大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第21話 vsマチス! 三幹部の強さ!!

 大崎甜花、ロトム、ゴンベは、巨大なクレーターの前で立ち止まる。

 

「……!」

 

 そこで甜花が目にしたものは、見るも無残な仲間たちの姿だった。

 地面に倒れ伏すカホは頭から血を流しており、瓦礫からマメマルを守ろうとしたのか、胸の中で強く抱きしめている。そのマメマルも瀕死の状態で意識がない。

 それはリンゼも同様で、着物の振袖は破れかかり、腕の切り傷から赤い血を流している。傍らのドダイトスは降り注ぐ瓦礫から主を守ろうとしたのか、支柱の役割を果たして気を失っていた。

 

 そしてクレーターの中心地には、微動だにしない少女二人とそのポケモンたちを眺めて高笑いする、軍服姿の大男がいた。

 

「……クッ。クハハハハハハハハハ! Runt! まったく伝説のポケモンってのは名前倒れしないぜ! 見ろよ、この惨状を! 地獄絵図とはこのことだ!」

 

(──! そ、そんな……あの人は……!?)

 

 その男は、甜花にとって見覚えのある人物。

 

(クチバジムのジムリーダー・マチス! ──でも、なんで、あの人が……? まさか、やっぱり、この世界って……)

 

 大崎甜花の嫌な予感は的中した。

 彼女の知るマチスという人物像には、幾つかの解釈が存在する。その一つは、原作ゲーム準拠のマチス。彼は気の良い外国人で、こんな……悪役のように振舞ったりはしない。だが、とある漫画のマチスは────

 

「……ロケット団の三幹部、マチス……!」

「────あぁ?」

 

 クレーターの頂上から中心までの距離は100m以上あるというのに、甜花の呟きに耳をピクリと反応させたマチスは、速やかに甜花の位置を特定した。

 

「──オイ。テメェ、今なんて言った……? なんで、オレがロケット団の幹部だと知っている? それを誰から聞いた。テメェは何者だ!? 答えろォッ!!」

「ひうっ……!」

 

 サングラスの奥でギラギラと光る眼光。

 その鋭い視線に睨まれた甜花は身がすくみ、思わず一歩足を引く。

 

(そ、そんな……なんで? こ、この距離で、甜花の声、聞こえたの……?)

 

 狼狽える甜花。怯える彼女を守ろうとロトムが前に出る。

 そして傍らに立つゴンベは、ずっとマチスではなく、上空の暗雲を見つめていた。

 

「おいおい、これはどういうことだ? 想定外に過ぎる事態だぜ。まずオレのことを幹部ではなく“三幹部”って呼んだところが最も気に食わねぇ。……ったくよ。クチバのジムリーダー・マチスが悪事を働いた。それが知れ渡るのは別に構わない。────だが、この事件の騒動がロケット団の仕業だとバレるのは時期尚早。全くの予定外だぜ」

 

 刹那、甜花の全身を射抜いた圧倒的な殺意。

 

(……あっ!?)

 

 全身がビリビリと……まるで電流を流されたかのような衝撃を受ける。

 

「って、ことはだ。ひとつ仕事が増えたわけだ。どう見ても普通のお嬢ちゃんが、なぜその情報を知っているのか……本来なら拷問して吐かせるところだが……あいにくと俺にそんな趣味はない。だからと言って、このまま見逃すわけにもいかない」

 

 故に、両手をポケットに入れたマチスは、つまらない仕事に嘆息し────

 

「口封じとして、お前ら三人を始末する。まずは茶髪の女を殺せ、“Zapdos”」

「──ッ!?」

 

 ────ほんの少しの躊躇いもなく、“命を殺せ”と嘯いた。

 

 刹那、上空の暗雲が渦を巻く。

「──ゴンッ!?」

 その現象が何を意味し、何を到来させるのか。

 

 今から五秒後の未来を直感的に悟ったゴンベは────

「加減は要らねぇぜ。Thunder──」

 ────雷の石を呑み込み、天高く跳躍した。

 

