大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第17話 vsカスミ! 泡蛙・水遁螺旋丸!!

 早朝のハナダジム。

 ゲーム画面で見る馴染み深い施設に入場した甜花たちは、四角い施設の内部の大部分がプールになっている事に目を見張る。プールの至る所には円形の台が浮かんでおり、そこが足場になるようだ。

 そして自動ドアを通ってきた甜花の目の前には、トレーナーが立つフィールドの白線が敷かれており、プールの向こう側では、これから対決するジムリーダーが両腕を組み、仁王立ちをかましていた。

 

「ハナダジムにようこそ! 私の名前はカスミ! 水タイプのエキスパートよ!」

「……!」

 

 突然の挨拶に驚く甜花は、数秒の間を置いたあと、カスミが自己紹介を待っている事に気づき、慌てて名前を言う。

 

「あ……て、甜花は……マサラタウンの、大崎甜花、です……! き、今日は……ジムに挑戦しに来ました……! よ、よろしく……お願い、します……!」

 

 緊張するあまり最後は尻すぼみの小声になってしまったが、きちんと甜花は挨拶する。

 それに応えるように、カスミはウインクしたあと、いい笑顔で親指を立てた。

 

「OK! 貴女が甜花ね! チユキさんから話は聞いているわ。彼女からは“手加減なしでお願いします”って言われているから……本気の本気で容赦はしないわよ!」

「……っ!?」

 

 どうやらチユキとカスミは、同じジムリーダーとして交流があるらしい。

 甜花の事を聞き知るカスミは、淡々とジムバトルの条件を口にする。

 

「使用ポケモンは3体! バトル形式はダブルバトル! 使っていい道具はお互いに元気のかけら1個のみ! あ、それと誤解がないように言うと、持ち物に制限はないから安心して! そして、私が見定めるトレーナーの能力は、如何に巧みにダブルバトルをこなせるかどうか! 道具の使い方は二の次だけど、しっかり査定するから気を引き締めなさい! ……ところで、貴女の手持ちが2体以下の場合、そもそもバトルは受け付けないから、その辺りはごめんね~!」

「……! ……っ!?」

 

 流れるようなジムバトルの査定と条件の説明。

 その話を聞いた甜花は、自分のペースでひとつひとつ、頭の中で処理していき、自分の手持ちがロトムとアメモースしかいない事実に気がついた。

 

「……あぅ……ど、どうしよう……甜花、ポケモン……二匹しかいない……」

「それなら、またあたしのマメマルを貸しましょうか?」

「しかし、相手は水タイプ……リンゼのポケモンでよければ、どうぞ……」

 

 自分のポケモンを貸す気でいるカホとリンゼの優しさ。

 その気持ちに甜花は礼を言い、ガーディ、ポッチャマ、ドダイトスの中から一匹を選ぼうとする。

 

 その時、甜花たちの背後で自動ドアが開かれる。そこには、ずぶ濡れ泥だらけのポケモンが立っていた。

 その姿を見た甜花とカホは、またしても現れた最強のポケモンの登場に、あっと驚く。

 

『あ……! ご、ゴンベ……!?』

「ゴンッ……!」

 

 刹那、甜花に向かって駆け出すゴンベ。

 その眉間にはシワが寄っており、なにやら怒っている様子。

 

「ひゃう……!?」

 

 思わず怯えてしゃがんだ甜花。その頭上を飛び越えたゴンベは、豪快な飛び込みで尻からプールにダイブした。立ち上がる水しぶき。黒い体毛から流れる茶色い泥。一瞬にしてプールの半分が濁り、カスミがキレ気味に叫ぶ。

 

「あーっ! ちょっと! そこのゴンベ! なにプール汚してんのよー!? 掃除が大変じゃない!」

「────……ご~ん……」

 

 極楽極楽と言いたげにプールを漂うゴンベは、ずぶ濡れ泥だらけの体が綺麗に洗い流された事にご満悦の様子で、好き勝手に青いプールを汚していく。

 

