大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第26話 絶体絶命! 甜花ちゃん!!

 巨大観覧車でのダブルバトルから翌日。

 朝八時に起こしてもらうようロトムに頼んでいた甜花は、実際に『さわぐ』の技で目を覚まし、勝手が分かってきたアメモースに洗面所まで連れて行かれる形で、洗顔・歯磨き・髪の手入れ・着替えなど、ゴンベに呆れ半分で見られながら、なんとか朝の支度を済ませていた。

 

「……よし、バッチリ! 甜花、一人でできた……!」

 

 そうは言っても寝癖はあるし、ロトムが起こさなければ正午まで寝ていたろうし、アメモースが手伝わなければ洗面所まで辿り着けなかった大崎甜花だが。確かに甘奈に頼りきりの頃と比べると、一人で出来る部分も“ほんの少しは”増えてきただろう。

 それもこれも、突然ゲームの世界に放り出された賜物だろうか。

 

 それからポケモンセンターの受付に急ぐ甜花は、ジョーイさんにトレーナーカード発行について質問した。

 

「トレーナーカードの発行について、ですか? それならポケモン協会支部に行けば、すぐに発行できますよ。一番近いのはポケモン協会クチバ支部ですね」

「そ、そこって、どこですか……?」

「クチバの場合、ポケモンセンターの二階にあります。つまり、そこのエスカレーターからどうぞ」

 

   ◇

 

 かくしてジョーイさんの案内によりトレーナーカードの発行を済ませた甜花は、同時にトレーナーとしての銀行口座が開設された事実を知る。

 忙しいジムリーダーは、その場で現金を持ち歩いている事が少ないため、ジム戦に勝利した場合、あとあとトレーナーカードのIDに紐付けられた口座にジムリーダーが賞金を振り込んでくれる。

 そういう訳でカスミとのジム戦に勝利していた甜花は、その分の賞金が口座に振り込まれていた。その金額、およそニビジムの2倍。賞金の高低はバトルレベルの高さによって決まるため、これはそれだけ甜花のポケモンバトルが評価された証にほかならない。しかし甜花は、着実に増えていく手持ち金額に膝が震えていた。

 

(……ど、どうしよう……アイドルの時と同じくらいのお金を稼いじゃってる……。これ、ほかのトレーナーの人も同じくらいのお金を貰っているのかな……?)

 

 ────なんだか賞金制度がバグっている気がする。

 従来のゲームでは、ここまでの大金を手に入れる事はなかった。故に甜花は漠然とした不安を覚えるが、悩んでも仕方ないため先を急ぐ。

 

   ◇

 

 クチバシティ港。そこに停泊するは、『ポケモォオン! コンテストォオオオオオオ!』の看板が飾られた、豪華なサント・アンヌ号。

 

「ゴン……」

「……き、来ちゃったけど……たしか“近日開催”って言っていたから……」

 

 ────コンテストが始まっている訳がない。ただ、今日は下見に来ただけ。

 

 ……そう、思っていた甜花だったが。

 

「さて、“今日開催”の────ポケモォオン! コンテストォオオオオオオ!!

 優勝するのは誰か!? トレーナーとポケモンの美しき戦いが幕を上げる!!」

 

(……なんで、開催されてるんだろ……甜花、ぜんぜん準備できてないのに……! まさか甜花が来ちゃったから、イベントのフラグが立っちゃったとか……?)

 

 クチバシティの港は、今日開催するポケモンコンテストを見に来た客でごった返していた。

 

「ご、ごんっ!?」

 

 そして人混みが苦手な甜花は、あれよあれよと人の波に流されて、気付けば船内に入っていた。

 

「…………だ、だれか……たすけて~……!」

 

 このままでは観客席まで流されてしまう。

 ────その時、甜花の助けを求めて伸ばされた腕を、小さな両手が捕まえた。

 

「うわぁ……!」

 

 その小さな両手は思ったより力強く、甜花は関係者以外立ち入り禁止の廊下に引っ張られる。

 

「はぁ、はぁ……た、たすけてくれて、ありがとう……でも、だれ……?」

 

 自分を助けてくれた存在は何者か。

 それを確かめるため顔を上げた甜花は、その目を丸くする。

 

「Raaaa~!」

「あ、メロエッタ……!」

 

 昨日、巨大観覧車を降りてポケセンに戻った甜花は、クチバ港で待ち合わせようと約束し、メロエッタと別れた。そして今日は、クチバ港で待ち合わせたメロエッタとコンテストの準備をする日だったのだが、どうもその計画はかなりの前倒しを要求されていた。

 

「ど、どうしようメロエッタ……! 甜花、何も準備できてないよ……!」

「♫~」

 

 焦る甜花とは裏腹に、メロエッタはこの程度の窮地どこ吹く風と鼻歌を歌い、宙を舞う。

 

「で、でも……」

「Raaa~!」

 

