大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第18話 vsカスミ! 家鴨・頭痛念能力!!

「知ってた? エスパータイプやゴーストタイプのポケモンは、念能力という技を使えるのよ」

「そ、そんな……」

 

 ──作品が、違う。

 だが認めるしかあるまい。このゲームの世界では、もはやいかなる設定が導入されていても、おかしくはないのだと。

 

「ちなみに絶は、気配を断つ技。纏は、全身にオーラをまとって防御や特殊防御を上げる技。この念能力のせいで、一時期はエスパータイプ最強説が流れたけど……今は別にそうでもないわね」

「え? それは、なんで……?」

「それは、まぁ……貴女もポケモンリーグに出場するレベルになれば、自然とわかるわよ」

 

 視線を逸らすカスミは、わざとらしくはぐらかす。

 その時、観客席からカホが身を乗り出した。

 

「いいえ! 甜花さん! 甜花さんは、今すぐにそれを知る必要があります! それは、きっと、カスミさんは────『凝』が使えます! つまりカスミさんも、念能力者なんですっ!」

「え……えぇ……!?」

 

 驚く甜花に向けて、リンゼも補足する。

 

「はい。実はリンゼも四大行は習得しております。エリートトレーナーと呼ばれる者は往々にして、エスパータイプやゴーストタイプのポケモンから、念能力を教わっている者がほとんどです」

「あら、けっこうレベルが高いパーティーだったのね、貴女たち。──そうよ、私は凝が使える。といっても、私はまだまだペーペーの新米。それに念能力を極めるつもりも、あまりないわ。ただエスパータイプやゴーストタイプの対策のために習得しただけだからね」

「そ、そうなんだ……」

 

 この世界では、ポケモンだけでなく、人間も念能力を習得できる。そもそも念能力の原作は人間が活躍するジャンルであるため、そう驚くことは何もない。つまりカスミが口にした“エスパータイプ最強説”が、特別そうではなくなった理由は────

 

「人間が念能力を習得できるなら、炎タイプや水タイプとか、それ以外のタイプのポケモンにも、念能力を教えることができるようになったから……」

「正解! でもまぁ、これはエリートトレーナーだけの秘密にしてね。あまり一般に浸透すると、色々と面倒だから。もちろん念能力を公表するとポケモン協会から罰則が来るわ。気をつけてね」

「う、うん。わかった……。──でも、甜花はまだ、エリートトレーナーじゃないのに……なんで、教えてくれたの……?」

「あら。教えて欲しい? それはね────見込みがあるからよ。『オオサキ テンカ』のドッペルゲンガーさん?」

「──っ!?」

「オーキド博士から話は聞いているわ。彼女は先代ハナダのジムリーダーをあっさり倒したあと、カントーの全ジムバッジを集めて、旅立ってからたったの三日で第七回ポケモンリーグを優勝した。それも10歳という若さで。その後、行方をくらませているわ。そして彼女と戦ったトレーナーは、口を揃えて皆こう言う。────『彼女ほど最強の座に相応しいトレーナーはいない』────ってね」

「…………」

「おっと、ごめんなさい。無駄話が過ぎたわね。バトル再開よ。もちろん先手は譲るわ。ちなみに、こっからスピードをガンガン上げていくから、きちんと付いてきなさい?」

 

 オオサキ テンカに関する情報。

 それについて気になる事は多々あるが……今はとにかくバトルに集中する。

 

「────身代わりなしの放電! ケロマツに雷の石!」

 

 抽象的な命令。その意図を汲むためには、知能の高いポケモンでなくてはならない。

 そして甜花は運が良かった。ロトムとゴンベは、人間並みの知能を持つ。

 

 彼女の言いたい事を察した二匹は、

 かたや、仲間への巻き添えも辞さず放電を始め、

 かたや、相手を一撃で殴り倒す雷の拳を溜める。

 

「身代わりなしの放電ってなに!? あぁもう────絶で後退! 水遁・水龍弾の術!」

 

 後退しながら気配を断つコダック。同時にケロマツの両手から膨大な水流が渦を巻き、龍の顔体を象る。

 

「道を切り開け、むーちゃん!」

「ロトォオオ!」

 

