大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第28話 vsメグル! こいぬポケモン!!

 小昼時。ポケモンセンターの宿泊施設にて。サント・アンヌ号のポケモンコンテストから一夜が明けた今日この頃。

 かなりの疲労が溜まっていた大崎甜花は、今日一日、休み続ける事を胸に誓っていた。

 

「……………………」

 

 大崎甜花は、寝室の右側にある二段ベッドの下段で毛布にくるまっている。

 

 一方のロトムは、今日に限って図鑑のアラームを鳴らさず、ボールの中で待機していた。アメモースも昨晩「甜花……やりきったけど……ものすごく……疲れた……」と、溜息混じりに言っていたことを思い出し、無理に起こす真似はせず、ボールの中で大人しくしている。

 

 しかし寝室左側にある二段ベッドの下段で爆睡するゴンベだけは、大きないびきをかいて甜花の眠りを邪魔していた。だが今日の甜花は耳栓を買っている。そのためゴンベによる騒音被害は半減して……

 

「……ごがぁあああああ……ぐがぁあああああああああ……」

 

 ……いるはずだったのだが。それでも耳栓を突き破って鼓膜に響いてくるゴンベのいびき。これには甜花、今にも泣きそうな悲鳴を上げながら何重にも毛布にくるまり、騒音を軽減しようと怠惰な工夫を凝らしていた。

 

 そしてメロエッタと言えば、昨日に引き続き、今日も外を散歩しているのか、寝室のどこにも、その姿は見当たらない。

 

「……あうぅ……ふわぁ……っ!」

 

 ゴンベのいびきに耐えかねた甜花は、いよいよをもって起床。

 

 ────その時だった。

 突如として寝室の扉が、元気な二つの声とともに開け放たれた。

 

「こんにちはー!」

「ラァッ!!」

 

「ひゃう……!?」

 

「あれ? お部屋……真っ暗? も、もしかしてお昼寝中だった……? ご、ごめんねー!」

「ラァ~!」

 

 寝室に突撃してきた二人の存在。

 かたや、それはメロエッタ。

 かたや、それは甜花の知る────金髪の美少女だった。

 

   ◇

 

 ポケモンセンターの食堂にて。

 

「────でねでね! わたし、サント・アンヌ号のポケモンコンテストを見てたんだー! それでね? 大崎甜花さんとメロエッタのバトルを見て、もー絶対! バトルしてみたいなーって思ったの! それで今日は朝からずっと甜花さんを探してたんだけど、これがなかなか見つからなくて……あ、でもでも! 街を飛んでいたメロエッタを見つけて、すぐ友達になって、ここまで案内してもらったんだ!」

 

「メロォ!」

 

 快活に語る金髪少女の名前はハチミヤ メグル。彼女はクチバシティの代理ジムリーダー。昼食を共にしながらメグルの話を聞く甜花は、その申し出に快く頷く。

 

「そ、そっか……うん。甜花は、大丈夫……。

 それと……甜花のことは、甜花で、いいよ?」

 

「ホント? ありがとー! それじゃあ甜花ちゃん。お昼も食べ終わったことだし、さっそく近くのバトルフィールドに行かない?」

 

「メロォ!」

 

   ◇

 

 ポケモンセンターから出てすぐのバトルフィールド。

 そこでは多くのトレーナーが順番待ちでポケモンバトルを行っていた。

 

「ロズレイド! マジカルリーフ!」

「うわぁ!? ぼ、僕のコラッタが……!」

 

 ちょうど甜花とメグルが到着すると、ロズレイドとコラッタによるポケモンバトルに決着がつく。

 トレーナー同士は握手を交わし、敗者は踵を返す。ここのルールは勝ち抜き戦のため、勝者たるロズレイド使いはフィールドに残り、次なる挑戦者の登場を待つ。

 

「……おや? 君たちは────」

 

 その時、甜花とメグルを見つけたロズレイド使いの女性が手を振ってきた。

 

「おーい! こっちだ! 甜花くん!」

「あ! あの人は! ポケモンコンテストで、甜花ちゃんと戦った!」

 

(サ、サクヤさんだ……!)