 ────問題ない。

 そう歌うメロエッタだが……ふと、甜花の服装を見るなり、やや眉間にシワを寄せた。

 

「……やっぱり、服は着替えなきゃ、だよね……? これ、私服だし……」

「…………。──! Raaaa~!」

 

 ────それも問題ない。

 そう歌うメロエッタは、甜花の手を取って廊下を進んでいく。

 

「ど、どこに行くの……?」

 

 連れて行かれた場所は、『ハハコモリ・コーディネート室』だった。

 

   ◇

 

 サント・アンヌ号。とあるコーディネート室にて。

 

「────うむむ……これはまずいぞ……かなりまずい……」

 

 黒いタキシードに身を包んだ白ひげの老人。

 シルクハットが特徴の男性は、ハハコモリが衣装を繕う隣でブツブツと呟いていた。

 

「うむむむ……まさか今大会のトリを務めるミクリ殿が急用で来られなくなるとは……もしこの事が周りに知られてしまえば、客は激減! コンテストそのものが破綻しかねない!

 故に私は、ミクリ殿の代役が叶うコーディネーターに片っ端から連絡したが、流石にミクリ殿の代わりを引き受けてくれる猛者はいなかった……ま、そりゃあそうだよね~。だってブーイングの嵐になるのは決まりきっているものね~。

 ────しかし、私は諦めなかった! コネがダメなら足を使う! クチバシティのあちこちを駆けずり回って、ミクリ殿の代役を務められるコーディネーター。いやもうこの際一般トレーナーでもいい! とにかく可愛ければなんでもいい!! だって可愛かったらきっとみんな許してくれるよネ!!! たぶん!!!!

 ……という感じで探していたら、なんとか一応……とてもキュートな子を見つけることはできたのだが……さて。はたして本当に、彼女はここに来てくれるだろうか……?

 これでも人を見る目はあると自負しているから、歌や踊りについては、流石にミクリ殿に及ばないまでも、大丈夫だとは思うのだが……さて……」

 

   ◇

 

「Raa!」

「あ、メロエッタ! 勝手に開けちゃ……!」

 

 メロエッタによって勢いよく開かれた『ハハコモリ・コーディネート室』の扉。

 突然の入室者に驚いたのか、一人の男性と一匹のポケモンが悲鳴を上げた。

 

「うおぉい!? なな、なんだね急に誰だね!?」

「リィイイイ!?」

 

 それは、先日ポケモンコンテストに甜花をスカウトしたポケモン大好きクラブの会長と、華美な衣装を繕っている名コーディネーターのハハコモリだった。

 

「あ! えっと、あなたは……」

「──おや? 君は、あの時のお嬢さんではないか! まさかホントに来てくれるとは……やや、今はそんなことより……あれかね? ここに来てくれたということは……本気でコンテスト、受けてくれるのかね?」

 

 その確認に対し、控えめに頷く甜花と、満面の笑みで頷くメロエッタ。

 

「そうかそうか! ならばまずは衣装だな! 実はハハコモリに君の衣装を作らせていたのだ! 私の直感だが、君のイメージは花だ! 花が似合う! 癒し系というものだ! そういう路線で衣装を繕ってみたのだが、どうかね?」

 

 会長とハハコモリに差し出された甜花専用の衣装。

 それはアイドル・大崎甜花のイメージと完全に合致するライブ衣装として完成されていた。

 

「す、すごい……! プロの人が作ったみたいに……きれい……!」

 

「ハッハッハッ! プロも何も、このハハコモリはイッシュ地方で修行を積んだ正真正銘のプロだからネ! いやしかしお気に召したようで何よりだ!

 それじゃあ私の悩みの種はこれで解決したことだし、あとは任せるよ! 君はこの大会のトリを務めることになっているから、そこもよろしくネ!

 ちなみに、君の出番はあと二時間だ! それまでに歌と踊り、あと曲やら演出やらを用意してくれたまえ! ────チャオ!」

 

 風のように去っていった会長。否、彼は逃げるように去っていった。

 

「…………?」

 

 そして甜花は、会長に言われた怒涛の情報を咀嚼し……その理不尽さに気付くことになる。

 

「────え? 歌も、踊りも、曲も、演出も……? ……ま、まさか……それ、ぜんぶ甜花ひとりで……用意しないと、いけないの────!?」

 

   ◇

 

 ────甜花の出番まで、残り三十分。

 

「ど、どどど……どうしよう…………て、ててて、甜花……こんなの、むりだよぉ……あうぅ……たすけて……なーちゃん……千雪さん……プロデューサーさぁん……」

 

 大崎甜花は約一時間半の間、このムチャぶりに挑むことも、逃げることもできず、ハハコモリ・コーディネート室の椅子でガタガタと震えていた。

 

「ロトォ……」

「ラァ!」

 

 流石にこうなった甜花を見ていられなくなったロトムは、甜花が椅子に座って震え始めた時から、自発的にボールから出て説得の限りを尽くしており、

 メロエッタも彼女を勇気づけるため歌ったり踊ったりしたが、頭の中が真っ白になっている甜花を現実に引き戻す事ができないでいた。

 

(……うた……おどり……きょく……えんしゅつ……ひぃん……!)