 名を呼ぶ事により、その期待に応えようとするポケモンは、限界を超えたパワーを生み出す。

 

 フィールド全体に迸る放電。

 鋭い電撃に身を切り裂かれる水の龍。

 

「瞬身の術!」

「ゴンベ!」

 

 離脱を図るケロマツ。

 それを逃してなるものかと────

 

「ゴォオオオン!!」

 

 ────水龍を切り裂く大放電の中心部から、その身を帯電させるゴンベが現れた。

 

「なんですって!? あれほどの放電を受けて無傷!?」

「ケロォオオオ!?」

 

 雷の石のエネルギーの五割を守りに当てていたゴンベは、残り二割を右手に込めて、一撃必殺の雷パンチを繰り出す。しかし敵は電光石火の速さで離脱している。それに追い付くためには、残り三割を足に込めて、雷速の足運びを披露する。

 

「ゴォオオオオオン!!」

 

 イカヅチのごとく疾走し、標的の懐に潜り込んだ瞬間、ひねりを加えてぶち込まれた雷の拳骨。

 

「ゲロォオオオオオガッ!!?」

 

 身を引き裂く電撃と雷鳴。メリメリと音を立てて渦を巻くケロマツの腹部。

 

『────!?』

 

 やがて大放電が収まり、水龍の勢いが途切れてフィールドに雨が降る。同時に右腕を振り切ったゴンベ。次の瞬間、カスミの真横を青い身体が豪速球で通過し、壁に激突して亀裂を走らせた。

 

「ケロマツ!?」

 

 振り返るカスミ。

 その視線の先には、目を回して壁に背を預けるケロマツの姿があった。

 

「……け、ケロマツ、戦闘不能!」

「やったぁあああ!」

 

 観客席から湧き上がる一人の歓声と一人の拍手。

 振り返ったロトムとゴンベに対し、甜花もガッツポーズで──よくやった──と賞賛する。

 

「ロトッ!」

「ゴンッ!」

 

 初めは慣れないダブルバトルだったが、徐々にコツを掴んできたのか。

 自信がついてきたロトムとゴンベは、次なる強敵を待ち構える。

 

「戻って、ケロマツ。よくやったわ。……さて、こっからが正念場よ。覚悟なさい?

────行って! ギャラちゃん!」

「GAAAAAAAAAA────!!!」

 

 カスミの最後の手持ちはギャラドス。

 その体の色を見て、観客席から声が上がる。

 

「あ、あれは……!」

「赤い……ギャラドス……」

 

(うわぁ! こ、怖い……! ……でも、色違いのポケモンだ……かっこいいな……。

────でも、それ以上に……なにか……なにか、嫌な予感がする……)

 

 珍しい色のギャラドスを見て、その威容に恐怖とかっこよさを感じる甜花だが。同時に悪寒が背筋を走り、やけに冷や汗が止まらない。それはギャラドスの見た目と、突然の咆哮に驚いたこともあるが────

 

(なに……? なんで、こんなに“怖い”って思うの……?)

 

 甜花の中では、なにか言い知れぬ恐怖が渦巻いていた。

 

「……危機感知能力は、まずまずってところかしら。でも安心して。貴女がコダックを倒すまで、この子は動かない。実を言うと、私のポケモンたちってダブルバトルに向かないのよね。みーんな好き勝手に行動するから……まったく。なんでハナダジムがダブルバトル担当なのよ……もう」

 

(あ……だからカスミさんは、二対一を望んだんだ……)

 

 ケロマツもコダックもギャラドスも、協調性を知らない個人主義者。故にこそカスミは、無理やり連携を取らせることより個々人の行動を尊重した。それもまた一つの策。だが、それならば何故バトル形式をダブルにしたのだろうか。そんな疑問が残る。

 それはおそらく、一つ一つのジムには挑戦者を育てるためのカリキュラムがあり、ニビジムならポケモンの交代、ハナダジムならダブルバトルと、あらかじめポケモン協会に戦い方を制定されているのだろう。

 

「それじゃあ、行くわよ。──水の波動」

 

「──!?」

 

 甜花は戦慄を覚える。

 

(そんな、フィールドのどこにも……コダックが、いない!?)

