大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α   作:形のない者

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第30話 地下通路の激闘!!!!

「……ねぇ、メロエッタ。ゴンベ……」

「メロォ?」

「ゴン?」

 

 クチバシティからタマムシシティへと通じる地下通路。ゲーム本編ではシオンタウンから通じる地下通路を通るのが定石だが、どうもこの世界では多くの地下通路が存在するらしい。

 その道を通っている甜花は、傍らを飛ぶ/歩く、メロエッタとゴンベに話しかける。

 

「甜花……実はね? 一番行きたい街が、タマムシシティなんだけど、一番行きたくない街が……タマムシシティでもあるんだ……」

「メロ?」

「……?」

 

 首をかしげるメロエッタと、訳が分からないという顔をしてから興味をなくすゴンベ。

 

「えっとね? 甜花……タマムシデパートで、いろいろ技マシンを買いたいんだけど……

……実は、その近くにあるロケットゲームコーナーの地下には……」

 

『────!』

 

 突然、ゴンベとメロエッタの足が止まる。目を見開いた二匹は、進行方向の先にある何かに警戒しつつ、その何かを睨みつけていた。

 

「──……? ど、どうしたの? ゴンベ、メロエッタ……」

 

 二匹の視線を追い、甜花は面を上げる。

 彼らの前方。そこには────

 

「……待っていたぞ、大崎甜花」

 

 ────黒い帽子に、黒い制服。胸元には赤い『R』のマーク。

 

「まさか、俺たちロケット団の秘密を知る存在が、こんな可愛いお嬢ちゃんだったとは驚きだ」

 

 甜花たちの前に現れたロケット団員の両手には、三個のモンスターボールがある。

 

「俺は中隊長マチス様の右腕。小隊長クラスの人間だ。今から殺す相手に名乗る名前はないな」

 

「──っ!?」

 

(い……今から、殺す、相手……?)

 

 大崎甜花の全身が総毛立ち、足が竦んで一歩も動けなくなる。

 

「────ゴンッ!」

 

 小隊長が発した殺気。

 それをかき消すようなゴンベの怒号で、凍りついた甜花の体が解放される。

 

「……チッ。強そうなポケモンだな。それにしてもポケモンをボールに入れず連れ回しているとは、よほど俺たちのことを警戒しているみたいだな。あまり見た目で舐めない方が良さそうだ……」

 

「…………」

 

 睨まれる甜花は、眼前の敵を睨み返すことはできなくても、静かに闘志を燃やしていた。それは、これから起こるポケモンバトル。否、これから起こる『殺し合い』のために、甜花は覚悟を決める。

 

(……っ!)

 

 心が恐怖で叫びたくなる。体が悲鳴を上げたくなる。

 引き締められる喉元。これでは指示を飛ばせない。

 だから甜花は恐怖を噛み殺すように、ぐっと唾を飲み込んだ。

 

「っ……! ゴンベ、メロエッタ、むーちゃん……!」

 

 大崎甜花は、この非情な世界で生き残るため────

 

「お願い! 甜花を……守って!!」

 

 ────恐怖に身をすくませながら、“戦う覚悟”を口にした。

 

「ゴンッ!」「メロォ!」「ロトォ!」

 

 繰り出されるは、三匹のポケモン。

 対する小隊長も、手持ちの三匹を繰り出した。

 

「おっと! 俺は暗殺専門だから正面切っての殴り合いはゴメンだ! 嬲るようにケリを付けさせてもらうぜ! ────行け! バリヤード! マタドガス! マルマイン!」

 

「バリバリー!」「マタドガー!」「マルイィィィン!」

 

 場に出揃う六匹のポケモン。

 そこで甜花は、リュックから『ガラル製 高性能多機能テント』────通称ガラルテントを取り出して、それを盾にするように構えた。

 

「あ? なんだその三角形の盾は……まさかそれ、折り畳んだ状態のテントか?」

 

 鋼鉄製のガラルテントを盾として使う。

 その小隊長の推測は当たっており、甜花はいつでも銃弾を弾き返す準備を整えていた。

 

「……なるほど。用意周到な女だ。どう見ても平和な花畑で育った箱入り娘にしか見えねぇってのに……お前、いったいどこでそんな戦場の歩き方を学んだ?」

 

 不思議と戦いの心得を知っている平凡な少女。

 その疑問に甜花は答えた。

 