 次の瞬間、暗雲の中心から凄絶な一撃が落雷する。それは絶縁性の軍服を身に纏うマチス以外の者を撃滅し、塵芥と化す死のイカヅチ。それを裸眼で目にした者は視界を白く染め、網膜を黄色く切り裂く、轟々とした稲光を直視する。

 

「っ……ぐぅっ!?」

 

 だが、その落雷は中空にて爆雷した。

「ゴッ……! ────ガァアアアアアアアアアアアアアア!!?」

 雷の石を呑み込み、己の体を避雷針と化したゴンベは、全身を引き裂くような雷を受けて、絹を裂くような絶叫を上げる。

 それは地上に居る甜花たちを守るために、身を呈して庇った跳躍だった。

 

「……っ! ゴンベ────!?」

 

 全身を黒く焼き焦がしたゴンベは落下、受け身すら取れず地上に激突する。

 そのゴンベを見下ろすマチスは、感心するように口角を吊り上げた。

 

「……へっ。なかなかのタフガイじゃねぇか、オメェ! だが全身の筋肉が麻痺して思うように動けないだろ。おとなしく、そこでおねんねしてな」

「ガッ……ゴッ……ッッ!?」

 

 倒れ伏すゴンベは起き上がろうとするも、全身が痙攣して血反吐を吐く。それでも動こうとすればバチバチと音が鳴り、まるで全身の筋繊維が張り裂けているような音が響き渡る。

 

「……さて、次は外さねぇぜ」

「──ッ!!」

 

 殺意を総身に受けた甜花は、咄嗟にロトムへ指示を出す。

 

「む、むーちゃん……あの黒い雲に、電撃波!」

「ロトォ!」

 

 雷の発生源は上空の黒い暗雲。ならば、そこに雷を落としたポケモンが隠れているはず。必中の技で確実に存在をあぶり出すため、甜花の意図を汲んだロトムは全身に電気を迸らせる。

 

 だが、それは目に見えない速さで────

 

「Drill Peck」

 

 甜花の眼前から、

 ────左から右へと何かが過ぎ去り、直後、右手のビルから爆発音が轟いた。

 

「っ──!?」

 

 右半身に爆風が吹き及ぶ。たたらを踏む甜花はクレーターに滑り落ちないよう踏ん張りを強め、いったい何が起きたのかと爆発地点に振り向く。

 

「────え?」

 

 そこで彼女は、愕然と目を見開いた。

 

「ろ……と……」

 

 いつの間にか右手のビルに叩きつけられていたロトムは、その胴体に風穴を開けられていた。ふわりと浮かぶように身を前に倒したロトムは、そのまま地面に倒れ伏す。

 

(────、…………)

 

 何が起きたのか、皆目見当がつかない。ただ、マチスが何かを呟いた瞬間、目の前を黒い物体が高速で左から右へと過ぎ去り────気付けば、ロトムが倒されていた。

 

(……っ!)

 

 相手と自分の力量差を思い知った甜花は、目の前が真っ暗になる。

 

(か、勝てない……! 怖い……! どうしよう……っ!)

 

 一歩、足を引く。

 

(このままじゃ、みんな……甜花も……っ!)

 

 ────ジャキ。

 その音は、一丁の拳銃が引き抜かれる音。

 

「安心しな。痛みは一瞬だ。この距離でも外す事はない。死が怖いなら目を瞑りな。すぐ楽になるからよ」

 

 拳銃を取り出したマチスは、クレーターの頂上に佇む甜花の額に狙いを定める。

 

(ぁ……)

 

 ──逃げないと撃たれる。躱さないと殺される。

 ────でも、足が、動かない。

 

 それは恐怖のせいか。否、甜花は気付いていた。先程からビリビリと全身を駆け巡る威圧感は、おそらくマチスが放つ圧倒的なオーラのせい。それを全身にぶつけられて、体を束縛されている。

 

(────)

 

 頭の中が白く染まる。

 自分は拳銃を突きつけられている。

 その現実を反芻し、終わる未来を否定できない。

 

(────殺され、ちゃう……)

 

 一歩、足を引くことさえできなくなった。

 まるで金縛りに遭ったように、全身が滑らかに硬直していく。

 

(ほんとの、ほんとに……死んじゃう────!)