 

 水の波動の発射音が響く。音の出処はフィールドの端。狙いはゴンベ。

 

「ゴンッ!?」

 

 狙撃に気付くのに一拍遅れたゴンベは、放射状に打ち出された水の直撃を受けざるを得ない。

 

(躱せない……!?)

 

 だが、その時────ゴンベと水の波動の間にロトムが躍り出た。

 

「ロトォ!」

 

 水の波動の直撃を浴びるロトム。

 一方、カスミは凝で何を見たのか、口をあんぐりと開けていた。

 

「な……なんですって? あのロトム、今……」

 

 ──両目に、透明色のオーラを宿していた。

 

「……そう。今まで、力を隠していたってわけ……」

 

 カスミの瞳の奥に、本気の闘志が生み出される。

 

「むーちゃん!」

「ろ……ロトォ!」

 

 ロトムのダメージは軽微。混乱も免れたのか、大丈夫だとプラズマの手を振る。

 一方、庇われたゴンベは、特に礼を言う素振りも見せず、コダックを注視していた。

 

「──絶!」

 

 カスミが命じる。後退するコダックの姿が、甜花たちの目で判然としなくなる。

 だが、次の瞬間────

 

「ゴンッ!」

 

 ────ロトムに向かって何かを伝え、ゴンベが走り出した。

 

「ゴンベ!?」

「ろ、ロト……!?」

 

 ロトムは何を言われたのか。

 彼は、念能力者にしか見えないオーラを目に宿し、凝を発動する。

 

「────ロトッ!」

 

 すかさずロトムは、フィールドの左端を指差す。

 彼の指示通りに走るゴンベは水の石を呑み込み、その両手に水の螺旋を描いていた。

 

「そんな、嘘でしょ!? あの技はケロマツの──っ! 発で対抗して!」

 

 絶を解除したコダック。彼は確かにロトムが指差した地点に立っていた。

 そしてコダックは、全身のオーラを口内に集約させて────

 

「岩をも穿つ、ハイドロポンプ!!」

「コダァアアアアアアア────!」

 

 ────ハイドロカノンに匹敵する……否、それより上回る水エネルギーを放出した。

 

 ゴンベの眼前に迫る究極の水力砲弾。その大技に対抗する為には、これしかないと甜花は叫ぶ。

 

(ゴンベなら、きっと、やってくれる……!)

 

「──水遁・大玉螺旋丸!!」

「ゴンッ!」

 

 ──相手の技を完全にコピーし、かつ、その威力を拡大させろ!

 そんな意思を背中に受けたゴンベは、指揮官の望み通り、大技を打ち出す。

 

「ゴォオオオオオオオオンッ!!!」

 

 右手の螺旋丸が、わずかにケロマツのそれより大きくなる。だが、大きくすればするほど扱いが難しくなるのか、最終的な形は大玉とは言えず、中型の大きさでハイドロポンプと激突した。

 

「──充電!」

 

 その指示は、同時に二匹のポケモンに送る命令だった。

 ──ロトムは、ゴンベが耐えている間に充電しろ。

 ──ゴンベは、ロトムが充電を完了するまで耐えていろ。

 

「ロトォオオオオオ!」

「ゴォオオオオオン!」

 

 その命令に応えようと、ロトムとゴンベは気炎を吐く。

 ロトムの全身にオーラが練られる。

 

 一方、激突するは水遁・中玉螺旋丸とハイドロポンプ。

 ゴンベとコダックの足元にある台に亀裂が走り、隙間からプールの水が噴出する。

 

『────っ!?』

 

 技の応酬は、接触点の爆発で決着がついた。

 

「ごんっ……!?」

 

 かなりの威力で吹き飛ばされたゴンベは一回水面を跳ね、二回目でプールに没する。

 一方のコダックは、大技の使用で疲弊しており────

 

「今だ、電撃波!」

「ロトォオオオ!」

 

 ────圧倒的な雷電の波が、プールの水面を縦に切り裂き、コダックに襲いかかった。

 

「堅でガード!」

「こ、コダァ!」

 

 確実に命中するなら、当たっても砕けない硬さで防げばいい。しかしカスミは唇を噛む。彼女は知っていた。────ロトムが、練を使用していた事に。

 