「……て、甜花……FPSとか、RPGとか、そういう……ゲーム、やってる、から……」

「──あぁん?」

「ひゃう……!」

 

 小隊長の睨みつけるに、甜花は怯えて身がすくむ。

 

「……ゲームっつったって、“ミニポケモンでジャンプ“と、”ドードリオのきのみどり”ぐらいしかねぇだろ……俺もやってたけど、だからって戦場の作法が学べるゲームだったか? あれ……。あぁもう。さっぱりどういうことか分かんねぇが、今から殺す相手だ。そんなの関係ない。────さて、覚悟しろよお嬢ちゃん。今から地獄行きの秒読みが始まるぜ!」

 

『──……!』

 

 先ほどの殺気とは違う、本気の殺意が向けられて、思わず甜花たちは身構える。

 その隙を突くように、小隊長は指示を下した。

 

「いつものアレだ。五秒で帰ろうぜ。────『自粛すべし密室殺人(クローズド・ルーム)』────」

 

(……えっ?)

 

 それは、一体どういう意図が込められた技なのか。

 否、もしかすると、その技名は────

 

「バーリバリー!」

 

 バリヤードの目の前に展開された障壁が、バリヤードのオーラによって強化される。

 

「……!」

 

 強化された障壁は小隊長のオーラに操られて、甜花とロトムを囲い込むように展開された。

 

「ゴンッ!?」

「メロォ!?」

(こ、これは……!?)

「ロトォ!?」

 

 瞬く間に結界の中に閉じ込められた甜花とロトム。

 一方、敵と対峙するため前に出ていたゴンベとメロエッタは、結界に巻き込まれないで済んでいた。

 

「マタドガー!」

 今度はマタドガスが鳴き声を上げる。するとマタドガスの眼前に“異次元の穴”が生成された。それと全く同じ“黒い穴”が結界の中にも生成される。

 

「マルマイィイン!」

 

 そしてマルマインは、異次元の穴を通って結界の中に出現。さらにマルマインの全身に赤と白のコードが絡みつき、『00:30』という数字が表記されたデジタル時計が具現化した。

 

(そ、そんな……これは、ポケモンの技じゃない! これは────念能力だ!!)

 

 驚愕する甜花。

 そこで小隊長が、自身の能力を語り始める。

 

「今、そのマルマインは時限爆弾になった。爆発の起動条件は二つある。

 ひとつ、結界が破壊された瞬間。

 ふたつ、時計の数字がゼロになった瞬間。

 時限爆弾の解除方法はひとつだけある。それは能力発現時、赤と白のコードのうち、どちらかがランダムで起爆と解除の効果を持つ。その正解は俺にも分からない。そしてコードは通常の方法で切ることは不可能。コードに直に触れて纏を発動しなければコードを切ることはできない。そして、この能力の説明を終えた瞬間────時限爆弾の針が進み出す」

 

 ────『00:29』────ピッ!

 

(……っ!)

 

 目を見開いた甜花は全身が総毛立つ。

 

「ロトォ!」

 

 咄嗟にロトムはガラルテントに憑依。テントロトムにフォルムチェンジ。それから甜花を呑み込むように上からかぶさり、テントの中に避難させると、すぐに出入り口のジッパーを固く閉め切った。

 

「うわっ! む、むーちゃん!?」

「ロト! ロトロトォ!!」

 

(そ、そっか……マルマインの時限爆弾から、甜花を守るために……でも……)

 

「……フッ。頑丈なテントの中に隠れたか。だが、それが何を意味するのか分かっているのか?」

 

(…………)

「ろとぉ……」

 

「さぁ、秒読みの始まりだ! あばよ、お嬢ちゃん。恨むんなら、ロケット団に楯突いた自分を恨むんだな!」

 

 小隊長は三匹のポケモンを残したまま踵を返す。

 バリヤードとマタドガスは、ゴンベとメロエッタと対峙している。

 一方マルマインは静かに佇み、時限爆弾としての役割に徹していた。

 

「……ゴン! ゴンゴン!」

 

 甜花に呼びかけるゴンベ。彼は甜花からの命令を待っている。

 

「待って、ゴンベ! 今は……何もしちゃダメ! だいじょうぶ……すぐに何か、考えるから……!」

「……ゴンッ……」

 

