大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第19話 vsカスミ! 凶悪・巨大赤暴龍!!

 音のない世界。否、キーン────という耳鳴りだけは聴こえている。

 

(──……っ!)

 

 ただ立っているだけでやっと。少しでもほかのことに意識を割けば、その意識を刈り取られる。

 

(────……っ!)

 

 歯を食いしばって耐えしのぐ。暴力的な向かい風の中で尻餅を搗き、地面を這って吹き飛ばされないよう身を屈める。

 その状態が、体感で数分は続いただろうか。

 

「────、……っ。……?」

 

 目を開く。その先には────プールという箱そのものを破壊し、その下にあった大地に十字の亀裂を刻み込んだ、赤い飛竜が睥睨していた。

 

「────っ!!?」

 

 恐怖で身が竦む。怖くて怖くてたまらなくなる。この場から逃げ出したくなる。眼前の存在は、絶対に人間が対峙してはならない、神の如し超越者である事がひと目で理解できる。

 

 ────ドサッ。甜花の傍らに何かが落ちた。

 

(──ッ!?)

 

 肩をびくりと反応させて、落下してきた物体に振り返る。

 そこには────その身を袈裟斬りにされたロトムが横たわっていた。

 

「む、むーちゃん……!?」

 

 目を回すなどというレベルではない。ロトムの体は、今にもちぎれかかっている。

 

「ど、どうしよう……そうだ! げ、元気のかけらを……!」

 

 懐から元気のかけらを取り出す。それをロトムの口に飲ませようとした、その時。

 

「冷凍ビーム」

「GAAAAAAAAAA────!!」

 

 間髪を容れず、追撃の光線が放たれた。

 

「ご、ごん……っ!?」

 

 破壊光線の直撃を避けたゴンベは、しかし余波だけでも満身創痍のダメージを負っていた。追撃を避けようと立ち上がる。だが、足に力が入らず膝をついてしまった。

 

「そんな、ゴンベ……!!」

「ご……ごぉおおおおおおお────……!? ……、────」

 

 冷凍ビームをモロに食らったゴンベは、その場で凍結し、氷像と化す。

 

「ゴンベ、凍結状態により戦闘不能!

 ……挑戦者、ロトムに元気のかけらを飲ませますか?」

 

「────え?」

 

 ……元気のかけらを飲ませたら、ロトムはメガギャラドスと戦う事になる。

 

(…………、────────)

 

 そんな無茶は、もう、これ以上、させられない。

 

 ロトムに飲ませようとした元気のかけら。

 それを持つ手が、徐々に落ちていく。

 

「……ろ、ろとぉ……っ!」

 

 その時、ロトムが訴えた。

 

「え……むーちゃん……?」

 

 呼びかけられた甜花は、ロトムを見下ろす。

 対するロトムは、まだ──諦めていない──と言いたげに、挑発的な視線を送っている。

 

「だ、ダメだよ、むーちゃん……! こんなケガじゃあ……負けちゃう……!」

「ろとぉ! ろと、ろとぉお……っ!」

 

 いいから飲ませろと、ロトムは暴れる。だが、既にその体は衰弱しきっており、ぐったりとプラズマの腕が倒れた。

 

「ほ、ほら……もう、休もうよ……じゃないと、むーちゃん……!」

 

 ──その時、甜花のポケモン図鑑が音を鳴らす。

 

(……?)

 

 おそらくロトムが電波を送ったのだろう。

 図鑑を開いて画面を目にした甜花は────

 

「…………、……むーちゃん……」

「ろとぉ……!」

 

 ────何を目にし、何を覚悟したのか。

 

「……ほんとに勝てると、思う?」

「ろとぉ!」

 

 ──当たり前だ!

 そんな意思を込めて、ロトムは甜花を叱咤した。

 

「……じゃあ、頑張らないと……甜花は、やれば、できる子だから……!」

 

「……大崎甜花選手がロトムに元気のかけらを飲ませたことにより、試合続行です!」

 

 フラッグが掲げられて、バトルが再開する。

 HPが半分回復したロトムは、しかし半目でふらついており、到底戦える状態ではない。

 その有様を見て、カスミは問いかける。

 

「本気なの? 私としては一度負けてもらって、念能力の修行をしてきてから再挑戦して欲しかったんだけど……」

「ううん……そんな時間は、甜花にない……甜花はすぐに────なーちゃんや千雪さんや、プロデューサーさんや283プロのみんなや、ファンのみんなのいる世界に……すぐにでも、帰らないといけないから!」