「こ……コダァアアアアアアアアッ────!?」

 

 電撃の波状攻撃を浴びたコダックは、全身をプスプスと言わせて茶色く焦げ上がる。

 直立したまま白目を剥く。それを見たカスミは、無言でモンスターボールをかざした。

 

「コダック、戦闘不能!」

 

「やったー! あとはギャラドスだけですよ! 甜花さん!」

「ファイトです……」

 

 観客席からの声援。

 その時、プールから台にゴンベが上がってくる。

 

「ゴンッ……!」

「ロト! ロトロト!」

 

 会話をしているのか、自慢げにアピールするロトムと、気に食わないのかそっぽを向くゴンベ。

 

「……ふぅ。とうとうアンタを出す時が来ちゃったかぁ……仕方ないわね。こうなったら、もう全力の全力で、バトルを楽しみましょう?」

「GRuuuuuuuuuu……」

 

 赤いギャラドスは唸りを上げて頷く。

 次いでカスミは、懐から“凄そうな石”を取り出した。

 

(……!? あ、あの石は、まさか……!?)

 

 目を見張る甜花。

 対するカスミとギャラドスは目を伏せて、互いの心を通わせ合うように動きを同じくする。

 

「この力は、私にもよくわからない代物……でも、私とギャラちゃんの絆が、この圧倒的なパワーを生み出していることだけはわかる……さぁ、覚悟はいいかしら? ────水タイプのエキスパート・カスミは、今ここに破壊の龍神を呼び覚ます!」

 

 頭上に石を掲げたカスミは、解号を叫ぶ。

 

「強く雄々しく美しく! 私の青いスイートハート! アナタに見せるは新たなギャラちゃん! ────嘆け、巨大赤暴龍(きょだいせきぼうりゅう)────!!」

 

 ギャラドスの全身が発光し、施設全体を強い光で包み込む。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────!!!」

 

 耳を劈く大咆哮。眩い世界の中で、みるみるギャラドスの影が巨大化していく。

 やがて光が弾けると、甜花たちの眼前には────メガギャラドスが佇んでいた。

 

「えっ!? な、なんですかぁ、あのポケモンは!? あれ、ギャラドスなんですかぁ!?」

「驚きました……まだまだポケモンとは、奥が深いようで……」

 

 メガシンカについて知らないのか、カホとリンゼは驚嘆する。

 一方のカスミも、観客席の反応に同感の意を示していた。

 

「きっと、この力はフォルムチェンジに類似する能力なんだろうけど、やっぱり不可解ね。でも、そんなことは今どうだっていい。このバトル……勝つわよ、ギャラちゃん!」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAA────!!!」

 

(……っ!)

 

 ビリビリと全身が総毛立つ。彼女が感じていた違和感は、これで明らかとなった。それは本能的な恐怖。破壊の神と渾名されるメガギャラドス。その溢れんばかりのパワーを裡に宿していたギャラドスは、常に覇気を放っていたのだ。

 

 だが、ここで気圧されるわけにはいかない。

 冷静に徹して、甜花は考察する。

 

 おそらく、カホやリンゼ、カスミの口ぶりによると、彼女たちは“メガシンカ”の存在を知らない様子。つまりこの世界には、まだメガシンカの概念が導入しきっていないことになる。だが、なぜ中途半端な形でメガシンカの設定が適用されているのだろうか。

 それに関しては未知のままだが、ともかく────その無知こそが、攻略の糸口となるだろう。

 

「──破壊光線」

 

 メガギャラドスの口に収束する純粋なエネルギー。

 

(────っ!?)

 

 そのエネルギーから感じる波動は、ほんの一瞬でプールを蒸発させる威力だと感じ取れる。

 

「か、躱して! むーちゃん! ゴンベ!」

 

 否、不可能だ。あの破壊光線は────フィールドごと打ち壊す、暴力の具現であるが故に。

 

 

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────!!!!!』

 

 

 

 フィールドの中央めがけて発射された、極限のエネルギー放射。

 次の瞬間、その場にいた者たちの視界は真っ白に染まり、万物万象が消し飛ばされた。

 

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