 ゴンベは命令に従う。今にもバリヤードとマタドガスを倒したそうに拳を握り締めるが、ここで下手に動けばマルマインの大爆発で甜花の命が危険に晒される。

 ────しかし甜花の暗殺が目的なら、初めから大爆発を命じておけばいいだけのこと。それをしない理由はなぜなのか。その解答を見つけられるほどゴンベは賢くない。だが、とにかくあの小隊長が、とてもムカつく趣向を持つ悪人であることだけは、嫌というほど理解した。

 

「めろ……めろぉ……!」

 

 敵と甜花のいる方向を交互に見やるメロエッタは、どうすればいいかわからず右往左往している。甜花からの指示は『動くな』だった。しかし、本当にそれでいいのだろうか。

 

 ────甜花の安全と命を優先するなら、結界を破壊し、自分が身代わりとなって大爆発を防げばいいだけのことでは? それなら────“そっちの方が良いのでは?”────

 

 ゴンベとメロエッタの葛藤。

 一方、甜花は時限爆弾の解除方法について考えていた。

 

「ど、どうしよう……纏を使えば、コードを切ることができる。けど、甜花……念能力なんて、使えないよ……」

 

 仮に念能力を使える存在が此処に居ても、至近距離でコードを切るのは現実的ではない。赤と白、どれが解除のコードなのか分からない以上、二択を選ぶのはあまりにも危険すぎる。

 

「……どうしよう……」

 

 甜花は考える。一生懸命この窮地を脱するため考える。

 そこで彼女が導き出した結論は、至極単純な解決法だった。

 

「……ねぇ、むーちゃん。通信機能って、使えるかな……?」

 

「ロト?」

 

 甜花には、何か考えがあるのか。

 懐から一個のモンスターボールを取り出す。

 

 ────その時、突然の爆発音が地下通路にこだました。

 

   ◇

 

 時はほんの少し遡り。

 大崎甜花が、敵の念能力の突破口を閃いた瞬間。

 

「…………メロッ!」

 

 刹那、メロエッタは踵を返し、甜花とロトムが閉じ込められている結界を破ろうとした。

 

「……メロ!?」

 

 しかしメロエッタの腕が、ゴンベの握力により固く握り締められた。

 

『────……』

 

 睨み合う両者。その雰囲気は、まさに一触即発。

 

「……メロ! メロメロォ! メロッ!!」

「────ゴンッ! ゴンゴン! ゴンッ!」

 

 猛然と言い合う両者。

 メロエッタは静止の腕を振り払おうとし、

 ゴンベは何が何でも独断専行はさせないと握力を強める。

 

「……メロッ!?」

 ふと、腕を握り潰されるほどの怪力を感じる。

「────ラァ!!」

 その恐怖から逃れるため、メロエッタはけたぐりを繰り出した。

 

「ゴンッ……!?」

 足を蹴られ、握った手を手繰られる。

 その角力の決まり手から逃れるため、ゴンベはメロエッタの肩に噛み付いた。

 

「メロォオオオ!!」

「ゴガァアアア!!」

 

 喧嘩が始まる。────否、それはもはや、互いの信ずる道を懸けたぶつかり合いだった。

 

「メロォオオオオオオオオオッ!!!」

 

 ────甜花を助ける。ほかの何がどうなろうとも。ほかの誰がどうなろうとも。関係ない。

 ────甜花は弱い。だから自分が守る。守る必要がある。それを邪魔すると言うのなら……!

 

「ゴォオオオオオオオオオンッ!!!」

 

 ────甜花は助けたい。だがそれでも甜花の指示に従う。ほかのことはどうでもいい。心底。

 ────甜花は弱い? それには同意する。だから経験を積ませるのだ。

 

 ────これは試練だ。彼女の選択が成功を招くか失敗を招くか。どちらでもいい。

 ────とにかく勝敗を通した経験こそ甜花の成長に繋がる。それが死の危険を孕んでいても。

 

 ────自分は甜花が強くなる事を望む。甜花が今よりもっと強くなる為の戦いを望んでいる。

 ────それはなぜ? 愚問。

 

 ────甜花が強くなればなるほど、自分の潜在能力を完璧に引き出してくれるから。

 ────自分の方が『正しく』動ける。

 

 ────ニビジムでもハナダジムでも、いつも甜花の命令に対し、そう思い、そう感じていた。

 ────だが、あのロトムでさえ、甜花の成長を信じているからこそ、黙って従っている。

 

 ────本当は、お前みたいに我慢せず、自分の全力を出したいはずなのに……!