「なっ……あのゴンベ、私を無視してる……! ちょっと! そのゴンベ、もしかしなくても貴女のポケモンよねー!?」

「え……! あ、ち、ちが……」

 

 甜花は否定しようと首を横に振る。ならば誰のポケモンかと、カスミは同行者二名を一瞥するが、カホもリンゼも違うと首を振る。

 

「え……それじゃあ、そのゴンベはなんなのよー! まさか野生のポケモン!? なら、とっとと追い出して……────」

 

 ふと、プールが汚された事に激昂していたカスミは、突然黙り込む。

 同時に考え込む表情で、独り言を呟き始めた。

 

「……あれ? そういえば昨日チユキさんから……「もし野生のゴンベが現れたら、甜花ちゃんのポケモンとして扱ってあげて」とかって、言われていたような……」

 

 喉を唸らせるカスミは懊悩しているのか、何かを決め兼ねる。

 

「え~、でも……いくらチユキさんのお願いでも、正直なところ野生ポケモンを手持ちにカウントするのはルール上無理があるというか……ポケモン協会の報告書になんて書けばいいのか分からないし……。────って、それならゲットしてもらえばいいじゃない。

 ねぇ! そこの貴女! 手持ちが足りないなら、そこのゴンベを捕まえたらどう!?」

 

 ブツブツと呟いていたカスミは、急に甜花へ呼びかける。

 一方、その提案を耳にした甜花は、ちょうどプールから上がってきたゴンベと目を合わせた。

 

「……あ、そうだ……ゴンベ……昨日は、お礼、言い忘れちゃったけど……おつきみ山で助けてくれて、ありがとね……?」

「……ゴン」

 

 ゴンベと同じ目線になるため、甜花は膝をつき、しゃがみこむ。

 対するゴンベは視線を逸らし、これからバトルする気満々なのかカスミを睨みつけていた。

 

「それで、えっと……もしかしてだけど……甜花たちに、ついて来たの……?」

「ゴン……!」

 

 背中で頷くゴンベ。

 その力強い首肯に驚いた甜花は、ならばとリュックサックからモンスターボールを取り出す。

 

「そ、そっか……じゃあ、ゴンベ……あの……このジムね? 3匹のポケモンを持っていなくちゃ、バトル、できないんだって……だから、ゴンベ……甜花の仲間に、なってくれないかな……?」

 

 やや遠慮がちに訊いた甜花は、ゆっくりとボールを持つ右手を、ゴンベの背中に近付ける。

 

「……ゴン?」

 

 対するゴンベは、甜花が何を言っているのか分かっていないのか、首をかしげて振り返った。その時、甜花のボールとゴンベの腕がぶつかり、ボールの中に吸い込まれたゴンベは捕獲判定に入る。

 

 固唾を呑んで見守る甜花たち。

 しかし次の瞬間、一回も揺れる事がなかったモンスターボールから飛び出したゴンベは、眉間に二つ以上のシワを寄せて、

 

「ゴンッ!!!」

 

 容赦なく、自分を捕まえようとしたモンスターボールを──バギッ──と踏み潰した。

 

『────え?』

 

 呆然とする甜花とカホとカスミ。リンゼも驚いた様子で静かに目を見開いている。

 

「ゴン! ゴゴゴン!! ベェエエ!!!」

「え? えぇ……!?」

 

 腹立たしげに当たり散らすゴンベ。

 それに戸惑う甜花は、完全に破壊されたボールを見つめて、なんで? と、ぼのぼの汗を流す。

 

「ゴォン! ゴォオオン!!」

「あ、ご、ごめんね……! 捕まえてほしく、なかったんだね……! ……も、もう、しないから……だから……怒らないで……ね?」

「──……ゴン」

 

 必要以上に怯えた様子の甜花を見たゴンベは、彼女は怒られる事に弱いのだと察し、とりあえず怒りを鎮めてくれる。それから気を取り直したゴンベは、ニビジムの時と同様、甜花の指示を待ち望み、カスミと対峙するように仁王立つ。

