瞬く間に寝息を立てて熟睡してしまった。

 

「……ふふ。それほどまでに……大変な冒険をこなしてきたのでしょう……」

 

 ひと目で甜花とカホの強さを見抜いたリンゼは微笑む。そして彼女とドダイトスは、眠りに就いた二人を起こさぬよう、なるべく静かにハナダシティへ向かった。

 

   ◇

 

 一方その頃。

 ハードプラントと水気のある土砂崩れに挟まれた中で、一匹のポケモンが顔を出す。

 

「ゴンッ……!?」

 

 ──危うく生き埋めになるところだった。

 そんな顔で九死に一生を得た事を実感するゴンベは、ふと辺りを見渡す。

 

「……ゴン?」

 

 そこでゴンベは、また甜花たちに置いてけぼりにされた事を悟った。

 

「……ゴン……」

 

 実はゴンベは、甜花がおつきみ登山を開始した時から、彼女の後を追っていた。ついでに大事な戦力となる進化の石や木の実を拾ったりしながら、甜花の匂いを辿って山を登っていた。しかし、あともう少しで合流できるところで突然の地震に見舞われたゴンベは甜花の匂いを見失う。だが、暫くして甘い香りが漂ってきて、急いで匂いの元を辿っていくと、崩落した山道を見つけた。

 ──この穴の下に甜花がいる。

 そう確信したゴンベは迷いなく飛び降りて……あとは知っての通り。二人のピンチを救ったのも束の間、加減を間違えて再度二人をピンチにさせてしまった。そして土砂の中から脱出した頃には、また置いていかれてしまっていた。

 

「ゴン……!」

 

 だんだんムカッ腹が立ってきたゴンベは、改めて甜花の追跡を再開する。

 しかしゴンベは何故そこまで、大崎甜花を追い求めているのだろうか。……その理由は至極単純。トレーナーを選ぶポケモンが、そのトレーナーを追いかける理由は────決まっている。

 

 その強さを、心の底から認めているが故に。

 

   ◇

 

 おつきみ山の地震。そこから端を発したゴンベのパンチによる土砂崩れと地下水脈の破裂による洪水。そしてハードプラントによる樹木林の生成。そのすべては高レベルのポケモンたちによって引き起こされた天変地異。

 

 ほんのひと時で湿地帯がジャングルに様変わりした光景を眺める男が、つと呟く。

 

「まさか、おつきみ山に眠る磁場エネルギーの実験によって暴走させたジバコイルとダイノーズが、あのような少女たちに撃破されるとは……これはサカキ様に報告するべきか……」

「バババッ!」

 

 忍装束の男の肩に乗るゴルバットが、翼を羽ばたかせながら鳴き声を上げる。

 

「お前もそう思うか。ゴルバットよ。……あの者たちは強くなる。今以上に……恐ろしくなるほど。──だが、その頃にはもう、我らロケット団は高みに至り、彼女たちは障害にすらならないだろう」

「ババッ! バッ!」

 

「だが、危うき芽は摘んでおくに越した事はない。おつきみ山でのデータは取れた故、次の任務に移る。そこでは十中八九、あの髪の長い小娘と戦う事になるだろう……そこで実力を確かめる」

「ババババッ!」

 

 刹那、音もなくその姿をかき消した忍者は、いつの間にかゴルバットに腕を掴まれて空を飛んでいた。戦場ヶ原を越えて彼らがゆく先は、タマムシシティの方角だった。

 

   /了

 




《手持ち》
 むーちゃん/ロトム。
 タマゴ(白と青まだらの模様)

《旅の仲間》
 コミヤカホ。マメマル/ガーディ。
 ゴンベ。

《所持品》
 寝巻き。
 所持金2000円。
 軽量テント。

《大切なもの》
 デビ太郎のぬいぐるみ。
 スマホ型ポケモン図鑑。
 ゴンベが捨てた炎の石。
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