 ────甜花の成長の邪魔はさせない。それでも甜花に対して過保護でいると言うのなら……!

 

『────ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

 

 ────咆哮。

 だがそれは、およそ通常のポケモンが放つ咆哮ではなかった。

 

 メロエッタのハイパーボイスと、それを完璧に模倣したゴンベのハイパーボイスが激突する。

 

『────ッ!?』

 

 吹き飛ばされた両者、地下通路の壁に激突し、のめり込む。

 亀裂が迸る壁。コンクリートの中に埋まった手足や頭、腰を取り脱して、眼前の“敵”を見据え────

 

「ゴォオオオオオオオオオン!!」

「メロォオオオオオオオオオ!!」

 

 ────疾走。互いにノーガードのインファイトを打ち合う。

 今ここに、爆裂的な体術の応酬が勃発した。

 

   ◇

 

『────ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

 

 突然の爆発音。否、それは────何かの咆哮に似た、空を引き裂く衝撃波だった。

 

「……っ! な、なに……!?」

 

 驚く甜花に状況を伝えるため、ロトムはパソコン画面に電波を送る。

 

『……まずい ゴンベと メロエッタが

 ケンカを はじめちゃった みたい……』

 

「えっ……!? な、なんで……どうして……!?」

 

『……それについては ボクは ノーコメントで

 それより どうする? おおさき てんか

 なにか めいあんが あるみたい だけど……』

 

「…………」

 

 ゴンベとメロエッタの喧嘩。ならば、今結界の向こうで繰り広げられている戦闘音は、この二匹によるもの。

 

 二匹が喧嘩する理由が分からず混乱する甜花だが、今はとにかく時限爆弾の脅威から逃れるため、作戦を開始する。

 

「むーちゃん。マルマインのタイムリミットは、あといくつ?」

 

『00:25 って かいて あるよ

 どうやら びょうきざみ じゃなくて ふんきざみ みたいだね』

 

 あと25分────充分とは言えない。けれど不可能ではない。

 

「そっか……あと25分……けっこう、時間……あるね……?」

 

『そうかい? あと25ふんで

 ぼくたち しぬかも しれないんだよ?』

 

「う、うん……そうなん、だけど……────ねぇ、むーちゃん。甜花ね。やりたいことがあるの……!」

 

   ◇

 

 ────『00:18』────

 

『ほんとに うまく いくかなぁ?』

 

「い……行く! 行くと……信じる! 絶対の、絶対に……成功、するって……信じる!」

 

 自信を持って願う甜花は、アメモースを繰り出す。

 

「アメェエエッ!」

 

 力強く飛び出したアメモースは、ボールの中から外の状況を見ていた為、自分に任された役割を絶対に果たしてみせると張り切っていた。

 

「あ……そっか。ボールの中で、甜花とむーちゃんの作戦を聞いていたんだね……? それじゃあ、まーちゃん。このレトロメールを……絶対に届けてきてね!」

 

「アメモォオオオオオス!!」

 

 甜花からしわくちゃのレトロメールを受け取ったアメモースはボールに戻る。

 

「むーちゃん!」

 

『────転送システム:起動……電波:かなり微弱』

 

「よ、よし! 地下通路だけど、ギリギリ……ギリギリ、圏外じゃない……!」

 

『送り先ナンバー:登録中……小宮果穂の電話番号:×××‐××××‐××××』

 

(……お願いっ! 届いて! 甜花が覚えている電話番号は、現実世界の果穂ちゃんが住んでいるお家の電話番号だけ……! もちろん……甜花の知る果穂ちゃんと、この世界のカホちゃんは別人────だけどっ!)

 

 前から不思議には思っていた。どうしてゲームの世界に、大崎甜花が知る現実世界の人物が存在しているのか。今でもその理由は分からない。だが、限りなく同一人物に近い別人でも、もしかするなら……。

 

(……届いて……おねがい……します……!)

 

 何の根拠もない発想だが、甜花は直感したことを試してみる。

 

『────送り先ナンバー:該当しません。該当しません。該当しません。該当……ガ、ガガガガガガガガガガガガガアッガアッガガ────該当……シシシシシシシシ、マママママママママセンンンンンンンンンンンンnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn────────』

 

(……!? ────!!?)