 

 潤む瞳。目尻に涙が溜まる。

 己が命の最期を悟るとは、どれほどの恐怖が心を支配するのだろうか。

 

「あ……あぁ……」

「バーイ。アンラッキーガール」

 

 撃鉄が起き、雷管が叩かれ、火薬が爆発し、一発の鉛玉が回転を描いて突き進む。

 音の壁を突破し、空気を切り裂き、その弾丸は一直線に迷う事なく少女の命を奪うため駆け抜ける。

 

 それは一瞬の走馬灯。最後に思い出した事といえば────

 

(────あぁ……甜花、ここでほんとうに……死んじゃうんだ……)

 

 ────大好きな、妹の笑顔で……

 

「────ポッチャマ、アクアジェット」

『──ッ!?』

 

 うつ伏せとなるリンゼの胸元から放たれた極光。そこから繰り出されたポケモンは、ドリルくちばしで高速回転し、さらに渦潮を自分の体に纏うことで、本来は覚えないはずの技を完璧に再現する。

 

「ポォオオオオ────チャアアアアアッ!!」

 

 アクアジェットとは“必ず先に攻撃できる”という概念を持つ先制技。故に音速を凌駕する銃弾を相手にする場合、必然と先制の概念が働き、水のジェット噴射は空を切って銃弾の前に躍り出る。

 硬質化したくちばしで銃弾を弾いたアクアジェットは、突然軌道を変えてマチスに襲いかかった。

 

「なにぃっ!?」

 

 しかし“ポッチャマはアクアジェットを覚えない“はず。

 

 マチスは戦慄する。それが本当のアクアジェットなら、音速を突破する銃弾に追いついて弾くことは可能だろう。だが、今の技はドリルくちばしと渦潮の複合技。いくら完璧にアクアジェットを再現していても、先制の概念まで再現することは不可能だ。しかし、仮にそれが可能だと仮定するならば────それは単純に、“トレーナーとポケモンのレベルが桁違いに高い”ということ。

 

「チィッ────! だからってタネはある! まさか念能力によるものか!!」

 

 瞬時に懐からトンファーを取り出したマチスは、冷静にアクアジェットを受け流す。

 激突する水と鉄。

 トンファーに亀裂が入る中、咄嗟に衝撃を脇へ流したマチスは、地を蹴って転がり回避。受け流されたアクアジェットは、再び軌道を変えて宙を舞い、マチスを追尾する。

 

 ──バン! バンバンッ!

 刹那、三回の銃声が鳴り響き、三回の跳弾音が木霊する。

 

 舌打ちするマチスは後退しながら、グレネードの安全装置を抜き取る。そして彼は眼前に迫り来るアクアジェットの迎撃を、暗雲に潜む謎のポケモンに任せた。

 

「──Ancient Power──」

 

 “原始の力”によって地割れが起き、マチスの周囲に点在する瓦礫や岩石が空中に浮かび上がる。それは磁場を帯び、天然の盾となって、アクアジェットを防ぎにかかる。

 ──ガン、ガンガン!

 激しく障害物にぶつかる音を立てて、徐々にアクアジェットの威力が弱まっていく。

 

「ポ……ポチャア!?」

 

 最後に地割れの狭間から大いなる岩エネルギーが爆発。

 その上を飛んでいたポッチャマは撃墜されて、地面を滑り、全身に傷を負う。

 

「よくやった、“Zapdos”」

 

 その時、リンゼに向かってグレネードが投擲される。

 

「……!」

「あ、り、リンゼさ────!?」

 

 時間を掛けて、彼女のそばにグレネードが転がり────

 

「BOM!」

 

 ────マチスの一声と同じタイミングで、起爆した。

 

 一瞬の爆発。周囲に破片が飛び散り、爆風が散開する。

 その光景を眺めていた甜花は、見開く眼で大きく首を横に振り、受け容れがたい現実を直視する。

 