 

「あ……捕まえてほしくはないけど、甜花の命令は、聞いてくれるの……?」

「ゴン……!」

 

 どうやらゴンベは誰の手持ちにもなるつもりはないらしく、根っからの一匹狼気質であることが分かる。そんな孤高のポケモン・ゴンベの背中を見つめる甜花は、カスミに懇願する。

 

「あ、あの……! ゴンベは、野生のポケモン、だけど……バトル……許してくれますか……?」

 

 ロトムとアメモースにゴンベが加われば、少なくともポケモンの頭数は揃う。

 それについてカスミは、どこか諦めたように、溜息をつきながら頷いた。

 

「……はぁ。ボールに入る事を嫌うならまだしも、まさかモンスターボールを踏み潰すなんて……チユキさんが困っていた強い野生のポケモンって、あのゴンベの事だったのね……なんだか納得。────よし、それなら仕方ない! チユキさんのお願いもあるし、本来はダメだけど、特別にOKよ! そのゴンベを、一時的に挑戦者のポケモンと認めます!」

「……!」

 

 ジムリーダーの了解が得られた甜花は、近付いてきた審判の人から元気のかけらを一つ貰う。それから甜花とカスミは白線の内側に入り、カホとリンゼは観客席に移動した。

 

   ◇

 

 審判の人が、ルールのおさらいを叫ぶと同時にフラッグを掲げる。

 

「ルールは手持ち3匹によるダブルバトル! 使用可能な道具は元気のかけらひとつのみ!

 水タイプのエキスパートたるハナダジムのジムリーダー・カスミに対するは、

入手ジムバッジはひとつ・マサラタウン出身の大崎甜花選手!

それでは、いざ尋常に────────レディ……ファイト!!」

 

「GO! コダック! ケロマツ!」

「……コダァ?」

「ケロッ!!」

 

「いけ! むーちゃん! まーちゃん!」

「ロトォ!」

「モモーン!!」

 

 そして、甜花はポケモン図鑑をロトムとアメモースに掲げる。

 

 

 

全国図鑑:No.479 分類:プラズマポケモン 名前:ロトム

タイプ:でんき・ゴースト 特性:ふゆう

レベル:72

種族値:耐久C 攻撃C 防御B 特攻A 特防B 素早A

習得技:レベルアップで覚える技すべて(W◆Z×M○S▲N□√SBT)ロトトト(改竄済み)!)

持ち物:炎の石

 

全国図鑑:No.284 分類:めだまポケモン 名前:アメモース

タイプ:むし・ひこう 特性:いかく

レベル:32 15

種族値:耐久C 攻撃D 防御D 特攻A 特防B 素早B

習得技:レベル32まで覚える技すべて

持ち物:なし

 

 

 

 一瞬、ロトムの習得技に砂嵐が走ったが、その不可解な現象に甜花は気付かない。

 

(うわ……! まーちゃん。すごいレベルアップしてる……これなら行けるかも……!)

 

「ケロマツは前に出て、コダックは後ろに下がって! いつもの陣形で行くわよ!」

「?」

 

 カスミの指示通り、挑戦者にとって前門のケロマツ、後門のコダックとなった二匹のポケモン。その布陣に首をかしげる甜花に対し、カスミは余裕綽々と説明する。

 

「言っとくけど、私はケロマツしか使わないわ。こいつを倒したら、次はコダックが相手よ」

「えっ……! で、でも、ダブルバトルじゃあ……?」

「あら? 私も舐められたものね。────手加減なしって、言わなかった?」

 

 甜花は熟考する。

 わざわざ二対一という不利な条件を自ら行うことは、手加減に当たらないのかと。

 

(……何か、狙いがある……?)