 

 突如パソコン画面に無数のエラーウインドウが表示され、瞬く間に画面を圧迫していく。

 

「む、むーちゃん!?」

 

「ロト……ロ、To,rotorotorotorotorotoroto────────」

 

 テントロトムの言語機能がバグり始め、転送システムからエラー音が鳴り続ける。

 

(……ど、どうしよう……! もし、これで……ゲームの世界がバグっちゃったら……どうしよう……!?)

 

 いまさら止めようにも手遅れ。そもそも止めるつもりもない。この救援要請が届かなければ、十数分後には時限爆弾が爆発して死んでしまうのだから。

 

「……っ! 頑張って、むーちゃん! お願い、アメモース! 甜花……エンターキー……押しますっ!」

 

 ────ピッ!

 

   その時 世界の 法則が 乱れた 。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「────。」

 

 今しがた、天から途轍もない殺気が放たれた。

 おそらく、今の大崎甜花の行動が原因だろう。

 

 しかし奴は殺意をみなぎらせるだけで、大崎甜花の抹殺に掛かる気配は皆無。

 これも憶測だが、やはり奴は、“こちらに手を出せる状態ではない”のだろう。

 

 なんせ神に等しい超越者だ。おいそれと地上に手を出せる存在ではないのだろう。

 ならば、その怨念を溜め込み、歯がゆく見守ることしかできない己を呪うがいい。

 

 彼女は、俺の知るテンカではない。だが、それと似て非なる────いや。

 “限りなく同一人物に近い別人“だとしても!

 

 奴がテンカ……そう、大崎甜花である以上は、この程度の苦境でくたばる女ではないと────最強のポケモンたる、このミュウツーが断言しよう。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 早朝の晴れやかな空。

 ハナダシティ炎上事件の激闘で深手を負い、長期入院を強いられていたコミヤカホとモリノリンゼは、今朝方、ようやく退院を果たし、『大崎甜花と旅を続ける』約束のため、急ぎクチバシティに向かっていた。

 

「ねぇ、リンゼさん! 甜花さんは、ヤマブキかクチバのジムバッジ、もう手に入れたと思いますか?」

 

「はい……しかし、ヤマブキのジムリーダーと、クチバの代理ジムリーダーは、相当お強いと聞きます。ともすれば、バッジの入手に関わらず……既にタマムシへ向かっているやもしれません」

 

「う~ん……そうですかぁ……そうなると、失敗しちゃいましたね……

あたし、甜花さんとの連絡手段について、何も考えていませんでした!」

 

「はい……ですが、甜花さんと友達のカホさんならば……

その絆の力で……いつか必ず、再会も叶うでしょう……」

 

「え? 甜花さんと友達なのは、リンゼさんもですよ!」

 

「……そう、なのでしょうか……?」

 

「そうですよ! だって甜花さん、リンゼさんと一緒だと、どことなく落ち着ける空間にいるような……そんな顔になっていましたから!」

 

「落ち着ける、空間……もしそうならば、これほど嬉しいことも……ありません……」

 

「はいっ!」

 

 すっかり仲良くなった二人は、甜花との再会を楽しみに旅を続ける。

 

 ────その時、カホのスマホに着信が入った。

 

 ポケットからスマホを取り出したカホは、着信を確認。

 

────『■■■■から着信です』────

 

「……?」

 

 カホは片眉を吊り上げて訝しむ。

 

「どうしたのですか?」

 

「あ、いえ……あの……よくわからないメールが届いて……あたし、こんなサブナンバー……作った覚えはないんですけど……」

 

「……?」

 

「えっと、普通、メールっていうのは、個人ナンバーに宛てて送られてくるんですけど……このメールは、あたしのナンバー宛に送られたものじゃなくて……メールアドレス? っていう変な数字と記号が並んだ、“あたしのナンバー”として送られてきているんです。つまり、作った覚えのない自分の宛名に、不思議なメールが届いてきたというか……」

 

「……その不思議なメール。開けてはみないのですか……?」

 

「う~ん……でも、ウイルスとか気をつけてね? って、よく友達から言われますし……」

 

「……カホさん。その、ウイルス……というのは……?」

 