 ──ジャキ。

 再び拳銃が構構えられる音。

 ──ギギ、ギ……。

 トリガーが引かれる音。

 

 気付けば心臓の鼓動が停止していた甜花は、その場限りの異常に発達した聴覚を以て、自分の額を狙う武器の音を聞いていた。

 

「────チェックメイト」

 

 信じられない現実。

 ──パン。

 すべてが安っぽい音響に聞こえる。

 ──ヒュゥゥゥ────

 すべてが遅延して感じられる世界。

 

(────────、────)

 

 眼前に迫り来る一発の鉛玉を捉えた甜花は、コンマを挟んだ刹那の死を予見した。

 

    ◇

 

「────────、ハッ……!」

 

 息を吸うと同時、心臓の鼓動が再開する。

 ドックン! と、大きな鼓動が上がった後は、ドクドクと小刻みに左胸が振動する。

 

「……あ、あ……な、なにこれ……ど、どうなって……?」

 

 眼前に差し迫る銃弾。それが“眼前に差し迫っている状態”で停止していた。

 まるで時が止まったかの如く、甜花の額から数センチで止まっている銃弾は微動だにしない。

 

「……あぁ?」

 

 無論、本当に時が止まっている訳ではない。

 ──突然、空中で銃弾が止まった。

 その不可解な現象には、マチスも首をかしげる。

 

 

 

「────神は言っている。“大崎甜花”は、ここで死ぬ運命(さだめ)ではないと────」

 

 

 

 甜花の背後に何者かが降り立つ。

 それは人の言語を解するが、人ならざる存在だった。

 

「お前が、大崎甜花だな。この世が偽りのものであると証明した存在。

 我らが────ゲームの世界の住人であると嘯く、外世界よりの来訪者」

 

(────この、声は……)

 

 ずっと寄り目で目先の銃弾を見つめていた甜花は、つと背後に現れた存在の顔を確かめるため、ゆっくりと振り返る。

 

「────我が名はミュウツー。 お前に話があって来た────」

 

   ◇

 

 ミュウツーのサイコキネシスによって、一発の弾丸は空中に縫い止められていた。

 青く光る白い人型のポケモンは、まず甜花との会話の前に邪魔者を排除しようと視線を移す。

 

「な、なにぃっ!? なんで、サカキ様の下から逃げ出したお前が────こんな辺鄙な街にいるんだ……!!」

「オレを作り出したロケット団の幹部か……今も先も貴様に用はない。疾く立ち去れ!」

 

 ミュウツーの眉間にシワが寄った瞬間。

 突然マチスの右腕が関節を無視してあらぬ方向に捻じ曲がる。

 

「ぐ……ぐぅううぁああああああああああああ!?」

 

 次は左腕が捩じ切れるように曲がりくねり、バキボキと複雑骨折していく。腕から白い骨が突き出し、破裂した血管から赤い血潮が飛び散り、瞬く間に無残な両腕がだらんとぶら下がる。

 

「はがぁあああ!? グッウウウ! ガッ……! こ、このやろう……ォォオッ!」

 

「貴様らは他者の命を弄び、簡単に命を殺し、そして命を生み出す。だが、考えたことはないか? ────自分たち人間が、そのような家畜の扱いを受ける現実を」

 

「────ッッッ!!?」

 

 途轍もない憎悪と怨嗟が込められた殺気。

 あと一秒でもミュウツーの視界に入るならば、それを排除するため首をねじ切る。

 

 そのような殺意の波動を全身どころか骨の髄まで感じ取ったマチスは、すぐに離脱を図った。

 

「ザ……“Zapdos”ッ!!」

「ギャオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 暗雲に幾条もの稲光が尾を引く。次の瞬間、振り払われた暗雲から黄色い羽を持つポケモンが地上に滑空し、マチスを連れて遥か南の空へ飛び去った。

 

「あ、あのポケモンは……サンダー!」

 

 事あるごとにマチスが呼んでいた“Zapdos”というポケモン。それが伝説の鳥ポケモン・サンダーであると知った甜花は、その強さに納得する。

 

「──……!」

 