「ロォオオオオトォオオオオオオオオ!!!」

 

 一人と一匹は、覚悟の瞳を灯して猛る。

 

「……ひとつだけ、言いたいことが、あり、ます……」

「何かしら?」

「……その、メガギャラドスは────もう、負けている」

 

 大崎甜花による宣戦布告。

 その意気を買ったカスミは、ならば全力で叩き潰そうと技を叫ぶ。

 

「──そう。どうやらよほど痛い目を見たいようね! 相手との力量差を推し量れない者は強くなれないわ! それを思い知りなさい! 破壊────」

 

 キュイイイイイイイイン────と甲高い音を発して、メガギャラドスの口にエネルギーが収束していく。

 

「────っ!」

 

 その音にまぎれて、甜花は指示を飛ばした。

 

「────光線!」

 

 ロトムを狙った破壊光線。本来ならゴーストタイプにノーマル技の効果は薄いが、不思議のダンジョン形式のダメージ計算なら、圧倒的な力量差の前に大ダメージを受けてしまう。

 

「躱して!」

 

 仕事を果たしたロトムは、下手をすれば命を落とす砲撃を避けるため移動を開始。さらに甜花が巻き添えを食わないよう、なるべく自ら破壊光線に近付いて被弾した。

 

 ────再度、大地を割る爆撃と爆音が轟々と立ち上がる。

 

「────……っ!」

 

 バタバタと音を立ててたなびく衣服。呼吸すら阻害する強烈な暴風。その中で次の勝利を見据えていたい甜花は、決して倒れてなるものかと踏ん張りを強める。

 

 ────、ゴウゴウ、…………、ごうごう。

 

 やがて、轟然とした爆音が鳴りやむ頃。

 フィールドを見下ろせば、そこには体がちぎれかかったロトムが斃れていた。

 

「ロトム戦闘不能! よって勝者────」

 

「炎の渦で螺旋丸!」

 

『────!?』

 

 刹那、甜花を除く、その場にいる誰もが────目を疑った。

 

「ごォオオおおおおおおんんんんンン…………!!」

 

「うそっ。なんで、氷状態が解けているの……!?」

 

 

 

 ────甜花のポケモン図鑑。

 その画面に映し出された文字は、約束された勝利の文言が記録されていた。

 

『ぼくの もちものには ほのおのいし がある

 それを とりっく すれば…… あとは わかるよね?』

 

 ────かつて、ゴンベとの戦いに負け、そのリベンジにも負けた時。

 ゴンベが落としていった炎の石を、ロトムはずっと持っていた。

 

 

 

「むーちゃんがつなげた、炎の意思! それを、そのまま────ぶつけて、ゴンベ!」

「ゴォオオオオオオオオオオオオン!!!」

 

 一歩、大地を踏み砕き、

 

「まずい、ギャラちゃん! 破壊光線────って、しまった! 反動が……!!」

 

 全身から燃え盛るは、爆熱する闘志。

 

「ゴォオオオオオオオンンンンンンッッッッッ…………────────!!!」

 

 右手に炎の渦を逆巻かせ、根性で螺旋を描くゴンベが、見据える先は遥か高み。

 

「いっけぇえええええ!」

 

 いざ、破壊の神を討ち果たすため、一匹の猛火が跳躍する。

 爆砕する地面。音速どころか、一瞬だけ熱の壁を突破した最強のポケモンは────

 

「ギャラちゃん! だめ、間に合わ────!?」

 

 ────手のひら大の螺旋丸を遥か十倍まで拡大し、破壊の神の土手っ腹にブチ込ませた。

 

「GA……!? GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA────!!!?」

「ゴォオ!! ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ────!!!!」

 

 メガギャラドスの巨体が押され、天井に激突する。

 されど、なおも上昇をやめないゴンベの肉体。

 

「そのまま────天井を、打ち破れぇええ……!」

「ゴォオオオオオオオオオン!!!」

 

 天井に亀裂が迸る。

 頭上を仰ぐ者たちは皆、口を開けて忘我する。

 

 そして甜花は、最後の大技を口にした。

 

「────炎遁・大玉螺旋丸っ!!」

「ゴォオン!!」

 