「えーっと、友達から聞いた話だと、なんでも知らない人から送られてきた謎のメールを開くと、突然デバイスからゴースやゲンガーが、ばぁ! って驚かしてくるんです! そのあと、びっくりさせてきたポケモンは、とんぼ返りするように元の居場所まで帰っていきます。別にそのせいでデータが破損するとか、そういう直接的な被害はないんですけど……でもこれ、通信交換の転送システムを悪用したいたずらメールとして、結構有名なんです……」

 

「……なるほど。そのようなものが……」

 

 ────では、カホのスマホに送られてきた、差出人不明・そもそも自分宛ではないナンバーで送られてきたメールを開くべきか否か。

 ともすればウイルスの類で、直接的な被害はないものの、驚かしてくるポケモンがいるかもしれない。なんにせよ触らぬ神に祟りなしというが、この手のウイルスは一度かかればセキリュティの問題で二度はかからないという。ならば試しに受信してみようか? いや、好奇心にくすぐられて危ない橋を渡るものではない。

 

 さてどうしようかと、カホは悩んでいた。

 

「う~ん……でも、なんだか嫌な予感が……」

 

「……嫌な予感、というと?」

 

「ん~……なんか、あたしも変だって思うんですけど……妙な胸騒ぎがして……」

 

「……ならば、そのメールはそっとしておくのも一手でしょう……しかし、おそらくカホさんが感じていらっしゃるのは────」

 

「……はい。なんだか、“これは受け取らなきゃいけない“なっていう……変な気持ちに、なるんです……」

 

 ならば、やらずして後悔するか、やってから後悔するか。

 道は、二つに一つ。

 気付けばカホの親指は────

 

「……えーい!」

「ままよ……」

 

 ────受信ボタンを押していた。

 

 次の瞬間、スマホの画面が光りだし、一個のモンスターボールが転送されてきた。

 

「うわぁ!? お、驚かされる……!?」

「…………!」

 

 身構えるカホとリンゼだが、一向にボールからポケモンが飛び出してくる気配がない。

 

『……?』

 

 二人は小首をかしげ、顔を見合わせる。

 

「……あれ? このボール、中身が空……?」

「……いえ。よく見てください……何か、手紙のようなものが……」

 

 開閉スイッチを押したカホは、ボールの中に入った道具を取り出す。

 

「なんだかしわくちゃですけど……あ! なにか書いてありますっ!」

「……それは……タマムシデパートで売っている……レトロメールの……」

 

 手紙を開いたカホは、その内容を読む。

 

「あなたは、だれ!? アイドルグループ、なに? たいかい、かってこい!

 ……って、なんのことでしょう?」

 

「……カホさん。裏を見てください。そこに何かが……」

 

 リンゼに言われた通り、カホは手紙を裏返す。

 するとそこには、迫真の殴り書きが綴られていた。

 

『カホちゃんたすけて! いま甜花はクチバとタマムシをつなぐ地下通路にいます! ロケット団におそわれて、あと20分で時限爆弾が爆発して死んじゃうから、いますぐたすけてください! おうえん、まってます!!!!!!!!!!』

 

『────────、…………』

 

 一瞬、二人の顔が凍りつく。

 そして、カホが大声を上げた。

 

「え……えぇえええええええ!? ば……爆弾、ですかぁ!?」

「これは……まさか……本当に……?」

 

 疑問を覚えるのは当然。さりとて事の真偽を確かめるのは後。

 友の窮地と聞かば、そこに馳せ参じる事なくして何が仲間か。

 

「リ、リンゼさん! ここから地下通路は……!」

「すぐでございます……もはや猶予がありません……凝で速力を上げ、迅速に……!」

「──はいっ!」

 

 刹那、脚にオーラを集めた二人は、およそ人間業とは思えない速力で大地を駆け抜けた。

 

 ────タイムリミットまで、あと『00:13』────

 

   ◇

 

 ────『00:04』────

 

『タイムリミットまで 5ふんを きったよ』

 

「あうぅ……ごめん、むーちゃん……甜花、ほんとに……何も思いつかない……」

 

 甜花は恐怖をこらえるあまり、涙目で謝罪する。

 

『あきらめるのは まだはやい

 のこり 0ふんに なったら あきらめよう』

 

「……それって、結界を突破する……ってこと?」

 