 

 甜花は訝しむが、それを考える時間はない。

 こちらにとって二対一は好都合。相手が策を打ち出す前に決着をつけるのみ。

 

「まーちゃん! 銀色の風!」

「モォ────ス!」

 

 歌を歌うような高音の発声。それと同時にアメモースの四枚羽がはばたき、鱗粉を乗せた銀色の風を送り出す。

 

「煙幕!」

 

 カスミの一声により、ケロマツの手から煙幕弾が放たれる。地面に投げつけられた煙幕弾は爆音を発し、瞬く間に黒い煙がフィールド全体を覆い隠した。しかし、その煙幕は銀色の風によって、容易く吹き飛ばされる。だが────

 

「──! ケロマツがいない!?」

 

 煙幕で覆われたフィールドから、ものの一瞬で姿を消したケロマツ。

 甜花は水中に潜んでいると見て、プールを覗き込む。

 

「────螺旋丸」

「────え?」

 

 カスミの呟き。それは甜花の知らない技名。否、その技名自体は知っているが、しかし────それは決して、ポケモンの技ではない。

 

「……」

 

 甜花の傍らに立つゴンベは腕を組み、静かに天井を見据えている。

 次の瞬間、キュルルルルル────という音が、天井から響いてきた。

 

『……!?』

 

 一同は頭上を仰ぐ。そこには、天井に両足をつけて逆さまに立つケロマツの姿があった。さらに両手には────螺旋を描く水流の弾丸が膨れ上がっている。

 

(あ、あれは……まさか……! だって、でも────“作品が、ちがう”!?)

 

 螺旋を描く青い球体。

 それを両手に収めるケロマツは────

 

「瞬身の術」

 

 ────天井に残像を残し、いつの間にかアメモースの真下に音もなく降り立っていた。

 

「そんな……! まーちゃん、躱して────!」

「アメモッ!?」

 

 躱せと命ぜられても、アメモースはケロマツの姿を見失っている。どこから来るのか、どう避ければいいのか、それが分からない者は、当然のように攻撃を受ける。

 

「水遁・掌底螺旋丸!」

「ケロォオオオオ!!」

 

 刹那、ケロマツの右手に回転する螺旋丸が、容赦なくアメモースの腹部に押し付けられた。

 

「アッ、アメモォオオオオオ────!?」

 

 螺旋を描いて吹き飛ばされるアメモース。瞬く間に甜花の頭上を通り過ぎ、壁に激突する。迸る亀裂と、撹拌された平衡感覚。その一撃でアメモースは、両目を回して戦闘続行不能となった。

 

「アメモース、戦闘不能!」

「──っ!」

 

 それは、あまりに突然の出来事。バトル開始から一分も経たず、アメモースは脱落してしまった。その敗因について、カスミは説明する気も起きないのか溜息をつく。

 

「はぁ……論外ね。まだアドバイスできる段階にも至っていない。それでよくチユキさんを倒せたものね」

「……!」

「さぁ、次のポケモンを出しなさい。そのゴンベなら、色々と教えてあげる事ができそうね」

 

 甜花はモンスターボールを取り出し、目を回すアメモースを回収する。

 

「お願い、ゴンベ!」

「ゴン!」

 

 待ってましたと言わんばかりに肩を鳴らすゴンベは、プールに浮かぶ台の上に飛び乗り、ロトムと肩を並べて強者たるケロマツを見据える。

 

「先手は譲るわ」

「……じゃあ、むーちゃん!」

「はい、そこで待ったぁっ!!」

『──!?』

 

 指示を出そうとした甜花の声を遮るように、カスミが怒号を張り飛ばす。

 それに驚く甜花たちは、黙ってカスミの発言に耳を傾けた。

 

「貴女ね、これがダブルバトルってこと分かってる?」

「……わ、わかってる、けど……」

「いいえ、ちっとも解ってないわ。それじゃあ聞くけど、貴女はさっきアメモースに指示を出したけど、ロトムには指示を出した? 出してないわよね。それってシングルバトルと何も変わらないじゃない。それについてどう思う?」

「……ど、どうって……」

 