 

 それら全てを一人でこなす。と考えただけでダメージを受ける大崎甜花。

 

「……ロトォ!」

 

 ロトムは叱咤する。それに合わせて甜花のポケモン図鑑が振動するが、ロトムは鳴き声だけでも思いが伝わるように彼女の目を見て説得を尽くす。

 

『きみは あんなに うたと おどりが じょうず だったじゃ ないか

 その じつりょくが あるなら きょくや えんしゅつが なくても いけるはずさ

 たとえば ほら アカペラとか そういうのは どうかな?』

 

「……アカペラ……でも、ほかのコーディネーターの人たちは、みんな、あんなにすごい曲や演出があるのに……甜花たちだけ、それがないんじゃあ……」

 

 そう言う甜花は、壁に立てかけられたテレビを指差す。

 そこには現在サント・アンヌ号で催されている『ポケモォオン! コンテストォオオオオオオ!!』の実況が流れており、プロ並みのコーディネーターたちが覇を競い合っている。

 

 鍛え上げられた声帯。磨き上げられた舞踏。極められた容姿。

 そしてプロが用意した作詞作曲。そのイメージと合うライブ衣装。

 なによりポケモンコンテストを謳う以上、コーディネーターとポケモンのコンビネーションは、まさに抜群の一言。技のひとつひとつに物語性があって、歌のイメージとこの上なく合っている。

 

 しかし甜花とメロエッタには、歌・踊り・容姿があっても。

 そこに曲はなく、間に合わせの衣装しかない。

 なにより甜花とメロエッタはコンテストに備えたレッスンもしておらず、準備期間は0日。それで息が合うはずもなく、どうしようもない準備不足が、甜花の心を極限まで追い込んでいた。

 

 ────できるわけがない。これは一発本番どころの話じゃない。練習も、企画もせずに、突然踊れと言われて、突然歌えと言われて、大衆の面前に差し出される……公開処刑にほかならない。

 

『……そんなに ふあんなら やめるのも いいと おもうよ?

 だって べつに きみが でる ひつようは ないんだもの

 メロエッタと コンテストに でたかったのは わかるけど

 また こんどの きかいに しようよ ……ね?』

 

「むーちゃん……うん。

 そう……そう、なんだけど……」

 

 踏ん切りがつかない。それは何故か。

 一度引き受けたから? ……否。

 引き下がれない理由があるから? ……否。

 

 ただ単に大崎甜花は、あと一歩を踏み出す勇気が足りないだけ、と考える。

 彼女の頭の中には、既に解決策が存在する。分が悪いのは確かで、うまくいくかどうかは定かではない。だがそれでも「できることをやるだけ」の気概は持っている。

 

 つまり今の大崎甜花に必要なのは、彼女の勇気と努力をプロデュースする唯一の存在だった。

 ────しかし、現実は非情である。

 

 今、この場にその存在は居なく。

 今、彼女は孤独に苦しんでいる。

 

「……………………」

 

 ────残り時間、二十分を切った。

 ここで覚悟を決めなければ、挑戦も棄権もできないまま、全てが終わることになる。

 

「……やっぱり、甜花じゃ、無理……」

 

 いつも失敗ばかりで、いつも迷惑をかけて。

 でも、逃げたくなくて。でも、休みたい時もあって。

 

『……あれ? そういえば……』

 

 ふと、ロトムが周囲を見渡し、何かを探す。

 

『……アイツ どこに いったんだろう?』

 

 キョロキョロと辺りを探すロトムは────不意に、その焦点がテレビに止まる。

 

「……ロッ!? ロト! ロトロト!!」

 

「え? な、なに? むーちゃん……」

 

 突如騒ぎ始めたロトムを見上げる甜花は、彼のプラズマの腕が指す方向に視線を泳がせる。

 

「テレビ? テレビに何か、映ってるの?」

「ロトォ!」

 

 テレビに近付いたロトムは、画面端に映る観客席に注目しろとプラズマの手を押し付ける。

 

「……?」

 

 対象が小さすぎて見えにくい。

 もっと近付けば、ロトムが見せたがっているものが何か分かりそうで、甜花は身を乗り出す。

 

「……あれ?」

 

 違和感に気付いた甜花は、目を細めてジッと見つめる。

 

「……、────────」

 

 その瞬間、大崎甜花の心の中で────

 

「……ねぇ、ロトム。メロエッタ……」

 

 ────複雑に絡まっていた葛藤の糸が、熱く込み上げてプツンと切れた。

 

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