大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α 作:形のない者
そこはクチバシティ有数のデパート。様々な商品が取り扱われる此処は、港町だけあり、海外のアイテムも多く輸入されている。
その中で「旅をするトレーナーなら、一度は此処に訪れるべきだろう」とサクヤに言われた甜花は、アウトドアショップを回っていた。
「へー! キャンプ用品とか、色々あるんだねー!」
「だろう? 私はそろそろハンモックを新調したいかな。この前、森でスピアーの群れに襲われてズタズタに引き裂かれてしまったからね……」
「ひぃん……!」
なんてことのないように話すサクヤだが、その話を聞いた甜花は怖くて震えが止まらなくなる。
(ぜ、絶対に甜花、この世界の森には入らない……今まで通り、車やバス……あと、電車とかで街を目指そう……!)
徒歩での旅は、既にゲームで十分に味わった。故に甜花は、波乱万丈な徒歩での旅よりも、比較的安全な交通機関を利用しようと固く誓う。
「────あ!」
しかし、それでも徒歩でなければ行けない場所もあるだろう。
そのため甜花は、ある道具を新調したいと考えており、今しがたそれを見つけた。
「おや、甜花くんは……その高性能テントに興味がおありかな?」
「う、うん……! 甜花、ロトムがいるから……もっと中が広くて、もっと多機能だと、嬉しい……かなって」
「うわぁお! このテント、三人くらいなら入れそうな大きさだね!」
「しかも折り畳み型だ。三角テントだが、上部は夜空が見えるように形状記憶ガラス合金で出来ている。ほかにも自動温度調節機能・断熱シート・床暖房・冷暖房・水の濾過装置などなど。更には小型パソコンが内蔵されており、赤外線によるバーチャルキーボードで操作可能。無料WiFi搭載なのでネット閲覧も可能ときた。また、防音性があり、防刃・防弾仕様の超がつく耐久性を誇る。そして、この中で一番の長所は……おや、意外にも“薄型”鋼鉄製ゆえのコンパクトさのようだ。これで値段は────……まぁ、大方の予想通りというか……」
──『ガラル製 高性能多機能テント』……お値段:99万9999円────特大サービス価格!
「……えっと。て、甜花ちゃん……これ、本気で買うつもりなの……?」
冷や汗をかくサクヤとメグルは、真剣に考え込む甜花の横顔をまじまじと見つめる。
「…………」
大崎甜花は熟考する。おそらく彼女の頭の中で目まぐるしく回転する思考回路は、今までにない思慮深さを以て購入までの道筋を模索していた。
その時、アウトドアショップの店員が近付いてくる。
「おや、お客様。もしや、そのガラル製高性能多機能テントをお買い求めで?」
「…………はい……」
何かに勝負を挑むように頷いた甜花は、その視線、やや下向きになっているが、まっすぐ店員と対峙する。
「……あ、あの……」
「はい? なんでしょうか?」
甜花は勇気を振り絞る。
次の一言が、この高性能テントを買えるかどうかの道を定めると確信して────
「……こ、これ……分割払いとか、できますか……?」
「あー……申し訳ございません。こちら一括払い限定でして────」
「……あ、あうぅ……」
甜花、撃沈────────かと思いきや。
おもむろにチユキ手製の財布を懐から取り出した甜花は、
「……こ、これ……! ……二回のジム戦で、手に入れた賞金、です……」
何を考えているのか、トレーナーカードと共にパンパンの財布を店員に見せつけた。
「……!」
その財布とトレーナーカードを目にした店員は驚愕。
次いで、コロッと態度を変えるように接客を始めた。
「あら、トレーナーの方でしたか! それも、さぞお強いトレーナーのようで!
えぇ……それなら分割払いも打診できそうです。少しお待ちくださいね!」
ぴゅーっと風のように去っていった店員。
それを見送った甜花は、小さくガッツポーズした。
(……や、やったー……! ここは、ポケモンの世界だから……トレーナーはある程度、優遇される……! ……甜花の読み、当たって、よかった……!)