 そして、マチスという脅威が去ったことを自覚した瞬間。大崎甜花は居ても立っても居られず、クレーターの頂上から飛び降りて斜面を滑り降りた。

 

「カホちゃん……っ! モリノさん……!」

 

 戦いの衝撃で瓦礫の下敷きとなり、気を失っているカホとマメマル。まずは彼らの下に駆けつけた甜花は、カホとマメマルの胸に耳を当て、微かな鼓動を感じ取る。

 

「よ、よかった……息は、ある……全身の怪我はひどいけど、生きてる……っ!」

 

 一瞬の安堵。だが、それは次の人物のことを思うと、絶望的なまでに胸が締め付けられる。

 

「……り、リンゼ、さん……」

 

 リンゼの姿は、彼女の上に積み重なる瓦礫が遮蔽となって、甜花の位置からは死角になっている。彼女は原始の力によって瓦礫の下敷きとなり、追い打ちをかけるようにグレネードを投げ込まれた。普通なら────死んでいないほうが奇跡である。

 

「…………っ」

 

 ゆっくりと歩を進める甜花は、瓦礫の下に隠れるリンゼ。その姿が見える場所まで移動する。到底、近付く勇気は起きない。だが、それでも────安否を確認する必要がある。

 

「り、リンゼ……さんっ!」

 

 泣くように呼びかける。

 

 すると。

 彼女の呼び声に応えるように、少しだけ瓦礫が動き、ガラガラと音を立てた。

 

「──!」

 

 咄嗟に駆け出した甜花は、しかし近付くのは危険と感じ、すぐに立ち止まる。

 その代わり、彼女の表情は瞬く間に笑顔に包まれた。

 

「ド……ドダァ……!」

「っ……ドダイトス……自分の体を盾にして、守ってくれたのですね……」

 

 ススだらけのリンゼは右肩を痛めているのか、立ち上がる事ができない模様。

 すぐに甜花は、ドダイトスが支柱となって支えている瓦礫の下から手を伸ばし、リンゼを引きずり出す。

 

「ご、ゴン……!」

「ろとぉ……っ!」

 

「あ、むーちゃん……! ゴンベ!」

 

 やがて、自力で麻痺を解いたゴンベと、体力が尽きかけているロトムが戻ってくる。

 ロトムをボールに戻した甜花は、まだ体力があるゴンベに懇願する。

 

「ゴンベ、お願いがあるの……モリノさんを背負って、ポケモンセンターに……」

「ごん……」

 

 甜花はリンゼのボールを借りてドダイトスを回収。すると、ドダイトスが支えていた瓦礫の山が大きく崩れ去り、砂塵が広がる。ポッチャマも忘れず回収したあと、すぐにカホの下に走る。

 

 だが、その行く手を遮るように、ミュウツーが降り立った。

 

「っ……!」

「安否確認は済んだか。少なくとも、あと数分時間を潰したところで彼女たちの命に別条はない。──故に、少し話に付き合ってもらう」

 

 拒否権はない。そんな目付きでミュウツーは凄む。

 

「……わ、わかった……でも、ちょっとだけ……ね? ……あ、あと……助けてくれて、ありがとう……」

 

「礼は不要なり。今お前に死なれては困る。それだけのことだ。

 ……かの超越者は、貴様の死を望んでいただろうがな」

 

「……?」

 

「無駄話をする時間はない。複数の質問でオレが満足すれば立ち去る」

 

 真剣な眼差しを甜花に向けてきたミュウツーは、質疑を開始する。

 

「まず。────この現実が、ゲームの世界であるというのは、本当か」

「──え? ……ほ、ほんとう、だよ……?」

 

「ならば貴様は、この世界を“意味のない場所”だと感じることはあるか」

「……て、甜花……そんなふうに思ったことは、ない……」

 

「そうか。──それはなぜだ?」

「なぜ……?」

「あぁ。何故と訊いている。──なぜ、虚構の世界に招かれながら、その世界を“意味のない場所”と感じない」

「それは……えと……えっと……────」

 

 何故、と問われても。

 大崎甜花にとって、それは問われて答える事こそが不毛な考え方だった。

 

