大崎甜花が旅するポケットモンスターの世界+α 作:形のない者
病院のタクシー乗り場からタクシーに乗車し、土砂降りの七番道路に降りた甜花は、
「えーっと、右手にまーちゃんのモンスターボール……左手にお財布とトレーナーカード……」
ブツブツ呟きながら、草むらに入っていき、
「リュックの中の道具を一個ずつ数えて……14個目で────セレクト! B! B!」
押すボタンもないので、とりあえず叫んでみた。
『…………?』
その様子をタクシーの中で見守る運転手とロトム、ゴンベとメロエッタは、いったい甜花は何をしているのだろうかと小首をかしげる。
「────ぽっぽるぅううううううううう!!!」
「う、うわぁ! ポッポが飛び出してきた……!?」
「ロトッ!」
甜花を守るため、ロトムが飛び出す。
だが────
「に……逃げる! あ、その前に────A!!」
「ろ……ろとぉ?!」
────アルファベットを叫び、すぐに草むらから逃げてタクシーに戻った甜花は、
「タマムシデパートまでお願いします!!」
キリッとした目つきでそう言った。
◇
その後、タマムシデパートの地下駐車場で降りた甜花は、エレベーターに乗ってデパート二階に上がり、トレーナーズ・マーケット・ショップに到着する。
「……えーっと……」
立ち止まったまま動かない甜花は、何かを熟慮している様子。
「……左に歩いて、一歩後ろに下がって……えっと、甜花のステータス? は……えと……。────大崎甜花。17歳。誕生日は12月25日。血液型はA型。星座は山羊型……あと身長は159cmで、体重は44kg……だったっけ……? あと……利き手は右で、スリーサイズは────」
「ろと!? ロトロトロトォオオオオオッッ!!」
公共の場でスリーサイズを口走った甜花の名誉を守るため、ロトムは『さわぐ』を繰り出す。
「────で、出身地は富山。趣味は……お昼寝……あとネットサーフィン! アニメとゲームも好き……あ、でも……特技は、特になくて……甜花は、アルストロメリアのメンバー!」
自身のステータス。というよりもプロフィールを口にした甜花は、受付カウンターに向かう。
「あの! う……売りたいものが、ありましゅ! あ……」
噛んでしまった甜花だが、気を取り直してリュックの中を漁る。
「……?」
取り出したるは、謎の釣竿。
釣竿なんて手に入れたことがない甜花は、きっとこれがバグアイテムだと確信する。
「……!」
店内に流れるBGMが止まる。
「……あの、えと……この釣竿を売ることって、できますか……?」
「申し訳ございません。こちらで買取は行っておりませんので……」
売却を断られる。
「あ。……じゃあ、いいです」
次の瞬間、店内にかっこいいBGMが流れ出し────
(よしっ! タイミングは、ここしかない────!)
「せ……せいやー!」
────甜花は、なんとその場で釣竿を振るった。
「お、お客さまー!?あー!!困ります困りますっ!店内で釣りをされるのは困ります!あーっ!お客さまーっ!お客さま困りますっ!釣りをされるのは困り様!あーっ!!!!!」
「ろ……ろとぉ!!?」
突然、受付店員の言語機能が怪しくなり、ロトムの顔が青ざめる。
「……っ!」
刹那、甜花の投げた釣竿に何かがヒットした。
「い……今だ!!」
釣竿を引っ張り上げる。次の瞬間────
「アッアッ! ────アメモォオオオオオオオスッ!!!」
────カウンターの下から、釣竿の餌を咥えたアメモースが飛び出してきた。
「や……やった! まーちゃん……っ!」
「ロトォ!!?」「ゴ、ゴン……」「…………???」
目を丸くして唖然と佇む三匹のポケモン。
それをよそに、釣られたアメモースを抱きとめた甜花は、涙を流してギュッと抱きしめる。
「あうぅ……よかった、まーちゃん……っ」
「アメモ……アメモォ……」
涙目で泣くアメモースは頬ずりし、甜花に何かを伝えたそうにしている。
「……あら? わたし、いま何をしていたのかしら?」
ふと正気に戻った受付店員。
「……あら、そのアメモース! もしかして、あなたのポケモンだったの?」
「え? あ、はい……まーちゃんは、甜花のポケモンだったけど、その……」
「あぁ、はぐれたのね? 実はそのアメモース、二週間前に突然うちの事務所のコピー機にボールごと転送されてきたのよ。とても興奮していたから、キーの実を飲ませて落ち着かせたんだけど、なんだかひどく焦っている様子で……その時は事務所を引っ掻き回されちゃって困ったわぁ……」
「あ……そ、そんなことに、なってたんだ……」
「あ、別に何かが壊された訳じゃないから、ぜんぜん大丈夫よ? で……そのあとね? 迷子センターに連れて行って、ずっとアナウンスしていたんだけど、全然アメモースのトレーナーがやって来なくて……でも良かったわぁ! あなたたち、ずっとお互いを探していたのね? なら、これでめでたし、めでたし!」
嬉しそうに両手を打ち合わせた受付店員は、「そうだ!」と言って一個のボールを手渡す。
「はい、これ。アメモースのモンスターボール」
「……え?」
ボールを受け取った甜花は、右手に『カホから返してもらったアメモースのボール』と、左手に『受付店員から返してもらったアメモースのボール』を見比べて、冷や汗を流す。
(あれ……これ、もしかして……ボールの増殖? それとも……分裂現象?)