 確かに1ターン前は、アメモースに指示を出した代わりにロトムは棒立ちだった。

 それについて甜花は、もちろんロトムにも指示を出したかったけど、『螺旋丸』やら『瞬身の術』やら、初めて聞く技名に戸惑って、それどころではなかった。

 つまり動揺こそが、アメモースを倒されてしまった原因だと、甜花は考える。

 

「……あ! あたし、分かりましたぁ!」

 

 その時、観客席からカホが身を乗り出した。

 

「甜花さん! 1ターン前のことを思い出してみてください! 実はカスミさんは、技を指示する時に“一度もポケモンの名前を呼んでいない”んですっ!」

 

「──!」

 

「そう! そこの赤毛の少女、正解! だから貴女は今すぐ、いちいちポケモンの名前を呼んでから技を指示するのはやめなさい。ダブルバトルはシングルと比べて展開が早い。それにトレーナーの口が追い付くためには、たった一声で命令を済ませなければならない」

 

「たしかに……ポケモンバトルだけでなく……より先手を制した者が、戦いに勝利する……」

 

「はい! そこの着物美人さんも正解! ……ただし、ダブルバトルやトリプルバトルにおいて、ポケモンの名を呼ばずに技を指示すると、ある特定の条件下で、手持ちの中で混乱が発生するわ。それは何故だと思う? どんな混乱が発生すると思う?」

 

 次々と質問するカスミは、言葉の中にヒントを隠す。

 しかし甜花は、なかなかカスミの言いたい事に気付けず、頭を悩ませる。

 同時に観客席の方では、カホも喉を唸らせていた。

 

「えーっと、混乱、混乱……う~ん……カスミさんは、何を言いたいんでしょう……?

 リンゼさん、わかりますか?」

 

「えぇ……多少は。おそらく────『螺旋丸』とは、水の波動の暗喩でしょう……」

 

「────暗喩? ……、……!」

 

 その時、甜花の脳裏に電流が走る。

 

「そ、そうか……! いまカスミさんが使っているポケモンは、ケロマツとコダック! もし二匹の名前を呼ばずに『水の波動』って命令したら、二匹は自分に向けて言ったのか、もう一匹に向かって言ったのか分からなくて、混乱しちゃう……!」

 

「そう! よく出来ました! 正解よ挑戦者! だから私は、ケロマツ専用の技名を用意したの。それが螺旋丸。ちなみに瞬身の術は、電光石火の言い換えよ」

 

 なるほど、と甜花の中で合点が行く。

 しかし同時に、新たな疑問が生まれた。

 

「でも……ケロマツの螺旋丸は、普通の水の波動じゃ、なかった……」

 

「えぇ。ケロマツには特別な修行をさせたからね。両手に水の波動を溜め続けて、それを螺旋回転させる。習得に一年以上掛かったわ。威力自体は水の波動と変わらないけど、命中した相手を混乱させる確率が飛躍的に上がっている。貴女のアメモースも体力的にはまだ戦えていたけど、螺旋丸によって平衡感覚を潰されて、戦闘続行不可となった。公式大会で眠り状態にされて負けと判定されるのと似たようなものね」

 

 つまり螺旋丸の直撃は、絶対に避けなければならない。一度でもモロに喰らえば、混乱して立ち上がる事ができなくなり、どれだけHPが残っていても、戦闘不能と判断される。

 

「……よく、わかった……アドバイス、ありがとうございます……!」

「いいえ、どういたしまして。貴女、とても教え甲斐があるわ。──それじゃ、いま言ったことを念頭に置いて、バトル再開よ!」

 

 バトルが再開する。その前に甜花は、一度頭の中を整理する。

 まず、カスミのアドバイスは二つあった。それを参考にする甜花は、自分なりに対策を考える。

 

 その1。トレーナーの口が忙しくなるダブルバトルで逐一ポケモンの名前を呼んでいたら指示が間に合わない。その忙しさを補うためには、おそらく視線や気迫、声の出し方で、どのポケモンに、どんな指示を出したのか、はっきりと伝える工夫が必要となる。