 

 たたっと走るメグルと甜花は、フィールドに降りてサクヤと対面する。

 周囲のトレーナーはクチバの代理ジムリーダーの登場にざわざわとし始め、事の成り行きを見守っていた。

 

「昨日ぶりだね、甜花くん。代理ジムリーダーと一緒にいるということは……もしやジム戦かな?」

「う、うん……! ……サクヤさんは……?」

「私は昨日の負けが悔しくてね。ロズレイドと共にバトルの特訓をしてたんだ。……もしよければこの場は譲るが、どうする?」

「え……い、いいの……?」

 

 首をかしげる甜花に対し、サクヤは朗らかに笑う。

 

「それじゃあ、ありがたく譲らせてもらうね! ────って、そっか! わたし代理ジムリーダーだから、これジム戦になるんだ! ならバッジを賭けて勝負だね、甜花ちゃん!」」

「う、うん……!」

 

 もとより甜花はそのつもりだったが、どうやらメグルはジムリーダー云々を抜きにして、甜花とのバトルを心から楽しみにしていたらしい。

 その気持ちが伝わってきた甜花は、その思いに応えようと、ぐっと気を引き締める。

 

「では、審判は私が務めよう。両者、バトルフィールドの白線に立って」

「はいはーい!」

「……!」

 

 白線の囲いに立った甜花とメグルは向かい合い、視線の火花が散る。

 

「バトル形式は1対1のシングルだ! それでは────バトル開始!!」

 

「いっけぇ! ワンパチ!」

「ワンパッ!」

 

「お願い、メロエッタ!」

「メロォオ!」

 

 電気をビリビリと散らすワンパチと、茶色いドレスを翻らすメロエッタがフィールドに降り立つ。

 

「先手はもらうよ! ワンパチ、ほっぺすりすり~!」

「ワンパッ! ワンパッ!」

 

 電気を帯びたほっぺを擦り付けるためワンパチは走り出す。

 

「近づかせないで! エコーボイス!」

「ラァアアアア~!」

 

 大きく息を吸い込んだメロエッタは歌唱を始める。

 その声量は突風のような波動を伴い、ワンパチの前進を妨げた。

 

「ワンパ!?」

「あ、ワンパチ!?」

 

「続けてエコーボイス!」

「ラァアアアアアアアアア~!」

 

 エコーボイスは使うたび威力が上がる技。振動する音波は更に強まり、ワンパチを弾き返す。

 

「ワンパァ!?」

「くっ────あのエコーボイスをなんとかしないと……!」

 

「エコーボイス!」

「ラァアアアアアアアアアアアアアアアアア~!」

 

 さらにさらに音響を高めていく音の波動。

 その直撃を受けたワンパチは地面を転がり、メロエッタとの距離を離されていく。

 

「────そうだ! 音には音! ワンパチ! 電気ビリビリで騒いでー!」

「ワンパ……ワンパァアアアアアアア!!」

 

 全身から電気を放出し、ビリビリとした電子音がフィールドを支配する。

 ぶつかり合うエレガントな歌唱とイナズマの騒音。

 メロエッタの声量とワンパチの電撃は加速度的に増幅していき、やがて────

 

「今だよ! 放電!!」

「ワンパッ! ワンパァアアアアアアアアッ!!」

 

(──えっ! 電気の音波に、放電を上乗せした……!?)

 

「ラァアアアアアアア~……ッ、ラァアアアアアアアア~!!」

 

「……おっと、これは……」

 

 メロエッタの音波を押し返し始めたワンパチの騒音。フィールド全体を覆い尽くす凄まじい音波のぶつかり合いは颶風を巻き起こし、甜花とメグルの衣服が激しくたなびく。

 

 審判役のサクヤは高レベルな技の爆発に巻き込まれないよう一歩二歩と下がり、バトルを観戦していたトレーナーたちは阿鼻叫喚と逃げ始める

 

『……!?』

 

 ────やがて、バトルフィールドの中心で大爆発が起きた。

 

「メロォ!?」

「ワンパッ!?」

 