なんだか嫌な予感がする甜花は、しかしどうすればいいか分からない。
「……と、とにかく……あの! 甜花のアメモース……ずっと、面倒を見てくれて────本当に、ありがとうございました……!!」
「あら、いいのよ別に。大げさね。じゃ、次ははぐれないよう気をつけてねー!」
ばいばいと手を振り、甜花は休憩室に向かう。
「……ねぇ、ゴンベ」
「ゴン?」
ふいに受付店員から返してもらったボールを取り出した甜花は、それをゴンベに手渡す。
「……それ、捨てたいんだけど……ただゴミ箱に入れただけじゃ、たぶん……データ的に消えた事にならないだろうから……踏み潰して、壊してほしい……あ、あと、この釣竿も」
「ゴン?」「アメモォッ!?」
首をひねるゴンベと、目を見張るアメモース。
「あめっ! あめもぉぉお……!」
「え? え……? ど、どうしたの? まーちゃん……?」
その時、甜花の図鑑が振動する。
『どうやら アメモースは にんむに しっぱい したから
てんかが おこっていると かんちがい している ようだよ』
「……え……」
「あめもぉ! あめもぉぉお……っ!!」
涙目で土下座の如く謝罪するアメモース。
「あ、ち、ちがうの、まーちゃん……! 別に、まーちゃんを手放す訳じゃなくて……ほら! まーちゃんを入れるボールは、こっちにあるの……!」
慌てた甜花は、カホから返してもらったボールをかざし、アメモースをしまい込む。
それを確認したら、すぐにアメモースを繰り出した。
「……アメ?」
いったいこれはどういうことかと、アメモースは首をかしげる。
「えっとね……説明するのが、すごく難しいんだけど……これ以上、世界にバグを増やさない為にも、このボールは壊した方がいいかな? って思って……」
────チラッ。と甜花は、ゴンベを見やる。
その合図に頷いたゴンベは、アメモースのボールと謎の釣竿を踏み潰した。
「あめもっ!?」
「ご、ごめんね、まーちゃん……! でも、このボールも、正真正銘……まーちゃんが入っていたモンスターボール、だから……!」
「……あ、あめもぉ……アメモォッ!」
何が何だかよく分からないが、アメモースは甜花を信じると言いたげな眼で、力強く頷く。
「……ほっ。ありがとう、まーちゃん……」
「アメモォオス!」
甜花と再会できたこと。改めてそれを嬉しそうに表現するアメモースは、甜花の周囲をぐるぐると飛び回る。
「にへへ……、……? ────ッッ!!?」
その時、大崎甜花は頭痛がした。視界が歪む。景色が明滅する。気づけば膝を就いており、横に倒れこんでいた。
(あ、あれ────痛い……甜花、なんで、急に────からだ、うごか────)
大崎甜花は、普通に立っていた。
「おい甜花。何してんだ?」
「ラルゥ?」
レオとすーちゃんが心配そうに声を掛けてくる。大崎甜花は放心。なぜ、このふたりの存在を、今の今まで────忘れていたのか? 否、というより、この世界から、消えていた?