 瞬間────天井が木っ端と吹き飛ばされ、遥か天空の高みへと舞い上げられた赤龍の身体。アッパーカットで腕を振り抜いたゴンベはそこで力尽き、炎に巻かれながら地上に落下する。

 それから数秒後────メガギャラドスの巨体が空から落下し、地面に激突した。

 

『……!!』

 

 広がる砂塵。地を轟かす振動。

 開放感あふれる施設となったフィールドに風が吹き、やがて景色が晴れる。

 

 その中で立っていたポケモンは────

 

「……ろ、ロトム、戦闘不能……ギャラドス、戦闘不能……しかし、ゴンベがまだ立っているため────勝者は、マサラタウンの大崎甜花選手!!」

 

「……や……」

「────ごぉおおおおおおおおおおおおん!!!」

 

 やった。そう呟こうとした甜花を驚かせた、ゴンベによる歓喜に満ちた咆哮。

 陽射しを浴びながら天を仰いで両腕を掲げるゴンベは、なおも太陽に向かって吼え続ける。

 

「や……やった! やりましたぁあああ! 甜花さんが、勝ちましたぁあああ!」

「えぇ……良き、勝負でございました……」

 

 歓声と拍手。

 その声音で我に返ったのか、ハッとしたカスミは口元が緩んだ。

 

「……はぁ。まったく……ほんっとにとんでもない連中ね……まさかギャラちゃんを倒すなんて。初めての黒星だわ……」

 

 トレーナーが立つ白線の内側から飛び降り、数メートル下の抉られた大地に降り立ったカスミは、メガシンカが解けたギャラドスのもとに向かって、その頭を優しく撫でる。

 

「よくやったわね。ロケット団に改造されて、変な能力を手に入れたけど……よく暴走せずに私の命令を聞いてくれたわ。ありがとね、ギャラちゃん」

「GAaa……」

 

 ボールに戻されるギャラドス。次いでスターミーを繰り出したカスミは、その上に乗って空を飛び、瀕死のロトムに元気のかけらを使って、甜花のもとに送り届ける。

 

「あ、カスミさん……」

「はい、貴女のロトムを返すわ。いい勝負だったわよ。あと、これブルーバッジね。賞金は貴女のトレーナー口座に振り込んでおくわ」

 

 ロトムと一緒にバッジを受け取る甜花。

 そこにカホとリンゼが駆けつけてくる。

 

「おめでとうございます、甜花さん!」

「素晴らしいバトルでした。是非、今度はリンゼと……」

「あ、ありがとう……モリノさんとは、またタマムシでね……?」

 

 それから甜花は、ロトムに「ありがとう」と礼を言い、ボールに戻す。その時のロトムの表情は、やり遂げた微笑みを浮かべていた。

 一方のゴンベは、ずっと天に向かって勝利の雄叫びを上げており、一向に戻ってくる気配がない。

 

「それじゃ、ハナダジムの試練はクリアよ。甜花さん?」

「──!」

 

 初めて、名前で呼んでくれた。

 そのことに気付いた甜花は、「にへへ……」と笑顔で返す。

 

 かくして大崎甜花は二つ目のバッジを手に入れて、ポケモンセンターに急ぐのであった。

 

   ◇

 

「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオン!」

「あんたはいつまで叫んでのよ!!」

 

 カスミに拳骨を食らったゴンベは、勝利の余韻から解放されて、ふと周囲を見渡す。

 

「甜花たちならもう帰ったわよ。きっとポケセンね。……あんたはどうするの?」

「ゴンッ!」

 

 無論、甜花に付いていく。そして、甜花が出会う強敵を薙ぎ倒し、もっと強くなる。

 そんな気迫が窺えたカスミは、さして興味もなく別れの手を振る。

 

「そ。じゃあ甜花によろしくね。────さぁて、ジムの修繕といきますかぁ……! あー! ジムリーダーって大変だなー、もう!」

 

 メガギャラドスの破壊光線により消し飛んだプールのフィールド。それを直す修繕費はポケモン協会から出るものの、自腹で賄わなければならない時もある。そのため金策に苦しむのがジムリーダーの常なのだが……

 

「ま、今日という日があるから、ジムリーダーは最っ高に楽しいんだけどね?」

 

 ……苦笑するものの、その真意は本物であり、ジムリーダーのカスミとそのポケモンたちと審判さんは、来たる挑戦者の未来を楽しみにしつつ、破壊し尽くされたプールサイドを掃除するのだった。

 

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