 技の威力は互角────それゆえの爆発。

 両者地面を転がり、暫くの土煙に相手の居場所を見失う。

 

「今がチャンス! ワンパチ、あれで行くよ!」

「ワンパァ!」

 

 視界の悪い中で、どうやって相手の位置を突き止めて技を当てるつもりか。

 ワンパチは鼻をクンクンと動かし、ピンと耳が立った方向を睨みつける。

 

「っ……メロエッタ! もう一度エコーボイスで、全てを吹き飛ばして!」

「────メロッ!」

 

 メロエッタはアクロバットに跳躍。

 

「えっ────メロエッタ!?」

 

 甜花の指示を無視したメロエッタは、

 

「いっけぇワンパチ! 上からワイルドボル……って、えぇ!?」

 

 土煙より天高く跳躍し、落下を始めていたワンパチの存在を、どうやって知っていたのか。

 

「メロォオオオオオ!」

 

 両目に透明のオーラを宿すメロエッタは、ワンパチの奇襲攻撃に対して、アクロバットの奇襲で返した。

 

「ワッ!? ワンパァアアア────!?」

 

 顔面に迫り来るメロエッタのキックに、ワンパチは悲鳴を上げる。

 だが次の瞬間、メロエッタの蹴りは、ワンパチの体を透けるように通過した。

 

「メロッ!?」

「ワンパァ!」

 

 下方、土煙を突っ切ってきた本物のワンパチは、上空で無防備な姿を晒すメロエッタめがけて。

 

「身代わり成功! いっけぇ! 渾身のワイルドボルトォオ!!」

「ワン……パァアアアアアアアアアア!!」

 

 爆雷、ワンパチは天を突き刺す雷の鎧を身に纏い、メロエッタに渾身の頭突きを喰らわせた。

 

「メロ……ッッ!?」

 

 猛烈な一撃を背中に叩き込まれたメロエッタは、身動きとれず落下を開始。

 

「トドメの噛み砕く!」

「ワン、パッ!」

 

 ワンパチの牙が悪エネルギーを帯びて拡大。メロエッタの華奢な体に噛み付き、ブンブンと振りました後、地上に向かって放り投げた。

 

「メッ────メロォオオオオオオ!!?」

 

 悲鳴と合わせて地面に激突。土煙が巻き起こり、それが晴れた頃には……

 

「め……めろぉ……」

 

 目を回すメロエッタが仰向けに倒れていた。

 

「────メロエッタ、戦闘不能! ワンパチの勝ち! よって勝者────ハチミヤメグル!」

 

「やったー!」

「ワンパ! ワンパ!」

 

 しっぽを振ってメグルのほっぺにすりよるワンパチは、にこやかな顔で勝利の喜びを分かち合う。

 

「……メロエッタ……」

 

 一方の甜花はメロエッタを抱き上げ、すぐにリュックから傷薬を取り出し、ケガの治療を始めた。

 

 その時、一人の柔らかい拍手が鳴る。

 

「いい読み合いのバトルだった。ただし────」

 

 サクヤは難しい顔をして、目を回すメロエッタを見つめる。

 その時、メグルがワンパチと一緒に走ってきた。

 

「甜花ちゃん! メロエッタ大丈夫?」

「ワンパ?」

「あ、うん……もうケガは治ったから……だいじょうぶ……」

「そっかー! よかったー! ……でも、一つだけいいかな……?」

 

 ふと、真剣な表情で甜花とメロエッタを交互に見つめたメグルは、今は一般のトレーナーとしてではなく、代理ジムリーダーのメグルとしてバトルの感想を口にする。

 

「……そのメロエッタ。甜花ちゃんの言うことを聞かなかったよね。それってなんでかな?」

「…………分からない。……でも、昨日のバトルでも……」

「あぁ、そうだね。私とのライブバトルでも、途中で甜花くんの指示を無視する場面がいくつか見られた」

「う~ん。なんでだろ~?」

「………………」

 

 腕を組んで首をひねるメグルと、それを真似して首をかしげるワンパチ。

 対する甜花は沈痛な面持ちで黙り込んでおり、体力回復のため眠りに就いたメロエッタを見つめていた。

 それを見かねたサクヤが、甜花に声をかける。

 