「────え……?」
大崎甜花は混迷を極める。だが不思議と、大いなる疑問が一秒ごとに薄れていく。
「ロト?」「ゴン!」「メロ?」「ラル?」「モモ?」「お前ら“どうしたの?”を輪唱するな。ほら甜花、さっさと行くぞ。アメモースが消えた時はどうなることかと思ったが、さすがはゲームの世界。こういうバグ技も通じるんだなぁ……」
手持ちのポケモンたちが心配してきて、ゴンベはしっかりしろと叱責してきて、レオはぶらぶらとウインドウショッピングに戻る。
「……ど、どういう────あれ? あ、甜花……いま、なに、かんがえて、たん、だっけ……?」
「ゴン!! ゴンゴン!!」
ゴンベは何かを訴えている。レオとラルトスが気になるらしい。それは甜花も同じ気持ちだったのだが、今ではもうそんな気持ちにはならない。
「あ……それじゃあ。今度は、普通のショッピングをしよう!」
§
この怪奇現象に、ミュウツーは見当をつけていた。
「なるほど……事ここに至るまで、オレも気づかなかった……超越者め……“ピカチュウとラルトスの存在を《けつばん》として消去した”な……しかし大崎甜花がバグ技とやらを使用したため“けつばんが復活した”のだ」
となれば超越者にとって、大崎甜花は天敵となる。神の御技を無効化する人智は、超越者にとってさぞや恐ろしい事だろう。
「だが、なぜ大崎甜花の記憶が修正されたのか? 仮説を立てるならば……二つの平行世界が衝突し、融合したなどか……?」
レオとラルトスが消えた世界。
レオとラルトスと旅した世界。
大崎甜花のバグ技によって、その二つの世界が衝突し、融合した。結果、大崎甜花の記憶も綯い交ぜとなった。そのままだと大崎甜花は混迷を極めて、陳腐な言い方をすれば頭がおかしくなる。それを避けるべく、無意識の自己防衛として、記憶の修正が図られた。となると一つ疑問が残る。記憶の修正は、いかなる理由で起きたのか。自然発生か、それとも人為的なものか。
「前者ならば問題はないが、後者ならば……? なぜ超越者は殺したい相手に精神安精の記憶処理を施した? 精神死はお望みではないということか……」
何も分からない。これ以上は憶測に憶測を重ねる事になる。
「まぁいい。大崎甜花には超直感がインストールされている。いずれ真実は分かるし、分からずとも問題はない」
目的は、超越者との戦いに勝利すること。その前哨戦として、今回は引き分けというところだろうか。大崎甜花は偶然の産物だが、レオとラルトスと救うことができたのだ。裏返せばその二匹のポケモンは、超越者にとって危険な存在ということ。大崎甜花は一手、有利になったと見ていいだろう。
§
タマムシデパート三階。テレビゲームショップ。
ここでは『わざマシン』が売っており、甜花は色とりどりの商品を見定めていく。
「えーっと……ねぇ、むーちゃん」
「ロトォ?」
「むーちゃんは、どんなわざマシンが欲しい?」
「…………」
問われたロトムは、即答する事なく、その場に佇む。
「……むーちゃん?」
その時、甜花の図鑑が鳴った。
『ねんのうりょくの ことを うちあけたから
もう ぜんぶ はなしちゃう けど……
じつは ボク…… わざマシンで おぼえる わざ ぜんぶ つかえるんだ!』
「……え? そ、そうなの……?」
「ロトォ!」
『いままで かくして いたのは
キミの じつりょくに あわせようと おもって……』
「……そうか。そうだったんだ……」
ならば、ロトムのわざマシンは不要。
甜花は思考を切り替えて、今度はゴンベに問いかける。
「それじゃあゴンベ。ゴンベは……」
「ゴンッ!」
『いらない! ……だってさ』
「……えっと。ど、どうして、いらないの……?」
「ゴンッ! ゴンゴンッ!」
『えたいの しれない きかいに たよるほど
おれは おちぶれちゃ いない! ……だってさ』
「…………」
「ゴン!」
(……なんか、機械が苦手な人の言い訳みたい……)
もしかするとゴンベは、機械類が苦手なのかと甜花は思った。
「……そ、それじゃあ、メロエッタは……?」
「メロォ!」
『…………。
ひつよう ない ……だってさ』
「そ、そっか……じゃあ、すーちゃんとまーちゃんの分だけ、買っていこう……!」
「ラルゥ!」
「アメモォ!!」
「あ、レオは……?」
「いや要らねぇよぉ!? なに自然とポケモン扱いしてんだ!」
「……え? ────あ、そ、そうだった! 人間のふりをしていたんだ! 忘れてた……!」
「ちょ、シー! それ大声で言うなって……! ──ったく、忘れるとはどういう了見だ! ずっと一緒にいたのによぉ!」
「あ、あれぇ……? ご、ごめんなさい……」
大崎甜花は混乱する。なんだか久しぶりすぎて忘れてしまったのだ。でもなぜ久しぶりと思うのか分からない。
とりあえず大崎甜花一行は、次なる目的に赴いた。
《手持ち》
すーちゃん/ラルトス。
むーちゃん/ロトム。
タマゴ(白と青まだらの模様)
《旅の仲間》
レオ/ピカチュウ。
ゴンベ。
メロエッタ。
コミヤカホ。マメマル/ガーディ。
モリノリンゼ。ドダイトス。ポッチャマ。
《所持品》
寝巻き。
所持金たくさん。
軽量テント。
ガラルテント。
《大切なもの》
デビ太郎のぬいぐるみ。
スマホ型ポケモン図鑑。