「……ほう。二つのバッジでその賞金額なら、本当に全てのバッジを集め終わる頃には、分割払いは済ませていそうだね」
「バッジさえ集めれば、あとは勝手にトレーナーカードの口座に賞金額が振り込まれるからね! 今の、とてもいい交渉だったと思うな! お店の人もトレーナーカードのデータを見て、そのトレーナーが今どんな活躍をしているか判断して、いろいろ取引とかするみたいだし?」
「────お客様ー! ご購入、ありがとうございますー!」
◇
夕暮れどき。
待望の高機能テントを手に入れた甜花は、さっそくテントを使うためクチバシティ近郊の草原に訪れていた。メグルの案内で到着した場所は、小高い草原の丘の頂上。そこはキャンプ地として大変人気で、絶景の海が眺められると専らの評判。
さっそくリュックからテントを取り出した甜花は、地面に置いたテントがボタン一つで開閉していく様子を感慨の眼差しで見守っていた。
「す……すごい! えっと、それじゃあ……出てきて、むーちゃん!」
「ロトォ!」
ボールから飛び出たロトムは、新たに購入した高機能テントの周囲をぐるぐると周り、興味深そうに見つめている。
「む、むーちゃん……そのテントに、入ってみて……?」
「ロト!」
頷いたロトムは、テントの中に入り込む。
『────!?』
刹那、発光を始めたテントは、すぐに光が止むも、その姿は様変わりしていた。テントの入口より反対方向にはロトムの顔面が描かれており、全体的にオレンジのカラーになっている。ひと目では、これが薄型の鋼鉄製テントだとは思われない見た目をしているテントになった。
「……えっと、図鑑……図鑑……」
甜花はポケモン図鑑をかざす。
すると画面には、驚きのデータが検出された。
全国図鑑:No.479 分類:プラズマポケモン 名前:テントロトム
タイプ:でんき・はがね
種族値:耐久D 攻撃C 防御A 特攻A 特防A 素早B
「……あれ? この表記って、もしかして……!」
テントロトム。それは、ただのテントに憑依したロトムにあらず。
テントロトム。それは、戦闘用に耐えるポケモンとして、確かに図鑑に登録されていた。
「ロト! ロトロトロト!」
新たに手に入れたフォルムを気に入ったのか、テントロトムは楽しそうに笑う。
「ロトォ! ロトロト~!」
「え? ……中に、入れって?」
試しにテントロトムに入ると、そこには、とても居心地の良い空間が広がっていた。
まず感じるのは適切な気温。
前を見ると、ロトムの顔面と顔を突き合わせる形になる。途端、シャッターのようなものが下ろされて、ロトムの顔が見えなくなり、カーテンのような鉄の板で仕切られた。どうやらテントロトムの配慮次第で、プライバシーは守られるようだ。また、床はボタン一つでフローリング式かマット式か、はたまたクッション式かを自由に選べる。
右を見れば水の濾過装置があり、それはミキサーでもあるため、木の実を放り込めばジュースも作れる。浄水器の役割も果たすようで、自動食器洗浄機にもなるようだ。
左を見ればディスプレイがあり、赤外線のキーボードが床、または中空に映し出される。回線は万全であり、契約料・通信料ともに格安であるため、これで好きなだけ──ポケモン世界の──インターネットが楽しめる。
テントロトムの中をもっと充実させるため、甜花はショッピングで買ったほかのアイテムを配置する。
それはピカチュウ柄のふかふか枕だったり、イーブイ柄のふかふか抱き枕だったり、プリンの歌声が録音されている小型のオーディオ機器だったり、ついでに購入したヒトカゲ柄の格安スマホと、リザードン柄の置き型充電器だったり、ウールーの羊毛が入ったもふもふの掛け布団を敷いたりと、大崎甜花はテントロトムの内部に極上の天国を創り出していく。
「……にへ……にへへ……! ここ、今日から……甜花の、お城……!」
「メロォ!」
模様替えを済ませた甜花は、テントロトムの入口から顔だけ出して、サクヤとメグルを仰ぎ見る。
「えっと……サクヤさん。ハチミヤさん。もし、よかったら……中……入る……?」
「おや、いいのかい?」
「そんな極楽スペースに、わたしたちも入っていいの?」
「う、うん……独り占めも、いいけど……でも……やっぱり、みんなとお昼寝、したいから……」
それならと、顔を見合わせたサクヤとメグルは、甜花のテントロトムにお邪魔する。
既に甜花は就寝体勢を整えており、周囲をもこもこの環境で満たされながら────
「──……ふわぁ……おやすみなさぁい……」
「めろぉ……」
寝そべって五秒。彼女──と、それに倣うメロエッタ──は、深い眠りに就いた。
「はやっ!? まだ夕方だよ!?」
「これは、凄まじい眠り姫だ……では、お言葉に甘えて、私たちもお昼寝と行こう」
静かに寝そべったサクヤとメグルは、だんだんとまぶたが落ちていく。
やがて三人の少女は、ウールーのもこもこ布団の心地よさのあまり、まるで魂を抜かれるように、深い眠りに落ちていった。
◇
翌朝。
朝ぼらけの丘で目覚めた三人の少女は絶景の海を眺め、それぞれの旅のため別れを告げる。
サクヤは、次なるポケモンコンテストが行われる街へ。
メグルは、指名手配されたクチバジムの正規ジムリーダー・マチスの関係で暫くジムが閉鎖する事になり、代理ジムリーダーとしては休職扱いになったため、この機会に武者修行としてカントーのバトルサブウェイに乗ることに。
かくしてクチバジムへの再挑戦が不可能となったため、甜花は仕方なく次なるバッジを求めて、タマムシシティに赴いた。
/了
一方その頃。
「……………………ごん…………ゴンッ!?」
ポケモンセンターの宿泊施設で目が覚めたゴンベは、長く寝すぎたと慌てて起き上がる。
「ゴン……?」
────甜花の姿が見えない。
まさか、また置いて行かれたのかと、ゴンベは扉に向かって走り出す。
──その時、誰かの手によって扉が開かれた。
「……あ、ゴンベ! ……もしかして、ずっと、お留守番してたの? えらいね?」
なんと、扉を開けて入ってきたのは大崎甜花だった。
「…………ゴ、ゴン……」
────まさか、一日中寝ていたとは言えない。
そんな顔で頬を掻くゴンベは、しかし心のどこかで迎えに来てくれたことを嬉しく思っているのか、甜花と目を合わせられないでいた。
「えっと……今からタマムシシティに行くから……出発しよう?」
「メロォ!」
その肩にはメロエッタが浮遊しており、甜花は身支度を整えると寝室を後にする。
そうして甜花、メロエッタ、ゴンベの三者は横並びで歩き、新たな街に向かって旅を続けた。