「……これは憶測だが、もしよければ参考程度に聞いてくれるかい?」

「……え?」

 

 あくまで参考程度に。

 そう前置きして、サクヤは『甜花の指示を無視するメロエッタの理由』を語る。

 

「ポケモンがトレーナーの言うことを聞かない場合は、基本的に互いの信頼関係が十分に築かれていない事が理由だ。それは好き嫌いの話だったり、それ以外の何かだったりする。しかし私から見て、メロエッタは甜花くんのことを好いているように見える。よく懐いていると言えるだろう」

 

「うん! わたしもそう思う! 初めてメロエッタと会って甜花ちゃんのことを聞いた時、とても嬉しそうに甜花ちゃんのことを話してくれたもん! ……あ、でも、わたしポケモンの言葉わからないから、なんだか楽しそうだな~、程度にしか受け取れなかったけど……えへへー」

 

 頭をかくメグルに対し、ワンパチは“それで合っている”とでも言うように鳴き声を上げる。

 

「ワンパ!」

「このように、他者から見ても甜花くんとメロエッタの関係は良好だ。だのにバトルになると途端メロエッタは言うことを聞かなくなる。────これについて、私はこう思っている」

 

 一拍置いて、サクヤは憶測を語る。

 

「おそらくメロエッタは、甜花くんを気遣っているのかもしれない」

 

「……え?」

 

 ────メロエッタが甜花を気遣っている。

 

(だから……甜花の言うことを、聞かない……?)

 

 その意味と理由を考える甜花を見て、サクヤは話を続ける。

 

「別の言い方をすると、君の強さを信じていない……とも言えるね。これは非常に珍しいタイプの関係だろう。おそらくメロエッタは『自分の方が正しい判断ができる』と思っているから命令を無視する時がある────“ワケではない“。メロエッタは『本気を出すと甜花が危ないかもしれないから、もっと穏便な技で済まそう』……そんな感覚を、私は受け取った」

 

「え? ちょっとまって? それってつまり……メロエッタのレベルが高すぎるから、自分と比べてレベルの低いトレーナーに合わせて“技を選んでいる”……ってこと?」

 

「その通りだ、メグルくん。だから私は“珍しいタイプの関係”だなと思ったんだ」

 

(────…………)

 

 甜花は考える。

 通常のゲームでは、ポケモンがトレーナーの言うことを聞かない理由は、大体バッジの取得数が関係している。バッジが足りないトレーナーは弱いと思われて、ポケモンが自分勝手な行動を始めてしまう。

 

 サクヤの話を聞けば、それと全く同じことが起きている。だが、そこに『トレーナーを舐める』態度はなく、逆に『トレーナーを気遣う』態度があるからこそ、サクヤは珍しい関係だと言った。

 

 しかし、どちらにせよ。とある“事実”は変わらない。

 

「つまるところ。メロエッタに認められるまで、甜花くんが強くなれば、きっと二人は最強のパートナーになれるだろう。……私が言いたかったのは、そういうことさ」

 

 その事実とは、甜花の“力量不足”にある。

 

「……そっか。わかった……ありがとう、二人とも……」

「……メロ?」

 

 メロエッタが目を覚ます。

 彼女はバトルに負けたことを悟り、申し訳なさそうに肩を落とした。

 

「あ、メロエッタ……気にしなくていいよ。だって……たぶん、甜花が……悪いから……」

「……メロ?」

 

 首をかしげるメロエッタ。

 その時、サクヤが場の空気を仕切り直した。

 

「──さて。それでは二人とも。もしよければ、今からショッピングにでも行かないかい?」

「……?」

「え? なになにー! なんだか楽しそー! 甜花ちゃんも一緒に行こうよ! ね?」

 

 メグルに手を取られた甜花は、先行するサクヤを追いかける形で走り出す。

 

「え? えぇ……!」

「メロォ!」

 

 突然の展開で思考が追いつかない甜花は、あれよあれよというまに街の中心に連れて行かれる。それから三人の少女たちは、お昼過ぎのショッピングに興じることになった。

 

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