『あたりまえだ このまま きみを しなせる なんて ありえない

 ばくはつ からは ボクが まもる…… ぜったいに ね?』

 

「…………」

 

 甜花は思う。それは、ロトムが身代わりになる、という事ではないのかと。

 

「……ねぇ、むーちゃん。ひとつだけ、教えて……?」

 

『なんだい?』

 

「……むーちゃんって、念能力……使えるの……?」

 

 ふとした甜花の質問。

 今までほかの質問には即答していたロトムだが、この質問には数秒の思考を要した。

 

『……うん うまれつき つかえるよ

 まえの トレーナーに もうとっくん されたから

 けっこう つよいと おもう』

 

「……そうなんだ」

 

『……なんで おしえて くれなかったのか

 ……って いいたげな かおだね?』

 

「そ、それは……」

 

『ごめんね

 じつは メロエッタと おなじ りゆう なんだ』

 

 ────メロエッタと同じ理由。

 そう言われた甜花は、やはりと俯いた。

 

「やっぱり、そうなんだ……

 ……念能力を隠していたのは、甜花が……弱いから……?」

 

『よわい というか…… まだ みじゅく だから あぶないと おもって……

 なにかあって きみの しょうこうを ひらいて しまったら いちだいじ だからね』

 

 念能力には、それの修得法の一つに外法が存在する。

 それは相手の能力者の発を受けることで、無理やり全身の精孔を開き、覚醒する方法。

 これは非常に危険極まりない修得方法であり、それがオーラを伴う攻撃であるならば、一般人が生き残る確率は百人に一人と言われている。

 

 周囲に念能力者しか存在しない場所なら、ロトムもメロエッタも気兼ねなく全力を出せるが。能力者ではない甜花の近くで念能力を使えば、その余波で危険な目に遭わせかねない。

 

「……だから、むーちゃんもメロエッタも、甜花のことを気遣って……」

 

『そういうこと! だから ボクの ホンキが みたかったら

 キミは ねんのうりょく を おぼえる ひつようがある

 ……まぁ でも メロエッタは

 それだけじゃ ないみたい だけどね?』

 

 ────『00:01』────

 

 残り時間、1分を切った。

 

「あ……」

 

『そろそろだ きみは よく こらえたよ

 どうにか しようと したけど…… けっきょく むりだった

 それは しかたのない ことだ』

 

「…………」

 

『くやしむ のは あとだ ばくはつを たえきったら

 きょうこう とっぱ さくせんを かいし する!!』

 

────『00:00』────

 

 ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

 テントロトムの中で警報音が鳴り響く。

 

『なるべく あたまを ひくく して!』

 

「……っ!」

 

 毛布にくるまろうとする甜花。

 その時────

 

「──ハァアアアアアアアアッ!!」

 

 ────聞き覚えのある少女の声とともに、結界内部は閃光に包まれた。

 

   ◇

 

 風のように疾走するカホは、リンゼと別行動を取り、広く入り組んだ地下通路を突き進む。彼女は一瞬で間合いを詰められる距離──半径30m──の円を使い、索敵しつつ走っていた。

 

『────!』

 

 その時、円に一匹の念能力者が引っかかる。対象は曲がり角の先────15m。

 

「バリッ!?」

 

 当然、円を使えば、相手に円の使用を悟られる。

 故に一瞬で間合いを詰められる距離まで、カホはオーラを伸ばしていた。

 

 一歩、曲がり角に足を踏み入れ、

 二歩、直角に曲がった後、敵の懐に潜り込み、

 三歩、それは震脚として、次なる一手を決めていた。

 

「────ハァアアアアアアアアッ!!」

 

 地下通路全体にこだまする雄叫び。

 

「バリ────ッ!?」

 

 直後、激烈に放たれた発勁は、一瞬でバリヤードの意識を刈り取った。

 

「……っ!」

 

 前方に謎の結界を把握。それの術者と思しきバリヤードを倒したが、特に変化はなし。近くには異次元の穴を生み出しているマタドガスと、戦闘中のゴンベとメロエッタ。結界の中では、今に大爆発を繰り出そうと光を解き放ちつつあるマルマインがいた。

 

(……ッ!?)

 

 ────間に合わない。

 そう悟ったカホは、せめてマタドガスだけでも倒そうと突っ込んだ。

 

「ドガー」

 

 次の瞬間、マタドガスが不審な行動を取る。なんと彼はこのタイミングで、異次元の穴に飛び込んだ。

 

(そんなっ!?)