 その2。ダブルバトルでは同じ技を持つポケモン同士を混乱させないために、技名を変えるのも一つの手。例えば、螺旋丸は水の波動の言い換えである。また、その言い換えを知らない相手には意表を突く効果がある。

 

 そして次は、対ケロマツの考察。

 ケロマツが使う螺旋丸は、ただ水の波動を言い換えただけではなく、ある改変が施されている。本来は命中した対象の全身に効果を及ぼす水の波動。それを掌に集中させて対象の局部に打ち込む事により、きりもみ回転させて平衡感覚をめちゃくちゃにし、混乱発生の確率を飛躍させている。

 さらにカスミは、元々は水の波動のため威力自体は変わらないと口にしていたが、アメモースをボールに戻す時、明らかに彼女の腹部が螺旋状に抉れていた。そのダメージから察するに、全身にダメージを与える水の波動が、局部にダメージを与える螺旋丸に変わった事で、威力も向上していると見ていい。それはカスミが嘘をついていた訳ではなく、純粋に気が付いていないのだろう。

 カスミの狙いは、ケロマツに伝わる技名を習得する事であり、混乱確率の向上や威力の上昇は、たまさかの副産物で、二の次であった事が容易に窺えるからだ。

 

「……熟考は済んだ? なら────螺旋丸、絶」

 

「……!?」

 

 『絶』とは何か。甜花の頭の中で、それと対応しそうな技名が次々と通り過ぎる。だが敵は待ってくれない。今度は両手に二つの螺旋丸を生成したケロマツが突進してくる。

 

「ゴンベ!」

 

 ──迎え撃て! という意思を込めて、名を叫ぶ。

 それは、自らのポケモンを信じていなければ、互いに通じあえない言の葉。

 しかしてゴンベは、甜花の呼びかけの意図を汲み────

 

「ゴォン!」

 

 ────真正面から、ケロマツとぶつかり合った。

 

 刹那、右手の螺旋丸がゴンベを狙う。しかしゴンベはケロマツの右手首に左手の甲を押し当て、自らに被弾しない位置に右手の螺旋丸を移動させた。

 

「ケロッ!?」

 

 右手をいなされたケロマツは、ならば左手の螺旋丸を食らわせようと、空いた腹部に当てようとする。しかしゴンベはケロマツの左手の甲を右手で持ち上げて、一秒後にはケロマツの体が宙を舞った。

 

「け、ケロォオ!?」

「そんな! まさか────あれって合気道!?」

「……っ!?」

 

 驚愕するケロマツとカスミ。

 甜花でさえも、合気道を使うポケモンなんて見たことも聞いたこともない────と思ったが、そういえば合気道を使うマダツボミがいたことを思い出す。おそらくゴンベは、そのマダツボミかどうかは分からないが、一度合気道の使い手と手合わせをして、その技術を盗み取ったのだろう。

 

 突進するパワーを逆に利用されて投げ飛ばされたケロマツは、プールの台に背中を打ち付けて、螺旋丸を破裂させてしまう。抉られる土台と螺旋を描く水流の爆発。ケロマツは無傷で起き上がり、即座にゴンベから間合いを取る。

 

「電撃波!」

「ロトォ!」

 

 ──逃がすな! そんな意思を込めてロトムに命じる。

 するとゴンベより幾分か早い反応速度で、ロトムの全身から電撃の波が迸る。

 

「纏」

 

 刹那、カスミが命じる。

 すると“彼”はいつの間に、ケロマツと電撃波を挟む位置に立っていたのか。

 

(そんな────絶と纏って……っ!?)

 

 気配を断ち、フィールドを散歩していたコダックは、自らが遮蔽となり電撃波を身に浴びた。

 

「コダァアア!? ────……コダ?」

 

 効果抜群の技を浴びたコダック。しかし彼は平然と、その場で首を傾げていた。

 

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