「……だって、ゲームのキャラだって、生きてるし……」

「────!」

 

 瞠目、震駭、望外の喜念。

 あらゆる感情がミュウツーの胸裡で綯い交ぜとなる。

 

 そのような気配が、ミュウツーの透き通るような瞳から感じ取れた。

 

「……──そうか。では、お前には二つほど忠告がある。

 一つ。それは、この世界の超越者が、大崎甜花とそこのゴンベに殺意を抱いていること。いずれお前たちは、その超越者と呼ばれる“神”と相対することになる。その時まで己を磨け。強くなれ。さもなくば……その額に風穴が空く程度では済まない、壮絶なる死が、貴様たちに待っている」

「……っ!」

 

 ──超越者。──神。

 そのような存在が、大崎甜花とゴンベの命を狙っている。

 

 ──それは何故?

 問おうとする甜花だが、ミュウツーはそれを遮るように、二つ目の忠告を告げ立てた。

 

「二つ。それは、お前の助けとなるかもしれない男のこと。ソイツの名は“プロデュー”という。──オレが、この世界がゲームの世界だと知った原因も、ソイツのせいだ」

「…………?」

 

 ふと浮かび上がったミュウツーは、どこへなりと飛び去ってしまう。

 一方、不穏な未来を告げられた甜花は、どうして良いか分からず、ぽつりと呟いた。

 

「……超越者……」

 

 恐らく……この世界の旅路の果てには────壮絶なる激戦が待ち受けている。

 どうやら元の世界に帰るのは一筋縄で行かないようだ。

 いずれ来たる未来に怯える甜花は、今は大きく頭を振って、嫌な予感を振り払う。

 

「とにかく、みんなを助けないと……!」

 

 カホをおんぶした甜花は、マメマルをボールに戻す。

 それからリンゼを背負ったゴンベと一緒に、クレーターの斜面を登り始めた。

 

   ◇

 

「っ……はぁ、はぁ……!」

 

 燃え盛る街。どこまでも続く大通りの廃墟群。

 ──熱い、息ができない、苦しい。

 ──体は痛くないけど、なんでか……心が痛む。

 心中で弱音を吐く甜花は、それでも諦めまいと一歩足を踏みしめる。

 

 どうして────自分は、こんな目に遭わなければならないのか。

 どうして────彼女たちは、こんな目に遭っているのか。

 

 甜花の肩に、ぽたりと赤い水滴が垂れる。

 それが、カホの頭部から滴る血液だと知って、甜花は恐怖に打ち震える。

 

「まっ……てて、ね……すぐに、ポケモンセンターに……それとも、病院に……?」

 

 5番道路までが遠い。ゲームの中なら、ほんの数十マスでハナダシティの端から端に移動できるのに……この世界は、まるで現実のように……広大だ。

 

「はぁ、はぁ……っ!」

 

 火災の街を歩き続ける。

 空気中の酸素が燃えて満足に息が吸えない。なにより地獄のように熱い。真夏の蒸し暑さの方が遥かに涼しいくらいの気温になっている。

 

「……まだ、なの、かな……」

 

 焼け落ちた電柱。歩道に散らばる大量の窓ガラスの破片。

 道路は大破した自動車で埋め尽くされており、ろくに歩ける場所がない。

 

   ◇

 

 それから朦朧とする意識の中で、一時間は歩き通しただろうか。

 ふと気付けば、ハナダジムの近くに来ていた甜花は────

 

「……? ……あ、あれは……」

 

 ────遠くに見える二人の女性。かたや水着姿、かたやレンジャー服。

 見覚えのある背中を見つけた甜花は、安堵するあまり全身の力が抜けて、その場で崩れ落ちる。

 

「──ゴンッ!?」

 

「……? キリコ、今の声は何?」

「声なら……後ろから────あ!」

 

 振り返った二人の女性は、ジムリーダーのカスミと、ポケモンレンジャーのユウコク キリコ。

 彼女たちは瀕死の甜花とゴンベたちを見つけるなり駆けつけて、すぐに安全な場所への避難を開始した。

 

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