 

 そして、異次元の穴が閉じた瞬間────

 

   ◇

 

 ────大爆発が起きた。それは結界を破ることなく、轟然と地下通路を震撼させる。

 

「……っ!?」

 

 しかし何かがおかしい。予想していた大爆発にしては、威力が小規模すぎる。それに爆発の直前、少女の声が聞こえた気がした。もしかするとギリギリでカホたちが駆けつけ、マルマインを倒してくれたのだろうか。

 

「……むーちゃん?」

 

 外の状況を確認するため、甜花は身を起こす。

 次の瞬間────

 

『緊急事態:そんな馬鹿な!?

 緊急事態:奴も念能力者だった! 自らの姿を偽っていた!!

 緊急事態:結界内部で大爆発の予兆を確認! 逃走は不可能となった! 反撃も間に合わない!

 緊急事態:絶体絶命だ! どうすればいいか分からない!! 大崎甜花────!!!』

 

 ────狼狽するテントロトムの絶叫が、パソコン画面に高速で打ち込まれていった。

 

「────────。」

 

 突拍子もない事態に思考が凍結する。理解できない文面に眼球が固定される。

 何故そう思うのか理由は不明だが、一秒後に待ち受けている敗北を確信する。

 

『緊急事態:エネルギー収束率43%!』

 

(……なにが、どうなっているの……?)

 

『緊急事態:エネルギー収束率96%!』

 

(甜花……ここで……)

 

 

 

 ────グレーバッジを握り締めろ!!

 

 

 

 刹那、脳天を揺さぶる怒号が張り上げられた。

 

(────、)

 

 導かれる少女は、その声に従って────

 

『緊急事態:独断専行により堅を使用する!

 緊急事態:ごめん……大崎甜花! 頼むから────“何が何でも生き残れ“────!!』

 

 ────無意識にも、服の裏に飾ったグレーバッジを握り締めていた。

 

   ◇

 

 結界の外。

 

「ぐっ────!?」

 

 マルマインの自爆は、たしかに行われた。だがそれは『通常の大爆発』────念能力ではない、ごく普通のポケモンの技だった。

 

「────イイイイイィィィィィィィィィィン……」

 

 カホは、バリヤードとマルマインの瀕死を確認。

 直後────

 

『うわっ────!?』

 

 ────結界内部で『強化系の大爆発』が起きた。

 結界の障壁に若干のヒビが入る。だがそれ以外に変化はなく、結界が完全に壊れる気配はない。

 

「なんて……強力な結界……!?」

 

 念能力を修得しているカホは、ひと目でこの結界の製作者の理念を読み取った。これは密室を想定した念能力。故に『最初から密室の外を巻き込む気は皆無』────。

 

 つまりマルマインの自爆はブラフ。本命は、変化系で姿を偽装していたリージョンフォームのマタドガス。それはエスパー・ゴーストに次ぐ、念能力を使える新たなタイプ。

 

 フェアリータイプでもある、ガラル地方のすがたのマタドガスだった────。

 

   ◇

 

 閃光。

 そして爆熱。

 密閉空間を蹂躙する熱風と破壊。

 ありとあらゆるものが崩壊していく死の狭間。

 鋼鉄製のテントが超高温に溶けていき、内部を適温に保つ冷暖房が弾け飛ぶ。

 

 ほどなくして爆発が収まった。

 テントロトムの外装は傷だらけだが、特に目立った損傷はなく、その場で佇んでいる。

 役目を終えたマタドガスは瀕死状態で倒れており、もう動く気配はない。

 結界障壁が消滅する。あの小隊長が能力を切ったのだろう。

 ということは、暗殺は完遂されたのだろうか。

 

 ────ジー。

 ……ジーー、ジーーーー。

 と、音を立て。ゆっくりと、テントロトムの出入り口に当たるジッパーが開かれた。

 

「……………………」

 

 中から出てきたのは、夢遊病患者のように目を伏せたまま歩き始めた少女がひとり。

 

「…………、────」

 

 立ち上がった少女は、すぐに全身から放出するオーラを出し切って力尽き────

 

「────さんっ!?」

 

 ────誰かの呼びかけに少しだけ片目を開きながら……その意識を失った。

 

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